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木村佳乃×木村多江は正反対の“悪女”? 『後妻業』に至る2人の戦歴を振り返る

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リアルサウンド

 強烈で美しい悪女も、傍から見る分には爽快だ。そう思わせてくれそうなのが、本日から放送開始の『後妻業』(カンテレ・フジテレビ系)である。なんといっても楽しみは、女優・木村佳乃、木村多江という2人の“木村”の競演だろう。

参考:木村多江、幸薄女から魔性の女へ 『あなたには帰る家がある』茄子田綾子役に滲む闇

 彼女たちはまるで、太陽と月。2人はこれまで陽と陰、正反対の魅力で、ありとあらゆる女たちを演じてきた。

 持ち前の健康的な明るさ、気さくな性格で、女優だけでなくバラエティーでも活躍するスーパー・ウーマン、木村佳乃。映画『告白』、ドラマ『泣かないと決めた日』『ファーストクラス』(フジテレビ系)などで、完璧そうに見えて裏がある美しい母親や上司を多く演じる一方で、大河ドラマ『真田丸』の松役や朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)のヒロインの母親役などで見せる優しくキュートな魅力とコメディセンスも計り知れない。

 何より特筆すべきなのは、ドラマ『僕のヤバイ妻』(カンテレ・フジテレビ系)の望月真理亜役だろう。和製『ゴーン・ガール』とも言われたこのドラマ、伊藤英明の情けなく単純バカな夫ぶりや、怪しい隣人カップル、高橋一生とキムラ緑子の破壊力と、あらゆることが強烈で優れた作品だった。何より際立っていたのは、自分を殺そうとする夫への復讐のために、貞淑で完璧、健気な妻に見せかけて、裏では淡々と偽装工作を行い、目を輝かせニヤリと笑う木村佳乃の凄絶な美しさだった。何を信じればいいのかわからない、二転三転する物語と真理亜の変貌に翻弄されつづけた。

 6年ぶりの連ドラ主演と話題になった昨年10月期の『あなたには渡さない』(テレビ朝日系)での、『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)の水野美紀とのバトルも興味深いものがあったが、細腕繁盛記的な要素も持つこのドラマの木村佳乃は、勝手ながらどこかまだ物足りないものがあった。

 そして、万を辞して、ド派手な衣装で「後妻業」悪女を演じる木村佳乃。耐える彼女も、稲を刈る彼女も、スライディングする彼女も大好きだが、『僕のヤバイ妻』以降やはり一番見たかったのは、高笑いする悪女・木村佳乃だったように思うのだ。相棒には、最近『モンテ・クリスト伯』(フジテレビ系)や『不惑のスクラム』(NHK総合)などで深みが増してより魅力的になった高橋克典。この組み合わせは楽しみである。

 一方の「“脱・薄幸”を宣言します!」と言う木村多江(公式ホームページより)。とは言いつつ、彼女はもはや薄幸ではないだろう。ドラマ『リング~最終章~』(フジテレビ系)の貞子役や初っ端に殺される母親役の大河ドラマ『巧名が辻』(NHK総合)、夫を戦争で亡くした妻役の朝ドラ『純情きらり』(NHK総合)、『アンフェア』(カンテレ・フジテレビ系)の家政婦役。その儚げな佇まいに加え、出演時間が少ない役にも関わらずこれでもかと言うほど悲しいエピソードを背負っている役が多かったことが、「薄幸女優」と呼ばれるようになった所以だろうが、映画『東京島』、ドラマ『上海タイフーン』『4号警備』(NHK総合)で見せていたのは、強く明るい女性像だ。

 そして、特に彼女の演じる役がより興味深くなっていくのが、2017年以降である。共に2017年のドラマ『ブラックリベンジ』(読売テレビ/日本テレビ系)と映画『あゝ、荒野』で演じた2つの役は、とても強いが、悲しい過去を背負った女性だった。彼女が演じきった夫の復讐劇は、木村佳乃の『僕のヤバイ妻』における派手で爽快な復讐劇とは違い、真っ黒な服に身を包み、敵をとことんまで追い詰めた先で、自身も新しい不幸と裏切りに追い詰められ、地を這うように苦しみぬきながら、それでも戦う復讐劇だ。そういった意味でも“ダブル木村”は正反対の魅力を持っていると言える。そして、『あゝ、荒野』で彼女が演じた、菅田将暉演じる主人公の母親役。夫を死に追いやった男の息子と自分の息子がボクシングで戦う姿を見て「殺せー!」と鬼の形相で叫ぶ母親の姿は、この映画のハイライトだったように思う。

 そして、2018年、ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)と岡田惠和脚本スペシャルドラマ『それでも恋する』(TBS系)。『それでも恋する』で演じた末っ子キャラの可愛らしい女性も魅力的だったが、やはり、特筆すべきは『あなたには帰る家がある』の綾子役だろう。奥ゆかしい“ザ・日本の妻”という雰囲気を見せながら、玉木宏を不倫の沼に引きずり込み、玉木の妻である中谷美紀と戦い、一途に彼女を愛する夫・ユースケ・サンタマリアを翻弄する。夫の横暴に耐える妻に見せかけて、実はしたたかで強情な魔性の女というギャップは、時にコミカルで、時にホラー映画を見ているかのようだった。

 木村多江が演じる女性はもう既に薄幸ではない。追い詰められれば追い詰められるほど這い上がっていく、したたかな強さを持っている。生命力に溢れた、それでいて世の男たちが放っておけない、最強の和風美人だ。

 艶やかな絶対的な悪女・木村佳乃を前に、したたかな悪女・木村多江は探偵・伊原剛志と共に、どう立ち向かうのか。

 女優2人の、戦慄のバトルの幕開けである。(藤原奈緒)