見上愛、俊英・清原惟監督作品で得た感覚「優しさと若干の隠している恐怖みたいなものが出ている」
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見上愛
続きを読む初の長編監督作品となった『わたしたちの家』が、ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2017でグランプリを受賞すると、第73回ベルリン国際映画祭・フォーラム部門に正式出品されるなど、世界各地で高い評価を受けた清原惟監督。そんな彼女が第26回PFFスカラシップ作品として手掛けた映画『すべての夜を思いだす』が公開を迎える。本作でトリプルキャストの一人を担った俳優の見上愛が、清原監督の現場で感じたことや、作品の持つ魅力について語った。
本作は、東京郊外の街・多摩ニュータウンの春のある日を舞台に、友達から届いた引っ越しを知らせるはがきを頼りにニュータウンの入り組んだ街を歩き始める知珠(兵藤公美)、早朝から行方不明になっている老人を探すガス検針員の早苗(大場みなみ)、亡くなった友人が撮った写真の引き換え券を手に友人の母に会いに行く大学生の夏(見上)が、それぞれの理由で街をさまよいながら、思いを募らせていく心の機微を描く。
清原監督の脚本を読んだ際、見上は自身が演じる夏という役について「キャラクターのバックヤードもほとんど描かれておらず、しかも余白が多すぎて、どういうキャラクターなのか分からなかった」という。そんな不安を見上は清原監督との顔合わせのとき、ストレートに伝えた。
すると清原監督からは「テンションの上げ下げがあまりない、淡々とした女の子であってほしい」というオーダーがあったというと、友人が亡くなったという事実についても「あまり感情をあらわにすることなく」というヒントをもらったという。
もともと、清原監督の『わたしたちの家』を観ていたという見上。「監督が作り出す空気感の共有はできていた」というと、監督の言葉を聞いたことで脚本を読んだときの不安は解消されていった。
見上は「監督のホワっとした感じに包まれるような現場で、とても優しい空気が流れている撮影でした」と振り返ると、劇中で多用される長回しのシーンについて「私が自転車で走るシーンなども、ほぼワンカットで。タイミングが合うまで実際に何度も坂を上り下りするので、息切れの音などそのまま使われています」とリアルさを大切にしていると感じた。本作では映像に音を入れるアフレコも行われなかったという。
「監督の意図していることに寄り添いたい」
ミニマムな撮影チームで臨んだ本作。見上が印象に残っているのが、スタッフ、キャストの距離が近いこと。「まずこちらに芝居をまかせて『やってみてどうだった?』と聞いてくださるんです。そこでこちらも『こういう印象でした』と話してすり合わせをしていく。助監督さんとも密に相談されていて、すごくいろいろな方の意見を聞かれる監督だなと。みんなで一緒に理解を深めて進んでいく感じがとても楽しかったです」。
これまで見上は「脚本に書かれていないことを、あえて表現しなくてもいいのでは……」という思いがあったという。しかし本作で演じた夏は、脚本を読んだだけでは「友達の死のことはもちろん、友人関係の距離感も幼なじみなのか、親友なのか、分からないことだらけ」だった。
清原監督自身も明確な答えを持っていたわけではなかったというなか、見上は監督、スタッフ、共演者と現場で考えながらキャラクターを立体化していった。「その場で『こういうの面白くない?』とアイデアを出してやってみたシーンもありました。縄文博物館で遊ぶシーンなども、ずっとカットが掛からず遊び続けている感じだったんです」。
見上は「私〇〇組というのがめっちゃ好きなんです」と笑うと「監督が中心となってみんなで作品を作る雰囲気がとても楽しい。監督の意図していることに寄り添いたいなと思っていて。何か伝えたいことがあるから映画という形でそのメッセージを伝える。その思いを一緒に背負えているなと感じられると、とても幸せな気分になるんです」と俳優という仕事の魅力を語っていた。
出来上がった作品を観た見上は「清原監督の優しさと若干の隠している恐怖みたいなものが、とてもよく出た映画だなと思いました」と感想を述べると「メッセージ性がはっきり出ている作品も好きですが、こうして観た人によってとらえ方が違う映画ってワクワクします」と余白が多いからこそ、想像力を掻き立てる清原監督の作風に共感していた。
テレビドラマ、映画と出演作が相次いでいる見上。多忙を極めているように感じられるが「とにかく普通の生活をすることを大切にしています」と笑うと「あまりこの業界の友達はいないんです。中学、高校、大学と全然違う職業の友達と過ごす時間が気分転換になっています。芸能界ってやっぱり独特なので、普通の感覚からズレてしまうこともある。何をもって普通というのかは難しいところですが、友達と過ごしている時のような感覚は大切にしていきたい……と心がけています」と語る。
見上は「この作品の主人公は多摩ニュータウンです」と述べると「『わたしたちの家』は家が主人公だなと思ったんです。そういう視点の作品を作る監督って、これまで出会ったことがなかったので新鮮でした。多摩ニュータウンのことを知らない人でも、きっと作品を観たらすごく思い入れのある街になると思います。その意味で、とても面白い映画体験ができると思います」と見どころを語ってくれた。
(取材・文・撮影:磯部正和)
『すべての夜を思いだす』
3月2日(土) 公開
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