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「どっちなんだよ」のままで終わらせてはいけない作品。沖縄在住の劇作家・兼島拓也と新たに出演する・中山祐一朗が語る2024年版『ライカムで待っとく』

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中山祐一朗 (撮影:石阪大輔)

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アメリカ占領下の沖縄で起きた1964年の米兵殺傷事件を扱ったノンフィクション『逆転』(伊佐千尋著、新潮社・岩波書店刊)から着想を得て、沖縄在住の劇作家・兼島拓也が書き下ろし、沖縄に出自を持つ田中麻衣子が演出を手掛けた舞台『ライカムで待っとく』。KAAT神奈川芸術劇場の制作で2022年に初演され、絶賛を受けた本作の、待望の再演が決定した。沖縄の過去、現在、未来が交錯するストーリーから浮かび上がるのは、米軍基地問題を始めとする数々の、解けないままの状態でいる沖縄の複雑な事情である。内地の人間が見ずに過ごして来た、もしくは見ないふりをしてきた沖縄の痛みを、軽やかに、されど鋭く突きつけた衝撃の舞台は、多くの観客の心を揺さぶり、思考を促し、幾つもの演劇賞を賑わせた。今回の再演で新たに出演が決まり、主人公・浅野役を担う中山祐一朗と、沖縄で脚本の改訂を進めている兼島拓也のリモートによる対談は、ふたりの朗らかな「はじめまして」の挨拶から始まった。

新たなキャストを迎え、初演とは違うものに

中山 はじめまして、中山です。よろしくお願いします。

兼島 兼島です。よろしくお願いします。

中山 兼島さん、年間何本ぐらい戯曲を書くんですか。

兼島 最近は……2本ぐらいですね。

中山 2本も書くんですか!?

兼島 ラジオなどの舞台以外のものもあるので、2本とか3本とか。

中山 放送作家もされているんですね。えっと、このまま話していていいのかな?(一同笑)

――ではこちらから質問を。中山祐一朗さんを新たに迎えての1年半ぶりの再演になります。兼島さんには再演が決定したことについて、中山さんには本作に新たに参加する、そのお気持ちからお話いただけますか。

兼島 初演に出演していただいた(浅野役の)亀田佳明さんと(タクシー運転手役ほかを演じた)南里双六さんは、作品世界を作り上げるうえで中心的存在となったおふたりでした。今回の再演ではそのおふたりに替わり中山さんと佐久本宝さんが出てくださることで、どんなふうになるだろうと楽しみに感じています。新たな人物像が立ち上がってきっといいものになるというイメージが僕の中にありますね。キャストが替わることで初演とはまた違うものになる、その期待が一番大きいです。あとは初演から1年半経っているなかで、沖縄においては辺野古の問題など社会情勢の変化といった点についても、作品に反映させていけるといいなと今現在は思っています。

中山 僕は初演は観ていないのですが、KAATの芸術監督であり僕が所属する劇団(阿佐ヶ谷スパイダース)の主宰の長塚圭史くんが当時、激推ししていたのを覚えています。それで今回、映像で観させていただいて、なるほど、長塚くんが激推しする理由がわかるなと。そういう作品に参加出来るのは光栄であり、怖いという感覚も最初はありましたね。こんなに完成されたメンバーの中に俺が入るの!? と(笑)。でも今は、怖さよりも楽しみのほうが大きいです。

――KAATの制作陣、演出の田中麻衣子さんを始めとするスタッフ陣と1年以上に渡ったクリエーションの結果、作品は大変高い評価を受けました。

兼島 プロダクションのメンバーと何度もミーティングを重ね、台本は最終的に10回近く書き直しましたが、僕にとっては皆さんを信頼しながら書けた時間でした。皆さんがいろんな意見を言ってくださるから絶対にいいものになる! といった感覚がどんどん強くなっていって。そうして出来上がった作品が実際に上演され、多くの方から評価されたことは本当に嬉しかったです。岸田戯曲賞や鶴屋南北戯曲賞のノミネートもそうですが、なかでも嬉しかったのは読売演劇大賞の優秀作品賞をいただいた時ですかね。僕の書いた戯曲ということではなく創作プロセスの全体が評価されたことがすごく嬉しくて。そういう意味で今回は、これまでのクリエーションのプロセスに、初演から1年半分の思いを上乗せして上演出来ることが素直に嬉しいです。

初演から1年半の社会の変化も反映できれば

――先ほど中山さんがおっしゃった、長塚さんの激推しに納得した理由について具体的にお聞きしたいです。

中山 単純に、お芝居で表現するのに適した戯曲の書き方をされている作品だなと感じましたね。長塚君は若い頃、“テレビドラマのような戯曲を書く人”みたいに評されていて、でも途中でいきなり「演劇でしか表現出来ないものをやらなければ」といった使命感に燃えて、周りを巻き込み(笑)、転換していったんですよね。そんな彼にとって、とても気に入った方法で表現されている作品なんだなと思いました。長塚君は「演劇だからこうしなければいけない」とか頭でっかちに考えているところもあると思うんですよ。でもその頭でっかちな彼が脳みそホワ〜ンとなって「これ好きだな」と思える作品、そんなふうに感じました。さっきから長塚君の話ばかりしているのは、僕にとっての一番の物差しが彼だからなんですけど(笑)、前に劇団の舞台を観に来られたある先輩俳優さんが、「どっちなんだよ!?」って笑いながら一言、感想を言って帰られたんです。まさしくその通り、結末をはっきり提示しないのが長塚君の作劇のスタイルで、この『ライカムで待っとく』もそういった“分からない魅力”があるように感じて。分からないからもう一回観たくなったり、戯曲があれば読んでみたいと思わせる、そういう迷宮に誘い込む感じの面白さは長塚君の作品と似たものを感じます。でも、これは「どっちなんだよ」のままで終わらせてはいけない作品なんだろうなと。考えなければいけない問題と向き合わせる作品、そこが決定的に違うところかなと思いました。

兼島 沖縄に今ある問題……、まあ沖縄だけの問題ではありませんけど、やっぱり沖縄の人間は「どっちなんだ」ということをつねに問われ続けている立場ではありますね。どちらか分からない状態でもどちらかに決めなければいけない、そうつねに質され続けていて、“決める”と“決めない”のあいだでずっと揺れ動いているようなところがあります。政治的にどちらかに決められない状態なのに国の決定が頭から覆いかぶさって来る、といったようなことも頻繁です。そういう全体の構造についても書きたかったので、中山さんの今のお言葉で、書きたいと思った部分をちゃんと見てもらえた、届いていると感じられて嬉しかったです。その部分はちゃんと出来ていたのかな、と思えました。

――お話のように、決めるか決めないか、どちらなのかと揺れ動くのは沖縄の人だけでなく、日本に生きる我々全体の立場でもあると感じられたからこそ、初演が多くの観客の心に響いたのだと思います。中山さんが演じる神奈川県在住の雑誌記者・浅野は、妻の祖父の葬儀のために沖縄を訪れますが、ひょんなことから60年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件について調べることになります。この浅野はどういう役割、思いを託して生まれたキャラクターなのでしょうか。

兼島 浅野という人物が立ち上がっていった段階をお話しますと、最初は、KAAT神奈川芸術劇場に「作品を書いてほしい」と依頼された僕自身の立場を上手く作品に投影出来ないかな、ということが出発点でした。作劇上、歴史的な事柄を説明していく必要性があったので、沖縄の人間の立場ではなく、県外の人が沖縄で実際にあったことを知っていく、それが観客の皆さんと共有される、そういうことを狙って“県外でライターの仕事をしている人”というキャラクター設定となりました。この設定でどうなのかな、大丈夫かなといろいろ考えていくなかで、KAAT館長の眞野さんが「この戯曲、これを書いてほしいと依頼したKAAT自体に対しても挑発しているね」って、嬉しそうな感じでおっしゃってくれたんですね。それで、KAATがこの作品を作っている、その構図自体も批評的に捉えることが出来ればいいかなと考えて、そのための一番入りやすい形として浅野という主人公を立ち上げていきました。

兼島拓也

中山 でも、僕と初演の亀田さんではだいぶ雰囲気が違いますよね。

兼島 今、中山さんと佐久本さんに合わせて少し脚本を直しているところです。佐久本さんも初演の南里さんより若い方なので、もう少し若い設定に変えようと。

中山 そうなんですね。僕はわりと“芝居をしないふうに演じる人”と思われていると自分で思っているんですが、初演の映像で見た主人公のようにライトに事を運ぶべきなのか、それとももうちょっと何か思いを込めた感じがあったほうがいいのか、そこは面白いところですね。あと、佐久本君のほうはかなりキャラクターが変わりそうですよね。なんとなく、ですけど。

兼島 そうですね。沖縄本土復帰50年を迎えたのが初演の時で、その後の本土からの沖縄への見方、たとえば報道のされ方に関しても少しずつ変化があるのかなと思っているので、中山さんがおっしゃったライトな感覚が、1年半前と今では受け取られ方が違うかもしれないなと。そういったことも今、田中さんやスタッフとのミーティングで、たとえば「語尾は違うほうがいいんじゃないか」とか「ここまで言ってしまうと露悪的過ぎないか」みたいにして話し合っている最中なんです。この1年半での社会自体の変化、変わっていない部分も含めて、この再演に反映出来ればいいなと思っています。

『ライカムで待っとく』2022年度初演より(撮影=引地信彦)

中山 劇の序盤、沖縄のタクシーに乗るシーンで、浅野はタクシーの運転手にマウント取られる感じで会話が進むじゃないですか。その運転手を今回は佐久本君が演じるから、若者にマウント取られる感じになるのかなと。それがちょっと楽しみですよね。若者って政治のこととか考えてなさそうに思うけど、やっぱり沖縄に行ってみると、若者ですら何かを引きずっているんだろうな……といったリアルな空気が生まれる可能性がありますよね。

沖縄では「慰霊の日」に上演

――今回はKAATでの公演の後、京都公演、福岡公演、さらに沖縄公演も開催されます(6月22日、23日の沖縄「慰霊の日」に上演)。初演に続き、2024年の観客の心をどう揺るがすのか、注視しつつ自らもしっかり体感したいと思います。

兼島 初演を多くの方に評価していただいたことで、はたしてどんな作品なのかと期待値を上げて観に来られる方もいるだろうと思います。そういった方に対してもやっぱり楽しいもの、面白い作品として提示したいですし、繰り返しになりますが、初演からのこの期間の変化や新たな実感といったものを汲み入れて、新しく提示出来たらいいなと。中山さんを始めとした現場の皆さんの力を引き出せるような脚本にしていきたいと思っています。

中山 お話を伺って、こんなに賞を獲ったりノミネートされた作品だと知らなくて今びっくりしているんですけど、さらに書き直してくれるなんて……!(一同笑)いい作品であることはもう間違いないので、再演をするからには、なるべく多くの人に観に来ていただきたいなという思いが一番にありますね。そのうえで、稽古場でより面白いものに組み立て上げられたらいいなと。稽古場で積み重ねていく楽しみが演劇にはあるので、少しずつ初演とは違った感覚が生まれてくると思います。だから初演を観ている人にも、新鮮な面白さを感じてもらえるんじゃないかな。僕も稽古に入るのが楽しみです。

取材・文:上野紀子 撮影:石阪大輔

<公演情報>
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『ライカムで待っとく』

作:兼島拓也 演出:田中麻衣子

出演:
中山祐一朗 前田一世 佐久本宝 蔵下穂波
小川ゲン 神田青 魏涼子 あめくみちこ

【神奈川公演】
2024年5月24日(金)~6月2日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>

【京都公演】
2024年6月7日(金)・8日(土)
会場:ロームシアター京都 サウスホール

【福岡公演】
2024年6月15日(土)
会場:久留米シティプラザ 久留米座

【沖縄公演】
2024年6月22日(土)・23日(日)
会場:那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場

チケット情報

公式サイト:
https://www.kaat.jp/d/raikamu2024

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