木村優里×渡邊峻郁が誘う『くるみ割り人形』の世界
ステージ
インタビュー
左から)『くるみ割り人形』に出演する新国立劇場バレエ団プリンシパルの木村優里、渡邊峻郁 Photo by Yumiko Inoue
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すべて見るチャイコフスキーの音楽による『くるみ割り人形』は、クリスマスの夜の夢の物語を描いた古典バレエの傑作。クリスマスが近づくと、世界各地の劇場でさまざまなヴァージョンが上演されるが、新国立劇場が2017年より上演しているウエイン・イーグリング振付の舞台は、大掛かりで立体的な舞台装置、質の高い踊りの連続、説得力あるストーリー展開などで多くの観客の人気を得ている。この舞台に主演する新国立劇場バレエ団プリンシパルの木村優里、渡邊峻郁に、『くるみ割り人形』、またイーグリング版でしか味わうことのできない魅力について、話を聞いた。
ひとりの少女が成長していく姿がしっかり描かれているところも魅力
──2017年のバレエ団初演以来ずっと、木村さんは主人公のクララ/こんぺい糖の精を、また渡邊さんはドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子役を演じてこられました。毎年おふたりで一緒に舞台を重ねてきたことで、取り組み方に変化を感じたり、新たに気づいたりしたことはありますか。
木村 踊れば踊るほど、イーグリング版『くるみ割り人形』の見どころや奥深さを、より色濃く表現できるようになってきたのではないかと思っています。初めて取り組んだときは本当に驚くほどハードで、いや、もちろんいまもハードですが(笑)、回を重ねるごとにたくさんの気づきがあり、少しずつ進化していると感じています。
渡邊 踊り手にとってハードだからこそ見応えある踊りになるのかなと思いますし、男性の主役がここまで踊る『くるみ割り人形』のヴァージョンは珍しいと思います。クララだけでなく、王子もしっかりフォーカスされている。やりがいがあります。
木村 聞いたことのある曲がたくさんあると思いますので、初めてバレエを観るという方にもぜひおすすめしたい作品です。とくにイーグリング版は、一つひとつの踊りの質の高さももちろんですが、ひとつのストーリーとして、ひとりの少女が大人への憧れを抱き、成長していくという姿がしっかりと描かれているということも大きな魅力です。クリスマスのパーティーで出会った年上の男性に一目惚れするも、やっぱり年の差があって、「かわいいね」としか見てもらえない。そんな彼と、理想の女性になった自分がふたりで踊るのですから、甘酸っぱいですよね。「そういう時代が自分にもあったな」と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんし、どの世代の方にも、共感していただけるのではないかなと思います。
──誰もが耳にしたことがあるであろうチャイコフスキーの音楽も本当に素晴らしいですが、とくに印象に残る、お気に入りの曲はありますか。
木村 私がとくに好きなのは、序曲ですね。踊るための音楽ではないのですが、クリスマスのワクワク、ドキドキする雰囲気がすごくよく表現されていると思うんです。しんしんと雪が降っている様子とか、街中のお店がライトアップされてプレゼントが並んでいる光景とか──子供の頃を思い出します。
渡邊 僕は、第1幕の雪のパ・ド・ドゥの音楽が一番好きです。音楽が盛り上がっていくにつれてリフトもさらに難しくなってきて、それが滑らかに繋がっていく。どんどん上がっていく感情は、まるでジェットコースターのよう! 憧れの男性が目の前に現れたときのクララの気持ちの高まり、それが爆発する場面だと思うので、大事にしたいなと思っています。
木村 このパ・ド・ドゥには、まるで氷の上を滑るアイススケートのような振りがあるんです。まさにイーグリングさんならではの振付だといえます。
渡邊 後半に登場する、スペイン、アラビア、中国などの各国のダンサーたちも、ひとつずつの踊りの質がしっかり確立されていて、それぞれに特徴的。こういった場面もすごく見応えがあります。
1年の終わり、そして始まりにも『くるみ割り人形を』
──大掛かりで立体的な美術も圧巻ですね。
木村 たとえば巨大な気球が出てきたりダイナミックな舞台転換があったりして独特です。演出の部分でも、くるみ割り人形と対決するねずみの王様も、ちゃんとパーソナリティが確立されているのが面白いんです。茶目っ気があって、でもちょっと怖くて気持ち悪い(笑)。そこがとても好きですね。またコール・ド・バレエ(群舞)も、見応えがあると思います。
渡邊 とくに終盤に登場する「花のワルツ」はすごいですよ。まさに花が咲き乱れる感じです。
木村 列を揃えてポーズをして、というだけでなく、皆がソリストと同じように複雑な振付を踊りつつ、かつ揃っているのがすごいんです。
渡邊 女性を支えている男性のサポートも難易度が高い! 大勢いる中の一組だけに注目して見ると、かなり難しいことをしているのがわかります。しかも舞台裏では皆、走っています(笑)。一度舞台から引っこんでも、また次の場所に急いで向かわなければいけない。僕らはその後に大きな出番が控えているので、舞台袖でウォーミングアップしながら、『これから始まるな』と思って見ているんです。
──それに続くのが、こんぺい糖の精になったクララと王子によるグラン・パ・ド・ドゥと呼ばれる踊りですね。主役ふたりの踊りに、それぞれのヴァリエーション(ソロ)を含む、古典バレエならではの華やかな場面ですが、その見どころ、魅力を教えてください。
渡邊 「花のワルツ」で完全に盛り上がったところから、急に静かになり、荘厳な雰囲気で始まるんです。これは主役が出てくるな、という感じになると思います(笑)。ただし、僕らダンサーにとっては大変な踊りで、それまでに踊られるパ・ド・ドゥとの差をしっかりと見せて踊っていく必要があります。というのも、第1幕、第2幕冒頭に登場するパ・ド・ドゥとでは、踊りの質が全く違い、まさにクラシックの王道の踊りなのです。
木村 アカデミックな踊りということですね。より制約が多い踊りだからこそ、美しさがあるのではないかと思います。
渡邊 派手なテクニックではないけれど、ちょっとした身体のひねりとか、脚を上げるにしても目一杯高くではなく、ちょっと抑えた高さで上げるからこその美しさ、ですね。そこにクラシックならではのエッセンスというか、薫ってくるものがあると感じています。これぞ“ザ・クラシック”、ですね。
木村 しかもイーグリング版は、他のヴァージョンの振りと比べてさらに多くの振りが詰め込まれていますよね。
渡邊 イーグリングさんの要素が色濃く反映されたステップで攻めつつも、常にアカデミックなものに戻っていく。このヴァージョンはその両方を一度に味わえる、つまり“一度で二度美味しい”作品といえます。そういう意味では、現代の観客の方々にぴったりのヴァージョンなのではないでしょうか。
木村 それまでにもたくさんのハードな場面を踊って、疲れきった状況でグラン・パ・ド・ドゥにのぞむので、ダンサーにとってはまるでトライアスロンのよう(笑)。1年の終わりの、同時に1年の始まりの、大きな力試しになるとも感じます。
──確かに、「1年の始まりも」、ですね。多くのバレエ団がクリスマス・シーズンに、あるいは年末までに上演することが多い『くるみ割り人形』ですが、新国立劇場では新年にも上演されますね。
木村 年明けの『くるみ割り人形』も、本当に多くの方々が観に来てくださって、驚きました。ロンドンの英国ロイヤル・バレエ団でも『くるみ割り人形』は新年まで上演していますよね。クリスマスの後にお正月、というのは日本の文化だけれど、欧米ではクリスマス自体がとても大きなイベントだということだと思うんです。
渡邊 初詣もいいけれど、新しい文化として「明けまして『くるみ割り人形』」という習慣を広めたいですね!
──また、おふたりが主演される「ぴあスペシャルデー」の公演(12月29日)では、開演前や幕間にホワイエで生演奏が行われると聞いています。
渡邊 それは僕もホワイエに行きたいくらいです! 以前から、日本の劇場でも海外のクリスマス・マーケットみたいに楽しい空間を実現できたらもっといいよねって言っていたんです。
木村 クリスマスはやはり家族と一緒に過ごすイベントですから、ぜひ、家族連れで観に来ていただきたいですね。もちろん、デートでもいいし、おひとりでも! 多くの方々にこの舞台を楽しんでいただきたいと思っています。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
新国立劇場バレエ団
『くるみ割り人形』
振付:ウエイン・イーグリング
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
美術:川口直次
衣裳:前田文子
照明:沢田祐二
出演:新国立劇場バレエ団
指揮:冨田実里 ほか
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京少年少女合唱隊
2023年12月22日(金)~2024年1月8日(月・祝)
会場:新国立劇場 オペラパレス
★ぴあスペシャルデー(貸切公演)開催!
・2023年12月24日(日)13:00開演
柴山紗帆(クララ/こんぺい糖の精)/速水渉悟(ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子)
・2023年12月29日(金)13:00開演
木村優里(クララ/こんぺい糖の精)/渡邊峻郁(ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子)
当日はホワイエでのミニライブやメルマガ登録で抽選会参加など、さまざまなイベントを予定しております!
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2346066
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