監督が解説! ディズニー最新作『シュガー・ラッシュ:オンライン』の最重要ポイント
映画
ニュース

(写真左から)フィル・ジョンストン監督、リッチ・ムーア監督 (C)2018 Disney. All Rights Reserved.
ディズニー・アニメーション最新作『シュガー・ラッシュ:オンライン』が公開されている。本作はアーケードゲームで暮らすキャラクター、ラルフとヴァネロペが、インターネットの世界で大冒険を繰り広げる物語を描いているが、監督を務めたリッチ・ムーアとフィル・ジョンストンは「創作の初期の段階から、この映画のポイントは“ラルフとヴァネロペの友情”になるとわかっていた」と語る。
ムーアはこれまでに『シュガー・ラッシュ』と『ズートピア』の監督を務め、ジョンストンは両作の脚本を執筆し、ストーリー部門を率いてきた。彼らがこれまでに手がけた作品はどちらも男女コンビが主人公だが、その関係は大きく異なっている。『ズートピア』に登場する警察官のジュディと詐欺師のニックは、タイプの違うふたりが丁々発止のやり取りを繰り広げる“スクリューボール・コメディ”のコンビだった。しかし、『シュガー・ラッシュ』のラルフとヴァネロペの関係は「もう少し誠実で“まっすぐさ”が備わっていると思う」とジョンストンは分析する。
「スクリューボール・コメディの男女は多くの場合、恋愛が絡んでいるけど、ラルフとヴァネロペは“子どもがふたりいる”って感じなんだ(笑)。映画で参考にしたのは、ピーター・ボグダノヴィッチの『ペーパー・ムーン』とか『がんばれ!ベアーズ』とか。あとはグレッグ・モットーラの『スーパーバッド』だね(笑)。実は製作中に『スーパーバッド』の名前がよく挙がったんだよ」(ジョンストン)
「後はローレル&ハーディ(サイレント時代からアメリカで活躍していたお笑いコンビ)とかね。お兄さんと妹の関係が一番近いんじゃないかなぁ。ラルフはお兄さんのように“俺の方が大人で物事をよく知ってるぞ”って思いたいんだけど、実は大人で成熟しているのは妹の方なんだ(笑)」(ムーア)
本作に登場するラルフは、アーケード・ゲーム“フィックス・イット・フェリックス”の悪役で、かつては同じ店のゲームキャラクターと仲良くできずに孤独な日々を過ごしていたが、前作『シュガー・ラッシュ』で様々なゲームを訪れ、レーシングゲーム“シュガー・ラッシュ”のキャラクター、ヴァネロペに出会い、親友になった。そして最新作『…オンライン』でふたりはゲームセンターを飛び出して、広大なインターネットの世界に旅立つ。
劇中には様々なサイトやネットのサービスが登場し、世界中からユーザーが集まり、歴代のディズニー・プリンセスたちやマーベルの人気キャラクターも顔を見せる。彼らは“何でもアリ”のネットの世界を映像化するため、ふんだんにアイデアを盛り込んでいるが「創作の初期の段階から、この映画のポイントは“ラルフとヴァネロペの友情”になるとわかっていた」とふたりは声を揃える。
「僕たちはネットの世界を魅力的に描きたいとは思っていたけど、次々に物語の舞台が移動するのに、ふたりの友情が変化しないままの物語にはしたくなかった。だって、リアルな友情というのは常に変化し、成熟し、広がっていくものだからね。さっきフィルがふたりを“子ども”って言ったけど、確かに1作目の『シュガー・ラッシュ』のふたりは子どものような感じだった。だから今回の映画では彼らが成長して、人生の選択をする物語を描くことで、より普遍的な映画にしたいと思ったんだ」(ムーア)
監督が語る通り、最新作でふたりはそれぞれに選択を迫られる。ヴァネロペは刺激に満ちたネットの世界に魅了され、この場所に残って自分の能力をさらに発揮させたいと思い始める。一方のラルフは穏かにすぎていく日常を愛していて、故郷のゲームセンターに早く戻りたいと思っている。ふたりは離れ離れになってしまうのだろうか? その時、彼らの友情はどうなってしまうのだろうか?
「この映画のテーマは、友情に変化が起きた時、友情が何らかの岐路にたったときに、ふたりはその状況を乗り越えることができるのか? というものなんだ。ネットは常に変化し続ける場所だから、このテーマを描くにはいい環境だと思うよ」(ムーア)
彼らの作品を続けて観ている人はすでに気づいているかもしれないが、『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、『シュガー・ラッシュ』の“その後”を描く映画でありながら、同時に『ズートピア』で描かれた問題の“その先”を扱っている。自分の世界に閉じこもって暮らしていた男が、新しい世界があることを知り、そこで親友を見つけるまでを描いたのが『シュガー・ラッシュ』なら、別々の場所で暮らしていた人たちがお互いの考えの違いや偏見を乗り越えて共に同じ場所で暮らせるのかを描いたのが『ズートピア』、そして『シュガー・ラッシュ:オンライン』はさらに問題を先に進めて“異なる場所で暮らし、異なる考えを持つ人々が、友情や友愛関係を維持できるか?”を描いている。
「それは素晴らしい解釈だよ。そうだと思う。その通りだよ! ネットは人と人を近くにつなげてくれるものだったはずなのに、いつからかネットは人と人を遠ざけるものになってしまった……そう思う時があるんだ。だからこそ、この映画では考えが違っても、物理的に距離が離れてしまっても、人はネットのおかげでつながり続けることができることを描く物語にしたかった」(ムーア)
「この映画の製作は『ズートピア』の前からスタートしていて、僕たちはいくつかの作業をした後に『ズートピア』の製作に移って、映画の完成後に『…オンライン』に戻ってきたんだけど、その段階で改めて『ズートピア』から学んだことを話し合ったんだ。僕たちは多様性を持ち、多様性があるがゆえにぶつかってしまう世界に生きていて“自分と考えの違う人とは友達にはなれない”と考えている人もいる。でも、自分と同じ考えを持たない、自分と同じ生き方をしない人たちと友達になることはできると思うんだ。そんな考えをこれまで以上に深めて描いていいんだと思わせてくれたのは、間違いなく『ズートピア』だった」(ジョンストン)
私たちは環境や人生のステージに変化が訪れる時、どうやって“友情”を変化させ、続けていけるのだろうか? 本作は誰もが経験する大切なテーマを描いているが、ふたりは、意外にも“映画づくり”を通して、このテーマを深めていったようだ。
「最初から全部わかっていたんだよ!……って言いたいところだけど、それはやっぱり嘘になる(笑)。東京から京都へ行こうと決めて出発するけど、道中で起こることのすべてを予想するのは不可能なんだ。でも、想像もしないことがあったり、何かを見るために立ち止まったり、新しいことを学んだり……それは旅も映画づくりも同じ。それに映画づくりには“新幹線”はないからね(笑)」(ムーア)
「新幹線どころか“京都にお尻を向けている目の見えないロバに乗って移動しているようなものだよ!」(ジョンストン)
「しかも、すごくおバカなロバだね(笑)。なのに僕らは“よし! フェラーリに乗り込んだからバッチリだぜ!”って思ってるんだ(笑)。だから、すごく大事なことだけど、僕たちは自分が迷子になった時は素直に認めるようにしているよ。何か問題があったときには素直に言えないといけない。“これはうまくいってないんじゃないかな?”ってね」(ムーア)
「劇中のラルフも、映画を作った僕たちも、新しい考えやアイデアに対してオープンになることを学ぶんだ。映画づくりの最初は“脚本の初稿が書けたぞ。かなりいい感じだ!”って思うけど、進めていくと、もっと掘り下げないとダメだとか、こっちだと思ったけど行き止まりだったとか……だから、ものすごく恥ずかしい気持ちになる時があるんだよ。仲間に製作途中の作品を見せることがあるんだけど、ストーリーは響かないし、ジョークは笑えないし……本当に落ち込んで、自分が裸同然になった気持ちになる。でも、そこで新しく出たアイデアに対して自分がオープンになることができたら、映画は多層構造をもった良質なものになる。だから、この映画で描かれるラルフとヴァネロペの友情のドラマに近い感情を、僕たちも映画づくりを通して感じているんだ。先入観を持っていたとしても、まったく違うアイデアに触れて、オープンな気持ちでそれを受け入れることが出来たら、これまでとは違う場所に立てるんだってね」(ジョンストン)
「この映画の話をする時にあまり指摘されないことなんだけど、この物語で起こる問題は、実はヴァネロペが正直になっていないことに起因しているんだ。多くの人はラルフがヴァネロペとの友情を手放したくなくて、かたくなになっていることが悪いって言う。でも、そもそもはヴァネロペが本当に自分が求めていることや、この先にどうやって生きていきたいのかを正直にラルフに言わないから、状況がこんがらがって、友情が機能不全に陥ってしまうんだ」(ムーア)
インターネットの世界をめぐりながら、それぞれに違う考えを抱くようになったラルフとヴァネロペは、親友に自分の気持ちを伝えることができるだろうか? そしてふたりは相手の想いをオープンに受け入れて、友情のかたちを変化させることができるだろうか? ワクワクする冒険や、おなじみのキャラクターの登場はもちろん楽しいが、本作の“核心”にあるラルフとヴァネロペの友情ドラマも多くの人を魅了するはずだ。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
公開中
フォトギャラリー(3件)
すべて見る