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乃木坂46、6度目にして生まれ変わったバースデーライブ “シンクロニシティLIVE”の全貌を解説

音楽

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リアルサウンド

 乃木坂46が7月6日から8日の3日間にかけて、『真夏の全国ツアー2018 ~6th YEAR BIRTHDAY LIVE~』を開催した。毎年恒例となった『真夏の全国ツアー』だが、今年は本来2月に行われる予定だった『6th YEAR BIRTHDAY LIVE』をツアー冒頭に、特別メニューとして実施。2014年から5年連続5回目となる明治神宮野球場に加え、秩父宮ラグビー場もライブ会場として使用され、1日に6万人(明治神宮野球場:3万5000人、秩父宮ラグビー場:2万5000人)、3日間で合計18万人も動員する大盛況ぶりを見せた。

参考:乃木坂46 白石麻衣、2018年上半期CM女王に グループの知名度やイメージも牽引する存在感を読む

 開催発表時から20thシングルのタイトルにちなんで「両会場に全メンバー登場! シンクロニシティLIVE」というキーワードが挙げられていた今回のバースデーライブ。2会場にメンバーが分かれて登場するのか? セットリストは2会場で異なるのか? それによって観客から不満の声は上がらないのか? など、さまざまな声を耳にしてきたが、いざ蓋を開けてみると「なるほど!」と納得させられる、非常に手の込んだ演出目白押しの3日間となった。

 筆者はこの3日間のうち、初日&2日目公演を明治神宮野球場、3日目公演を秩父宮ラグビー場で観覧した。今回は3日間の雰囲気を伝えつつ、各会場ごとに趣向を凝らした演出の数々と、6回目を迎えて生まれ変わったバースデーライブのあり方について記していきたい。

■“シンクロニシティLIVE”とは?

 「シンクロニシティ」とは「共時性」「同時性」「同時発生」を意味する言葉で、意味のある偶然の一致を示している。これが2会場同時開催ライブとどう関係するのか……まず、セットリストを見て納得させられた。

 披露する順序は異なるものの、各日とも2会場で披露される演目は一緒。そのセットリストの組み合わせの中で、あるタイミングに両会場で同じ曲が同じタイミングにパフォーマンスされる。これが“シンクロニシティLIVE”の意味するところだ。

 メンバーは20thシングル『シンクロニシティ』の選抜メンバー、アンダーメンバーの2組に分かれ、それぞれが両会場で同時にパフォーマンスを開始する。開始時点ではそれぞれ選抜曲、アンダー曲を披露していくわけだが、途中で各チームが両会場を行き来し始める。初日6日のセットリストで言えば、頭5曲を選抜が秩父宮ラグビー場で、アンダーが明治神宮野球場でパフォーマンス。MCを挟んでから両チームとも「走れ!Bicycle」「ロマンスのスタート」の2曲を披露し、この間に会場間を行き来するのだ。同パートではメンバーが導線を走ったり自転車で移動する様子がスクリーンに映し出され、その移動時間さえもエンターテインメントとして昇華されたこの演出は、打ち出し方としても非常に興味深いものがあった。

 しかし、移動の様子を見せるのはこの場面のみで、その後は数曲おきに選抜/アンダー、あるいはユニット/3期生とさまざまな組み合わせで、さっきまで隣の会場にいたメンバーが数曲後にはこちらの会場にいるという、観る者を驚かせつつ、次に誰がステージに現れるのかというワクワク感を煽るものとなっていた。

 そういったメンバーの入れ替わり立ち替わりを経て、突如両会場で同じ楽曲が同じタイミングに披露される。この同時発生こそ今回の“シンクロニシティLIVE”の醍醐味で、各会場で隣の会場の様子がスクリーンに映されると、そのシンクロぶりに改めて圧倒させられる。会場は別々ながらも、乃木坂46全メンバーで同じ曲をパフォーマンスするさま、しかも選抜/アンダーと分かれたことで、センター含めひとつのパートを2人のメンバーが務めることになり、ステージでのパフォーマンスとスクリーンに映る隣の会場のパフォーマンスを見比べることもでき、非常に贅沢な楽しみ方ができたはずだ。

 このシンクロぶりはかなり徹底されており、ライブ終盤に花火が打ち上げられる際の“ブレイク”も両会場とも一緒。披露されている楽曲はそれぞれ異なる(選抜は「裸足でSummer」、アンダーは「アンダー」)ことから、花火を打ち上げる“ブレイク”パートから逆算して曲を始めるタイミングを決めていたはずだ。そういった緻密な計算の上で、この“シンクロニシティLIVE”は成立している。ほかにも、ライブ本編で披露された「君の名は希望」では両会場にオーケストラを用意し、指揮者の合図で両会場にて同時演奏。これも一歩間違えばズレが生じてしまうところを、スクリーンでの中継含め完璧に合わせることに成功している。たった3公演のみだが、この力の入れ具合にライブ制作チームの本気が感じられた。

 また、今回のライブ会場となった明治神宮野球場と秩父宮ラグビー場は、それぞれ“野球場”と“ラグビー場”であることから会場の形状や作りが異なる。それにより、両会場で演出が異なる箇所もいくつかあった。例えばアリーナ(グラウンド)に設置された花道も2会場とも違った配置。また、神宮ではセンターステージが上空にリフトアップしたり回転したりする装置が用意されたが、秩父宮ではメインステージとアリーナ後方のサブステージを行き来するムービングステージが用意され、これにより同じ曲でも会場によってメンバーの動きやフォーメーションが異なっていた。

 1曲に対し2つのフォーメーションが存在したり、2会場を行き来するなどの労力を考えると、この3日間(リハーサル期間を含めれば、さらに長い期間)のメンバーの負担は相当なものがあったはずだ。しかも初日は強い雨、最終日は30度を超える炎天下という環境も、彼女たちの体力に少なからずダメージを与えていることだろう。そういったことを考えると……ただただ頭が下がる。

■全曲披露を排除した新たなバースデーライブの形

 まず、乃木坂46のバースデーライブといえば、これまでにリリースされた全シングル/アルバムの収録楽曲をすべて披露するという特徴があった。開始から数年はリリース順にライブが進行していったが、昨年2月の『5th YEAR BIRTHDAY LIVE』は初日が橋本奈々未の卒業公演を兼ねていたことから、リリース順を無視した構成が取られた。また、昨年2月の時点で持ち曲が119曲に達し、今年7月の時点では163曲に達していることから、これだけの楽曲をすべて披露するには最低でも4~5公演は必要になってくる。

 そういう意味でも、デビュー5周年という区切りのタイミングで全曲披露というテーマを一旦終了させ、2時間半~3時間以内に収まるボリュームで、ライブでの人気が高い楽曲を中心にセットリストが構成された今年のバースデーライブは、今後を占う上でも非常に重要かつ注目すべき内容と言えるだろう。

 現時点でリリース済みのシングル20作品のうち、この3日間に披露されなかった表題曲はデビュー曲「ぐるぐるカーテン」と、深川麻衣が卒業タイミングでセンターを務めた14thシングル「ハルジオンが咲く頃」の2曲のみ。周年ライブで乃木坂46の原点といえる「ぐるぐるカーテン」を披露しなかったのは個人的に疑問が残るが、これも全体の流れを考えた苦渋の決断だったのだろう。

 一方で、アンダー楽曲に関しては「13日の金曜日」や「ここにいる理由」「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」「シークレットグラフィティー」といったライブ映えする人気曲に加え、今年1月に発売されたアンダーアルバム『僕だけの君~Under Super Best~』のリード曲にしてこの季節にぴったりな「自惚れビーチ」をセットリストに組み込んでいる。最新シングル『シンクロニシティ』のアンダー曲で鈴木絢音がセンターを務めていることもあり、同じく彼女がセンターに立つ「自惚れビーチ」をセレクトしたのも頷ける。

 ユニット曲に関しては各日とも4曲程度に抑えられており、その中には初日に西野七瀬、2日目に白石麻衣、3日目に生田絵梨花がそれぞれソロ曲を用意。選出された楽曲群は単なる人気曲というだけでなく、セットリストの流れや稼働メンバーと前後の披露楽曲との兼ね合いなども考えられているように思える。

 これまでのようなアニバーサリー感は若干希薄だったが、『真夏の全国ツアー』と銘打たれていることもあり、バースデーライブのみ“シンクロニシティLIVE”という特別感を持たせ、以降のスタジアムライブは今回のセットリストがある程度反映されたものになるのではないだろうか。おそらくここからは、8月8日にリリースを控えた21stシングルの選抜/アンダーを軸にした構成にシフトするだろうが、今回のようなセットリストなら乃木坂46全体に光が当たることになり、次の項で記す「乃木坂46の“今”」を明確に提示できるはずだ。

■4期生加入目前にした乃木坂46の“今”

 今回は選抜メンバーのセンター白石麻衣に対して、アンダーメンバーのセンターに立つ鈴木絢音の存在感に目を奪われた者も多かったのではないだろうか。筆者もここ数年、アンダーライブを通して彼女のパフォーマンスに惹きつけられてきたひとりだが、今年5月の『アンダーライブ全国ツアー2018~中部シリーズ~』で得た自信によって、さらに逞しさが増したように思えた。その結果が、21stシングルでの選抜メンバー初選出につながったと考えれば、すべて合点がいく。

 また、彼女を取り巻く中田花奈、斉藤優里、山崎怜奈ら1~2期生、約1年ぶりにライブにフル参加する北野日奈子、そしてすでに先輩たちに負けず劣らずのパフォーマンスを見せる3期生もそれぞれ存在感を増しており、華のある選抜メンバーとはひと味違った世界観で観る者を楽しませてくれた。こういう大規模なライブでは初めて乃木坂46のライブを観るという人も少なくないだろうし、そういった人たちには「メディアでよく目にする選抜メンバーこそが乃木坂46」という認識があるかもしれない。しかし、まるでアンダーライブが取り込まれたかのような今回のセットリストを通して、「選抜/アンダー含めて乃木坂46」と実感してもらえたのではないだろうか。

 そして、今回の3公演でもっとも興味深かった試みが、初日と2日目公演のアンコールで実施された、抽選による2会場メンバーシャッフルだ。アンコールを待つ間、スクリーンには各会場に登場するメンバーがひとりずつアナウンスされていく。ファンは自分がいる会場にお気に入りのメンバーが来るのか、ここで一喜一憂することだろう。メンバーの名前がアナウンスされるたびに、両会場に響き渡る喜びの歓声と落胆の声。ここまで含めエンターテインメントとして昇華されているところにも、今回のライブに対するこだわりが感じられる。

 メンバーがシャッフルされるということは、つまり1期生から3期生までが入り混じった編成で乃木坂46の楽曲を披露することを意味する。昨年の神宮公演では期生別パフォーマンスが大反響を呼んだが、1年経った今、乃木坂46は本当の意味で“ひとつ”になったのかもしれない……そう思わずにはいられない瞬間だった。「インフルエンサー」では、各会場でダブルセンターを白石麻衣&山下美月、西野七瀬&与田祐希が務めたこともそのひとつだ。昨年のツアーや東京ドーム公演ではまだ遠慮があった3期生も、今回は大きな戦力のひとつとして重要な役割を果たしている。もちろんそれは2期生にも言えることで、乃木坂46は結成7周年を前にまた新たなステージに突入したのかもしれない。

 と同時に、それは8月に控えた新メンバー加入を目前にして、グループがさらに強いものへと進化した表れでもある。2年前の神宮公演以来となる豪雨の中でのパフォーマンスも、初期の彼女たちだったらきっと必死に食らいつくような姿を見せていたかもしれないが、今は違う。その過酷な状況すら楽しんでいるように映り、そこには頼もしさが感じられた。

 昨年末の日本レコード大賞受賞、そして今年4月発売のシングル『シンクロニシティ』は発売初週でミリオン到達。こういった事実から、「乃木坂46の人気は今がピーク」と捉える者も多いかもしれない。しかし、彼女たちは守りに入ることなく、新たな“攻め”の形とともにさらなる成長を続けている。最終日のアンコールで披露された21stシングルの表題曲「ジコチューで行こう!」は今までの“夏曲”とは若干異なるカラーが感じられるし、アンダー楽曲「三角の空き地」も従来の“アンダー楽曲らしさ”を引き継ぎつつ新たな形を見せようとしている。この夏は乃木坂46にとって、今のピーク感を持続させるため、あるいはここよりもさらに上へと登りつめるために、非常に重要な期間になるだろう。そういった意味では、今回のバースデーライブは単なる周年ライブで終わらない、新たな始まりを告げる3日間だったのではないだろうか。これから始まるスタジアムツアーを経て、彼女たちがどこまで坂を駆け上がり続けるのか、引き続き見守りたい。(西廣智一)