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レコード会社とレーベルの違い&メジャーデビューの定義を解説

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キニナル君が行く!

ヤッホーみんな! 僕、キニナル君。音楽愛する大学生♪ 将来の夢は音楽でごはんを食べていくことだよ。だけど、正直わからないことだらけなので、この連載を通して僕が気になった音楽にまつわるさまざまな疑問を、専門家の人たちに聞きに行くよ。

突然だけど、みんなは“メジャーデビュー”ってわかる? 僕はよく、ライブのアンコールで「来年キニナル君はメジャーデビューします!」って宣言して、お客さんから大歓声を浴びる夢を見るよ。でも、よくよく考えてみるとメジャーデビューって、ただのデビューとどう違うんだろう? あとさ、「レコード会社」「レーベル」「マネジメント」のそれぞれの違いもよくわからないんだよね……。気になって夜も眠れなくなったので、ワーナーミュージック・ジャパン在籍時代にレーベル・unBORDEを立ち上げて、現在はThe Orchard Japanのシニア・ヴァイス・プレジデントを務める鈴木竜馬さんのところへ突撃取材して解説してもらったよ! ちなみにThe Orchard Japanについては以前音楽ナタリーで紹介してるよ!

取材・文 / キニナル君 撮影 / 小原泰広 イラスト / 柘植文

レーベルって何?

──鈴木さんはunBORDEを立ち上げたすごい人って聞きました! 確かに神聖かまってちゃんやきゃりーぱみゅぱみゅ、あいみょんなど、そうそうたるアーティストの作品をリリースしてますね!

音楽業界がフィジカルからデジタルへの移行という過渡期を迎えていた2010年くらいのタイミングで、10年代を引っ張って行けるようなレーベルを作りたいと思って立ち上げたのがunBORDEなんだ。当時はレーベルを作ることがあまり流行っていなかったんだけど、レーベルヘッドと言われる人がアイデンティティを持ってチームを運用する、ということをやりたくて。個性的なアーティストをひとくくりすることによって、束になってブランドとして見せたいと思って始めたんだよね。

──ちょっと待ってください! そもそもレーベルってなんですか?

レーベルって、要はラベルのことだね。ワインやウイスキーのボトルに付いているラベルと同じで英語にすると「label」なんだけど、昔のレコード会社の人がアナログレコードの盤に自分たちのブランドとしてラベルを貼ったのが始まり。レコード会社の中にはジャズを扱うセクションもあればソウルもあるし、ロックンロールもある中で、当時はジャンル分けの意味合いが大きかったと思う。Atlantic RecordsはジャズやR&Bのレーベルとして有名だったし、Island Recordsはレゲエ、1960年代に快進撃を続けたMotownはレーベル名がそのまま“モータウンサウンド”として定着した例だね。レコード会社がジャンルをなんとなく区切っていったものがレーベルの発端だと思うよ。

──レーベルって、だいぶ昔からあるんですね。

日本で言うと、ソニーミュージックの中にEPIC Records Japanというレーベルがあって、そこに佐野元春さんとかTHE STREET SLIDERSとか、僕が大好きなアーティストがいたんだ。僕が青春期を過ごしていた1980年代、購入したレコードにスタンプでマークが付いていたんだよね。あとは僕がunBORDEを立ち上げるときにリファレンスというか、リスペクトを持って参考にさせてもらったのはビクターエンタテインメントの高垣(健)さんが作ったSPEEDSTAR RECORDS。ビクターというレコード会社の中にSPEEDSTARというロックを中心としたカッコいいレーベルがあって、かたやワーナーミュージック・ジャパンにもWEAというオリジナリティのあるレーベルがあって、そこには坂本龍一さんのような素晴らしいミュージシャンの方たちがいて。最初はジャンルで分けていたのが、時代を経てテーマやコンセプトでくくるようになっていったと思うんだけど、レコード会社の中に独立したブランドみたいな形でレーベルが存在していたんだよね。

──へえ。unBORDEはどういったコンセプトだったんですか?

当時はJ-POPというひとくくりのフィールドの中に、R&B寄りの宇多田ヒカルさんとか多様なアーティストがいたんだよね。その多様化している中でエッジの効いた人たちを集めようと思ったのがunBORDEなんだ。だからunBORDEは基本的には1ジャンルにつき1アーティスト。もちろんバンドはいろんな形態があるから神聖かまってちゃんがいればandropもいたけど(※andropは2016年に別レーベルに移籍)、アイドルはチームしゃちほこ(現:TEAM SHACHI)、シンガーソングライターは高橋優、あときゃりーぱみゅぱみゅは唯一無二でしょ? ヒップホップもchelmicoが来るまではRIP SYLMEだけだったし。ワン&オンリーをテーマにしていて、そういう人たちと組んでやっていたから、フェスをやるとガチャガチャで(笑)。でも、やっていくうちにレーベルとしてのファンもついてくれた稀有な例だったよね。

レコード会社とレーベルの関係を例えると

──レコード会社とレーベルの関係って、別の言葉で例えるとどんな感じですか?

ファッションで考えると近いかもね。メンズ、レディースで分かれてたり、カジュアルラインからフォーマルラインまであるでしょ?

──ユナイテッドアローズという会社の中に、「UNITED ARROWS」「BEAUTY&YOUTH」「green label relaxing」がある、みたいな?

そうそう。音楽も幅広いジャンルがあるからそれをカテゴリー分けしていったんだね。例えばソニーミュージックの中に本流のSony Music Recordsがあって、SME Records、Ki/oon Music、Sony Music Associated Recordsとか、さっき言ったEPICRecords Japanもあって。

──そういう大きなレコード会社じゃないとレーベルは作れないんですか?

そんなことないよ。アラン・マッギーという人が創設したイギリスのCreation Recordsというレーベルは、Primal ScreamやMy Bloody Valentine、Oasisが在籍して世界でも特に有名なインディーレーベルだったね。日本で有名なのは横山健(Hi-STANDARD、Ken Yokoyama)さんがやってるPIZZA OF DEATH RECORDSとか、遠藤幸一さんのUK.PROJECTとかね。ほかにもLD&Kという会社は音楽事業部も持っていて、菅原(隆文)くんがSTAY FREEEE!!!!!!!!というレーベルを立ち上げたけど、僕が知らないようなレーベルもいっぱいあると思うよ。あとはきゃりーちゃんが2021年にKRK LABっていう自分のレーベルを発足させたけど、アーティストが自分のカラーをより強く打ち出すためにプライベートレーベルを持つ場合もあるね。

──「プライベートレーベル」ってなんか響きがカッコいい……!

レーベルは誰でも立ち上げられるからね。なんなら高校生が自分の音源を配信するときにレーベルを作ることだってできる。

──じゃあ僕もキニナルレコードっていうレーベルを作れる?

キニナルレコードも全然作れる。役所に何かを届ける必要もない。強いて言えば、商標登録の確認はしたほうがいいかもね。例えば「俺たちってエッジが効いているから『cutting edge』というレーベル名にしよう」と思っても、avexがすでに「cutting edge」を商標登録しているので、それを同業他社が使うことはできない。逆に自分たちがレーベルを作った際に商標登録をしておかないと、人気が出たときにどこかの誰かが勝手にレーベルのロゴを使ってグッズを出しても文句を言えないこともあるから、そこは注意が必要かな。

マネジメントの役割

──レーベルとレコード会社の違いはわかったんですけど、マネジメントとの違いも教えてください!

芸能事務所のマネージャーのことかな?

──はい。レーベルのスタッフとマネージャーって、なんで分かれているんですか? 同じ人がやればいいと思うんですけど。

ミュージシャンだって音楽以外の活動をすることもあるよね。ときに役者としてドラマに出たり、バラエティ番組に呼ばれたり……あとは興行。コンサートやライブは基本的には事務所が運営する。かたやレコード会社はその名の通り録音(レコード)された音源を世の中に流す部分を受け持つというのが根本的な考え方。ただ事務所に所属してない才能のあるミュージシャンをレコード会社が発見した場合、彼らのサポートをレコード会社がすることもあるんだ。ソニーミュージックで言うとKing Gnuの音源の流通を請け負いながら彼らのマネジメントもやっている。あとはソニーミュージックグループは早くからソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)というマネジメント会社を設立したよね。同じようにエイベックスにはエイベックス・マネジメントという子会社があって、浜崎あゆみさんや倖田來未さん、AAAがいる。系列の事務所だからと言って、必ずしもそのレコード会社に所属してるわけじゃないけどね。例えば木村カエラちゃんは事務所はSMAで、レコード会社は最初日本コロムビアで今はビクターだし。

──へえ、ライブは事務所が行うものなんですね。

ただ、CDやレコードのような単価が高い商品がたくさん売れた時代はいいけど、配信は単価が安いので最近はレコード会社がいわゆる360°ビジネスの考え方でライブ事業にも手を広げていて。ソニーミュージックグループにはソニー・ミュージックソリューションズという、コンサート制作やファンクラブ事業、EC事業などなんでもやる会社があるんだ。レコード会社が多角経営の流れでそういうこともやっているけど、もともと「餅は餅屋」で芸能事務所がアーティストの面倒を長く見てあげる。レコード会社はどうしても契約のタームが短いから一生面倒を見てあげるのは難しくて、そこは本来決定的に違うものだし、マネジメントをやるということは相当覚悟のいる仕事ではあるよね。

──レコード会社が芸能事務所を立ち上げるのと逆のパターンもあるんですか?

アミューズがKDDIとの合弁会社としてA-Sketchという事務所兼レコード会社を立ち上げたりとか、そういう意味で相互乗り入れが起きているかな。それはデジタル時代になったことが大きいよね。これまではレコードやCDというモノを作って、それを全国のショップに届けなきゃいけなかったから。A-Sketchはフィジカルもやっているけど、配信時代になってくるとApple MusicとかSpotifyを介して世の中にダイレクトに音源を届けることが可能になった。レコード会社が多角化の一環で芸能事務所の領域に手を出し始めたし、逆に事務所も自分たちでレコード会社を持つようになって、両者がパラレルに動いていると言えるかもしれないね。

メジャーとインディーの違い

──メジャーデビューってなんとなくすごいイメージがあるんですけど、メジャーとインディーって何が違うんですか?

意外と知らない人が多いんだけど、世界基準でのメジャーレーベルって3つしかないんだ。ソニーミュージック、ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック。これはグローバル3大メジャーと言われているところで、ビクターだったりポニーキャニオンだったり、日本でメジャーと考えられているレコード会社は、厳密に言うと最近は「ドメスティックメジャー」とか「ローカルメジャー」と呼ばれていて、海外の人にメジャーと言っても通じない。

──そうなんですか……!

今、「グローバル市場に向けて日本の音楽コンテンツ発信のために協力しましょう」ということで、一般社団法人IMCJ(Independent Music Coalition Japan)というインディーズ音楽業界のための団体がいろいろな活動をしているけど、ここにビクターや日本コロムビア、ポニーキャニオンも参加している。要は自分たちがインディーだという認識を持たれているということだよね。

──ドメスティックメジャーの定義はあるんですか? 日本レコード協会の正会員18社がメジャーという意見を見たことがあるんですけど。

日本ではそれをメジャーと呼ぶようにした、ということだよね。グローバルの定義としてはメジャーじゃないんだけどね。国内のインディーとメジャーの何が違うかと言ったら、やや崩れつつあるけど、地方に支店を持っているかどうかは1つの定義ではあるかな。例えば大阪のタワーレコードに東京からではなく大阪のセールスパーソンが行ける。全国各地にプロモーションができるというのは、メジャーのアイデンティティとしてあるかもしれない。ただ、今は地方の支店を閉じるレコード会社も増えているし、ショップを経由しなくても配信でリスナーに曲を届けられるようになっているから、だいぶ変換期ではあるけど。

──全国のショップにCDを流通できることがメジャーというわけではないんですね。

よくインディーアーティストが「全国流通盤を出します」と言うけど、流すだけなら卸しを使えばできる。流通をしたうえで、フォローアップ……要はプロモーションを全国でできるのがメジャーだね。

メジャーデビューするには

──つまりメジャーデビューすることのメリットって、たくさん宣伝してもらえるということですか?

そうだね。地方のショップへの営業もそうだし、テレビやラジオなどメディアの領域においてもプロモーターがいるのがメジャーレーベルの強さだったりするから、ある程度火が付いたものをよりブーストさせるときにメジャーの力を借りられるのは大きいんじゃないかな。ただ当然その分人も割くしインフラ費もあるから、大きく売れないとアーティストもレコード会社もお互いハッピーにならない。理想はインディーでやりながらチャンスを広げていって、より大きく届けたいときにメジャーレーベルと手を組むのがいいんじゃないかな。

──ちなみに僕はよくメジャーデビューする夢を見るんですけど、僕もメジャーデビューできますか……?

もちろん可能性はゼロではないけど、メジャーレーベルとしては投資をするということだから。「あなたの音源をより多くの人に届けるためにお金をかけるし、人というリソースも使いますよ」という投資。シビアな言い方になるかもしれないけど、それに値するアーティストになれたらってことだよね。そうなるためにはメジャーのA&R(※アーティスト&レパートリーの略。アーティストを発掘・育成し、宣伝戦略を行う職)と呼ばれる人たちの心を動かすいい曲を作るしかない。いい作品を作っていたら可能性はあると思うよ。

──鈴木さんがunBORDEでアーティストと契約するときも、やっぱり曲が一番大事でした?

もちろん。あれもこれも契約するのではなく、僕は百発百中でヒットを作りたかったので、それぞれのアーティストに一球入魂というか、さっきも言ったけど1ジャンル1アーティストに絞っていたよ。シンガーソングライターの高橋優にかける、あいみょんにかける、きゃりーぱみゅぱみゅのキャラクターにかける、みたいに。あとは音楽性のほかにビジュアルもすごく大事なポリシーとして持っていて。スマホで音楽を楽しむ時代になって、YouTubeでの見え方を含めてビジュアルとしても勝てるアーティストというのは意識していた。かまってちゃんのあのぶっ飛んだパフォーマンスは映像があると伝わり方が違うでしょ? きゃりーちゃんもそう。もちろん中田ヤスタカさんの音源は素晴らしいけど、MVのあの世界観があるのとないのとでは伝わり方が全然変わってくる。ビジュアルでも映えるというのは、自分の中で1つのボーダーとして持っていたね。

──掛け算みたいな感じですか? 曲×ビジュアルみたいな。

当時の僕のポリシーはそうだね。今、The Orchardでは全然違う観点でやっていて、むしろいい音源を世に届けたいということだけを主体においてインディーの人たちと向き合っているよ。

The Orchardのマーケットはグローバル

──The Orchardはインディーの人を対象に楽曲配信の手伝いをしているんですね。

基本的にはそう。とはいえ完全に個人のアーティストではなくて、レーベルや事務所を相手にしたB to Bだけど。chelmicoのように、メジャーから移ってきた人たちもいっぱいいるよ。海外ではその潮流が顕著で、エリック・クラプトンの全カタログがうちにきたし、Dream TheaterやThe Smashing Pumpkins、あとは去年の「FUJI ROCK FESTIVAL」でヘッドライナーを務めた元The White Stripesのジャック・ホワイトもそう。すでにファンダムが形成されている人たちは不特定多数へのプロモーションをそこまで必要としないし、そのうえThe Orchardは世界中に音源を流通した先の各国にスタッフがいるので、手厚くサポートができるのが強みなんだ。

──それってメジャーのレコード会社が行っている業務を、配信の領域で、しかもグローバルにやるということですか?

まさにそう。音源を届ける方法がCDから配信に移行したことでデータが可視化されるようになったよね。自分の音源がどこでどの年代の人にどういうふうに聴かれているかをアナリティクスツールで分析することで、国内でも海外でもバズが起きたときにキャッチしてSNSを使ってフォローすることができる。そういう一連のサポートをできるのがThe Orchardということになるかな。我々の理念は「いい音楽をテックの力を使って世界中に届ける」ということ。国内マーケットだと1億2000万人だけど、世界中の80憶人に対して届けることができたら、配信の単価が安いと言われていても実質的にアーティストにトータルとして入ってくる金額は大きくなるよね。マーケットは完全にグローバル。そういう意識を持つと、メジャーやインディーという領域じゃない視点で音楽活動を考えることができるようになるんじゃないかな。

──確かにそうですね。僕もがんばります! 今日はありがとうございました!

鈴木竜馬プロフィール

1969年生まれ。ワーナーミュージック・ジャパンにてRIP SYLMEやBONNIE PINKのA&Rを担当したのち、2010年に新レーベルunBORDEを立ち上げる。設立時の所属アーティストは神聖かまってちゃん、androp、高橋優、RIP SYLMEら。その後きゃりーぱみゅぱみゅ(現在は移籍)、あいみょん、ゲスの極み乙女。、WANIMAらも所属し、2010年代の音楽業界を牽引するレーベルに成長させる。現在はデジタルに特化した音楽配信会社・The Orchard Japanにてシニア・ヴァイス・プレジデントを務める。
The Orchard - Music Distribution
The Orchard Japan (@JapanOrchard) / X