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Base Ball Bear、新レーベル設立と今後のビジョン スリーピースの熱量詰まった『ポラリス』語る

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 Base Ball Bearが1年9カ月ぶりの新作となるEP『ポラリス』をリリースした。4つの新曲と昨年開催された『日比谷ノンフィクションⅦ』のライブ盤との2枚組から成る本作は、徹底的な音の引き算を施しソリッドな説得力に満ちたスリーピースバンドとなったBase Ball Bearの今が浮き彫りになっている。そして、本作からBase Ball Bearの作品は自身が設立したレーベル<Drum Gorilla Park Records>から発信されていく。サウンドと歌詞の変化、そしてレーベルを立ち上げた理由と今後のビジョンも含めてメンバー3人にたっぷり語ってもらった。(三宅正一)

(関連:Base Ball Bearは今、バンドにとっての“青春”を迎えている 弓木英梨乃迎えたツアー最終日を観て

■音数は減ったかもしれないけど、熱量は増えたと思う

ーー『光源』以来、1年9カ月ぶりのリリースになるわけですが、ライブを中心に活動してきた中で、新しい音源を作りたいという欲求もどんどん高まっていましたか?

堀之内大介(以下、堀之内):新しい音楽を作ることがリアルになったのは3人でライブをやるようになってからですね。

ーーなるほど、サポートギターに弓木英梨乃さんを迎えていたフェーズが終わってから。3人でライブをやるようになったのはいつごろからでしたっけ?

小出祐介(以下、小出):弓木さんにサポートをお願いしていたのは去年の2月いっぱいですね。

ーー3人でライブをやるようになってからの手応えは?

堀之内:自分の立ち位置からの見え方も変わって。ステージ後方のど真ん中に自分のドラムセットがセッティングされるのも新鮮だったし、あとは音数が一つ減るだけでこんなに変わるんだなという気づきがありましたね。特に昔の曲をやるときにどういうアレンジにすれば3人でよりよい演奏ができるのか考えるようになってから「これで新曲を作ったらどうなるんだろう?」という頭になっていって。

ーー関根さんはそのあたりどうですか?

関根史織(以下、関根):弓木ちゃんと演奏するのもすごく刺激的で楽しかったんですね。ただ、やっぱりサポートの方にお願いするとどうしてもその場の空気で演奏するのは難しい部分もあるんですよ。だけど、3人だけだと言わずもがなの空気で演奏できる場面があるので。その空気感によってアウトロが伸びちゃったりもするんですけど(笑)、それってやっぱり長年バンドやってきたメンバーとでなければどうしても共有できない部分だったりすると思うので。3人になったときはそれがすごく心地よかったですね。音数は減ったかもしれないけど、熱量は増えたと思います。

ーー間違いないですよね。それはこの新しい音源にも如実に表れていることで。

関根:ロックバンドとしてこの感じをもっと突き詰めていけたらと思いますね。もう一つ先へ行けるような気がしたからこそ、3人でやっていきたいと思ったし、音源でもそれを表現したかった。

ーー変な話、ライブを見てる以上にスリーピースのアンサンブルのすごみをこの音源で感じると思ったんですよね。

関根:その気概はすごくありました。スリーピースで新たにアンサンブルを構築していくやりがいもあったし、きちんと演奏に自信のあるバンドになりたいと思ったんですよね。まだまだ自信のない部分もあるけど、そこときちんと向き合って戦いながらやっていくという気概があるんですよね。

ーーそれはホリくんもそうでしょ?

堀之内:うん。まぁ、でも関根さんのほうがやっぱすごかったんですよ。

ーー伸び率が?

堀之内:伸び率というか、熱量が。

ーー中邑真輔に倣って言うと滾ってる感じだ。

堀之内:そう、まさに。俺はその滾ってる感じに影響を受けたって感じですね。関根さんの熱量に対して自分が応えられる最大限を出そうと。それをやった結果がこうなる、みたいな感じですね。ライブも新曲も。

ーー小出くんがマテリアルクラブの制作を進めているときにリズム隊はスタジオに入って、それが実際この盤にはすごく活かされてますよね。作曲クレジットにも初めて関根さんの名前が記されていたり。

堀之内:そうですね。関根さんと2人でスタジオに入ったときに30パターンくらいの(リズムセクションの)ループのデモを聴かせてもらって。「1回のスタジオじゃ消化しきれない!」ってなったんです。これはすげえなと。で、俺は一回そのデモを持ち帰って、一人でスタジオに入ってドラムのフレーズを考えてまた戻してということをやったり。

ーー小出くんは関根さんの滾っている感じをどう見ていたんですか?

小出:滾ってるかはわからなかったですけど「まぁ、やれるでしょう」って思っていたので。

ーー心配することがないという。

小出:そんな感じだったから(リズム隊でスタジオに入る話を)振ったって感じですね。

ーー関根さんの熱量はチャップマンスティックを弾くようになったのも大きいんですかね?

関根:というよりも、やっぱり近年は楽器を弾くのがすごく好きだなと思っていて。チャップマンスティックもそうだし、ベースのこともさらにすごい好きになって。30パターンのデモについても、こいちゃん(小出)から「ループを作って」って言われる前から自分のフレーズのネタ帳みたいなが存在していたんですね。それは人に聴かせる用じゃなくて、みんなで制作に入ったときや誰かとセッションしたときに自分の中で迷いなくフレーズが出るようになんとなく録り溜めていたもので。

ーー小出くんはスリーピースでライブをやるようになったこの1年はどういう実感がありますか?

小出:あんま覚えてないな(笑)。もちろん、曲を覚え直さないといけないとか、そういうことはありましたけどね。リードギターが何をやってるか確認するとか、そのフレーズをコピーし直さないといけないとか。自分で考えたテーマリフも多いけど、それらをずっと弾いてたわけじゃないから。「あっ、こういうフレーズだったのか」って思ったりね。で、必要な部分だけ抜き出してみるという作業をして。あとは自分が弾きやすいように弾き方を改変したり。でも、それは苦ではなかったし、むしろ余分なものをババッと捨てられたんですよ。そこで残ったものをブラッシュアップするという感じですかね。やや専門的な話になっちゃいますけど、普段はカポタストを付けて演奏していた曲を、それをなしで弾くようになったりとかして。今までは開放の音が弾きたいからカポを付けて弾いてたんですけど、それを外さないとリードの幅を持てない。アドリブで弾く部分も多いので。そうやって自分のギタリストとしての変化は当然促されました。でも、僕からすれば今までバッキングしかやってこなかったところから、ギターが上手くなるいい機会にもなったんですよ。

ーーあくまで前向きに捉えられた。

小出:そう。練習するのも楽しいという感じですね。3人になってからずっとやってることでもあるんですけど。あとは、僕は今までもけっこう色んなことを弾いてたはずなんですけど、意外と知られてなかったんだなって。見る人が見ればわかってたかもしれないですけど、やっぱり3人でライブをやるようになって「小出くんってこんなにギターが弾ける人なの?」みたいな反応もあって(笑)。3人になってからは「ちゃんと演奏を見せなきゃ!」とか「ちゃんと盛り上げなきゃ!」とか、そういう視点が増えましたね。

■究極的にはドラムとベースだけでも歌えるということ

ーー新曲のアイデアはライブをやりながら頭に浮かんだりしていたんですか?

小出:いや、具体的にどういう曲を作りたいというのはなかったですけど、ただ『光源』の曲をライブでやってみて反省点がいくつかあって。『光源』は3人で作ったアルバムだったけど、音源としてはいろいろ音を盛る方向の作品だったからライブでやったときに3人だと手が足りないと感じる曲があって。

ーーなるほどね。

小出:去年のツアーでスリーピース編成で演奏していく中で、「そもそもこういうスリーピース然とした曲の作り方をすればストレスを感じないじゃん!」と思って。音を盛ることはマテリアルクラブでやれるし、バンドはどれだけ音を引いていけるかという発想が明確になって。音数が少ない中で何をどう積むか。そういう考え方になれたので、バンドがやるべきことで悩まなくなった。

ーー今作は全曲そういう発想と方法論で作られてると思うけど、特に「PARK」なんか全編リズムとラップと歌だけで転がしていけるんじゃないかと思えるし。

小出:「PARK」もね、最初はいろいろカッティングとかも弾いてたんだけど、「それは邪魔だ!」と思って。

ーーまさにリズム隊でスタジオに入って生まれた賜物というかね。

小出:そうですよね。詞曲が先だとこういう曲にならないから。先にリズムを作ったところにラップと歌とギターを乗せていくことができました。

ーー「試される」もリズムが先ですよね?

小出:そうです。

ーーこのリズムで、ドナ・サマーの「Hot Stuff」、サザンの「マンピーのG☆スポット」的なリフを弾くというね。

小出:ストリングスとかシンセでこのフレーズを弾くとそれっぽくなるんだけど、これだけ削ぎ落とされたサウンドプロダクションでこのギターリフだと、言われないとわからないみたいな。重要なのはディスコっぽい曲をスリーピースで、削ぎ落としたサウンドでやろうとしてるということですね。

ーー最近の小出くんはBase Ball Bearについて語る際に“ソリッド”という言葉を多用してますけど、まさにその具現化がこの盤だと思うんですね。

小出:そうですね。

ーーロックバンドとしてのイカツさがあるというか。それは説得力ということでもあるんだけど、ソリッドというのはロックバンドの強さ、迫力、怖さみたいなところにも繋がってくるなと。「いろんなバンドがいるけど、スリーピースのロックバンドでこういう迫力を出せる人たちはどれくらいますか?」って真顔で言ってるみたいなね。

小出:ありがとうございます。

堀之内:それはめちゃくちゃうれしいですね。バンド的にそういうふうに思われるというのが。

ーーそれはスリーピースだからこそたどり着いたフェーズだと思うんですね。SANABAGUN.の高岩遼くんがこの前、言ってたんですよ。Base Ball Bearと対バンしたときにやっぱりバンドとしてすごいと思ったって。あの人ってあまりそういうことを言わないから。

3人:あははは。

堀之内:そう、それもうれしかったんですよ。打ち上げのときもサナバのメンバーがすごく褒めてくれて。

小出:俺は遼くんと打ち上げで全然しゃべらなかったけどね。

堀之内:俺は朝まで一緒だったから。最後にラーメン食って帰ったけど(笑)。そういう意味でも去年は対バンをたくさんやれたのは貴重な機会でした。日比谷野音のRHYMESTERとペトロールズとのスリーピース3マンもそうだし、キュウソネコカミのように音を埋め尽くしたすごく強いバンドとも対バンをしたこともそう。俺らって、もともと10代のころから同じようなジャンルで括られてバンドと対バンしてきたわけじゃないんだけど、あらためて今のBase Ball Bearのフレッシュさを対バンを通じて感じることができたんですよね。

ーーOKAMOTO’Sのニューアルバム(『BOY』)にもそういうことを感じたけど、結局楽器を説得力をもって鳴らせる人がミュージシャンとして一番強いと思わせてくれるなって。

小出:バンドをやってる以上は、最後はその戦いになってくると思うんですよ。僕はそんなに人のライブを観に行かないけど、人のライブを観たときに一番ショック受けるのってそこなんですよね。「こんなにかっこよく音出してるのか!」って思わされると一番凹むというか(笑)。歌もそうですけど、楽器がすごくいい音で鳴ってるなって思うと「殺されてたまるか!」みたいな気持ちになる(笑)。「いや、こっちが殺さねば!」みたいな。言葉は悪いですけど、本当にそのくらいの気持ちになるんですよね。OKAMOTO’Sも全員演奏がしっかりしているし、スキルがあるからこそああいうアルバムを作れるわけで。僕らも、4人時代を経て、鍛錬の時間を経て「どうですか、この太い骨!」みたいなマインドがありますね。

ーーそうだよね。“血と骨”って感じだもんね。

小出:そうそう。装飾品なしで「怖いだろ!」みたいな。

ーーホリくんもミュージシャン仲間の反応を早く知りたいんじゃない?

堀之内:そうですね。昔からの付き合いがあるバンドは特にあきらかにバンドの音が変わったことがわかるじゃないですか。ミュージシャン友だちに聴いてもらって、面白いしヤバいと思ってもらえたらいいなって。

ーーあと、ロックバンドはこんなにいろんな音楽を咀嚼できるし、自由なんだよということをスリーピースの削ぎ落とした音で表現できてもいますよね。

小出:そうですね。そもそもロックっていうフォーマット自体が本来は何でもありだから。そのうえで「あなたにとってロックとはなんですか?」みたいな、その意味を拡張していくところにやっぱ面白みがあるわけじゃないですか。

ーーうん。

小出:だから、僕らは同じところで足踏みをするのを最初からつまらないと思っていたバンドで。どこまで秘伝のタレを継ぎ足してロックの概念を更新できるかということにずっと一番興味があるんですよ。でも、今はすごく邦楽ロックマナーがしっかりできちゃっていて、多くのバンドがそのマナーに則って邦楽ロック的な音楽を表現しようとしているから。

ーートレースしているというかね。

小出:うん。「その型をトレースし続ける理由はどこにあるのだろうか?」って思うから。それをピュアに追い求めるというやり方も一つありだと思いますけど、僕らはそれを最初から疑っている立場なので。引き続きそれを疑い続けていこうと思います。やっぱり日本だけだからですね。これだけ音を盛ったロックが流行ってるのって。世界的な音のトレンドはどんどん音数を減らしてグルーヴで聴かせているのに日本だけJ-POPもロックもアイドル音楽もすごく音を盛っていて、さらに展開まで多い。曲の中のピークを必死に作ってるみたいな。ドメスティックな面白さはあるのかもしれないけど、それは土を耕すことになっているのかなぁと。そんな中、僕らは音が減ったことによって、最大よりも最小を作れるようになった。そこで僕が思ってるのは究極的にはドラムとベースだけでも歌えるということなんですよね。僕自身はそういうバンドになりたいって『C2』(2015年11月リリース)くらいから思っていて。ドラムとベースだけで歌えるというふうになったから、僕はその分どれだけギターを弾きすぎずに弾くことができるかというチャレンジをやれるようになって、ついにバッキングがうるさいって思ったんですよね。

ーーついにね。

小出:「試される」も最初はバッキングを入れてたんですよ。マナーから言えば、リフの後ろにバッキングが鳴っているのは通常運転。だけど、それをやるとうるさく感じたんですよ。ドラムとベースがしっかりしてるから、いらない。ギターにちょっとした余韻があれば、それでコード感が聴こえる。そういうフレーズにできたわけです。だから通常運転ではアウトロで盛り下げないためにバッキングを弾くんだけど、リズムが太いからいらないとなる。そういう局面にこれたのは大きいですね。

ーーそういう意味でも今のBase Ball BearはAlabama Shakesとかを聴いてるときの感覚とそう遠くない迫力があると思うんですよね。

小出:うれしいですね。Alabama Shakesとか生の怖さに満ちてるもんね。

ーー自主レーベルの話もしたいんですけど、レーベルを作るということは他のアーティストの受け皿にもなる可能性も今後含まれるわけですよね?

小出:そうですね。

ーーあとは、リリースの在り方も含めて活動自体のハンドリングを自分たちで能動的にしていくと。

小出:ここまでの話でも出てきたけど、それぞれのメンバーのバンドに対する主体性というかーー僕がリーダーでホリと関根がいてとかじゃなく、2人も「ちゃんと3人でBase Ball Bear」ですよということを感じているはずだから。なので、活動の方針を切り替えるにはちょうどいいタイミングなんじゃないかと思ったんですよね。新作もこういう純然たるスリーピースのサウンドというか「骨太で怖い音にしたれ!」と思っていたし、ここでバンドのアティチュードとしても切り替えてくのはちょうどいいのかなって。

ーーホリくんと関根さんはどうですか? レーベルを立ち上げたことについて。

関根:正直、私は具体的にレーベルをどうしていこうとか、そういうところまで考えられない性格ではあるんですけど。ただ、言わずもがなのこのモードは、バンドのムードとして漂っていたし、私も3人で新しい扉をちょっと開けてみたいという気持ちだったので非常にワクワクしました。

堀之内:俺も可能性は広がったなって思ってますね。単純にこいちゃんが言ってるように、このバンドは自由だなってあらためて思うんですよ。去年、こいちゃんがマテリアルクラブの活動をしている裏で俺もサポート仕事をやらせてもらったりして。團長(氣志團の綾小路翔)の生誕ライブでビッグバンド編成のドラムを叩かせていただいたんですけど。ボーカルが5人いて、管楽器と鍵盤が入ってという編成で叩いたときに、こいちゃんがマテリアルクラブでやってたような音数の多さを、ベクトルは違えど俺も実際そのタイミングで体感してたんですよね。で、そういった貴重な経験を経てバンドに戻ってきたときに「この自由度ってすごくいいな」って思ったんですよ。今後は自分の年齢の半分以上をバンドで過ごすことになるんですけど、そういうタイミングでまたフレッシュな気持ちを味わえているのが幸せだなと思うんですよね。あとはやっぱり2人がすごく頼もしいんですよ! こいちゃんのギターソロにパッと変わるタイミングがまた新鮮だったりして。だから、自分ももっとやれることがいっぱいあるなって思います。

ーー話を戻すと、小出くんは今後のレーベルのビジョンをどう描いてるんですか?

小出:んー。希望としてはさっき言ったように、いつかは他のアーティストも所属するようになっていいと思ってます。これからのアーティストのあり方として、今までだったら事務所とレーベルがあって、作品をリリースする際のいろんな工程があるじゃないですか。曲を作りました、それがCDになります、プロモーションやります、雑誌に出てテレビに出てラジオに出てというプロモーションを経て、作品がお店に並びますと。でも、どんどんそういう時代じゃなくなるのは間違いないわけで。それを踏まえてどうやって音楽でご飯を食べていくのか、それに紐づけてどうやってバンドの活動を回していくのか。自分たちはどれくらいの規模感のアーティストでいるのか、ということもそう。そのためにどれくらいの収益を出していかなければいけないのかーーそういうところも含めてアーティスト自身がちゃんとコントロールして効率よくやっていくような選択肢がもっとあってもいいなって思っていて。誰かのその選択肢の中にうちのレーベルがあって、気があったりすれば所属してもらったりしてもらえたらなと。まだ新作がリリースされたばかりだからちょっとわからないんですけど、自分たちがこのあとそういう気持ちになれたらいいなって思ってるのが、お客さんとより濃密な関係性を築くということなんですよね。それは、単純にファンと近いという意味ではなくて。たとえば今回だったらスリーピース編成のライブを経てこういう作品を作りましたと。それを踏まえてこういうプロモーションをしようという手順を踏まえてお客さんの元に作品が届く。で、作品を聴いたお客さんがライブに来る。またそれを踏まえて僕らがまた新しい作品を作るという活動の循環であり、それはバンドにまつわる経済もそうですね。お客さんが僕らの作品に対して対価を払いたいと思ってくれて、払ってくれたお金によってBase Ball Bearが回っていく。そういうサイクルが前よりも濃密になったらいいなと思ってるんですよね。そういうDrum Gorilla Park Recordsなりのサイクルを使ってみたいと感じてくれる子たちがいてタッグを組めたら、また新しいレーベルの回転が生まれるのかなって思うし。

ーーDGPR宛にデモ音源を送りたいという若者がいたらどうすればいいですか?

小出:それはまだ早いかな(笑)。まだ看板しかないからね。

ーーさっきの話にも繋がるけど、これからどういう人たちと対バンするということも、リアルにレーベルのカラーであり希望にもなってくると思うんですよね。今まで交わったことのない人を呼ぶ対バンツアーとかもやってほしいですけどね。

小出:それはね、近い将来にありえると思います。自分たちのアティチュードを立体的にしていくための対バンというかね。

堀之内:今までやってなさすぎたよね。

小出:そうそう。

ーー小出くんのマインドが開かれたというのも大きいですよね、そこは。後輩とコミュニケーションをとったりとかもそうだし(笑)。

堀之内:そうなんですよね。対バンとか今までやりたがらなかったですもん(笑)。対バン後の打ち上げもそうだけど。あと楽屋の雰囲気とかもそう。キュウソのオカザワ(カズマ/Gt)くんもウチのバンドをずっと聴いてたって言ってくれて。アンコールで一緒に「changes」をやったんですけど、それもすごくよかった。

ーー小出くんのマインドが解放されるにあたって、RHYMESTER主催のフェス『人間交差点』に出たことも大きかったのかなって。

小出:それはあると思う。『人間交差点』こそ音楽フェスだなって感じがしたから。アーティスト自身がオーガナイザーになって、そのアーティストがリスペクトする人や好きな人や繋がりのある人を紹介するフェスというのが、一番健康的だと思いました。

■説明できないものとして歌詞にすることを初めて自分に許してみた

ーー新作の話に戻すと、これ、曲順が逆でも成立するとも思うんですよね。「ポラリス」1曲目で、「PARK」が2曲目とか。

小出:そうだね。だってタイトル曲が4曲目だからね。

ーーその意図はなんだったの?

小出:なんだろうね? でも、自然と。エンディング曲は「ポラリス」だなって。最初からそのつもりでした。

ーー「ポラリス」はバンドアンセムじゃないですか、言うなれば。

小出:バンドのテーマソングですよね。

ーーこういう曲を今作ろうって思えるってことだもんね。数年前だったらありえないわけじゃん?

小出:ありえないですよね。

ーーバンドのことを歌うっていう、もしかしたら小出くんは一番そういうのを嫌がってたっていうか。

小出:そうかもしれないですね。実際、どういう歌詞にするべきか最初から悩んでいて。メンバー3人で歌ってそれぞれソロ回しがあるというのは決まっていたんだけど、何を歌えばいいのかわからなかった。メンバー紹介的な内容の歌詞を乗せた曲ってあるじゃないですか。アイドルソングとかザラにあるから。

ーーラップのマイクリレーも然りね。

小出:そうそう。17年バンドをやってるおじさんとおばさんで、そういう歌詞を歌うの気持ち悪いなって最初は思って(笑)。

ーーでも、ずっとバンドのことを追いかけてるファンの人は泣いちゃうだろうね。

小出:かもね(笑)。でも、自分としては面白い曲として書いたんですよ。

ーー“3縛り”で歌詞を構築したり。

小出:そうそう。

ーーKREVA氏の「挑め」という曲、知ってる?

小出:曲は知ってるけど、歌詞はしっかり知らない。

ーーあの曲は逆に3を言わないって歌詞なんだよね。

小出:なるほどね!

ーーたとえば〈俺は東京事変より能動的〉っていうフレーズがあったり。能動的だけど3分間って言わないとか。

小出:ああ、なるほどね! 3って絶対に言わないんだ。発想が近いね。「ポラリス」も4だったらできない曲ですね。パート分けも難しくなってくるし。あと、ウチのバンドのロゴが最初から三角形だったっていう。だからこのタイミングでまたこういうジャケができるしね。

ーー歌詞のトピックに関しては「試される」は推理小説的な視点に現代社会批評を重ねていくような視点だし、「PARK」も社会風刺的な筆致で、「ポラリス」はバンドの歌。で、2曲目「Flame」は少年から成人になっていく上で覚える喪失を引き連れて生きてくというような、歌詞として受け止めたんですけど。

小出:歌詞の全体の束としてこういうことを書こうというよりも、それぞれの曲でどういうことを言ったら似合うかなというところから始まってるから。

ーーまぁ、それもEPだからこそできることだよね。

小出:うん。「試される」に関しては、最初のプリプロのときからサビだけは〈試される〉って歌っていて。そのフレーズが強いなって思ったからそのまま活かそうと。リスナーも一発で覚えられるだろうなと思ったし。「じゃあ何に試されてるのかな?」「一番試されてる状況ってなんだろう?」って考えたら、たまたま旅行で行った館で殺人事件が起きて、そこに閉じ込められてなんか知らないけど連絡船が来ない、電話線も何者かに切断されてるという状況が浮かんで。

ーーなんでだよ(笑)。

小出:「絶対にこの中の誰かが犯人だ! じっちゃんの名にかけて!」っていう状況が一番試されてるよなって。

一同 (笑)。

小出:で、「今、生きているうえで本当に試されてることはなんだろう? って考えたら、「そもそも今この日本で生きてること自体がが試されてるんですけど~~」って思ったというね。

ーーってことですよね。

小出:「いや、フィクションじゃなくて!」という話を2番の歌詞でしていて。3番で自分が守らねばと思っていたヒロインが犯人だったパターンだったときに、いよいよそこまで自分が守ってきた価値観が揺らぐのが一番試されるじゃんという。虚構から、現実に。そしてさらにその両方を兼ね備えた3番へみたいな。

ーー「PARK」はラップだからこそ言えるワードを時代に対してぶつけていると思うんですけど。デモの段階でサビで〈試される〉ってワードが出ていたということは潜在意識がそう言わせてるのかなとも思うのね。

小出:あると思う。だから、ポロッとアンガーってことですよね。わりと腹立ってる、ずっと。

ーーそういうことですよね。

小出:「PARK」に関しては、Drum Gorilla Park Recordsというレーベル名が 先に決まってたんですよ。それで「PARK」の歌詞の内容を詰めている時に“Gorilla Park”というものがそもそも動物の公園だなと思って。それで、動物の比喩の曲を書こうと思って。寓話っぽい感じで、いろんな動物が出てくる歌詞の中で怒ってみようと(笑)。マテリアルクラブを経て自分の中にラップという武器ができたのも大きいですよね。

ーー〈僕はクラブ活動で知ったって 自分というキメラ〉というフレーズもマテリアルクラブからBase Ball Bearに対するアンサーを自分でしているというか。

小出:そう、これは「00文法」から引用しました。自分から自分へのパスということで。

ーー総じて歌詞のアプローチにおいて新しい切り口がまた生まれたという感じですよね。

小出:そうなんですよね。「Flame」も僕的にはそうなんですよ。ざっくりしたテーマは、イニシエーションなんですけど。通過儀礼。「っていうか、一生通過儀礼じゃん!」と思って。

ーー人生という終わりなき通過儀礼ね。

小出:そう。たとえば、失恋や家族との死別とかもそう。そういう経験を重ねて大人になっていくと仮定するのであれば、これって一生続く通過儀礼のようだなと思って。死んだときに通過することが終わるーーという視点から書き始めたんですけど、これって言葉で説明するのがすごく難しいんですよね。感覚的なことだなと思うから。僕はやっぱりどこかで作詞するうえでストーリーテリングしたがるし、一から百まで説明できる歌詞に落とし込むとすごい限定的な話になってしまう。ある物語における話になっちゃうというか。でも、そうじゃなくて、「Flame」の歌詞では自分でも説明できない感覚を、そのまま説明できないものとして歌詞にするということを初めて自分に許してみたんです。だから、この歌詞のことを百で説明できないんですよね。7~8割は自分でも何でこういうふうに書いたのかなと理解できる部分もあるけど、残りは今後「Flame」を歌っていくことで見つけていこうかなと思ってます。

ーーなるほど。ファンの人はスリーピースになったときの心情を踏まえてこれからのことを歌ってると受け止める人もいるだろうしね。

小出:そういうふうに捉えるのも間違いじゃないと思うし。明確に自分でも正解を持ってないから。逆にそれですとも思わないっていう。でも、それが本来的には歌っぽい歌詞なんじゃないかなと思って。言偏に寺と書いて詩というか、ポエム。そういう筆致でやっと書けましたね。だけど比喩としては全体的に火にまつわることを書いてる。最初のサプライズもね、最後まで読むと誕生日サプライズに引っかかってるという。〈死神〉もそうです。これは落語ネタですけど。本作は2つ落語ネタがありますから。

ーー「ポラリス」の歌い出しの〈志ん朝の三枚起請を聴きながら〉ね。これもすごくいい歌だしだなと思った。

小出:志ん朝も、三代目古今亭志ん朝ですから。

ーーああ(笑)。そこでも“3”を言ってないっていうね。

ーー粋だなぁ。

小出:粋ですよ。江戸っ子なんで(笑)。

ーーそうですね。この4曲を経てここからどういうことを歌っていきたいかというテーマは見えてきたんですか?

小出:これから?

ーーそう、アルバムに向けてとか。いつもわりとそこに悩むじゃない?

小出:でも、マテリアルクラブを経て言葉ともっと戯れたいみたいな気持ちになってる。それもあって、リミットを解除した部分が何個もあるんですよ。固有名詞を解禁したこともそう。それによって描けるリリックの幅はハンパなく広がったんですね。

ーースリーピースのミニマムなサウンドの中で響く言葉の強さや相性というのもありますよね。

小出:あるある。

ーースリーピースのほうが固有名詞がより響くというか。

小出:うん、それはあると思いますね。あとは、さっき言った「Flame」のように自分のまだ解決してない気持ちっていうのをまとめていいんだって思えてるから。これ、星野源さんの言葉を借りるのであれば思ってる中で一番近い言葉がこれかなってチョイスを僕は「Flame」でやっていて、これがありならもっとやれるわって。

ーーじゃあ今後はリラックスして歌詞を書けそうな予感もある?

小出:うん、リラックスできてると思いますね。

ーーそれめちゃくちゃデカいじゃないですか。

小出:めちゃくちゃデカいです(笑)。たとえば、青春感みたいなのは「ポラリス」を聴いてもらえばわかる通り、もうどうしても出ちゃうものなので。作為的に書かなくても出ちゃうもんだから。

ーーどんな服を着ても、どんな髪型にしても顔は変わらないみたいなもんだよね。

小出:そうかもね。バンドの佇まいにもそれは帯びるし、どうしても消せないので。そこは引き連れて行こうと思ってます。そのうえで問題が解決してないなりの機微というものを書いていけたらなと思ってますね。

ーー今、新曲のデモとか作ってるんですか?

小出:作ってません(キッパリ)。でも、すぐ制作を進めると思います。あとは関根さんが作ってくれるし(笑)。

関根:作ります(笑)。

堀之内:頼もしい(笑)。(三宅正一)