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【おとなの映画ガイド】予測できない感動の展開!コロナ後のゆがんだ世界に落ちたイナズマ。松岡茉優&窪田正孝W主演+豪華キャスト『愛にイナズマ』

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『愛にイナズマ』 (C)2023「愛にイナズマ」製作委員会

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石井裕也監督の作品がこの秋続く。10月13日(金)に、障がい者施設大量殺害事件をテーマにした『月』を発表したばかりだが、早くも27日(金)、アフターコロナを舞台に家族を描く『愛にイナズマ』が公開される。松岡茉優演じる、社会の理不尽さの中でもがく新人女性監督を主人公に、個性的で味のある名優たちが織りなす人間ドラマ。といって、ドシリアスでなく、笑いのツボを押さえた、ポップな作り。今となってはコミカルにもみえるコロナ禍のアレコレもでてくる。いろいろなことが非常事態で変わってしまったけど、何事もなかったような感じになっているいま、石井監督からのアラートであり、応援歌だ──。

『愛にイナズマ』

アフターコロナではあるけれど、あちこちにまだ残滓がある頃。

新進映画監督の折村花子(松岡茉優)は、『消えた女』というタイトルの、失踪した自分の母をモデルにした脚本で長編作品デビューを目前にしている。ところが、自分でカメラを回し、“赤い色”の画作りにこだわりがある花子のやや青クサいともいえるやり方に、二言目には「若い」とけなすベテラン助監督(三浦貴大)が反発。いびり倒され、果ては調子のいいプロデューサー(MEGUMI)に監督を降板させられて、企画だけ奪われてしまう。

花子と同じように自主映画製作でキャリアを始めた石井裕也監督だからか、カリカチュアライズが堂に入っている。花子の、赤色に対する執着とか、まるで小津安二郎監督ばりだったり。カメラを手放さない日常だったり。この映画青年らしさ、わかるような気がする。実に感じのわるいセクハラ助監督、業界の常識をかざすプロデューサーも、いかにもいそうでコワくなる。

そんなある時、あるバーで、花子に最初のイナズマが走った。空気がよめない、世間からちょっと浮いた感じの正夫(窪田正孝)と出会ったのだ。

急接近したふたり。花子は正夫の助けを借りて、自力であらたな映画作品を目指す。こうなりゃドキュメンタリーだ、というわけで、10年以上音信不通になっている父と兄2人を巻き込んで撮り始めてしまえと実家に戻るのだが……。

さて、実家に帰ってからは一転、怒涛の群像ドラマ。映画のトーンが変わる。

特に変わるのが花子だ。これまで、コロナ禍でお金が底をついたって、ひたすら映画作りを頑張って、自分を殺し、妥協に妥協を重ねてきたけれど、もう本音だしまくり。「お父さんの前では驚くほど口が悪くなるんですね」と正夫が驚くような悪口雑言。松岡茉優、とばす、とばす。

家族も芸達者な役者が勢ぞろい。口数の少ない父・治に佐藤浩市、口だけがうまい長男・誠一に池松壮亮、真面目で融通のきかない聖職者の次男・雄二を若葉竜也が演じている。

父の声がけで、久しぶりに実家に戻ってきた兄弟たちだが、突然カメラを向ける妹には当惑気味。反抗したり、過去をほじくり返してののしりあったり、つかみあいのけんかもはじまる。カメラの前で、本音を吐露しあううちに、いくつかの秘密が明かされていく。スマホのカメラで一部始終を収める正夫はニュートラルな観察者だ。

完成披露上映会で、佐藤浩市が「これだけ気持ちよくアンサンブルが決まったのは稀有なこと」と語っているが、この5人の群像劇は実に見応えがある。

さらに、仲野太賀、趣里、高良健吾、中野英雄、北村有起哉、益岡徹、芹澤興人…と、石井監督だから実現できた、旬の超個性派たち。しかも、それぞれがインパクトを残す、さすがの存在感だ。

この映画につけられた英文タイトルは”Masked Hearts”。”マスクで覆われた心”という意味。

石井監督は「コロナ禍になって3年、私たちはずっとマスクという仮面を被って生きてきました。それが当たり前の世界だったのです。程度の差があったとしても、みんな本音や嘘をいくつもいくつも仮面の下に隠していたと思います。それをひとつひとつひっぺがして、人が隠し持っている本当のものを見つめていくような、そんな映画を作りたいと思いました」という。

カメラの前で本音をさらけだすことで、やがてわかりあう家族。過激な形ではあるが、愛にあふれ、愛に包まれる多幸感のある作品だ。

ところで、小ネタのわりには出番が多いのが、あのアベノマスク。ミステリアスで空気の読めない正夫が100枚持っていると自慢げにいう。「配られたけどみんな使わなかったから、ほしいといえば、たいていくれる」。しみじみ見ると、間抜けなマスク。もう忘れかけていましたね。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2023「愛にイナズマ」製作委員会