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光石研と渋川清彦が連ドラ初主演! “おっさんバイプレイヤー”ブームの成熟が、ドラマの新分野を生む

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リアルサウンド

 『バイプレイヤーズ』シリーズのヒットだけでなく、『湯けむりスナイパー』シリーズ(ともにテレビ東京系)の主演を経て、『民王』(テレビ朝日系)で主演した遠藤憲一や、大ヒットドラマ『孤独のグルメ』シリーズ(テレビ東京系)主演の松重豊をはじめ、『植物男子ベランダー』シリーズ(NHK BSプレミアム)主演の田口トモロヲ、『駐在刑事』(テレビ朝日系)主演の寺島進、『探偵が早すぎる』(読売テレビ・日本テレビ系)W主演の滝藤賢一、『食の軍師』(TOKYO MX)主演の津田寛治など、近年は名バイプレイヤーたちの連ドラ主演が相次いでいる。

 経験豊富で確かな実力のバイプレイヤーが活躍するのは、非常に喜ばしいことだ。ただし、「ブーム」は必ず廃れていくもので、近年の「名バイプレイヤーブーム&おっさんブーム」の成熟により、「連ドラ初主演」と謳われるバイプレイヤーたちが次々にターゲットになり、急速に掘りつくされ、消費されつくしてしまわないかという不安も少々ある。

 そんななか、今クールで注目したい作品が2つある。

 一つは、俳優生活40年にして意外にも「連ドラ初主演」という光石研の木ドラ25『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系)。『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』などを手掛けた渋谷直角の同名コミックが原作。にもかかわらず、主人公・渋井直人は、光石が本人役として出演していた『バイプレイヤーズ』での「温和で人懐っこい、愛されキャラの愛妻家」以上に、あて書きじゃないかと思うほど光石そのものに見える。

 独身、オシャレなデザイナーという設定は異なるものの、光石自身、「IDEE」のサイトで自宅が紹介されるほどスタイリッシュでカルチャー好きの「こだわりの人」であることが知られているし、真面目で繊細で優しく、気遣い屋で、ダンディで可愛い人というところも共通している。

 1月17日放送の初回では、行きつけの古書店カフェで店主から、美大生の女の子が自分に好意を持っていると聞かされ、ひそかにウキウキ。その一方で、憧れの大御所イラストレーターの作品集をデザインする機会を得て、アシスタントを連れて熱意をプレゼンしに行くも、こきおろされてしまう。

 だが、そんな恥ずかしい思いを救ったのは、日頃足を引っ張っている、やる気のなさそうなアシスタントの何気ない素直な一言だった。おまけに、好意を寄せていると聞かされていた女の子は、業界へのコネクション目当てで……という切なさ。

 大きな出来事は起こらないのに、日常の中での小さな悲喜こもごもが、ちょっと痛くて、おかしくて、しみじみと愛おしく味わい深い。

 そして、もう一つは、2018年公開映画13本、『西郷どん』(NHK)、『モンテ・クリスト伯―華麗なる逆襲―』(フジテレビ系)などのドラマに出演し、大忙しだった渋川清彦と、ドロンズ石本、大西信満の「おっさん3人+柴犬3匹」×公園のドラマ『柴公園』(TOKYO MX)である。

【写真】柴犬とおっさん3人

 こちらは、愛犬の散歩で公園に来るおじさんたち3人が、互いの愛犬の名前しか知らないユルイつながりで、ベンチに座り、ひたすらダべる会話劇。その会話もまた、「山手線で、実は降りたことのない駅が結構あった」などのどうでも良い話が中心で、「じもぴー」からの疎外感を勝手に感じたり、小さなモヤモヤ感を感じたり、勘違いが発覚して脱力したりするだけの、実にまったり平和で、ちょっぴり笑える物語だ。

 ところで、『博多っ子純情』のエキストラとして受けたオーディションで主役に抜擢され、デビューした光石研と、ファッション誌のモデルとしてデビューした渋川清彦。どちらも華やかなスタートながら、それぞれにヤクザやチンピラ、借金まみれのダメおやじ、幽霊、小心者の市井の人など、悪役やヤバい役、サエない役などを多数こなしてきた。

 そんなバイプレイヤーとして培われた技術と表現力に、本人が歩んできた人生の年輪や痛みが加わることによって、悪役もダメ男も、どこか弱さや繊細さ、優しさ、悲哀の漂う魅力的なキャラクターになる。

 ドラマチックな物語ではなく、普通の人の日常でのちょっとした恥ずかしさや、ちょっとした苛立ち、沸点の低い幸福感や、小さな浮き沈み、心の機微を描くドラマの主軸を務めるには、イケメン俳優やスター俳優では物足りない。

 「おっさんバイプレイヤー」だからこそ演じられる主役、成立する物語というのがある。そして今、そんな「何気ない日常の中のドラマ」を求める人、癒されている人がたくさんいる。おそらく作り手側にも視聴者側にも「この人が見せる、こんな表情やこんなシチュエーションが見てみたい」という欲望はまだまだたくさんあるはずだ。

 そう思うと、「おっさんバイプレイヤー」の奥行きある演技力と存在感は、消費し尽されてしまうような薄っぺらなものではなく、「おっさんバイプレイヤーの物語」も単なる一過性ブームではなく、すでに確立されたドラマの一分野になっているのかもしれない。

(田幸和歌子)