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『はじこい』吉川愛演じるエトミカの成長 いつの時代もラブストーリーが求められる理由とは?

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リアルサウンド

 「わかんないの。どうやったら好きでいてもらえるのか。私が思うのと同じぐらい好きに……」

参考:深田恭子の授業に込められた学ぶことの意味 『はじこい』15歳の自分からの手紙が心を打つ

 “エトミカ”こと江藤美香(吉川愛)がこぼした本音は、1000年以上前に生まれたという古典文学にも通じる。私たち人間は、いつの時代も愛し愛されたいと願って生きてきた。そして2019年の今もなお、愛する相手に必ず愛されるというメソッドは、確立されていない。だからこそ、いつの時代もラブストーリーは色あせないのだろう。

 『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)第3話は、それぞれの想いが徐々に加速していく回に。ただし、主人公であるしくじり塾講師の春見順子(深田恭子)を除いて……。不良高校生の由利匡平(横浜流星)は、なりたくないと思っていた“つまらない大人“とは全く違う順子にどんどん惹かれていく。そんな匡平に一目惚れしたエトミカ。そして、恋愛にはひどく鈍感で、今は匡平との受験勉強に夢中な順子。そんな3人が学ぶのは『伊勢物語』の第24段「梓弓」だ。

 ある男が、田舎に恋人を残して都へ。3年も帰ってこない恋人を待ちくたびれた女は、言い寄ってきた男と結婚の約束をする。いよいよ結婚当日というタイミングで、恋人の男が帰ってきてしまったから、さあ大変。「戸を開けてください」という男に、女は「3年という長い間、あなたの帰りを待ちわびていましたが、ちょうど今夜ほかの方と初めての枕を共にするところです」と歌を詠む。

 すると男は「梓弓 ま弓 つき弓 年を経て 我がせしがごと うるはしみせよ」(長い間、私があなたを愛したように新しい男を親しみ愛してください)と歌を返して立ち去る。男の深い愛情を知った女だが、時すでに遅し。女は「梓弓 引けど 引かねど 昔より 心は君によりにしものを」(私があなたの心を引こうが引くまいが昔から私の心はあなたのもの)と返し、悲しみにくれるのだった。

 これに、エトミカは「つか、3年もほっとくほうが悪いっしょ! 絶対、本気じゃないよ。都に彼女いたって! 男なんて昔からそうでしょ」と大ブーイング。もちろん、この言葉はエトミカ自身の恋愛経験によるもの。彼女の恋愛は、人恋しさばかりが先走り、相手を尊重する“愛の部分”が伴わなずにいたからだ。一目惚れした匡平に対しても、彼がどう思っているかよりも、自分がそばにいたいという気持ちで塾まで追いかける暴走っぷり。そんな彼女は、友人たちからも「重い」と言われてしまうほどだった。

 だが、求めれば求めるほど手に入らない虚しさが大きくなっていくもの。そんな寂しい気持ちを埋めてくれるなら……と、エトミカは『伊勢物語』の女のように、心から愛しているとは言えないけれど、言い寄ってくれる相手と枕を共にしようとする。心では、これが恋愛ではないことは気づいているのだが、その寂しさを埋めるすべを見いだせない。その感情のコントロールができるかどうかが、大人への一歩。自分で自分の機嫌を取れること。しかし、まだエトミカは、誰かに「間違ってる」と言って止めてほしい、と願う“子ども”だった。そこに、颯爽と現れた順子。毅然と男に立ち向かい、エトミカに好きになってよかったと思える“いい恋“をするように諭す。

 もちろん、順子にそんな恋愛経験はない。しかし、情報と想像で、自らの経験を超える話ができるのが、“大人”の持つひとつの力=応用力だ。恋の苦しみはまだ知らないけれど、愛してほしい相手に望む形で愛されない悲しみを、母親との関係性で知っている。匡平との受験勉強を通じて、夢中になるときめきも知ったばかり。恋愛というものがよくわかっていない順子も、誰かに認められ、誰かのために尽くせた日々そのものが、どんな結果になろうとも、自分を成長させてくれるかけがえのないものである、という解を導き出せたのだろう。

 とはいえ、やはり恋愛偏差値は、まだまだ低い順子。長年、順子に想いを寄せてきた、いとこの雅志(永山絢斗)が「梓弓」に感化され、勇気を振り絞って順子をバックハグするも、頭の上に大きなはてなマークが出ているような表情に。そんなふたりを目撃した匡平のほうが、雅志の想いに気づいたはずだ。子ども扱いするにはしっかりしているものの、“大人”と呼ぶには幼い匡平。学力とビジネスセンスは抜群なのに恋愛に不器用な雅志。そして、結婚歴が明かされるなどまだまだ謎が多いが、さらりと距離を縮めてくる一真。彼らの想いはライバルたちの想いを知ることで、今後さらに加熱していく予感がする。果たして匡平の学力アップに全力投球な順子は、自分自身の恋愛力を上げることはできるのか。(佐藤結衣)