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京都、福岡を経てついに開幕。 『シラの恋文』東京公演で見せる、 草彅剛の成熟

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北村想作・寺十吾演出の『シラの恋文』が、京都公演、福岡公演を終えて東京で幕を開ける。人が持つ美しさが描かれたようなこの作品世界をまさしく体現しているのは、サナトリウムにやってきた志羅を演じる草彅剛。作品の捉え方や演じている実感に、役者としてはもちろん、人としての魅力も見えてくる。

1回1回が濃密な舞台

──昨年12月に京都公演で幕が開いて、この取材時は福岡で公演中です。本番をやってみての率直な感想から聞かせてください。

舞台ってやっぱりお客様が入って完成するものなんだなと思います。そしてやっぱり毎日更新されていくものなので、自分で「日に日によくなっているな」ってボソッとつぶやいてしまうくらいなんです。今までたくさん稽古してきたというみんなの強い気持ちがあるからこそだと思うんですけど、1回1回が本当に濃密で。会場に来てくれるお客様を含め、みんなでいいものが作れているなと感じています。

『シラの恋文』より(撮影:宮川舞子)

──ここのところ舞台では音楽劇が続いていましたが、久しぶりの会話劇はいかがですか。北村想さんの戯曲に描かれている会話のやりとりや、演じられる志羅という役のセリフに、どんな面白さを感じておられるでしょうか。

この作品は、全体的にちょっとふわふわとしていて掴みどころがない感じがするんです。セリフも、これはどういう意味なのか、前のセリフからつながっているのかいないのかよくわからなかったり。そのときどきでそのセリフから受ける感情が違ったりもするんです。志羅だけじゃなくてほかの人物も、一つひとつが単体として分かれているような、ちょっと浮遊感あるセリフで。でも、最後まで全部通してみたら、ぐるぐる丸い円を描くような、まとまりのある舞台になっている感じがするんです。輪廻転生が出てくる話ですけど、それこそ作品自体が輪廻転生しているような、不思議な魅力があって。僕自身も志羅という役を通してその不思議さを楽しんでいます。

『シラの恋文』より(撮影:宮川舞子)

──そんな不思議な戯曲を書かれた北村想さんの「作家本読み」が、稽古の最初にあったそうですね。作家自身が読むのを聞いた印象や、上演を重ねて新たに戯曲について感じていることがあれば教えてください。

想さん自身に読んでいただくと、やっぱり自分で読むよりわかりやすく浸透してきた感じがあって、とてもありがたかったです。想さんはもう天才ですよね。輪廻転生というすごく大きな宇宙的な話を具現化して、セリフに落とし込んでいるんですから。僕にはよくわからないことばかりですけど、でも、“人間とは何だろう”という根源的なことを言っているから、どこか腑に落ちてくるところもあって。難しそうに聞こえるけど、実はシンプルなんじゃないかとも思っているんです。だから、想さんの戯曲に触れていると日に日に頭が良くなってきている感じがします(笑)。

『シラの恋文』より(撮影:宮川舞子)

ただ、これはあまり頭で考えるのではなくて感じるもので、「この芝居はすごく演劇的だよね」と言いたくなるような舞台なのかなと。演劇的というのがどういうことなのかよくわかっていないですけど(笑)、そう言うこと自体を楽しみたいと思わせてくれる舞台なんです。

胸の中がざわざわしてしまうようなシチュエーションがたくさん

──物語は近未来が舞台となっていて、物理学やウィルス、戦争、地球温暖化などいろいろな要素が描かれますが、それについて考えるというよりは、その世界に生きている人たちの姿から何か感じるものがありそうですね。そのなかで志羅は、周りの人が思わず彼にいろんなことを喋りたくなるという役柄です。

設定としては、志羅が持っているテンガロンハットが人を喋らせるということになっているのですが、演出の寺十(吾)さんからも、やっぱり志羅自身に人の話を引き出すような力がないといけないねと言われました。志羅は自分の死に対しても客観視しているようなところがあって、その浮世離れした感じが話しやすさにつながるのかなと思うので、そんなイメージで演じています。

──草彅さんご自身のイメージに近いですね。

どちらかといえばそうかもしれないですね。僕も演じていてやりにくいということはないですし、近いのかもしれません。

『シラの恋文』より(撮影:宮川舞子)

──今、志羅の死という話も出てきましたが、これは、結核療養者たちが暮らすサナトリウムでのお話です。この作品をやってみて、今、生と死についてどんなことを感じられていますか。

近未来のフィクションではあるんですけど、現実に起きたこともいろいろ含まれています。たとえばコロナ禍を乗り切ったという話が出てくると、やっぱりみんなが経験していることなので、舞台上でお芝居していても、あの大変だった時期を思い出してじんわりとリアルな気持ちが湧いてくる。そうすると、ああいう恐ろしいことがこの先も無きにしも非ずだなとハッとさせられますし。サナトリウムで肩寄せ合って畑仕事をしているというのも現実にあるかもしれないなと思いますし。ほかにも胸の中がざわざわしてしまうようなシチュエーションがたくさんあって、それによって志羅という役に没入できている部分があるんです。死というのは誰にでも平等に訪れるものであって、いつ訪れるかはわからないな、と。そしてそういうことを考えると、日常のちょっとした幸せがかけがえのない時間なんだなと改めて思えるので。この舞台はそういうことを今一度教えてくれていますね。

──先ほど寺十吾さんのお話も出てきました。寺十さんはこれまでも、『日本文学シアターシリーズ』全6作、『奇蹟』など、たくさんの北村想作品を演出されてきています。演出についての印象を教えてください。

想さんと寺十さんは、稽古場で話している姿からもう長年の友という雰囲気を醸し出していました。言葉にしなくてもわかり合える部分があって、だから寺十さんは、想さんの戯曲の行間を演出できるんだろなと僕は勝手に思っています。あと、寺十さんはご自身も役者さんで、実際にその役を演じて見せてくださるので、非常にわかりやすいんです。こういう演出の仕方なら、僕もそれなりにお芝居を経験してきているし、楽しそうだな、僕も演出をやってみようかなと初めて思いました。絶対やらないと思うんですけど(笑)。しかも、寺十さん、この人ヤバいなと思うくらい(笑)、芝居が上手いんです。演者としても魅力的な方なんだなというのが、演出する姿だけでわかったので、今度は寺十さんのお芝居を観に行きたいなと思っています。演出家としてもまたぜひ違う作品でご一緒したいです。

毎回全力。どんどん進化しています

──この座組はどんな印象ですか。

皆さん本当に真面目で優しくて、なんでこんなに嫌な人がいないんだろうと思うカンパニーで(笑)。僕の周りっていつも本当にいい人ばかりで、ひとりくらい嫌な人がいたほうが面白くなるのかなって思うくらい、恵まれているんですけど。今回も、リンゴとか出汁とかコーヒーとか、皆さんからいっぱいおいしいものをお裾分けしていただいて、食べるものに困らなくていいなと思ったり(笑)。これ冗談じゃなくて、いただくっていうのは嬉しいことで。本当にいいものをたくさん皆さんから受けました。

──舞台はお客さんが入って完成するとおっしゃっていました。観客の皆さんからはどんなものを受けていますか。

もちろん稽古をしっかりやっていることが大前提なんですけど、そこにお客さんが加わって初めて完成するというのが、やっぱり舞台の醍醐味だと思うんです。行間を埋めるのはお客さんとの空気感なので。とくにこの舞台は、最後に拍手をいただいたときに、すごくいいものを観たと思ってくれているなというのがわかるんです。自分で言うのはおかしいんですけど、お客さんの笑顔からそれが伝わってきて、幸せな空気が漂っているので。それが、明日の公演も楽しんで頑張りたいと思わせてくれる原動力になっています。

──『シラの恋文』東京公演から始まる2024年。どんな1年にしたいですか。

こうやって皆さんからいただいたものを、自分の中でさらに開花させていけたらなと思います。2023年は、舞台でもドラマでも映画でもたくさんの役を演じることはできてすごく幸せだったんですけど。2024年は、たくさんの数の作品をやるというよりも、昨年もらったいいものを開花させながら、焦らずコツコツと、一つひとつ大切に育んでいけたらなと思っています。

──最後に、東京公演に向けての意気込みをお願いします。

毎回毎回全力でやっているんですけど、それがゆえに、舞台はどんどん進化して良くなってきているので、東京はもっと良くなります(笑)。京都と福岡を経験してみんなのチームワークもさらに良くなってきていますし、東京は最高の舞台が待っていると思います。なので、ぜひとも期待していただきたいです。絶対に期待外れにならない舞台になっていますので、楽しみにしていてください。

取材・文:大内弓子

<公演情報>
『シラの恋文』

作:北村想
演出:寺十吾

出演:草彅剛 大原櫻子 工藤阿須加 鈴木浩介 西尾まり 明星真由美 中井千聖 宮下雄也 田山涼成 段田安則

【東京公演】
2024年1月7日(日)~1月28日(日)
会場:日本青年館ホール

公式サイト:
https://www.siscompany.com/shira/

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