そこには、自身の成長、メジャーに移籍したことにより環境が変わったこと、時代の移り変わりなど、さまざまな要因があったことだろう。いずれにせよ人はただ息をしているだけでも時とともに変わっていくもの。そう考えるとごく当然のことだと考えられるが、2020年にリリースした5thアルバム『Walking On Fire』や最新6thアルバム『Into The Time Hole』で、ネオソウルやR&Bを前面に打ち出してくるところまでは予想できなかった。しかしそこに違和感はまったくない。とにかく柔軟で自由、しかしある部分ではそれと同じくらい頑固。だから何をやってもそれはGLIM SPANKYのロックになる。
メンバーが静かに登場し、1曲目は「Velvet Theater」。アーシーなサイケデリックロックからブリッジでテンポアップして超自然的なサウンドスケープへ。そこからテンポを戻して亀本の泣きのギターソロに繋がる流れがたまらない。続いては最新アルバム『Into The Time Home』から「レイトショーへと」。R&Bやジャズとサイケデリックロックの融合によって生み出されるグルーヴに体が揺れる。松尾は肝の据わったハスキーボイスに注目が集まりがちだが、高音域の地声からファルセットへと移るグラデーションの繊細な美しさにもうっとりする。そして『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』収録の「A Black Cat」と、続けて横ノリを演出しフロアを温めた。
「今日は最高のパーティーにして、最高な夜の世界にみんなで迷い込もうと思います」と松尾が話し、「NIGHT LAN DOT」へ。そしていよいよGLIM SPANKYのディープな世界観が炸裂する。大陸が音を上げているような大井のドラムと東洋的な亀本のギターフレーズ、松尾の砂漠に対する想像力が溢れる言葉とメロディのシナジーが凄まじい「MIDNIGHT CIRCUS」は、シルクロードの過酷な旅の途中に見る夢のようだ。
そしてタイトルからして挑発的なガレージロック「ダミーロックとブルース」、松尾のポエトリーリーディングから入るタイトル未定曲、柔らかでドリーミーなフォーク「AM06:30」と、一言で“幻想的”と言ってもさまざまなアプローチをみせる。そこから120BPMのディスコ「In the air」、さらにテンポと温度を上げた「吹き抜く風のように」と、サイケデリックに根差しながらフロアにダンスの魔法をかけた。
ステージは後半へ。GLIM SPANKYのオリジナル作品には未収録だが、「ずっと演奏したかった。アシッドフォークやバロックポップから影響を受けた趣味爆発の曲。『Velvet Theater』にはぴったりだと思う」と松尾が話し、『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』から「The House in Lime Avenue」を演奏。のどかな田園にサイケデリックの風が吹くようなナンバーで会場を優しく包み込む。
そして亀本が「GLIM SPANKYのライブですから、ロックなやつ?(中略)やっぱやりてえよなっ。どうでしょうか!」とガツンとくる“SPANKY”なロックを演奏することを示唆し、「Breaking Down Blues」を演奏。そのキャリア中もっともヘビーなリフとビートが鳴った瞬間、フロアには揺れる頭と突き上がる拳の波が。これまでのパフォーマンスとのコントラストで松尾のエッジーなボーカルもさらに鋭さを増して聞こえてくる。
アンコールはシンセベースを惜しげもなく鳴らして宇宙を描くようなサイケデリアと、ビッグスケールなダウンビートで20年代のGLIM SPANKYの新機軸を示し、目に見える盛り上がりという意味では速い曲が目立っていたライブにも風穴を開けた「Circle Of Time」。その魅力は健在。圧倒的に深く強く熱狂的な動きとムードに満ちたフロアは絶景だった。
01. Velvet Theater
02. レイトショーへと
03. A Black Cat
04. NIGHT LAN DOT
05. MIDNIGHT CIRCUS
06. 闇に目を凝らせば
07. ダミーロックとブルース
08. タイトル未定曲
09. AM06:30
10. In the air
11. 吹き抜く風のように
12. The House in Lime Avenue
13. こんな夜更けは
14. 美しい棘
15. Breaking Down Blues
16. 怒りをくれよ
17. Odd Dancer
18. 大人になったら
【DVD収録内容】※初回限定盤のみ
■『Into The Time Hole Tour 2022』@昭和女子大学 人見記念講堂(2022.12.21)
・シグナルはいらない
・ドレスを切り裂いて
・褒めろよ
・HEY MY GIRL FRIEND!!
・It’s A Sunny Day
・美しい棘
・Breaking Down Blues
・時代のヒーロー
・LOOKING FOR THE MAGIC
・Velvet Theater
・レイトショーへと
・怒りをくれよ
・ワイルド・サイドを行け
・愚か者たち
・不幸アレ
・NEXT ONE
・Sugar/Plum/Fairy
・形ないもの
・EN ウイスキーが、お好きでしょ
・EN By Myself Again
・EN 大人になったら
・EN Gypsy