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“恐怖”はどこからやって来る? 『サスペリア』監督が語る

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撮影現場のルカ・グァダニーノ監督(写真右) (C)Courtesy of Amazon Studios

イタリアの伝説的なホラー映画を、『ミラノ、愛に生きる』『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が新生させた『サスペリア』が本日から公開になる。グァダニーノ監督は13歳でオリジナル版『サスペリア』を観て以来、自分でリメイクすることを夢見てきたが、本作を創作する上でオリジナル版を参照することはなかったという。では、2018年製作の『サスペリア』は何を描いているのか? 監督に話を聞いた。

1977年に製作されたイタリア映画『サスペリア』は、ニューヨークからドイツの名門バレエ学校にやってきたスージーを襲う恐怖を描いた作品で、日本でも大ヒットを記録した。10歳の頃に本作のポスターを目撃したグァダニーノ監督は、3年後にテレビで『サスペリア』を観賞し、その魅力にとりつかれた。「私がオリジナルの『サスペリア』に魅了されたのは、あの映画にどこか“おとぎ話”のようなところがあったからだと思います。その後、私はあの映画を構成している要素についても興味を持ち始めました。ひとつの例ですが、あの映画によって私は“女優とはどのようなものか?”を理解しました。あの映画は素晴らしい俳優の力によって出来上がっていたのです」

その後、彼は自分も『サスペリア』を作りたいと思い始める。映画監督としてデビューし、『ミラノ、愛に生きる』や『胸騒ぎのシチリア』などの作品で高い評価を得た後も、その想いは消えることはなかった。「私は34年間、ずっと『サスペリア』を作りたいと思い続けてきたのです。そうしたら、2、3年ほど前に企画が動き出したのです」

幼少期に衝撃を受け、愛した映画を自らの手でつくる。その際に彼がまずしたことは何か? オリジナルを改めて観直す? 「いいえ。私が最後にオリジナルの『サスペリア』を観たのは8年前です。この映画は脚本家で、友人でもあるデヴィッド・カイガニックとテーブルを囲んで“さて、どんな映画にしよう?”と話すところから始まりました」。つまり本作はダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』の“リメイク”ではない。これはルカ・グァダニーノ監督が新たに語る『サスペリア』だ。

1977年。ベルリンを拠点に活動する舞踏団“マルコス・ダンス・カンパニー”のオーディションを受けるためにアメリカからやってきたスージーは、圧倒的な舞踏を披露して入団を許可される。彼女は、舞踏団を率いるカリスマ的な存在、マダム・ブランから才能を認められ、ふたりの関係は親密なものになっていくが、カンパニー内ではメンバーが次々に姿を消し、スージー自身も踊りながら奇妙な感覚に囚われはじめる。

本作ではオリジナル版から様々な改変が行なわれているが、グァダニーノ監督は舞台を“1977年のベルリン”にすることにこだわった。「私は以前から1977年のベルリンに情熱を抱いていましたから、自分でいろいろと集めたり、調べてきたものがありました。そこで、この映画をつくる際に使おうと思ったわけです。この映画には“分断”や“欠損”が必要でしたから、1977年のベルリンは、映画の舞台として完璧でした」

第二次世界大戦後に東西に分裂したベルリンは、1977年になってもまだ分断された状態にあった。手続きを踏めば行き来は可能ではあったが、冷戦の最前線に位置づけられたこの街に平穏が訪れることはなく、戦争の傷が街と人々の心から消えずにいた。また、西ドイツでは反帝国主義を掲げる組織“ドイツ赤軍=バーダー・マインホフ・グルッペ”が次々にテロを仕掛け、それに触発された学生たちのデモが激化。街はいつも不安や危険にさらされていた。「この物語は、権力をもったいくつかのグループが争う物語ですが、権力のある者たちが必ずやることは人間を分断させることです。そして、1977年のベルリンもまた、あらゆる場所で分断のあった街でした」

スージーはやがてこの舞踏集団が“不思議な力を持った者たち”が率いる集団であることを知り、マダム・ブランと舞踏団の長老たちが自身を操ろうとしていることに気づく。オリジナル版の『サスペリア』では後にこの謎の存在が“魔女”であることが明かされ、続編も制作されたが、グァダニーノ監督は魔女を“恐ろしい力を持った存在”だけでなく、社会から排除(魔女狩り)される存在としても描いている。

「そうですね。そこは意図的に作品に込めています。興味深いのは、この映画の魔女たちは社会から排除されたのではなく、自ら社会の外側に出ていることです。そうして隠れて暮らし、社会の外側に立つことで、外側から社会全体を見渡して、操作できると考えているわけです」

オリジナルの『サスペリア』は主にバレエ学校の内部で起こるドラマを描いていたが、グァダニーノ版の『サスペリア』は舞踏団の暮らす建物の中での出来事と、その外に広がる1977年のベルリンのドラマが交互に描かれ、それらはすべて何らかのかたちでつながっている。「魔女たちはある意味で、外の世界を“鏡”とみなしている部分があります。つまり、外から内を映したり、内から外を映したりしながら不安やパラノイア(恐ろしい妄想)が広がっているわけです」

多くのホラー映画の恐怖は、この世にはいない超越的な力を持った恐ろしい存在によって外部からもたらされる。しかし、この映画では魔女の世界と私たちの社会は“鏡”の関係だ。恐怖はどこかからやって来ない。社会が分断されていれば、魔女の世界にも亀裂が生まれ、人々の心に不安と妄想が広がれば、魔女たちにも動揺や怯えが生まれていく。「その考えは良いですね。この映画は急に観客を驚かせるような“ガーン!”みたいなタイプの恐ろしさを描いているのではありません(笑)。恐怖は人間の内側からにじみ出てくるのです」

ルカ・グァダニーノ版の『サスペリア』は、観客が考察し、描かれたいくつもの要素をつなげ合わせたり、想像を膨らませて解釈できる奥行きのある傑作になった。「自分のテーマを言語化することは気後れしますし、なぜこのストーリーを描いたのか、その理由を語るのは奇妙なことだと感じています。だから、観客には自由に考えてもらいたいですし、私自身も映画をつくる上ではいつも“何が起こるかわからない”と思っています」

『サスぺリア』
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