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【観劇レポート】異なる文化を持つ者同士が“歌”で繋がる感動を ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

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ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』より 

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とある殺人事件をめぐる騒動の中、黒人クラブ歌手と修道女たちが友情を育んでいく大人気ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が11月5日、東急シアターオーブにて開幕した。同名の大ヒット映画をもとに2009年にロンドンで初演された作品で、日本では2014年に初演。今回は5度目の上演だ。映画版でウーピー・ゴールドバーグが演じた主人公デロリスは、森公美子と朝夏まなと。豪快さとチャーミングを併せ持つ森と、元宝塚トップスターでゴージャスな魅力の朝夏、まったくタイプの異なるふたりがダブルキャストで同じ役を演じているのも面白いところだが、ここでは朝夏まなと主演版を観劇したレポートをお届けする。

舞台は1977年のフィラデルフィア。クラブ歌手のデロリスはスターになることを夢見ているが、なかなか芽が出ない。そんなある日、愛人であるギャングのボス・カーティスが仲間を殺害するところを目撃してしまう。命を狙われるハメになったデロリスは一体どうなる……!? という、“掴み”から非常にニクい。この作品、起承転結が明快でドラマ性が豊か、どんどん物語に引き込まれていくのがまず良いところ。

朝夏のデロリスは、どこまで脚なの!? という想像を絶するスタイルの良さと抜群のスター性で、むしろ売れない歌手であることが不思議なほどの輝きを持っている。デロリスが燻ぶっているのは、カーティスがデロリスを手中に収めるために売れるのを阻止しているのではないか、と裏読みをしてしまうほど。実際、カーティスの大澄賢也も日本初演からの続投だが、今回はこれまでの“お茶目なギャング”というより(もちろんそんな一面もあるのだが)、裏社会の人間らしい、肝が冷えるような凄みをストレートに出しているように思う。

デロリスは警察に駆け込み警官になった幼馴染エディと再会、彼の勧めで修道院に身を隠すことに。しかし禁欲とは真逆の生活をしていた彼女は、規律正しく慎ましい修道女の生活に馴染まず混乱を起こしてしまう。見かねた修道院長はデロリスに聖歌隊への参加以外の行動を禁止するが、その聖歌隊は想像を絶する音痴だった……。歌手魂に火が点いたデロリスは聖歌隊を熱血指導、すると聖歌隊はみるみる上達し、シスターたちもデロリスを慕うようになる――。ここはまさに本作のハイライト! デロリスと修道女たちという異なる文化を持つ両者を繋ぐのが“歌”である、という物語を描くのに、ミュージカルほどふさわしいものはない。

さらに、音楽を手掛けているのは『美女と野獣』『アラジン』などでも知られる天才アラン・メンケン。シスターたちが歌うナンバーも讃美歌だけでなくゴスペルにソウルにと多彩、いずれも心躍るものばかり。これをシスター役の俳優たちが個性的かつ、いきいきと無邪気に楽しそうに歌う姿は、観ているだけで不思議と涙が出るほど心を揺さぶられる。朝夏の歌唱もソウルフル度が増し、伸びやか。純粋に「歌って、合唱っていいな」と思う感動があり、音楽がデロリスとシスターたちを結びつけていくのが無条件に納得できる。

また、両者の交流の中で変わっていくのがデロリスだけでなく、シスターたちもまたデロリスの影響で変化していく、というのも良い。中でも内気な性格の修道女見習いメアリー・ロバート(梅田彩佳)の成長は観ていて胸が熱くなるものがある。

同時にほのかな恋も進行、デロリスに思いを寄せる警察官“汗っかきエディ”は初参加の廣瀬友祐(石井一孝とダブルキャスト)。長身のスタイルと整った顔立ちを持ちながらなぜかクセのある役も多い廣瀬が、今回も絶妙な“残念”さでコメディセンスを発揮している。しかしながらエディのコンプレックスやひたむきさも丁寧に描き、コミカルに寄せすぎずリアリティある人物像にしているのも好印象だ。

聖歌隊の歌唱力が評判となって廃院寸前の修道院に献金も集まり良いことだらけかと思いきや、注目が集まったことでデロリスの所在がカーティスに見つかって……。

物語は最後までスリルが止まらないが、しかし最終的には大きな感動が劇場を包む。終盤、デロリスと修道院長(鳳蘭)が語り合うシーンがある。そこで修道院長は起きた事象を「神の御業だ」と言い、デロリスは「人間同士の繋がり(が成したことだ)」と言い、さらに修道院長が「私たちはいつか、ふたつは同じものだとわかるでしょう」と重ねる。信仰や立場で捉え方は異なる、だが互いを否定せず受け入れる光景のなんと美しいことか。現在の世界情勢にも思いを馳せ、このシーンはことのほか心に沁みた。

また今回は“客席降り”と呼ばれる客席通路を使用する演出もある。これはコロナ禍真っ最中のここ数年では難しかった演出だ。まだ油断のならない状況ではあるとはいえ以前の日常が戻ってきたなと感慨深い。さらに客席も一緒に踊るカーテンコールも名物。演出家・山田和也の得意とする、客席を巻き込んで盛り上がらせる演出が冴え、最後まで一瞬たりとも飽きさせない。笑って感動して元気になる、ミュージカルの良さが凝縮されたような作品だ。

カーテンコールより

なお前述のとおりデロリスとエディはダブルキャストで、2014年の日本初演から同役を務めている森公美子、石井一孝も出演中。森と朝夏、石井と廣瀬とも、俳優としてのタイプもまったく違うので、ふたりのデロリス、ふたりのエディを見比べるのも楽しい。特に森は初日前会見で「去年で(この作品からは)引退だと思っていたが、昨年はやり残した気持ちがあり、再演の話をいただいて『やるやる、やらせてください!』と返事をしました。今回は本当に最後じゃないかな」と気になる発言もしていたため、お見逃しなきよう。公演は11月29日(水)まで同所にて。12月には大阪、静岡でも上演される。

初日前会見より、左から)廣瀬友祐、石井一孝、朝夏まなと、森公美子

取材・文:平野祥恵

<公演情報>
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

音楽:アラン・メンケン
歌詞:グレン・スレイター
脚本:シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
原作:タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを・・・」(脚本:ジョセフ・ハワード)
演出:山田和也

出演:
デロリス・ヴァン・カルティエ:森公美子 / 朝夏まなと(Wキャスト)
エディ:廣瀬友祐
カーティス:大澄賢也
シスター・メアリー・ラザールス:春風ひとみ
シスター・メアリー・ロバート:梅田彩佳
TJ:泉見洋平
ジョーイ:KENTARO
パブロ:林翔太

オハラ神父:太川陽介
修道院長:鳳蘭
ほか

【東京公演】
2023年11月5日(日)~11月29日(水)
会場:東急シアターオーブ

【大阪公演】
2023年12月6日(水)~12月10日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール

【静岡公演】
2023年12月23日(土)・24日(日)
会場:静岡市清水文化会館マリナート

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2344031

公式サイト:
https://www.tohostage.com/sister_act/

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