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長谷川白紙、中村佳穂、King Gnu……柴 那典が選ぶ、2019年期待のニューカマーベスト10

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リアルサウンド

 今年最初のキュレーション連載は、「もし日本の音楽シーンで『Sound of 2019』を選ぶなら?」というテーマ。ブレイク期待のニューカマーたちを、自分なりに順位をつけてランキング化してみたのが今回のラインナップです。

(関連:宇多田ヒカル 、King Gnu、リトグリ、V6、青山テルマ……日本語のグルーヴの最新型示す新作

 一応説明すると、『Sound of 2019』というのは、イギリスの国営放送BBCが毎年発表している、その年の活躍が期待されるニューカマーのランキング企画。基本的にはUKに拠点を置いて活動している新人アーティストが対象で、批評家やラジオDJのような100人以上の音楽関係者の投票によって決めているのがポイント。これまでそうそうたるメンツを輩出していて、過去の1位にはアデル(2008年)やサム・スミス(2014年)など、数々の世界的なスターが並んでいる。

 ちなみに、今年の1位はフランス生まれ、南ロンドン育ちのラッパー、Octavian。2位以下にもKing Princess、ROSALÍA、Ella Maiといった去年あたりからグッと知名度を増してきた面々が並ぶ。単なるブレイク候補というよりも、シーンに新しい価値観をもたらしてくれそうなアーティストのリストだ。

 で、日本にもこういうのがあっていいのにな、と思うわけです。一番近いのはやはり音楽関係者244人にアンケート調査してる『バズリズム02』の「今年これがバズるぞ!」だと思うんだけど、ネットメディア発でこういうのがあってもいいな、と思う。来年は是非リアルサウンドのこのコーナーでやってほしい。

 というわけで、説明が長くなりました。新譜キュレーションにしてはちょっと過去のアイテムも含まれているし、「ブレイク期待」と言いながら「もうブレイクしてるじゃん」というアーティストが含まれているのも重々承知ですが、そこは本家「Sound of …」シリーズもそんなもん、ということでご容赦いただければ。

■1位 長谷川白紙『草木萌動』

 というわけで、1位には長谷川白紙を選出。

 現在20歳。現在は音大生。彼にとって10代最後となる昨年12月19日に初CD作品『草木萌動』がリリースされてから約1カ月で、すでに大きな反響を巻き起こしている。このアルバムは本当にすごいと思います。一聴して打ちのめされたような衝撃があったけれど、何度か繰り返して聴いても新鮮な衝撃がある。

 最初に耳が行くのは、沢山の情報量が詰め込まれ、拍子やリズムの解釈をふっ飛ばしながら目まぐるしく疾走していくような、緻密に構築されたサウンド。

 当サイトでも小野島大さんが書いているけれど(参照:長谷川白紙という鮮烈な才能 初CD『草木萌動』を小野島大が解説)、『草木萌動』にはいろんな音楽の要素が注ぎ込んでいる。たとえば「毒」にはAphex TwinやSquarepusherを彷彿とさせるブレイクコアやドリルンベースの意匠がある。「草木」や「はみだす指」は、フランク・ザッパに通じる変態性や前衛性、ジャズのテクニカルな興奮もある。

 ただ、そういうところも踏まえたうえで、僕が本当に凄みを感じるのは、そういう彼の音楽が身体性を伴った歌として形になっていることだと思う。これだけ技巧的な音楽を作っているのに、頭でっかちな感じが全然しない。むしろ既成の枠組みとかルールから軽々とはみ出して躍動する神経組織のほうが先に鳴っていて、それの表出として歌があって、暴れ馬のように跳ね回るそれを捉えるためにポリリズムやメトリック・モジュレーションのような音楽的知識と技巧が駆使されているような感じがある。

 そして、鳴っている音が鮮烈だから相対的に指摘する人が少ないけれど、彼の書く詞がとてもいい。ディスクユニオンの特典CDで弾き語り音源を聴いて、それを改めて痛感した。

〈わたしの脳の伽を 熱る蜜に削ぎ入れて 脂たちが 体を離れ 浮き立ちて 焦げついたら 眠るような嵐から 編めるまで読み切るのだ〉(「草木」より)

 この一節なんか、まさに長谷川白紙の音楽に対する向き合い方を象徴しているような一節だと思う。

■2位 中村佳穂『AINOU』

 こちらもすでに昨年11月のリリースから大反響を巻き起こしている1枚だと思うので「遅いよ!」という向きもあるかもしれないが、こういう破格の才能の登場に関しては「自分が最初に騒いだ」「いや自分だ」みたいな競争をやっている場合ではないと思うので、素直に賞賛させてください。

 すごいと思う。

 『AINOU』は、京都を拠点に活動してきたシンガーソングライター中村佳穂の2ndアルバム。1stアルバムの『リピー塔がたつ』とその後のフジロックのライブを観たときには「なんだか凄そう」と思ったけれど、正直、ここまで化けると思ってませんでした。脱帽。

 何がすごいって、歌とリズムの関係だと思う。スタイルは全然違えどここに長谷川白紙の共通性を感じるのだけれど、まず自由に跳ね回る身体の躍動の表出としての歌があって、それを従来のポップソングの枠組みに収めない楽曲の構築があって、結果としてそれが「なんだかようわからんけど気持ちいい!」というポップスの快楽に結びついている。

 音楽的な文脈で語るならば、現代ジャズとアフロポップとラップミュージック、そこで繰り広げられているクロスリズムやフロウのイノベーションとの共振もあるはず。でも、最終的には、やはり頭でっかちでないところがすごくいい。

 個人的には「SHE’S GONE」と「アイアム主人公」がとても好き。

■3位 King Gnu『Sympa』

 「今年これがバズるぞ!」でも1位になってましたね。すっかりブレイクの渦中にある。

 昨年11月に赤坂ブリッツのワンマンを観て、そこに渦巻いてる熱気を感じて確信しました。King Gnu、まだまだこんなもんじゃない。あっという間にアリーナクラスまで駆け上がるだろうし、次の時代のバンドシーンの主役になるはず。そして単に売れるだけじゃなくて、日本のロックの、そしてJ-POPというフィールドにおける「ポップ性」の価値観も更新するような予感がする。

 『Sympa』はメジャー初リリースとなる2ndアルバム。「Slumberland」のような荒々しくアグレッシブな楽曲が名刺代わりだけれど、「The hole」みたいなバラード曲があることで、彼らの音楽の美しさとエグ味のようなものがより深く刺さると思う。

 何よりグッとくるのは、常田大希のメロディメイカーとしての飛翔力と井口理の歌声に宿る陶酔力。そして「価値観の更新」という意味では、サカナクションが登場してきた時に近い匂いも感じる。アンダーグラウンドと繋がったまま大衆まで届かせる意志が大きい。

■4位 Eve『おとぎ』

 ネットカルチャー発の才能が日本のロックを、そしてポップミュージック全体のシーンを目覚ましく更新している今。Eveも、そして同じくこのキュレーションで選出している須田景凪も、間違いなくその次の時代を担う才能の一人だと思ってます。

 Eveは、もともと「歌い手」としてネット上で活躍し、初めて全曲の作詞作曲を自ら手掛けたアルバム『文化』から大きく飛躍したシンガーソングライター。ニューアルバム『おとぎ』のリリースは2月6日なのでいち早く聴かせてもらったのだけれど、新作は、彼の表現力と構想力と美意識が大きく開花した一枚。

 アルバムは「slumber」(=まどろみ)というインストゥルメンタルで幕を開け、「dawn」(=夜明け)がエンディング。つまり『おとぎ』というタイトルどおり、夢の世界を描いたコンセプチュアルな構成になっている。でも大事なのはそれが単なるファンタジー世界ではなく現実の写し鏡であるということ。「ラストダンス」も「僕らまだアンダーグラウンド」も、そこには拭い去れない不全感と、空虚さと、だからこそ見知らぬ誰かと手を取り合える結束への願いが感じ取れる。

 もちろん、それはBUMP OF CHICKENから米津玄師を筆頭に、数々のロックバンドが、そしてボカロ以降のネットカルチャーの担い手が向き合ってきたテーマだとは思う。ただ、その上でEveというアーティストを特別なものにしているのは、歌のリズムと抑揚で快楽性を生み出すソングライティングのセンス、映像やビジュアルも含めたトータルデザインの巧みさだと思う。

■5位 Kizuna AI 「future base」

 200万人以上のチャンネル登録者数を誇るVtuberのトップ・オブ・トップの“親分”をつかまえて「ブレイク期待」だなんて何言ってんだって自分でも思うし、おこがましい話であるのは重々承知なんだけど、それでもあえて、ここにリストアップさせてほしい。

 というのも「キズナアイは知ってる」という人「キズナアイのファンだ」という人は山ほどいると思うんだけど、そのファン層がすでに確立されてしまっているがゆえに、そしてCDショップやラジオやライブハウスやフェスのような「日本のロック/ポップス」の主流メディアの現場を通っていないがゆえに、その人気に比して「シンガーとしてのKizuna AIのポテンシャル」に対する認知と評価が、現状、まだまだ低いのではないかと思うのだ。

 CDは発売されてないけれど、昨年10月から8週連続配信リリースの企画が実現して、ほぼアルバム1枚分の楽曲が発表済。楽曲を手掛けているはYunomi 、Avec Avec、Nor、Pa’s Lam System、TeddyLoid 、☆Taku Takahashi、MATZ、DE DE MOUSEという面々。さらには1月9日から放送がスタートしたアニメ『バーチャルさんはみている』(TOKYO MXほか)主題歌の「AIAIAI (feat. 中田ヤスタカ)」は中田ヤスタカが楽曲提供。

 大物から気鋭のニューカマーまで10年代の日本のエレクトロニックミュージックを担うトラックメイカーが揃っているのもすごいけれど、それぞれのクリエイティビティが発揮されまくっているのも見事だと思う。一人のポップアイコンの声と存在感を活かすべく作家陣のクリエイティビティと負けん気が爆発しているさまには、花澤香菜プロジェクトの立ち上がりに似たムードも感じる。

 ほんとはアルバムとして選びたかったんだけど、まだ曲しか出てないので、選出したのは中でも一番の出来だと思ったYunomi作の「Future Base」。

■6位 崎山蒼志『いつかみた国』

 Abema TV『日村がゆく!』の「高校生フォークソングGP」でバズった時には、実は静観しようと思っていた。「天才高校生!」といろんなメディアが彼を持ち上げているのを見て、もちろん巨大な才能があるのは間違いないのだけれど、ギター1本で弾き語る彼の原石を過剰に持ち上げてしまうのは、そして“○○の再来”的な何らかのノスタルジーをそこに重ねてしまうのは、その才能をスポイルすることにつながってしまうのではないか、と勝手に思っていた。

 でも、アルバム『いつかみた国』を聴いて、脱帽しました。特に初めて打ち込みにチャレンジしたという4曲目「龍の子」。序盤はいかにもチープなリズムボックス風なんだけど、中盤、歌が入ってくるポイントから「おおおっ」となる。6/8拍子で始まってナチュラルに4拍子に抜けていく「国」の曲展開にも、底知れないものを感じる。

 刺激を受けたアーティストにYves Tumorをあげていたり、長谷川白紙を敬愛したりしているのを見ても、きっと彼の頭の中にはギター1本だけにとどまらない複雑な音響世界が広がっているような予感がする。どんどんヤバい曲を作ってほしい。

■7位 須田景凪『Teeter』

 もともとバルーン名義でボカロPとして活動してきた須田景凪。彼の存在は、いわば10代と20代以上の音楽文化の“分断”の象徴と言ってもいいかもしれない。代表曲「シャルル」はJOYSOUNDの10代のカラオケランキングでは2017年、2018年と2年連続で1位。間違いなく2010年代後半を代表するヒット曲の一つになっているわけだけれど、その存在感は上の世代には、まだあまり届いていない。その“分断”を埋める一つのきっかけになるだろう作品が、メジャーレーベルである<Unborde>からの初リリースとなる1stEP『Teeter』。

 Eveのところでも書いたけれど、須田景凪や、Eveや、ヨルシカや神山羊や、いわゆるボカロシーン、ネットカルチャーからどんどん新しい才能が出てきているのが2018年から2019年にかけての状況。ただ、僕が重要だと思うのは、シーンの見取り図とか誰がブレイクするかとかそういうことじゃなく、それによって新しい音楽的な語法のようなものが広がり定着しようとしている、ということだ。

 言語化するのはなかなか難しいのだけれど、須田景凪の場合は、メロディの抑揚とリズムと日本語の響きの相互作用で生まれる快楽性にポイントがあると思う。そして、それを体感するにはたぶん「シャルル」や新作に収録された「パレイドリア」を歌ってみるのが一番早いと思う。

■8位 Ghost like girlfriend『WINDNESS』

 シンガーソングライター岡林健勝によるソロプロジェクト。

 1月16日にリリースされた3rdミニアルバム『WINDNESS』に関しては当サイトでインタビューをやっていて、そこにも書いたのだけれど、彼のポテンシャルはすごく大きいと思う。そして匿名的な形で活動をスタートさせたことで、それがストレートに広まってきているのが今だと思う。

 サウンドとかアレンジの幅は広いし、スタイルは自由で、どこにでも行ける。だけど、どこに行っても幽霊がついてくるように、ある種の孤独感と、それと表裏一体にある親密さがずっとある。そういうところが僕は好き。

 音数を絞り込み強い言葉を並べることでフックを作り出す「shut it up」のセンスもすごくいいと思う。

■9位 kolme『Hello kolme』

 昨年10月にcallmeから改名した3人組ガールグループ。1月30日に3rdアルバム『Hello kolme』がリリースされる。これまでの活動経歴やキャリアを考えるとニューカマーとして扱うのは失礼かもしれないけれど、おそらく名前を変えるのは心機一転のタイミングということだと思うし、callmeとして活動してきた頃とはだいぶ文脈も変わってきたので、ここに選ばせてもらった。

 簡単に言うと、最初はダンス&ボーカルグループとしてスタートしたグループが、今はサウンドの方向性もメンバーが主導するクリエイティブユニットとなっている、ということ。作曲とトラックメイクはMIMORI(Mimori Tominaga)がサウンドプロデューサーRumbと共に手掛け、作詞はメンバー3人が担当。

 先行配信された「The Liar」を筆頭に、エレピやアコギなどのスムースな音を軸にバウンスするグルーヴと音色の“引き算”で魅せる曲が並ぶ一枚。

■10位 Mega Shinnosuke『momo』

 福岡出身、18歳のシンガーソングライター。ストリーミングサービスのリコメンドがきっかけで「桃源郷とタクシー」を聴いて「おっ! これ誰!?」となった。同曲はmini EP 『momo』は店舗限定CD収録。AAAMYYYがゲストコーラスで参加している。本人のTwitterはすぐに見つかったけれど、どうやら今のところ持ち曲はまだ4曲しかないようで、まだまだ本格的な音楽活動はこれからのよう。

 なのでまだまだ本領を発揮するのは全然先だとは思うのだけれど、「桃源郷とタクシー」と「狭い宇宙、広いこの星」の2曲を聴くと、すごく可能性を感じる。歌詞もすごく良くて、フィッシュマンズが90年代に体現していたセンスや美意識をヴェイパーウェイヴの価値観のフィルターを通してアップデートしたような音楽を形にしてくれるような予感がする。(柴 那典)