「漸近線、重なれ」小沢道成・一色洋平、8年ぶり3度目のふたり芝居

“俳優感”押しの創作から、10年の出会いを生かした創作に

――おふたりのタッグは、14年の『谺（こだま）は決して吼えない』、16年の『巣穴で祈る遭難者』以来となります。このチームでのもの作りの面白さとは？

一色　もともと僕が小沢さんに惚れ込んで、なにか一緒にやりたいと食らいついたのがきっかけです。そこでまず考えたのが、僕ら自身俳優であり、さらにクリエイターチームも俳優で集めたらどうなるかなと。“俳優感”で作る舞台を目指して、脚本に須貝英さん、音楽にオレノグラフィティさんへお声がけして。そうして出来上がったのが10年前の『谺～』です。

小沢　俳優って、舞台の空気を一番生で感じられる存在だと思っていまして。そんな俳優の視点から演劇を作ったらどうなるんだろう、っていうのが発端です。本当にこの企画に関しては、自分の演劇観を育ててもらったなと思います。

一色　ただ僕らもこの10年で素晴らしいスタッフチームに出会うことができて、自分たちで作るだけでなく、そういう方々に託したほうが明らかにレベルが上がるなっていう部分も実感していて。だから“俳優感”という根底はありつつも、この10年での出会いを生かしたふたり芝居が作れないかなと思ったんです。

小沢　10年前に比べると、お客さんの層もすごく混ざった印象があるんですよね。先日対面でチケット即売会をやったんですが、僕たちみたいな演劇ラバーな人間が作る公演に（笑）、さまざまなジャンルの演劇好きの方が興味を持ってくれて。この偏っていない感じ、しかもその人たちが130席キャパの新宿シアタートップスに集うっていうのが、すごくいいなと思ったんです。

一色　年齢層がすごく広がりましたよね。漫画原作の舞台に出させていただいてから、こうした作品が“劇場に行く”っていう文化をさらに作ってくれたんだろうなということをヒシヒシと感じていて。その波に僕らも乗せてもらいつつ、僕らが作りたいものを作れたら嬉しいですね。

――新作『漸近線、重なれ』は、とあるアパートに暮らす郵便局員の【僕】の日常を中心に、僕の友人【君】との手紙のやり取りが描かれていきます。創作の経緯を教えてください。

小沢　立ち上げにはいろいろな側面があるんですが、ひとつ美術というのは大きな要素かもしれません。アパートの壁があり、そこに窓がポンポンポンといくつもあって、交わってはいないけど、お隣同士の生活が見えてくる。そういう美術案を脚本の須貝さんと3人で話していたら、物語が膨らんできて。

一色　みんなで「賃貸ってその人の歴史が積み重なっていくよね」みたいな話もしましたよね。一人暮らしの経験談を語り合ったりして。それってすごく普遍的だし、その肌触りは多くの人が共感しやすいものなんじゃないかと思ったんです。

小沢　それで当初は、客席と舞台の境目に“ドーンと壁を立てて”、その窓から人の上半身だけが見えるようなセットをイメージしていたんです。わざと境目を作るというか。でも脚本が出来上がってからまたイメージが変わって、今は新たなプランを考案中です（笑）。変わらないのは、アパートの壁面にいくつかの窓があること。そこに明かりが灯り、いろいろな物語が繰り広げられていく。そして最後には、お客さん自身が自分の家だったり、かつて住んでいた家というものに思いを馳せてくれたら、この舞台を作って良かったなと思えるような気がしています。

演劇的表現を駆使した12役と、動かない一色洋平による1役と

一色　あと手紙のやり取りに関しては、わりと僕の実体験が反映されています。僕には小中一緒だったTくんという友達がいるんですが、自分の人生で最初に憧れた人物がこのTくんなんです。いつなにをしていても、「あいつなにしているかな？」って思っちゃうような、人としてすごくカッコいい友達。詳しく話すとネタバレになっちゃうのでこれくらいにしますが、それもひとつの出発点ではありました。

――では一色さんが【僕】を、小沢さんが【君】とそれ以外のすべての役を演じるということでしょうか？

小沢　そうですね。僕が12役くらい（笑）。ただ『鶴かもしれない』でやったラジカセ芝居とか、『我ら宇宙の塵』で使ったパペットとか、いろいろ演劇的な表現は試していきたいと思っています。

一色　あと小沢くんから、「今回洋平はあまり動かないほうがいいんじゃないか」って提案もしてもらっています。普段僕、動かなくてもいいのに動いちゃうことが結構多くて…（笑）。

小沢　そうそう、それは面白いんじゃないかなと思うんですよね。動かない一色洋平（笑）。

――そんなレアな一色さんにも期待しつつ（笑）、お客様にはこの作品を通して、どういった時間をお届け出来たらと思いますか？

一色　僕が小沢くんとの企画で楽しいのは、「今僕らってなにを面白いと思っているんだろうね」ってものをすり合わせられることなんです。例えば『谺～』の時は、場面転換をNODA・MAPっぽくしてみようとか、『巣穴～』の時は『マチルダ』の舞台美術を目指してみようとか。その都度、今出来るふたり芝居の限界を作ってきた自信はあって。だから今回も力いっぱい、胸いっぱい、体いっぱいのふたり芝居を作れたらなと思っています。

小沢　確かに過去2回の公演は、「こういう演劇をやりたいよね」と思ったら、そのアイデアを使った舞台作りをしてきたと思うんです。でも今回、そういうアイデアがあまりなくて。それよりも、僕らがここまで積み重ねてきた、8年の人生を使った舞台を作ってみたい。だからこれまでの作品とは、ジャンルの違う演劇になると思います。それでも「より多くのお客さんの心に届けたい」って気持ちは、変わらずふたりに共通しているもので。きっとお客さんそれぞれの人生を通して感じてもらえるものがあると思うので、変に構えることなく、自由に観に来てもらえたら嬉しいです。

取材・文：野上瑠美子
撮影：小岩井ハナ

＜公演情報＞
一色洋平×小沢道成『漸近線、重なれ』presented by EPOCH MAN

公演日程：2024年4月1日（月）～7日（日）
会場：新宿シアタートップス
チケット情報：
https://w.pia.jp/t/epochman/