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野木亜紀子が振り返る、『アンナチュラル』の成功 「自分が面白いと思うものをつくっていくしかない」

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 石原さとみが主演を務めたドラマ『アンナチュラル』のBlu-ray&DVD-BOXが、7月11日に発売された。不自然死究明研究所(UDIラボ)で働く、死因究明のスペシャリストである解剖医の三澄ミコト(石原さとみ)らが、“不自然な死(アンナチュラル・デス)”の裏側にある真実を突き止めるため奮闘する模様を描いた本作は、2018年1月期のTBS金曜ドラマ枠で放送され、全話の平均視聴率11.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。さらに、第44回放送文化基金賞最優秀賞(テレビドラマ部門)や第55回ギャラクシー賞優秀賞(テレビ部門)を受賞するなど、名実ともに大きな話題を呼んだ作品となった。

参考:死にたがりの現代人へ 『アンナチュラル』が遺した“生きる”ということ

 今回リアルサウンド映画部では、Blu-ray&DVD-BOXのリリースを記念し、聞き手にライターの西森路代氏を迎え、脚本を手がけた野木亜紀子にインタビューを行った。本作の脚本執筆時のエピソードや裏話、またドラマの脚本に関する考え方などを語ってもらった。(編集部)

――石原さとみさんが演じた主人公の三澄ミコトのキャラクターを、“抑えた普通のキャラクター”にしたかったと聞きました。

野木亜紀子(以下、野木):それに関しては、原作があるものではないので、最初はなかなかピンとこないスタッフさんもいて、「もっと特徴が必要なんじゃないの?」という声はありました。脚本を書く前だと、ピンとこないのも当たり前っちゃ当たり前なので、何度も説明して、すり合わせていった感じです。ほかにも、事件を解決するときに、シンキングタイムのようなお約束があった方がいいんじゃないかという意見もあったんですけど、「もう2018年だしそういうのなくてもよくない?」と。まあ、2018年にそういうドラマがあってもいいんですけど(笑)。今回はそうはしたくないと。

――そういうキャッチーなものがないと不安だという声は、けっこう聞きますね。

野木:ただ、脚本を書いたら、なんとなく皆さんわかってくれて。それまでは世界を共有するのが難しかったけど、第1話を書いてからはすごく楽になりました。

――今回、事前にすべて撮影していたということですが。

野木:そうなんですけど、それで普段より余裕があるかというと、いつもと一緒でした(笑)。編集作業は時間があったけど、撮影期間や執筆期間は通常進行だったので、いつもと同じで最後には追い付かれてしまうという。でも、時間がない中でも、演出を担当したドリマックスの塚原あゆ子さんのチームは、プロデューサーの新井(順子)さんも含め、すごくタフでこだわってつくってましたね。新井さんのインタビューで「野木さんはあきらめない人だ」って言われていたことがあったんですけど、「いやいや、塚原さんも新井さんもあきらめないよね」って(笑)。とにかく、キャスティングひとつとっても、現場の小道具の撮り方ひとつとっても、最後まで手を抜かずにつくっていて敬服です。サポートに徹してくれたサブプロデューサーの植田(博樹)さん含めて、このメンバーだからこのドラマができたと思ってます。全員に感謝してます。

――キャスティングの話が出ましたが、『逃げるは恥だが役に立つ』にしても『アンナチュラル』にしても、やっぱり出演者の人気がさらに上がった印象があるんですけど、そういうことは意識しますか?

野木:します。それしか考えてないと言っても過言ではないくらい。ドラマって、善人でも悪人でも、やっぱり何かしら印象に残ってほしいし、それが一番重要かもしれないとも思うので。だからもう、常に戦々恐々としているんですよ。今回は大丈夫だろうかって。もちろんストーリーも大切だけど、レギュラーの人物が立たなかったら脚本の責任だと思うので。でも、演出とキャスト自身の力もあって、みんな良くてよかったなと。

――井浦新さん演じる中堂系もすごく良いキャラクターでしたけど、そこに関して野木さんは、「第5話で盛り上がると思っていて、第3話で盛り上がるとは思わなかった」とも言われていましたよね。

野木:中堂は、内面がわかれば好きになってもらえるキャラだとは思ってたんですけど、それが出る前に盛り上がったので、「お、おう…」って(笑)。だって、最初のほうって、普通に乱暴な人じゃないですか。

――第3話の裁判シーンで、ちょっと内面が見えた気がしたんですよ。

野木:第3話のセリフに関してはその時点で聞くのと、その後になって振り返るとではまた違う意味だったりもするので。でも、盛り上がってよかったなと思いました。あれはもう新(あらた)力です。ものすごいパワーで持っていった(笑)。どうせなら見たことのないキャラクターにしたいなと思ってたんですけど、想像以上に吹っ切れてて面白かったです。

――窪田正孝さん演じる久部六郎も、回し役でもあるし、しかもどんどん変わっていくしで、すごくよかったです。

野木:窪田くんにも助演男優賞あげたいですね。このドラマは、新人でドジっ子のドタバタドラマにはしたくないなと思っていたんです。それで、主人公は落ち着いていていろんなことが分かってる人になるから、視聴者目線を誰に託すかというときに、「窪田くん、よろしく」って。だけど、最初は視聴者目線なのに、途中から裏切り行為が発覚するという複雑な役で、後で窪田くんに「難しくてごめんね」って謝りました(笑)。

――実際、窪田さんはなんと言われてましたか?

野木:やっぱり難しかったって。それは難しいわなと。今回のドラマで初めてお会いしたんですけど、はっちゃけたところもありつつ、繊細さ、複雑さを持った役を演じられるところが魅力の人だし、この人に単純な役を当てはめても面白くないと思ったので、非常に複雑な役になりましたけど、まあ見事に演じてくださいましたね。本当に上手でした。

――ミコトにしても、六郎にしても、なにかしらの軸はあっても、ちょっとそこからはみ出したときもいいなと思いました。

野木:ミコトも極端にいかないほうがいいよねとは言っていて、やっぱり人ってそんなに急変しないじゃないですか。毎回振り切れてたらマンネリに見えるし。ただ、物語の分岐点では、感情が溢れるシーンもやっぱり観たいので、第2話と第5話、最終話は、溢れざるを得ないシチュエーションになってます。分岐点で満を持して出す、みたいな。

――あとは、六郎がみんなにいろんなことを頼まれすぎて、わーっとなるシーンとかも面白かったです。

野木:第5話の冒頭ですね。あれはコントシーンですね(笑)。あれも、普段はそうならない人だからいいのであって、しょっちゅうは叫ばせられませんね。

――あと六郎で言うと、ちょっとミコトへの思慕みたいな気持ちもよかったなって。でも、今って、恋愛を安易に書いたものは嫌だという気持ちもあるじゃないですか。その辺はどう思われていますか?

野木:それって、みんな安い恋愛を見たくないってだけですよね。

――本当にそうです。

野木:それはすごくわかります。私自身も視聴者としてそうなので。

――だから、ちょっとしかなかったですけど、六郎が「ミコトさん」と下の名前で呼ぼうとするシーンとかすごくよかったです。

野木:そういうのは、ちょっとはあったら楽しいよねということで。ただ、やっぱり企画がスタートするときには、「第1話で誰かと誰かのキスシーンがあったほうがいいんじゃないの?」という意見があったりして。

――前に野木さんにインタビューしたときも、そういう話になりましたよね。第1話でキスしたって、なんの背景もわからないし、キャラクターもわからないのに感情移入できるか!っていう意見で一致したという(笑)。

野木:今回もすぐに却下しました。私はもうデビューしたときから、はっきりと言ってしまうたちなので(笑)。

――あとは、ドラマの中でも随所に世の中に対する怒りがこめられてるのかなとも。そこが、もちろんすごく観ていてよかったところなんですけども。

野木:ミコトさんが怒れる人なんですよね。不条理な死と戦う人なので。ただ、いつも目に見えて怒っているということではなく、根底にある怒りを、コントロールしつつも滲ませるという。彼女が肉親に殺されかけたということも、乗り越えてはいるものの、簡単に解消できるものではないし。

――そして、すぐに感情的と言われますし……。

野木:そういうレッテルをいかに外していくか、それが「人なんてどいつもこいつも、切り開いて皮を剥げばただの肉の塊だ」という部分ですね。

――野木さんは、作品の中のキャラクターにもレッテル外しをさせているし、同時に野木さん自身も、脚本のレッテル外しをしているのかなと。例えば、第1話でキスしなくてもいいじゃんって。

野木:自分が面白いと思うものをつくっていくしかないですからね。「こうしたらウケる」とか誰の意見? 知らんがなと(笑)。

――その一方で、やっぱり45分のドラマを楽しみにしてる人に、次も観たいと思わせるように、ちゃんと意識して、面白さは提示しないといけないということも言われていて。

野木:いろんな考え方はあると思うんですけど、脚本が小説や漫画と大きく違うのが、1人のものではないということなんですよね。

――そうですね。小説や漫画が映像化しても、それは後になってからの話ですし。

野木:連続ドラマの場合、演者やスタッフの3か月を背負うことがわかって書いているわけなので、そこで自己満足ではいられないですよね。ただ私としては、面白いものをちゃんとつくりたい。普通に面白いものが観たいし、観せてくれよと。例えば三谷幸喜さん脚本の『王様のレストラン』(フジテレビ系/1995年)は、奇抜ではなくオーソドックスなドラマツルギーの作品なんですが、クオリティが高い。そういう普通に面白いドラマがいいなと思うんです。まあ、『王様のレストラン』のクオリティは尋常じゃないので、それを「普通」と言っていいかはわかりませんが(笑)。今回の『アンナチュラル』も、奇をてらうつもりも、新しいミステリーをつくるというつもりも特になかったんです。今の時代に、普通に面白く観られて、かつ考えさせてくれるものがつくりたかった。それを突き詰めた結果こうなったという。それで言うと、『逃げ恥』もそうなんですけど。

――面白くて、考えさせるってでも、すごく難しいことだけど、それを野木さんはやれているわけで。そこはプレッシャーはありませんか?

野木:毎回、全力でやるしかないと思ってます。作品ごとに、出演している人も体張ってるわけだから、1作もおろそかにできないです。

――『アンナチュラル』の最後では、ミコトが天丼を食べて終わるわけですけど、あれは、最初ともつながっていますし、誰1人、UDIラボのメンバーも欠けることなく、日常が続いていくなと思ったんですけど。

野木:飯尾さん演じる坂本は、第3話でUDIラボから出ていって、でも飯尾さんが面白かったのでまた出すようになって、もはや癒し要員だったんですけど、すっかり愛着も出てきたから、最後に戻ってもらうかって。その時点では、まだ視聴者は観てはいないんですけどね。

――きっと、みんなも愛着を持つだろうと。ほんとにそうなりましたね。あと、絶望と食べるというテーマもすごく大きかったのかなって。

野木:食事シーンに関しては、塚原さんもすごく意識してくださって、常に何かしらポリポリ食べているように演出してましたね。企画段階から「絶望してる暇があるなら、うまいもの食べて寝るかな」というセリフを書いていたこともあって、脚本も演出も、そのセリフに立脚してつくっていたという感じです。

――しかし、六郎がミコトにも聞いてましたけど、絶望しないで生きていくにはどうしたらいいですかねって。

野木:ほんとに、日々絶望することだらけですよね。いろんな事件とかあって。たぶん、腐ってあきらめないことが大事なのかも。私もミコトを見習いたいなといつも思ってます。中堂みたいにクソクソばっかり言っててもなんですし(笑)。

――逆にクソクソちゃんということで、腐らないで済むんじゃないですかね(笑)。(取材・文=西森路代)