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映画監督・兼重淳ならではの脚本で描く、朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』

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山崎樹範

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山崎樹範が主演する朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』が、3月に東京・博品館劇場で上演される。TOKYO No.1 SOUL SETのメンバーであるミュージシャン・渡辺俊美による同名のエッセイ本を舞台化するもので、脚本・演出は、映画監督の兼重淳。同書を原作にした2020年公開映画『461個のおべんとう』でも監督・脚本を務めた兼重が、同じモチーフを舞台版としてどう描き出すのかも注目だが、一般的な朗読劇とはひと味違う様々な仕掛けも考えているようで……。山崎と兼重に話を聞いた。

――まず兼重さんにお伺いします。今回の朗読劇は、監督が手掛けた映画『461個のおべんとう』の舞台化なのでしょうか?

兼重 いえ、その大元である俊美さんのエッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』の舞台化です。脚本も「一新」というほどではありませんが、今回の舞台版の方が、原作エッセイに則って作っています。

――タイトルも、原作本と同じものになっていますね。

兼重 はい。役名も、山崎さん演じる主人公のミュージシャンは「渡辺俊美」とご本人の名前になっていますし、「TOKYO No.1 SOUL SET」というバンド名も使い、さらにSOUL SETの映像も使わせてもらいます。映画版は『461個のおべんとう』というタイトルのとおり、お弁当中心のお話でしたが、今回は『親父と息子の男の約束。』の方に重点を置き、父子の話を掘り下げました。また、映画版だと息子が高校に3年間通い終え、お弁当を作り終わるところでお話も終わっていますが、今回はその先の話も入っている。これは、元々の単行本は息子の登生くんが高校を卒業し、お弁当作りが終わったところで本が終わっているのですが、映画化のタイミングで文庫化され、そこで俊美さんがその先のエピソードを加筆されているんです。それも今回の舞台版では盛り込んでいますので、映画にはなかったエピソードもたくさん加わっています。

――山崎さんはそんな新しい台本をお読みになって、どんな感想を抱きましたか。

山崎 すごく良い台本なんです。最初に読んだ時に「ああ、素敵だな」って素直に思った。お弁当の話でもあるのですが、親子関係も、登生くんの周りの人間関係もきちんと描かれていて、それぞれの登場人物の思いも汲んであって。読みながら“絵”が浮かび、僕の頭の中に浮かんだその絵を自分が表現できたらすごく面白くなるだろうなと思ったのですが……(ため息)。

――プレッシャー……でしょうか?

山崎 俊美さんご本人にお会いしたら、本当に魅力的な方なんです。そりゃ登生くん、お父さんのこと大好きなわけだよなって思うくらい。僕もお会いして一瞬で俊美さんのことを好きになってしまいましたから。本当にそこが一番のプレッシャーで……。(息子・登生役の田村)海琉くんは多分そのまんまでいけると思うんです。実際、多感で繊細な年頃の少年ですし。僕がそれを全部受け止められる包容力あるお父さんを演じられるかが重要だと思うので、そこは兼重さんにアドバイスをいただきながらやっていきたいです……。

兼重 でも僕は山崎さんが受けてくださって光栄ですよ! この役は、本当に渡辺俊美さんのイメージを体現できる方じゃないと無理だなと思っていたのですが、山崎さんは俊美さんと同じ“間合い”を持っている方なので安心しています。あとはもちろん家庭的な雰囲気も。まだ稽古も始まっていませんが(※取材時)、会うたびに「山崎さんありがとうございます」とお礼を言っています(笑)。

――宣伝ビジュアルも、俊美さんご本人の雰囲気に似ていらっしゃいますよね。

兼重 デニムの上着どんどんこなれてきている。普段から着ていらっしゃる方なんじゃないかなと思うくらいです。

山崎 本当ですか? ああいうジャケットは自分の中の選択肢になかったのですが、買い取ろうかな(笑)。

――そもそも「エッセイをドラマにする」というのは難しいのではないかなと思うのですが。

兼重 それは、そうでもありませんでした。僕も俊美さんとお会いしてお話した時に、山崎さんと同じく「この人の物語」の絵が浮かんだんです。だからエッセイを膨らますのは難しい作業ではなかった。

山崎 では、逆に苦労されたところは?

兼重 今山崎さんがお話されたとおり、登生くんが俊美さんのことを好きすぎて、反抗期がなかったそうなんですよ。そこはドラマを作る人間としては困ってしまったところです。その部分は頑張って創作し、俊美さんに確認して「いいよ」と言っていただきました。今回の舞台でもそういうところは入れ込んでいます。……そうじゃないと、仲のいい親子がお弁当を挟んでわちゃわちゃ楽しそうにやっているだけになっちゃう(笑)。

山崎 エッセイの中で俊美さんが「反抗期なんてないんだ、それは大人が勝手に作った言葉で、あれは成長期だ」というようなことを書かれていますが、そこにすべてが表れている気がするんです。大人は子どもの変化を心配しつつも尊重するものなんだって。

兼重 そのとおりですよね。

山崎 ……そりゃ、息子はお父さんのこと大好きになるよ!

兼重 本当に仲がいい親子なんです。俊美さん、忙しい中でも学校行事はすべて出席していて、登生くんの学校の先生とも仲が良いそうです。僕は登生くんにも色々話を伺ったのですが「僕は父に作ってもらった弁当を食べていただけなので」「自慢の親父なんです」って。そういうところが面白いし、素敵ですよね。

――エピソードをうかがっているだけでほっこりしてきました。そして山崎さん、今回は朗読劇ですが、朗読劇ならではの面白さと、今作ならではの期待を教えてください。

山崎 朗読劇というものは自由に演じるのとは違い“読む”ことが前提ですので、俳優としてはある種の縛りがあります。表現って、縛りがあった方が楽しいんですよね。朗読であることは守りつつ、そこからどう飛躍したり、逸脱したりしていくか、という。そして前回(朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』)の経験から、朗読劇はまだまだ色々な可能性があるとも感じています。スタンダードに座って台本を読むのも朗読劇だけど、もっと色々な形があっていいんじゃないかなと思っていたので、今回の兼重監督の脚本を読んだときに「そうだよ、こういうこともしていいんだよね!」と嬉しくなりました。

――もう脚本から違うんですね!

山崎 はい。これは面白いぞと思いましたし、ずっと演劇をやってきた方ではなく、今回初めて舞台を手掛けられる監督ならではの可能性を感じる脚本でした。

――どう違うのか、どう新しいのかが気になります。製作発表で「映像をすでに撮った」という話はされていたので映像は使うのだろうとは思いますが。

兼重 明かせるところで言うと、料理の映像も出ますし、出来上がった料理を実際に山崎さんにお弁当箱に詰めてもらったりします。目でも楽しめるし、お弁当は実際に食べられるものなので、匂いもするはず。映画では匂いはしませんから、そこはライブでお届けできる舞台ならではのものになるかと思います。

――山崎さん、普段料理はされますか?

山崎 普通に家で、自分たちが食べる分を作るくらいはしますが、上手くはないです。「苦ではない」くらい。……ただ、俊美さん、センスがいいんですよね……。本の中で、秋だからと枯葉をお弁当に入れていたのにはびっくりした。ビジュアルで季節を表現するって、そういうのは僕はまったく想像もつかない。

兼重 それは俊美さんのこだわりですよね。季節を旬のもので感じることを、子どもに伝えるのは大人の仕事だと。

――さらに歌もある、と。

山崎 ……まあ、まずは事務所との話し合いがありましたね。

兼重 (笑)。

山崎 事務所は俺の実力を知ってるから。いいのだろうかと。

兼重 山崎さん、俊美さんと初めてお会いして歌を歌った時(本朗読劇の歌唱指導は渡辺俊美本人が担当)、俊美さんが「すごくいいですよ、もう一回歌ってみますか?」とおっしゃったのに対して真顔で「何度でもやります!」と答えていたのが可愛らしかった(笑)。

山崎 俊美さんのギターで俊美さんの歌を歌えるってそんな機会ないですから。

兼重 至近距離で「いいよ!」と言ってもらっていたじゃないですか。

――歌は全体で何曲あるのでしょうか。

兼重 2曲です。山崎さんと田村くんで1曲、高校生役の3人で1曲。それとは別に、TOKYO No.1 SOUL SETのあの名曲も流れます! SOUL SETのファンの方も喜んでもらえるのではないかなと思っています。

山崎 それもなかなかのプレッシャーなんですよ。一度正解が出ているあとに、僕が歌うという(苦笑)。

兼重 すみません(笑)。登生くんが4歳の時に、俊美さんが登生くんのために作った曲があって。それを山崎さんに歌っていただきます。

山崎 親子の関係性やお互いの思いをきちんと皆さんにお伝えできたあとに歌があれば、歌だからこそ伝えられるものがあるとは思うので。上手い下手はちょっと置いておいて(笑)、息子を思う父の気持ちが歌でも伝わるといいな、と思います。

兼重 ……これ、朗読劇とは思えないですよね。でも朗読劇なんですよ(笑)。俊美さんって、登生くんに父親として「好きなことをやって生きてくれていいんだよ」と伝えているところがある。その愛を僕らにも向け「好きにやっていいよ」と言ってくださっている感じです。俊美さんの大きな愛に包まれて僕らがいる……。

――そして、とても若い座組ですね。

兼重 山崎さんと映像出演の堀田茜さん以外、全員10代。

山崎 ちゃんと覚悟しています。僕以外の3人でLINEグループを作るんだろうな、とか……。

兼重 (大笑)。

山崎 それをどこかで知る瞬間が来ると思うのですが、不意に知ってもショックを受けないような心構えはすでに作っています(笑)。でも田村海琉さんも山﨑玲奈さんも若いですがキャリアのあるすごい人たち。また髙橋佑大朗くんは今作で俳優デビューですが、初めての人しか出せない魅力は絶対ある。僕が一番年上だからと構えることなく、フラットな立ち位置で一緒に作っていけたらと思います。

兼重 すでに最高のメンバーだと思っています。海琉くんは映画版にも出てくれたけれど、小学生役で、映画でも小学生時代の出番は少なかったので、1日半くらいしか撮影はなかった。でも色々話もしたし、彼ももっとやりたがってくれていた。心に残っていたのでずっとその後も彼の活躍を見守っていて、今回の舞台版の話が来た時に「海琉くんに聞いてみてほしい」と僕からお願いしました。彼に関しては、僕はどこか、忘れ物を取りに来た感覚があります。

山崎 素敵ですね。

兼重 山﨑玲奈ちゃんと髙橋佑大朗くんに関しては、映画版で森七菜ちゃんと若林時英くんの演じた役だと思われがちなのですが、実は違っていて、今回ならではのキャラクターです。玲奈ちゃんは大らかで天真爛漫でありながら芯が強いというところが役にピッタリだと思います。佑大朗くんは実は、彼が「TOHO NEW FACE」オーディションでミュージカル賞を受賞した直後、ワークショップで教えに行っているんです。その時にちょっと一緒にやってみたいなと思った。彼のために書いた役を演じてもらいます。堀田さんも映画には出てこないキャラクター。そういう意味でも、この舞台のために集まってくださったキャストになっています。映画と同じ題材ですが、温め直しではなく、素材集めから料理方法まで全部変えて作り直しています。……これ、お弁当とかけてますよ(笑)?

――わかります(笑)。その中でも変わらない作品の芯の部分は。

兼重 やっぱり愛情ですね。親子の愛情は変わりません。

――ありがとうございました。最後にこちらもお弁当にかけて……得意料理は何ですか?

兼重 何だろうな……山崎さんはなんですか?

山崎 卵焼きかな……。俊美さんのお弁当にも卵焼きは必ず入っているのですが、この間の撮影で実際に卵焼きを作るシーンを撮ったんです。僕は高校時代にお寿司屋さんでバイトをしていて、厚焼き卵を作っていたんです。その時にどうしたら厚く焼けるかを研究していたので、けっこう上手だと思います。なので得意料理は厚焼き卵で!

兼重 しかも山崎さん、本来は左利きなのに、俊美さんが右利きだからって右で上手に作ってくださったんですよね。それだけで僕はもう胸がいっぱいになりました。……僕も得意料理は卵焼きにしておきます。

山崎 ずるい、なんで同じものにするんですか(笑)!

兼重 いいじゃないですか(笑)。

取材・文:平野祥恵

<公演情報>
朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束』

公演期間:2024年3月9日(土)~17(日)
会場:博品館劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/461bento

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