注目の実力派俳優・柿澤勇人が、シェイクスピアの金字塔『ハムレット』に挑む!
ステージ
インタビュー
故・蜷川幸雄から芸術監督を引き継いだ彩の国シェイクスピア・シリーズを、見事完結させた吉田鋼太郎。新シリーズを望む声を受け、2024年、吉田が新たに立ち上げる【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】。
その記念すべき第一作『ハムレット』で、タイトルロールを演じるのが柿澤勇人だ。吉田からの信頼も厚い柿澤勇人は、ドラマ『鎌倉殿の13人』『不適切にもほどがある!』、三谷幸喜が作・演出を手がけた舞台『オデッサ』など、映像から舞台まで引っ張りだこの実力派。本格的な稽古を前に、満を持して大役に挑む今の心境と、役づくりへの意気込みを聞いた。
――早速ですが、ハムレット役をオファーされた時のお気持ちと、この大きな役を演じる心境をお聞かせください。
まずは、吉⽥鋼太郎さんが【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】の記念すべき第一作『ハムレット』で、自分をハムレット役に指名してくれたことを光栄に思います。きっかけは2021年に吉⽥鋼太郎さんと共演させて頂いた『スルース〜探偵〜』という2人芝居。それが全編2人で喋りっぱなしの騙し合い、ののしり合い、つかみ合って暴れるという芝居だったのですが、その大千穐楽の楽屋で、鋼太郎さんが「カッキー、ハムレットいけるよ」と確信したように言ってくださって。憧れの役者のひとりであり、演出家として日本で一番シェイクスピア劇に精通されている鋼太郎さんにそんな言葉をかけていただき、嬉しさのあまり「本当ですか、ぜひやりたいです!」と言ってしまったのですが、今となっては、「なぜそんなことを言ってしまったのだろう」と後悔もほんの少し(笑)。
『ハムレット』は、役者なら誰でも一度は挑戦したいと思う作品。海外では名優ローレンス・オリヴィエからベネディクト・カンバーバッチ、日本でも名優と呼ばれる大先輩たちが果敢に挑戦し、それぞれの解釈で素晴らしいハムレットを演じてきました。そこに自分もトライできるのは、本当に嬉しいこと。ただ、偉大な作品ですし、大変な難役です。正直に言えば、今、心底震えています(笑)。なんとか乗り越えたいと思っています。
――これまでたくさんの俳優が演じてきたハムレット。柿澤さんはどのようなハムレットを演じたいと考えていらっしゃいますか。
物語は、王であった父が亡くなり、王位を継承した叔父と自分の母親が結婚するところから始まります。ハムレットは父を非常に敬愛していたので、その状況は彼にとって絶望的でしかない。そんななか父の亡霊が現れ、実は、父が叔父に殺されたことを教えられる。復讐を誓ったハムレットは、叔父を殺そうとしますが、なかなか殺せないんですよね。これは、鋼太郎さんの解釈でもありますが、ハムレットは非常に知的で、頭がよく、優しい王子。もしハムレットが王であれば、戦争などは起きず、国も栄え、人々が互いに愛し敬える国になるに違いないと思える人物なのです。しかし劇中では、世の不正を正すため、狂ったふりをし、自分を犠牲にしながら復讐を仕掛けることになる。 一見、ハムレットがおかしいように見えますが、実はハムレットの方が正しく、(翻訳家・小田島雄志さんの訳によると)「今の世の中は関節が外れている」なのです。物語は悲劇で終わりますが、「もし彼が生きて王になっていたら、世の中は絶対よくなっていたはずだ」、とそう思えるようなハムレットを演じられれば、と思っています。
――この役を務めるにあたって何か取り組まれたことがあれば教えてください。
やはりまずは、膨大なセリフを覚えること。そしてその言葉の意味を理解し、自分の中に落とし込んでいきたいと思っています。『ハムレット』は古い時代のデンマークを舞台にした話でありながら、時代も国も超えて共感できる普遍的なテーマを描いている作品。「人はなぜ愛し、裏切り、憎み、争い、戦争を起こすのか」。セリフも多く、表現も難解ですが、紐解いてみると胸に突き刺さるセリフが詰まっています。あの膨大なセリフを意のままに操れるところまでいければ、人間としても役者としても大きく成長できるのでは、と考えています。
――吉田鋼太郎さんとは、2017年にご本人が演出されるシェイクスピア劇『アテネのタイモン』でも共演されていますね。吉田演出ならではの魅力やエピソードはありますか。
『アテネのタイモン』は、僕にとって初の本格的シェイクスピア劇で、アルシバイアディーズという武将を演じました。劇中でアルシバイアディーズが国に対して、自分が置かれた状況や仕打ちに対して怒りを爆発させながら台本3ページほどのセリフを独白をするシーンがあったのですが、舞台上で椅子などの小道具をひっくり返しながら演じてもなかなかしっくりこない。そんな時、鋼太郎さんが、「カッキー、何をしてもいいから、客席で全部やってみて」と言ってくださり、恐る恐るやってみるとこれがピタリとハマったんですよ!ご自身も俳優をされているからかもしれませんが、僕には思いつかないようなアイディアを授けてくれて、ポンと良さを引き出してくれるような演出をされる方だと感じました。今回もたくさん導いて頂くことになるだろうと思います。
――シェイクスピア作品といえば、独特な比喩表現で知られていますが、柿澤さんにとって特に印象に残るセリフなどはありますか。
まだ深く読み込む前の段階ですが、ハムレットが親友のホレーシオに対して「弱点をもって生まれた人間の宿命」について語るセリフがあります。どんなに気高く美徳のある人間でも、欠点が1つあると、そこだけにフォーカスが当てられ、それがすべてのように語られてしまう、というような内容です。これは現代にも当てはまることですよね。また、シェイクスピアが紡ぐセリフの魅力は、最初は核心に触れず、観る者に「何のことだろう」と思わせておいて、次第に物語の本質に迫っていくところではないでしょうか。最初から「復讐」と言ってしまえば、セリフも半分ほどで済むんですけどね(笑)。オリジナルのシェイクスピア劇は、古い英語で韻を踏んで書かれた詩的なセリフ回しを楽しむ部分も大きいですが、日本では言葉の違いもありますから、言葉の意味を通してその世界観を表現していくことになると思います。
――『オデッサ』のような新作と、『ハムレット』のような歴史ある舞台では、役づくりへの心構えや向き合い方に違いはありますか。
『オデッサ』は新作ということもあり、稽古場で「つくって」「壊して」というトライ・アンド・エラーを繰り返して上演にたどり着いた作品でした。それに対し『ハムレット』は、まず小田島さんの翻訳に忠実なセリフを、稽古までにどれだけ体に入れておけるかが重要だと思っています。テーマもメッセージ性も深く、感情の振れ幅も大きいので、その道のりは長く険しそうですが、ただ暗記するだけでは意味がありません。生半可な覚悟では鋼太郎さんに見透かされてしまいます(笑)。「本当に死にたいのか」「本当に復讐したいのか」「本当に殺したいと思うほど叔父が憎いのか」、一つひとつの言葉を自分の思いとリンクさせ、独白やセリフを話すことができれば成功だと思っています。
――舞台だけでなく、ドラマや映画など映像の仕事でもご活躍されていますが、映像と舞台では、演技をするうえでどのような違いがありますか。
僕は、舞台と映像で少し演技の方法を変えています。映像だとカメラが寄ってくれますし、色々な面で調整もきますからね。どちらかといえば、映像の時はなるべく表現を削いでいくイメージですね。逆に、舞台の場合は3階席の一番後ろの方まで、言葉とエネルギーを届けなくてはなりません。それが映像にはない舞台の魅力だと思うので、演じる際は絶対的なエネルギー量が必要だと思っています。お客さまと同じ時間と同じ空間を共有する喜びは舞台ならでは。舞台は、一度、始まったら止めることはできませんから、そこが怖くもあり、楽しくもあるところです。
――最後にメッセージをお願いします。
『ハムレット』はとにかく「言葉」と「体」でメッセージを伝えきることに集中する“究極の作品”になるだろうと感じています。また、僕の役者人生の中で、後にも先にも、最も膨大な量のセリフをしゃべることにもなると思います。ぜひ劇場で、シェイクスピア劇がもつ普遍的な言葉の力と世界観を味わっていただけると嬉しいですね。
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1 『ハムレット』
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2448581
<埼玉公演>
公演日程:5月7日(火)~26日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
<宮城公演>
公演日程:6月1日(土)・2日(日)
会場:仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
<愛知公演>
公演日程:6⽉8⽇(⼟)・9⽇(⽇)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
<福岡公演>
公演日程:6月15日(土)・16日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
<大阪公演>
公演日程:6月20日(木)~23日(日)
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ