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井上道義、最後のオペラは《ラ・ボエーム》 ダンサー森山開次が演出

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会見の模様

井上道義指揮、森山開次演出により、今年9~11月に全国7都市で新制作上演されるプッチーニ《ラ・ボエーム》(全国共同制作オペラ)。井上や森山、主要キャストらが出席して発表会見が、11日にミューザ川崎シンフォニーホールで開かれた。

今年限りで指揮者引退を表明している井上道義。一番の注目はやはり、彼にとってこの《ラ・ボエーム》が最後のオペラになるということ。京都市交響楽団やオーケストラ・アンサンブル金沢はじめ、自身のキャリアにゆかりの楽団・自治体との共演にもなる井上は「感無量」と語った。

「よく感無量というが、今回はその言葉を使いたい。人間は歳をとるとダメになる。心温かい人たちは、それを枯れた芸術と言ったりするが、ぼくは自分の一生をどう生きたらいいか考え始めた60年前の中学生の時からそういうのは疑っている。音楽というのは青春の息吹。生きている喜び。《ラ・ボエーム》を選んだのは、今の自分が持っていない青春というものへのあこがれ。人間が、ほとんどいるはずのない神というものを信じようとするように。

ぼくは音楽家になりたいと思って指揮者になったわけじゃなく、舞台で一生を終えたいと思った。なぜなら世の中は虚偽に満ちているから。世の中は全部ウソじゃないか。だったら思いっきりウソついて死んでやる。舞台で思いっきり素晴らしいウソを作れたらいい。ぼくがあこがれる演出家や歌手のみんながそれを一緒にやってくれて、こんなにうれしいことはない。人はやめることを自分で決めてよいはず。みなさんもきっと考えると思う。その良い例にしたい」

この「全国共同制作オペラ」は、超ジャンルの演出家の起用も特徴のひとつ。オペラ演出経験の有無に関わらず、というより、初めてオペラを手がける演出家を軸に起用することを意図しているように見える。近年の上演にも、野田秀樹(演劇)、笈田ヨシ(俳優)、河瀨直美(映画監督)、矢内原美邦(振付)、岡田利規(演劇)、上田久美子(宝塚)、野村萬斎(狂言)と、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。ダンサー森山開次も、2019年の《ドン・ジョヴァンニ》がオペラ初演出。前回に続いて井上とのタッグで登場となる今回は、演出だけでなく、振付、美術、衣裳も手がける。

《ラ・ボエーム》にダンスがどのようにフィットするのかは最大の関心事だ。森山は次のように語った。

「無理にダンスを入れる必要はないと、始めに井上さんから言われている。この作品でどういう身体表現ができるだろうか。単なるダンスではなく、いでたちや、たたずまい、仕草というところに身体表現があると思っている。歌とともに躍動する身体、たたずまいを届けたい。また、4人のダンサーが入るので、彼らをどう演出するかは見てのお楽しみ。ダンサーも《ラ・ボエーム》の芸術家の一員に加えさせてもらって、屋根裏部屋で一緒に生活する思いでやっていきたい」

また、「ひとつだけ、お客様に視点のフィルターをかけたい」として、「藤田嗣治」という独自の切り口を挙げた。《ラ・ボエーム》が初演された時代に、物語の舞台であるパリで活躍した日本の画家(のちにフランスに帰化)。

「日本人から見た視点。藤田嗣治という日本人画家がフランスに行き、フランスの一員となっていく。画家であるマルチェッロ役にその藤田の視点を掛け合わせることで、違う視点が生まれる。パリを見る私たちの視点。どんなことが可能なのか、いろいろ相談しながら作り上げていきたい」

舞台模型

ちなみに今回の公演のチラシやポスターなどのビジュアルに使われているのは森山の画。会見場に置かれていた舞台模型も、森山自身の手で製作したものだそう。多才。

会見に出演した歌手はミミ役の高橋絵理(ソプラノ)、ロドルフォ役の工藤和真(テノール)、ムゼッタ役の中川郁文(ソプラノ)、マルチェッロ役の池内響(バリトン)の4人。それぞれの役をイメージした服装でというドレスコードがあったそうで、高橋は自分で編んだショールを羽織り、中川は華やかな赤のワンピースで出席したが、ひときわ目を引いたのは池内。髪型まで含めて森山の語った藤田嗣治そっくりに寄せてきた。

「全国共同制作オペラ」は、単独では予算的にも事業規模的にも実現困難な大規模なオペラ・プロダクションを、全国の劇場や自治体が力を合わせて制作しようというプロジェクト。今年は7つの劇場が参加して行なわれる。上演予定は以下のとおり。ミミ、ムゼッタ、コッリーネ、ショナールの4役はダブル・キャスト。開催地ごとに地元のオーケストラ・合唱が出演する。

取材・文:宮本明
※高橋絵理の「高」はハシゴダカです。

全国共同制作オペラ
プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」

(画:森山開次)

全4幕/イタリア語上演/日本語・英語字幕付き/新制作

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450371

9月21日(土)・23日(月・休)
 東京芸術劇場コンサートホール(管弦楽:読売日本交響楽団)
9月29日(日)
 名取市文化会館大ホール(管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団)
10月6日(日)
 ロームシアター京都メインホール(管弦楽:京都市交響楽団)
10月12日(土)
 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール(管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団)
10月19日(土)
 熊本県立劇場演劇ホール(管弦楽:九州交響楽団)
10月26日(土)
 金沢歌劇座(管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢)
11月2日(土)
 ミューザ川崎シンフォニーホール(管弦楽:東京交響楽団)

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