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【おとなの映画ガイド】パリで繰り広げる女たちの悪だくみ!人気監督フランソワ・オゾンのおしゃれな犯罪コメディ──『私がやりました』

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『私がやりました』 (C) 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - PLAYTIME PRODUCTION

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フランスで100万人を動員したサスペンス・コメディ『私がやりました』が、11月3日(金)に公開される。監督は、日本でも人気のフランソワ・オゾン。どこから見てもオシャレ感ただよう1930年代のパリが舞台。成功を夢見る“ひよっ子女優”とルームメイトの“新人女性弁護士”が、有名映画プロデューサーの殺人事件に巻き込まれ、いや、あえて巻き込まれて、人生を変えていく、……なんてだけじゃ終わらない、エスプリの効いた作品だ。

『私がやりました』

フランソワ・オゾン監督作品は、ことし日本公開3本目。

2月に公開された『すべてうまくいきますように』(2021)は、安楽死がテーマの人間ドラマでソフィー・マルソーが主演。6月の『苦い涙』(2022)はドイツの鬼才ファスビンダー作品をリメイクした風刺ドラマ。イザベル・アジャーニが出演していた。そして本作はサスペンス・コメディ。オゾン監督の、映画の素材選び、役者選びは自由自在なのだ。

舞台は、1930年代のパリ。新人女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)は、映画プロデューサーの大御所に声を掛けられ豪邸を訪ねるが、役とバーターで愛人関係を要求され失意のまま帰宅。しかしこともあろうにそのプロデューサーの殺害事件が起きて、彼女が容疑者となってしまう。恋人との仲もうまくいかず、気分はどん底。そんな窮地の中、彼女のルームメイトのポーリーヌ(レベッカ・マルデール)が、「これは逆にチャンスかも…」とある計画を思いつく。それは、犯行を自供し、「身持ちの堅い女性が男性に襲われて名誉と身を守るために反撃した」と正当防衛を主張、これで名声を勝ち取るという法外な案だった。

果たして、法廷で、“パワハラ被害にあった新人女優”を演じきったマドレーヌは無罪を勝ち取ると、悲劇のヒロインとして一躍時の人に。ポーリーヌにも弁護のオファーが殺到。すべてが順調に動くように思えたが、そこに、とんでもない“ヴィラン”の登場。すっかり落ちぶれたサイレント時代の大女優・オデット(イザベル・ユペール)が現れて……。

破天荒な展開なのだが、映画にテンポがあって、どんどんとのせられてしまう。

いまのフランスを代表する俳優、イザベル・ユペール。これが、主役でなく、どちらかというと脇の、しかも悪女役。登場した途端、その存在感たるやスゴイ。

主役を演じるナディアとレベッカのふたりは、若手有望女優といっていいが、ユペールを始め、脇役はシブい役者が揃った。オゾンの『すべてうまくいきますように』で父親役を演じたアンドレ・デュソリエ、『しあわせの雨傘』のファブリス・ルキーニ。今年4月に公開されたクリスチャン・カリオン監督の『パリ・タクシー』で主演したダニー・ブーンも、ちょっとウサンくさく見えるところが魅力のステキな役を演じている。

そんな登場人物たちを一層際立たせているのが、気配りの行き届いた、セットや衣装などのディテール。

時代は1935年の設定。第二次世界大戦までにはまだ多少時間がある。アールデコの時代が続いている。そんなパリの小さな通りをセットで作り、ヨーロッパの各地に残る建造物でロケもして再現。衣装は当時の雰囲気を壊さない程度に現代的なアレンジを加えている。

オゾン監督は、「1930 年代スタイルを楽しみながら再現したけれど、一見時代遅れに見える素材を使っ て、今の時代にも通じる生き生きとしたテンポ感で、現代性を強調することができたんじゃないかな」と語っている。

映画マニアでもある監督。本作でその「精神を模倣したい」と考えて、参考としてスタッフに観させたのは、エルンスト・ルビッチや、サッシャ・ギトリ(そういえばことし春、シネマヴェーラ渋谷で特集上映があった)のソフィスティケートなコメディ。

マドレーヌとポーリーヌが映画に出かけるシーンで、映画館にかかっているのは『ろくでなし』(1934、『悪い種子』と訳されることもある)。ルビッチの弟子ともいえる名匠ビリー・ワイルダーがナチスドイツから逃れ、フランスで撮影した記念すべき監督デビュー作である。たしかに、この映画、本作のちょっとした人間関係と似たところがあるような。

そんなふうに、古き良き映画の匂いも漂わせながら、監督が遊び心いっぱいで楽しく創った作品。上映時間は1時間43分。ちょうどいい感じ。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C) 2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - PLAYTIME PRODUCTION