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The Wisely Brothers 真舘晴子が語る『私は、マリア・カラス』 「年代も超えるほど人に伝わる」

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リアルサウンド

 オペラと聴くと、あまりなじみがないなぁと思ってしまいました。思い浮かぶのは、ある日届いた友達からの手紙の最後のほう、パリのオペラ座で見た有名な天井の画の感想が綴られたこと。そのとき、実際にその画をすごく見てみたくなったこと。あとは好きな映画の一つであるジャン=ジャック・ベネックス監督の『ディーバ』。冒頭、青い光の当たる舞台で、歌姫Divaが歌うアリアの歌唱。そのようなひどく少ない知識でした。現代ではどのくらいの人が実際にオペラを観たことがあるのでしょう。マリア・カラスのドキュメンタリー映画『私は、マリア・カラス』を観終えたあとに私は、マリア・カラスにもっと早く出会いたかった、実際に観たことのないオペラというものを今からでも知りたいと思い、なんだか悔しくなりました。

参考:The Wisely Brothers 真舘晴子が語る『ザ・スリッツ』 「女性であることの可能性はどんな方向にも生かせる」

 マリア・カラスは、なぜこんなにも歌に気持ちがあるのだろう。彼女の唄う歌は、おそらくほとんどがこれまで誰かに何度も演じられてきたオペラ。その詩や曲を自分が作っているわけでなくとも、彼女の歌には、ものすごい力が込められている。

 これまで、オペラとは歌の種類の一つのことだとすこし勘違いしていたので、映画のなかのオペラ映像の断片から、曲の歌詞と作曲者に疑問を持ちました。歌われている曲の情報として何度か表示された作曲者たちの名前からイメージしたのは、イタリアの有名な男性作曲家でした。それに対して、歌詞の内容は、とても乙女チックだったり、情熱的だったり、悲壮的だったり、とても物語的。この歌詞は、作曲家のプッチーニが書いているのか、それとも違う作詞家がいるのか、そうだとしたら誰が書いているのだろう……と思ってあとで調べてみて、オペラというのは演劇と音楽の舞台芸術であることをやっと理解しました。なので、その中の詩というものは、台本作家がつくるケースが多く、詩人としても有名な作家が選ばれるということでした。

 そんな物語の歌詞に、なぜここまで心を注ぎ込めるのか。「大勢の人にうたごころを感じてほしい」というマリアが印象的でした。彼女は13歳からオペラの道を歩んでいますが、自分はごく普通の女性であると主張していて、美しい曲を聴くのも見るのもすき。自分自身が本当に感動できるから、退屈だと思われがちなオペラを観客の心に届けたいと言うんです。セリフを歌うオペラ歌手は、歌手であり女優でもあります。オペラのシーンを観ていると、普段私たちが話している言葉は、歌でもあるんだと改めて思いました。物語の中で、そのときの気持ちや風景を、自分の歌の音色や声の強弱で表現する。そんな姿から、「ではあなたにとっての、うたごころとは?」と聞かれているような気持ちにもなりました。自分の内から湧き出た歌を聴いてほしい。そう自然に思う気持ちが、彼女の声の努力と才能に加わった大きな力なのだと思います。私も、もっと歌で自分のこころを表現できたら、その時どんな気持ちになるだろう。

 そんなマリア・カラスは、結婚や恋愛、体調不良による公演の中止、契約解除など、様々な出来事に対して、厳しい意見や、理不尽な批判を強く受けます。それでも、友人との手紙のやり取りでは、たとえ自身の体調が良くないときだとしても、「心配しないで、手紙を書いて」と最後に記していたところに、前を見る強い気持ちを感じました。批判がいくらあったとしても、友人の言葉や応援してくれる人の拍手ひとつから、彼女は愛を受け取る。ひとりで願うことはいつも、打ち勝つ力をくださいというものでした。常に、いいことも悪いことも乗り越える自分を望むマリア・カラスが本当にカッコいい。そんなことって、当たり前にできることではないのです。久しぶりのNY公演に並ぶファンの列には、今の自分と同い年くらいの男の子がいたりして、マリア・カラスのオペラは、年代も超えるほど人に伝わるものであったことに頷きました。

 自分の生み出した言葉でなくても、自分自身でなくても、そこに自分を表現できること。もしくは、自分でないからこそ、より自分になれること。そのことから生まれる美しさ、というのは、まだまだ私の知らない要素だと素直に思いました。そしてそれをもっと今に見るべきだと。この映画を観ながら、自分の歌への思いとは、どんなものだろうと考えました。

 「歌は私の唯一の言語だから」とマリアは言います。この言葉が彼女の歌とつながって、私たちは何も言えなくなってしまうのでしょう。

 マリア・カラスがこんなにも心をそそいだ、オペラというものを早く実際にこの目で観てみたい!(真舘晴子)