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原点にあった恋愛映画としての一面も 『クリード 炎の宿敵』が捉えた『ロッキー』シリーズのテーマ

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リアルサウンド

 『クリード 炎の宿敵』(2018年)は恋愛映画であり、スポーツ映画だ。前作以上にパンチ一発一発の「重さ」を強調した格闘シーンや、シリーズ定番の特訓シーン、ここぞというタイミングで流れる“あの曲”など、間違いなく本作は血沸き肉躍るスポーツ映画だ。しかし、それと同等に恋愛映画としての印象が強く、その点が本作をシリーズ屈指の傑作に高めているように思う。

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 そもそも『ロッキー』(1976年)は、スポーツ映画であり恋愛映画だった。無骨な男・ロッキー(シルヴェスター・スタローン)と、不器用な女・エイドリアン(タリア・シャイア)。この2人が織り成す切実な恋模様は、間違いなく同作を傑作にした大切な要素だ。『ロッキー』の名シーンと言えば、街を走るランニングであり、ロッキーが彼女の名を叫ぶシーンである。前者はスポーツ映画の、後者は恋愛映画としての側面を印象付ける名シーンだろう。

 前作『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)も、こうした恋愛映画としての側面を踏襲していた。新たなる主人公、アドニス(マイケル・B・ジョーダン)は、リングに散った伝説的チャンピオン、アポロ・クリード(カール・ウェザース)が愛人との間に設けた息子だった。偉大な父を超えるボクサーになるため、“あること”を証明するため、アドニスは過酷な戦いに身を投じるのだが、その途中で出会うのが、耳に障害を持ちながら歌手を目指すビアンカ(テッサ・トンプソン)だ。2人の初々しい恋模様は往年のロッキーとエイドリアンに勝るとも劣らない、素晴らしいものだった。

 今回の『炎の宿敵』では、そんなアドニスとビアンカの関係性がさらに踏み込んで描かれる。アドニスは破竹の勢いでチャンピオンとなり、ビアンカも前作より大きな会場でライブを行い、レコード会社との契約も得た。彼女もまた夢を果たそうとしているが、一方で耳も悪化しており、「自分には時間がない」と自覚している。アドニス同様、彼女もまた人生を戦っているのだ。自分の夢のために人生と戦う2人は、今回も魅力的である。アドニスはチャンピオンとしての勝利を収め、ビアンカにプロポーズをする。指輪の渡し方であれこれ悩み、ここでもロッキーにアドバイスを乞うところが微笑ましい。2人は結ばれ、夫婦となって子を授かる。まさに幸せの絶頂だが、そこに試練が襲い来る。一つはドラゴ親子との因縁、そしてもう一つは……これは予告で伏せられている要素なので、劇場で観ていただくべきだろう。そして、この出来事が、本作を復讐劇ではなく、「愛」で繋がった2人が力を合わせて苦境に挑む物語として成立させている。最終決戦での入場シーンは、アドニスとビアンカを“共に戦う2人のファイター”として劇的に描いた名シーンだ。

 もちろんアドニスとビアンカの他にも、実の息子との溝を埋められないロッキーや、復讐に囚われたドラゴ親子の葛藤も素晴らしい。各々のキャラクターが己の人生を戦い、それぞれの結論へ向けて進んでいく。思えばスタローンが監督・主演した『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)には、こういうセリフがある。「人生ほど重いパンチはない。だが大切なのは、どんなに強く打ちのめされても、こらえて前へ進み続けることだ」これこそ1作目から一貫している『ロッキー』シリーズのテーマだろう。本作はこのテーマを見事に捉え、なおかつ原点にあった恋愛映画としての一面を強く打ち出すことで、『クリード』の物語に広がりを持たせている。これはもはやロッキーだけの物語でも、クリードだけの物語でもない。人生と戦う全ての人の物語であり、「愛」にまつわる物語だ。シリーズにまた一つ、新しい傑作が誕生した。(加藤よしき)