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石橋静河が語る、『二階堂家物語』での演技アプローチの変化 「鍛えていただいた現場でした」

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リアルサウンド

 映画監督・河瀬直美がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、イラン人女性監督アイダ・パナハンデがメガホンを取った『二階堂家物語』が1月25日より公開される。本作は、世界で活躍する期待の若手監督が奈良を舞台に映画を製作するプロジェクトNARAtiveとして誕生したヒューマンドラマ。奈良県天理市を舞台に、種苗会社を営む二階堂家が抱える跡継ぎ問題が描かれていく。

 リアルサウンド映画部では、主人公・二階堂辰也(加藤雅也)の一人娘・由子を演じる石橋静河にインタビュー。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で映画賞を総ナメにし、昨年も映画『きみの鳥はうたえる』、朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)など、さまざまな作品で鮮烈な輝きを放った石橋だが、本作でも父と自身の恋人への想いの間に揺れる心を、繊細に表現している。出演作を重ねるごとに魅力を増し続ける石橋の真髄はどこにあるのか。パナハンデ監督とのやり取りから、女優という仕事への思いまで、じっくりと語ってもらった。

● 「今はどんどんお芝居が楽しくなっています」

ーー『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の各映画賞での新人女優賞受賞を皮切りに、2018年も大活躍の1年間でした。

石橋静河(以下、石橋):素敵な方々と出会う機会が増えて、本当に楽しい1年間でした。2017年は映画が多かったのですが、2018年は『半分、青い。』や『You May Dream』(NHK総合)『dele』(テレビ朝日系)など、TVドラマの現場にも参加させていただけて、また新たな世界、表現方法に出会うことができました。

ーーどの作品でもまったく違う顔を見せていて、石橋さんの演技にはいつも引き込まれます。俳優活動以前はダンサーとして活躍されていましたが、同じ「表現すること」でも両者はまったく違いますか。

石橋:真逆と言ってもいいほど違うものだと感じています。お芝居を始めた当初は、どこか根底で一緒なんじゃないかという予想だったのですが……そんなに甘くはありませんでした。コンテンポラリーダンスは、「自分がどう踊りたいか」「踊りとしてどう表現したいか」という「自分」が何よりも大事なんです。でも、映画やドラマでのお芝居は、「作品」の中でどう役割を果たせるかが最も重要です。「自分」がどうありたいかは関係なくて、むしろなくしていかないといけません。ただ、両者が一緒のものではないと理解した上で、それぞれをまったく別の表現として分けていくのではなく、ひとつの道の中で深めていけたらなと思っています。

ーー『夜空はいつでも~』で石井裕也監督にインタビューした際、「(石橋静河は)賞を取ると思うけど、絶対にこの後壁にぶつかる」と話していました。

石橋:おっしゃるでしょうね(笑)。

ーー実際に新人賞を受賞されて周囲からの期待も大きくなったと思うのですが、『夜空はいつでも~』以降、何か変化はありましたか。

石橋:『夜空はいつでも~』のときは、お芝居の右も左も分からなくて、ただただ必死で食らいついていっただけでした。その後に新たな壁にぶつかったというよりも、『夜空はいつでも~』のときにものすごく大きな壁があったというか(笑)。『夜空はいつでも~』の撮影が終わった後は、「なんにもできないのになんで主演をやっちゃったんだろう」とすごく落ち込んでいたんです。でも、そこで自分の立ち位置を嫌というほど分からせてもらったからこそ、次の作品からはもう怖いものはないというか、ただただ自分は挑戦して行けばいいんだと考えることができました。だから今はどんどんお芝居が楽しくなっています。

ーー映画・ドラマと多くの作家たちと出会ってきた中で、本作のアイダ・パナハンデ監督の現場はいかがでしたか。

石橋:アイダ監督に初めてお会いしたとき、「なんて格好いい女性なんだろう」と思いました。イランでは映画を撮るときに、政治的なテーマを持ち込んではいけない、キスシーンを撮ってはいけないなど、さまざまな制約があるそうです。「私は映画が撮りたい」という強い意志がないと絶対に監督を務めることできません。だからこその強さがアイダ監督にはあります。女性でいることに対しての甘えや言い訳をせず、自分に何ができるかを常に考えている。自分も考えることをやめてはいけないと思いましたし、ひとりの人間としてアイダ監督のように強くありたいと思いました。

ーー本作は代々続く名家を存続させるために、現在の当主である主人公・辰也が、さまざまなしがらみと向き合っていくお話です。辰也が“息子”を求めるという“男”についての話かと思いきや、辰也の母・ハル(白川和子)、石橋さんが演じる由子、辰也の恋人・沙羅(陽月華)と、強い女性が印象に残る物語でもありました。これまで石橋さんが演じられた役の中でも、由子はかなり“強い”女性の印象です。

石橋:私が演じた由子はずっと怒っているので大変でした(笑)。二階堂家のために自分の道を決められることも嫌だし、家に縛られて好きでもない人と結婚しようとしているお父さんも嫌で。お父さんにも幸せになってほしいからこそ、由子は“怒り“をぶつけてしまう。感情を爆発させるお芝居をこれまであまりやっていなかったので非常に難しかったです。

●演技と踊りは真逆のアプローチ

ーー先程のお話に少し戻ると、同じ身体表現でもダンスと芝居の一番の違いは、「声を出すこと」にあるかと思います。特に本作は外国人監督ということもあり、台詞に関しての演出はどういったものだったのでしょうか。

石橋:踊りをしているときは声を出すことがなかったので、お芝居を通して初めて自分自身の声の存在に気付いた感じがします。映画やドラマの中では、普段使っているような話し言葉ではあっても作品を通して強いメッセージを放つ言葉があります。そういった言葉を言うときに、演じる上で私にはまだまだ足りないことがたくさんあると実感させられます。一方で、アイダ監督は、声の高さや低さをコントロールするような演技は求めてはいませんでした。本当にその人物になって台詞を言ってるか、それを何よりも大事にされていました。「自分で役を作り込むことはしないでほしい」と言われていたので、その点は非常にやりやすくもありました。言語の壁はあっても、役者たちの台詞を“音”として判断しているので、アイダ監督にはすべてを見透かされているような感じもあって。演じていても何がフィクションで、何がリアルなのか、ふと分からなくなるような不思議な感覚でした。

ーー由子が恋人を初めてお父さんとおばあちゃんに紹介するシーンなど、随所に生々しいほどのリアルな空気を感じました。一方で、終盤の由子がレコードをかけて踊るシーンは非常に幻想的で素敵でした。

石橋:ありがとうございます。あのシーン“だけ”監督に怒られなかったんです(笑)。ほかのシーンでは、逐一「NO!」の言葉がありました。アイダ監督は画に関しては非現実的とも言える美しいものを求め、お芝居に関しては徹底的なリアリティを求める。相反するものを見事に成立させる手腕は本当にすごいと感じましたし、個人的にもとても鍛えていただいた現場でした。

ーー石橋さんの中で、演技に対してのアプローチにも変化が?

石橋:これまで複雑な思いを抱えた役を演じさせていただくことが多かったこともあり、ひとつの役に潜り込むような感覚でいたんです。それは踊りをやっていたときの感覚とは真逆で、踊りは潜り込むというよりは自分を拡げていく感覚。やはり、潜り込む感覚は自分自身に戻れなくなる時間があるので、非常にしんどくもあるのですが、それが役にとっては大事なんだと思っていました。でも、もしかしたらどこかでその感覚も、一歩引いた視線で楽しめるものなんじゃないかと最近は思っているんです。少し矛盾するかもしれませんが、本作のようにその役自身になることが求められるときも、“技術”としてお芝居をして、潜り込むのではなく客観的にそんな自分を観ることもできるのではないかと感じています。きっと、ずっと学ぶことばかりですが、今後もさまざまな作品に挑戦していきたいと思います。

※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記

(取材・文・写真=石井達也)