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米津玄師「Lemon」はなぜ歌いたくなる? 徳永ゆうき、まふまふ、コバソロ&春茶のカバーを比較

音楽

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リアルサウンド

 昨年大晦日の『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)でのステージを経て、再び注目を集めている米津玄師「Lemon」。『DAM年間カラオケランキング2018』楽曲別ランキングでは第1位に選ばれるなど、2018年を代表する1曲といえる。

(関連:米津玄師、「Lemon」で『紅白歌合戦』初出場 楽曲レビュー&本人インタビューを一挙紹介

 「Lemon」は、昨年放送のTVドラマ『アンナチュラル』(TBS系)主題歌として書き下ろされた楽曲。祖父の死を経験した米津によって、一貫して物悲しさを感じさせる。また、同ドラマでのオンエアや米津出演のMVを通じて、リリースと同時にヒットチャートを総なめに。そして『第69回NHK紅白歌合戦』への出演を経て、今や老若男女問わず愛される楽曲になっている。

 そんな「Lemon」はリスナーのみならず、多くのアーティストにも親しまれている。昨年オンエアのソフトバンクTVCMシリーズ「白戸家ミステリートレイン」では、志尊淳が“米津玄鰤”として同楽曲を歌唱。そのほか、演歌歌手からネット音楽シーン発の歌い手まで、様々な音楽ジャンルで活躍するアーティストたちにも好んで歌われる楽曲に。なぜ「Lemon」は歌いたくなるのか。本稿では、カバー楽曲を比較しながらその理由を探ってみたい。

■徳永ゆうき
 徳永ゆうきは、昨年9月放送の音楽番組『演歌の乱~ミリオンヒットJポップで紅白歌合戦SP~』(TBS系)で「Lemon」をカバー。同番組でのトラックは、カラオケ音源を使用。徳永は抜群の肺活量を武器にして、抜群の安定感を備えた歌声を響かせた。

 なかでも好評を博したのが、演歌歌手の持ち味である“こぶし”である。同番組の放送前には、番組スタッフから「こぶしは抑えてほしい」と提案されていたとのこと(参考:徳永ゆうきが語る、米津玄師「Lemon」カバーで感じた演歌の可能性「固定概念を覆していきたい」)。しかし、本番では緊張のあまり、思わずこぶしを混じえた歌声に。それが結果的には「こぶしが心地よい」という視聴者からの好反応に繋がったという。楽曲にある物悲しさはそのままに表現しながらも、まさに徳永にしか歌えない味のある「Lemon」となった。

■まふまふ
 まふまふは、アコースティックテイストで「Lemon」をアレンジした。同カバーでは、ピアノとアコースティックギターを中心としたシンプルな仕上がりとなっており、まふまふの中性的な歌声にも相応しい。トラックに合わせて歌声の抑揚も抑えられており、原曲よりも柔らかな聴き心地で耳に届いてくる。

 また、Bメロで掛けられるエフェクトも情緒に満ち溢れている。ここでは、彼の歌声をあえてくぐもらせることで、歌詞に感じる内省的なイメージをより引き出す効果がある。楽曲全体を通じて、原曲に漂う“死生観”を感じられることだろう。

■コバソロ & 春茶
 コバソロ & 春茶は、昨年2月にカバー映像を公開。同カバーでのアレンジは、原曲にも似た、コバソロによるフォーリズムとストリングス、春茶によるアコースティックギターを混じえた編成となっている。また、女声で歌われることで、楽曲のイメージも少し異なるものに。どこか神秘的にも感じられる。

 それぞれのアーティストが独自の手法でカバーしている「Lemon」。一方で、サビのあるフレーズだけは、全アーティストが共通する“歌い回し”となっていた。それは、楽曲タイトルにも掲げられた“レモン”が登場し、サビのなかでも特に耳に残る〈胸に残り離れない 苦いレモンの匂い〉というワンフレーズだ。

 同楽曲のAメロからBメロまでは、ゆったりとしたテンポで2小節を歌唱する。そこから勢いよくスタートするサビからはテンポも上昇。サビの冒頭には〈あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ/そのすべてを愛してた あなたとともに〉という2つのフレーズが用意されている。しかし、その勢いに反してここでは所々にブレスが挟まれており、各フレーズは一旦着地を見せる。そこからの〈胸に残り離れない 苦いレモンの匂い〉は、サビに入って初めてブレスを挟むことなく歌唱され、歌っていて最も開放感を感じる瞬間となる。同フレーズが楽曲を通じて最も盛り上がる箇所となるのも頷けるだろう。また、楽曲で描かれる苦しみの感情を、“苦いレモンの匂い”とメタファーによって直接的に表現しないことも、日本人的な感覚にマッチしているのかもしれない。

 カラオケやアーティストによるカバー音源など、様々な場所で歌い継がれていく「Lemon」。同楽曲が多くのリスナーに愛される理由はドラマとの親和性の高さ、ストーリー性のある歌詞はもちろんのこと、楽曲として純粋に魅力的なところにあるのかもしれない。(青木皓太)