「今宵も悪夢を」第57夜 SCANDAL RINA

ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第57回はSCANDAL RINAが、“笑顔の呪い”から逃げようともがく精神科医を描いた「SMILE/スマイル」を紹介。効果的な演出、そして主人公である精神科医の姿を見て感じたことをつづった。

文 / SCANDAL RINA（コラム）、田尻和花（作品紹介）

過去の傷を解決することは、自分の未来を拓く作業

人に心を開く合図、安心感や好意を与える表情、嬉しかったり楽しかったり、穏やかであたたかい場面。もちろんもっと複雑な感情のときに使う場合もたくさんあるのだけど…
概ねそんな気持ちとセットである“笑顔”が、あるきっかけで“恐怖”に変わる。

精神科に勤める医師ローズは、ある日、とくべつ大きな声で叫びながら運ばれてきた女性を診察することに。
彼女はひたすら何かに怯えて、震えながら「他の人には見えないものが見える」と言う。
そして、嬉しいでも、楽しいでもない、人生でいちばん嫌な笑顔を浮かべながら、頬からスマイルマークの口を描くように自らを切り裂いて命を絶ってしまう。このシーンの演技がいきなり本当にすごい。心臓ばくばく。ヤッバ…ってなる。

タイトルがでるタイミングや効果音も最高だ。
とにかく細部までめちゃくちゃイケてる。
結構な満足度で終始ちゃんと怖い。
急に大きな音がなってびっくりさせられるアレも絶妙なタイミングで何回もくるんだけど、音が新しくてスタイリッシュなのが本当にすごいと思った。はじまりから容赦なく飛ばしてくる感じにニヤッとしてしまう。

件の女性を診察した日を皮切りに、ローズは笑顔の呪いから逃げ惑うことになる。
「リング」で言う呪いのビデオが「SMILE/スマイル」で言う笑顔という感じで、誰かが息絶える場面を目撃するとそれが乗り移ってしまう。その連鎖を止めようともがけばもがく程、セラピストとして診た患者のように自分が変わっていくのが分かる。
自分が見ている世界や現実を話すたびに世間から浮いていく辛さ、誰にも信じてもらえない苦しさ、これは見ていて心が締め付けられた。

最終的には幼少期のトラウマや人間のメンタリティーの話にも繋がっていくのだけど、自分が助かるために人ってどれくらいのレベルのことが出来てしまうんだろう？とか、大人になってもあの時の傷が邪魔して今の自分に悪影響与えてるときってあるよなぁ。とか、いろいろ考えてしまった。
自分の弱みや過去の傷を根本的に解決することって自分の未来を拓く作業で、自分自身を大切にする行為と似てるのかもしれないなと思った。

これは余談なのだけど、この映画はプロモーションの仕方が面白くてアメリカでバズってたみたいで。野球中継などのメディアに奇妙な笑顔で映り込んで、気になった人が自ら調べると映画にたどり着くと言うやり方をしてたらしい。
映画の中で起こることを現実でプロモーションに使っちゃう遊び心も好きだなと思った。
抜かりない。


RINA

SCANDAL RINA

1991年8月21日生まれ、奈良県出身。2006年にHARUNA（Vo, G）、MAMI（G, Vo）、TOMOMI（B, Vo）と結成したガールズバンド・SCANDALでドラムとボーカルを担当。2008年にシングル「DOLL」でメジャーデビューを果たし、翌2009年にシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞した。2019年にはSCANDALのプライベートレーベル・herを設立。12月24日にはライブ「BEST★Xmas2023」を開催する。

「SMILE/スマイル」（2022年製作）

脚本・監督を担当したパーカー・フィンが、自身の短編「ローラは眠れない（原題：Laura Hasn't Slept）」から着想した本作。パニックになり、何かにおびえながら自ら命を絶った患者の姿を見た精神科医のローズ・コッターは、その日以降奇怪な出来事に遭遇し始める。周囲の人々が突如謎の“笑顔”を浮かべ、豹変するようになったのだ。精神的に追い詰められたローズは、あるおぞましい事実に行き着くことに……。
ケヴィン・ベーコンの娘、ソシー・ベーコンが主人公ローズを演じた。そのほかキャストにはジェシー・アッシャー、カイル・ガルナー、ロビン・ワイガート、ケイトリン・ステイシー、カル・ペン、ロブ・モーガンが名を連ねる。

「SMILE/スマイル」Blu-ray / DVD 2024年1月24日（水）発売

税込価格：Blu-ray 2075円 / DVD 1572円
発売元：NBCユニバーサル・エンターテイメント
※上記は2023年12月22日時点の情報