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この映画は特別なものになる。『SISU/シス 不死身の男』監督インタビュー

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『SISU/シス 不死身の男』

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フィンランドで製作され、全世界の映画ファンを熱狂させている『SISU/シス 不死身の男』がついに27日(金)から公開になる。監督を務めたヤルマリ・ヘランダーはこれまでもユニークな設定を持つ快作を手がけてきたが、本作で彼は「誰が何と言おうと自分の好きなものを作ろう」と決意。冒頭からエンジン全開で、何があっても絶対に諦めない老兵の戦いを描いている。

本作の舞台は第二次世界大戦の末期。ナチスの侵攻によって荒れ果てたフィンランドの北部で、老兵アアタミは掘り当てた金塊を運搬する途中でナチスの戦車隊に目をつけられる。しかし、彼が持っているのはツルハシ1本だけ。アアタミは持てる知恵と道具をフル活用して、ナチスに立ち向かう。何があっても絶対に諦めない、どんな攻撃を受けても絶対に死なない。不屈の魂を宿した最強爺さんの壮絶バトルが幕を開ける。

1976年にフィンランドで生まれたヤルマリ・ヘランダーは、幼少期からアクション映画の大ファンだった。1980年代の映画界は豪快なアクション映画の全盛期。未来からやってきた最強の殺人機械ターミネーター、心に深い傷を負いながら“たったひとりの軍隊”にならざるを得なかったジョン・ランボー、クリスマス・イヴの夜にひとりでテロリストたちと戦うはめになったツイてない男ジョン・マクレーン……ヘランダー監督は「子どもの頃に観た映画は、いまでもその衝撃が残っている」と語る。

「幼少期の頃に観た、というのもあるけど、80年代の映画は“特別なもの”が宿っていたと思う。何よりもピュアでシンプルだし、現在の大規模な予算でつくられるシリーズ映画とは違う特別な要素があったんだ」

ヤルマリ・ヘランダー監督

当然のように彼の子どもの頃の夢は映画をつくること。最大の転機は同じフィンランド出身の映画監督レニー・ハーリンの出現だ。

「レニー・ハーリンが『クリフハンガー』や『ダイ・ハード2』を監督しているのを観て、アメリカ人じゃなくても、フィンランド人でもハリウッドで活躍できるって知ったんだ。つまり、自分にも可能性がある! その時からいつかハリウッドで映画を撮りたいと思っているし、いまもその目標に向かっている途中なんだ」

その後、彼はCM監督として経験を積みながら、短編映画を撮影し、そのうちのひとつを発展させるかたちで初の長編映画『レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース』を発表。2015年にはサミュエル・L・ジャクソン主演の『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』を完成させた。その後、彼はいくつかのプロジェクトを構想するが実現せず、撮影準備を進めていた企画もコロナ禍で中断してしまう。

「前作から8年が経ってしまった。その間にいろいろなことがあって、自分の中にひっかかるものがたくさんあった。だからこそ、この機会に好きなことをやってやろうと思ったんだ。誰が何と言おうと自分の好きなものを作ろう、誰のためでもなく自分のために脚本を書こうと」

そこで彼が思いついたのはもちろんアクション映画だ。

「ある時、“主人公がナチスと戦う”というストーリーを思いついて、ナチスと戦えるほどの強靭なヒーローの存在が必要だと思った。書き始めた時は脚本のタイトルは“SISU”ではなかった。でも書き進めていく中で、“SISU”という言葉とアイデアが浮かんできて、どんどん筆が進むようになったんだ。そこで、それまでに書いていた要素、新しく思いついた要素をすべて“SISU”につながるように組み立てていったことで、映画のコンセプトになり、脚本が完成したんだ」

タイトルにもなっている“SISU/シス”は、フィンランドの言葉で、翻訳不可能なものらしい。フィンランドの人たちの精神を表現する言葉で、あえて訳すとしたら、絶対に諦めない意志の強さ、何があっても折れない心のこと。本作の主人公アアタミは、心に“SISU”を宿していて、何があっても絶対に倒れることなく、敵をブチのめしていくのだ。

ここまで純粋な映画にできた理由は…

本作は、何があっても死なない老兵が次々と敵を倒していく“コンセプトありき”の映画に思えるが、実は勢いだけでなく、考え抜かれたアイデアがふんだんに盛り込まれている。

そもそも、通常のアクション映画は、主人公が早々に殺されてしまうことはない、とわかっていても、観客は“ここで失敗したら主人公は死んでしまう”と思いながら映画を観ている。だからドキドキする。しかし、本作の老兵アアタミは絶対に死なない。何があっても諦めない。折れない。愛する故郷が火の手に包まれていることに涙するが、悩んだりはしない。自信も喪失しない。そんな暇があるなら敵を倒す。

つまり本作は、アクション映画が必ず装備している“安全装置”がない状態で映画が進んでいく。劇中では主人公が生き残れるか? のドキドキは使えない。全シーン、主人公が”どうやって敵を倒し、どうやって難局を突破するのか?”だけが問われることになる。

「アクション映画がたくさんある中で、本作が目立つためには戦闘やアクションシーンを他にはないものにする必要があった。うまく撮影できて本当によかったよ」

この映画ではフィンランドのラップランドという地方が舞台になっている。どこまでも土地の広がる美しいエリアだが、そこには建物も木もない。つまり、主人公には隠れる場所も、銃弾から身を守る場所も逃げ場もない。そんな状態でどうやってアクションや銃撃戦にバリエーションをつける? ここも監督のアイデアと腕の見せどころだ。

「最初の映画(『レア・エクスポーツ』)では高い山が登場するのでノルウェーで撮影した。フィンランドにはノルウェーほど高い山はないからね。次の『ビッグゲーム』では前作以上に高くて大きな山が必要だったから、『クリフハンガー』に出てくるような山を探してドイツで撮影したんだ。でも、今回の映画には山は必要ない(笑)。そこでついに自分の国フィンランドで撮影できることになったんだ」

本作は、最強の老人が次々に敵を倒す、というアイデア一発の映画に見えるが、実は、監督が自ら高いハードルを設定し、それを多彩なアイデアでクリアしているところに面白さがある。単にテンションの高いだけの熱血映画ではないのだ。明確なコンセプト、自分を窮地に追い込んでも他にはないバトルを描こうとする意志、それに応えるだけの多彩なアイデアが本作にはギッシリとつまっている。

「この映画では脚本を書いている時から頭の中にイメージが明確にあって、そのイメージをそのまま映画にすることができた。そのことが何より嬉しかったし、誇りに思っているよ。ここまで純粋な映画にできた理由は、脚本を書いてから撮影するまでに時間がなくて、脚本の初稿が“最終稿”だったことにあると思う。脚本の開発に時間をかけ過ぎてしまうと、ああでもない、こうでもないとアイデアを動かしたり変えたりしてしまうけど、この映画は作品に取りかかった時の興奮とエネルギーがそのまま映画に注ぎ込まれている。自分の本当に好きな映画をつくっている喜びがそのままスクリーンに現れているんだ。

脚本を書いてる時は“こんなにも自分の好きなことだけ書いて、他の人はどう思うだろう?”と不安になる瞬間もあったけど、すぐに出資者が見つかって撮影に入れたし、この映画をつくっている間ずっと“この映画はなにか特別なものになる”という確信があったよ」

監督が語る通り、本作はアクション映画なのに観ていると喜びがわき上がってくる感覚がある。観ているだけでテンションが上がり、爺さんが次から次へと敵を倒していく姿に思わず笑みがこぼれ、その不屈の精神に心が震え、なぜか尊いものを観ている気すらしてくるのだ。公開前に行われたいくつかの試写会では、上映後に客席から自然と拍手が起こったという。ツルハシ1本の爺さんが観客の“SISU魂”に火をつけたのかもしれない。

『SISU/シス 不死身の男』
10月27日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

(C)2022 FREEZING POINT OY AND IMMORTAL SISU UK LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

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