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美波が持つアイロニカルな批評性 新世代シンガーソングライターの“詩人”としての才能を読む

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 過激な禁断恋愛コミックを原作にしたTVアニメ『ドメスティックな彼女』(MBS、TBS、BS-TBS)のオープニングテーマ「カワキヲアメク」でメジャーデビューを果たした、シンガーソングライター・美波。彼女の言語感覚は新しい。新しいというよりは、かつての日本の音楽にはあったが失われてしまったものがあると言った方が正しいかもしれないが、とにかく今の時代にはとても新鮮に見えるし、歌詞を視覚化する技術が発達してきている現代との親和性も高いアーティストだと言えるだろう。だから、彼女が紡ぐ“歌のことば”は、できれば歌詞カードを目で見ながら聴いてほしい。カラオケやYouTubeの字幕でもいい。耳で聴いた “歌のことば”がどう表記されているのか。漢字なのか、平仮名やカタカナなのか。そこまでを含めての表現と考えているのではないかと思う。

(関連:家入レオが語る歌への意識と自己プロデュース「どれだけ曲と自分の人生を濃く結びつけられるか」

■ここまで発表した楽曲の再生数は累計1,500万回

 ここで、彼女の経歴を簡単に振り返っておこう。中学生時代に見た尾崎豊のライブ映像に心を打たれ、歌詞を書き始めた彼女は高校に入学後にギターを購入し、本格的に音楽活動をスタートさせた。2017年に当時、19歳で参加した「第2回フライングドッグオーディション」でグランプリを受賞。同年の12月にタワーレコード限定のミニアルバム『Emotion Water』と1stシングル『main actor』をリリースし、2018年夏には、渋谷クアトロ公演を含む全国ツアーを開催した。メジャーデビュー前にして10代を中心に性別を超えた幅広い層から支持を得ているのは、弾き語りなどを配信しているツイキャスでの活動に加えて、YouTubeにアップされた動画の影響が大きい。2019年2月1日時点で、デビューシングルのカップリングに収録される「main actor」(2018年2月21日公開)は202万回、「ライラック」(同年6月12日公開)は863万回、「ホロネス」は307万回(同年8月3日公開)の再生数を突破。121万回の「Eternal Love」、81万回の「monologue」と合わせて、全5曲の累計再生数は驚異の1,500万再生超を記録している。彼女のファルセットやウィスパーを使いながらもスピード感を失わない独特の歌唱法で繰り出される、困惑と不安と諦めを抱える壮絶な爆発力と切れ味を持つ歌詞に心を打たれ、画面に映る文字に釘付けになった人も多いのではないかと思う。

 例えば、バーチャルとリアル、嘘と真実、仮面と素顔がワルツを踊りながら入れ替わるロックナンバー「ホロネス」には〈否〉に〈ああ〉、〈偽〉に〈うそ〉というルビがふられている。また、欲望だらけの心の渇きを切実に叫ぶフォーキー、かつ、ジャジーでもあるスリリングなアッパーチューン「カワキヲアメク」は〈未熟 無ジョウ されど 美しくあれ〉という刺激的なフレーズから始まる。〈無常〉なのか〈無情〉なのかは聴き手の想像力に委ねられたということだろう。さらに、〈思いもしないおもい言葉〉と韻を踏んで歌っている〈おもい〉という箇所に〈軽い〉という真逆の漢字が当てられ、2番の〈思いもしない重いうそ〉の〈うそ〉は〈真実〉になっている。この、一般的には対義語と言われるような言葉をいわば同時に発し、鏡合わせの両面を混在させながら、説得力のあるエモーションで歌うことで、聴き手には切迫した、不安的で激しい感情がまっすぐに伝わってくるのだ。

 〈人生そうハイに/人生そう前に/人生聡明に〉と韻を踏みながらグルーヴを作る一方で、〈憂憂憂憂憂憂憂〉と意味と感情が一致した言葉でスケール感を広げていく「ライラック」、現代の日本の風土や生活に根ざした等身大の言葉を乗せて、ギターをかき鳴らしながら歌う「main actor」や「Prologue」。強さと弱さが共存したボーカルからも美波の結集した歌唱センスを感じるし、フォークからラップ、ジャズにロックとジャンルの枠にくくれないサウンドプロポーションも魅力的だが、やはり、独特のアイロニカルな視点や批評性(自己顕示欲や存在証明に躍起になっていた過去の自分も含めて)もデビュー作からこれほどまでに確立しているのは稀だろう。まずは新世代の詩人としての才能に触れてみてほしい。(永堀アツオ)