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歴史の“転換点”を描く。ヒュー・ジャックマンが語る『フロントランナー』

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ヒュー・ジャックマン

ヒュー・ジャックマンが主演を務める『フロントランナー』が本日から公開になる。本作は実話を基に、アメリカ大統領選挙で最有力候補(フロントランナー)として支持を集めるも、“ある報道”によって、その存在を消されたゲイリー・ハートの物語を描いているが、ジャックマンは「これは“スキャンダル”に関する物語ではなく、歴史の転換点を描いた作品なんです」と力強く語る。

史上最年少の46歳で民主党の大統領候補になったゲイリー・ハートは、1988年の大統領予備選で圧倒的な支持を集め、“ジョン・F・ケネディの再来”とまで言われていた。しかし、キャンペーンが始まってから3週間後、マイアミ・ヘラルド紙が妻と別居中のゲイリーが若い女性と密会していると報道する。ハート陣営には緊張が走り、選挙参謀はゲイリーにコメントを出すよう求めるが、彼は自身のプライバシーを犠牲にできないとはねのけ、報道は日に日に過激になっていく。

ジャックマンは近年、自身で作品を企画し、製作を務めることもあるが、この作品は監督を務めたジェイソン・ライトマンに惹かれて参加を決めたという。「ストーリーテラーとしての彼が大好きでしたからね」。ライトマン監督はこれまでに『サンキュー・スモーキング』や『JUNO/ジュノ』など様々な題材を扱っており、多くの作品で主人公が自身の“モラル/良心”に向き合い、周囲の声や常識、反対の声に立ち向かっていく姿が描かれてきた。「そういう意味では、ゲイリー・ハートもタバコのロビーイスト(『サンキュー・スモーキング』)や解雇宣告人(『マイレージ、マイライフ』)や妊娠したティーンエイジャー(『JUNO/ジュノ』)と同じなんです!」とジャックマンは笑顔を見せる。

「彼はスキャンダル報道によって大統領候補から“追い出された”と思っている人もいるかもしれません。しかし、ゲイリーさん本人に会った時に彼はこう言ったのです。『私は自分の意思で自ら選挙活動を辞退したんだ』と。彼は報道が出たことで自分のやり方で選挙活動が続けられないとわかった。それに家族を、プライバシーを、そして何よりも選挙制度の神聖さを守りかたかったのです。ちなみに、彼が選挙活動を辞退した3か月に調査したところ、ゲイリーさんの支持率は44パーセントもあった。一方、ライバル候補は16パーセントの支持率しかなかった。つまり、自分でやめると言わなければ、彼は選挙活動を続けられたかもしれない。でもゲイリーさんは自分の信念で活動をやめた。その複雑さにジェイソン・ライトマン監督は魅了されたのでしょう。私もそうです。人間として複雑で、白黒つけられない部分に惹かれたのです」

そこでジャックマンは、ゲイリー・ハートの複雑さを表現するため。リサーチャーの助けを借りながらゲイリー・ハートについて徹底的に調査した。未公開の映像や音声テープも入手し、資料やメモがぎっしりつまった分厚いファイルは最終的に5冊分になった。

「さらにゲイリーさん本人や、彼と一緒に仕事をしていた方にもお会いして話を聞きました」。そこでジャックマンは“あること”に気づいたという。「ゲイリーさんを知る人はみな同じことを言うんです。彼は人を惹きつけるところところがあるのと同時に、まるでバリアがかかっているように“とらえどころがない”部分がある、とね。そこで私はその部分を演技にも取り入れたいと思ったわけです。俳優というのは、観客にすべての決断や感情の変化を見せて、同情してもらったり、共感してもらったりして自分を好きになってほしいと思うものです(笑)。でも監督は『そういう演技はやめて、観客に推測してもらうようにしよう』って」

ジャックマンが語る通り、ゲイリーはスキャンダル報道が出ても釈明などせず、自身の政治信念やアメリカの未来について語り続ける。その結果、スキャンダル報道はさらに広がっていき、彼の政治的な主張や未来に向けたビジョンはかき消されてしまう。よく“信頼は築くのに時間を要するが、失う時は一瞬”というが、私たちは思い込みや、本当は重視すべきではないことを理由に、築き上げてきた信頼を放り投げてしまっていることはないだろうか?

「その通りだと思います! このニュースで報道された出来事は、彼のキャリアのすべてを失うほどのことだろうか? 一例ですが、ゲイリーさんは(アップル創業者の)スティーブ・ジョブズに彼のガレージで会って、ワシントンに戻って“情報社会が到来するので教育システムを全面的に見直す必要がある”と宣言したんです。その事実と、彼が女性と密会したかどうかの情報のどちらが大事なのか? これはすごく重要なポイントです。なのに私たちは30年もの間、この問題を無視してきた。ここで起こった出来事を見つめることで、現在の私たちの社会がなぜこのような状況になったのかがわかると思います。これは“スキャンダル”に関する物語ではなく、歴史の転換点を描いた作品なんです」

誰だってウワサ話やスキャンダルは気になるし、興味がわく。しかし「この映画は、何に“興味”を持つか? ではなく、何を“重要”だと思うか? についての必要性を論じている作品」だとジャックマンは語る。だからこそ彼は「観客それぞれが映画を観て考えてみてほしい」と力をこめる。「劇中のあるシーンでは、ゲイリーがスピーチしている場面を流しているテレビと、彼と妻が必死になって暮らしていたときに撮影されたであろう写真が同じ画面の中に出てきます。監督は観客に問いかけているわけです。“あなたはどっちを観るの?”と」

人々から愛され、信頼される有力候補者が起こしたスキャンダルは彼のキャリアを葬り去るに足る出来事なのだろうか? もしそうだとしたら、あなたにとって“最も重要”だと思うことは何なのか? そして、この映画で描かれる出来事と、私たちが暮らす現在はどこでどのようにつながっているのだろうか? 『フロントランナー』には候補者と選挙活動員とマスコミは次々に登場するが、候補者を選んで投票に行く有権者の姿はほとんど登場しない。「この作品はわかりやすい答えを出したり描いたりはしていませんし、観客に“こう考えろ”と押し付けるようなこともしていません。観客は画面の中の何を観るのか、どう考えるのかを自分で選べるのです」

『フロントランナー』
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