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静かで豊かな物語『ポート・オーソリティ』が開幕

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『ポート・オーソリティー港湾局ー』より

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アイルランドを代表する劇作家コナー・マクファーソン。彼の代表作である『海をゆく者』のアンサープレイとも受け取れるのが、流れに身を任せ、海を見つめる静かな生き方を選んだ3人の男の物語『ポート・オーソリティ-港湾局-』だ。

今回は、2021年にコナー・マクファーソンの『ダブリンキャロル』日本初演を手がけた翻訳・常田景子、演出・荒井遼が再タッグを組み、若者・ケヴィン役に崎山つばさ、西山潤、櫻井圭登、橋本祥平。大酒呑みの中年・ダーモット役に眞島秀和、山中崇。老人ホームで暮らすジョー役に平田満、大谷亮介と、実力派が集結した。崎山つばさ、眞島秀和、平田満という組み合わせで行われた公演初日の様子をレポートする。

劇場に入ると、ステージには突堤を思わせる形で床材が敷かれ、その周りに錨や浮き玉、どこかから流れ着いたようなガラス瓶、ランタンなどが並ぶ。波の音が聞こえ、夜の港にいるような雰囲気だ。

物語は3人がそれぞれ直面している問題や人生について独白する形で進み、言葉を交わすことも視線が交わることもない。同じ舞台上で一人芝居が3つ、同時に上演されているような雰囲気が。だが、時折同じベンチに座ってモノローグを語る姿から円や繋がりのようなものを感じられるのが面白い。

崎山が演じたのは、進むべき道を決めかね、「とりあえず家を出て友人たちとルームシェアする」という行動を起こす20代のケヴィン。向こう見ずな若者かと思いきや、自分や友人の状況を冷静に見ていることがモノローグからわかって興味がそそられる。大人になりきれていない青年の迷いや鬱屈した気持ち、女友だちに対する複雑な思いも、崎山のちょっとした表情の変化、声の調子からひしひしと伝わってきた。

崎山つばさ

眞島は、転職によって突如セレブな世界に飛び込んでしまった中年男性の混乱をチャーミングに表現する。ユーモアに満ちた台詞回し、他のふたりよりもにぎやかな独白が楽しい。不安を誤魔化すために酒を飲んでは次々に失敗する様子に笑いながらも「この人はどうなってしまうんだろう」とハラハラした。突き抜けた情けなさがだんだんと可愛らしく見えてくる。

眞島秀和

そして、平田が演じたのは妻に先立たれて老人ホームに入居した男。後悔を伴う淡い思い出を噛み締めるように語る様子は、実直に年を重ねてきた老人の落ち着きと少年のような純真さの両方を感じさせる。優しいおじいちゃんから特別な秘密を教えてもらっているようなソワソワした気持ちで聞き入ってしまった。

平田満

リーディングのため動きによる表現はそれほど多くない。文化の違いもあり、「アイルランドではそうなんだ」と驚く部分も。しかし、キャスト陣の芝居や演出が丁寧に作品と客席を繋いでくれることで、いつの間にか3人に対してすっかり親しみを覚えていた。

また、語り手の3人は自ら人生を切り拓くというよりは淡々と日々を過ごすようなタイプ。そんな彼らと対照的に、自分から行動して進む道を決めているように感じられる女性たちの存在も印象的だ。様々な感情が詰まった独白によって自然に想像が膨らみ、リーディングの醍醐味を味わえる作品に仕上がっていると感じた。

この日は終演後に演出の荒井遼と崎山つばさによるアフタートークも。ラスト付近で台本を外す演出は初日2日前に崎山のアイデアによって決定したこと、朗読劇ならではの難しさ、作品の印象などを和気あいあいと語るふたりに、客席は様々な反応を見せていた。千秋楽以外の日程で終演後のアフタートークが予定されているため、各キャストがどんな芝居を見せてくれるかはもちろん、終演後に何を語ってくれるのかも楽しみのひとつと言えるだろう。

取材・文:吉田沙奈

<公演情報>
『ポート・オーソリティー港湾局ー』

公演日程:2024年3月28日(木)~3月31日(日)
会場:シアタートラム

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/portauthority/

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