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「ゴジラ-1.0」でアカデミー賞受賞、白組のVFXスタッフが「ゴジラxコング」を鑑賞

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左から高橋正紀、渋谷紀世子、野島達司。

「モンスター・ヴァース」シリーズの第5弾にあたる映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」が、4月26日より全国で公開される。

「ゴジラvsコング」のアダム・ウィンガードが監督を務めた同作は、ハリウッド版の「ゴジラ」シリーズと、「キングコング:髑髏島の巨神」の世界観がクロスオーバーしたもの。2021年公開の「ゴジラvsコング」の続編にあたり、怪獣たちの歴史と起源、そして人類の存在そのものの謎が明らかになる。

このたび、第96回アカデミー賞で視覚効果賞に輝いた「ゴジラ-1.0」の制作に携わった白組に所属するVFXディレクターの渋谷紀世子、3DCGディレクターの高橋正紀、エフェクトアーティスト / コンポジターの野島達司に、同作を鑑賞してもらった。

取材・文 / イソガイマサト 撮影 / 佐藤類

“人間が出てこない群像劇”が面白い(高橋)

──まずは「ゴジラ×コング 新たなる帝国」をご覧になった感想からお聞かせください。

渋谷紀世子 怪獣バトルがてんこ盛りの映画だなって感じました。そこにフォーカスを当てていたので、集中して入り込むことができましたね。

高橋正紀 僕は逆に、もっと“怪獣推し”なのかなと考えていたんです。そしたら意外にも、人間の群像劇をゴジラやコングに置き換えて描いていたじゃないですか? セリフをしゃべらない怪獣たちを巧妙に利用して、髑髏島の先住民・イーウィス族の少女ジアがコングとテレパシーでしゃべるという設定も取り入れている。そこがすごくうまかった。

渋谷 そのあたりは前作からやっていることだよね。

高橋 そう、そこがすごくいい。ゴジラとコング推しの映画だとみんな思うだろうだけど、実際は“人間が出てこない群像劇”。そこを僕はすごく面白く観ましたね。

野島達司 僕はもう、普通にクオリティが高すぎだろうと思いながら観ていました。

渋谷 ノジ(野島)はそこがやっぱり気になるんだね。

野島 まさに「ハリウッド映画はこうでなくちゃ!」っていう感じですよ。圧倒的なクオリティと物量で、水とかいっぱい出てきちゃうし。何も意味がなさそうなシーンでも水が出てくるから驚きました。

渋谷 ゴジラが何気なく海に飛び込んだり、コングが水辺ではしゃいだりするからね。

野島 あの水の表現1つだけで、チャリチャリチャリーンって課金しちゃう感じです(笑)。

──皆さんが目を見張ったり、驚いた具体的なシーンを教えてください。

高橋 自分たちも同じ仕事をしているからわかることですけど、この映画を観て、キーライト(主光源として被写体を照らすライト)が強いところはやっぱリアリティが出しやすいんだなと改めて感じました。特に、ゴジラとコングが戦うブラジルのシーンになると、抜けている空とのコントラストも出て、途端にリアリティが増すんですよ。それと比べると、フルCGのジャングルなどは立体感がちょっと乏しい。VFXをやっている人なら必ずそこが気になるはずだし、あの一連を設定の通りやるのはすごく難しい。ハリウッドの人たちも、僕たちと同じ苦しみを味わっているんだなということが観ていてわかりました。

野島 ただ、コングたちが暮らしている地下空洞のジャングルはライティングが超不思議で。よくあの設計で、自然に見せているなと。太陽もないし、空もない。本当は奥からしか光が来ないから真っ暗になっちゃうはずなんだけど、たぶん地上と同じようなライティングも絶妙な配分で混ぜてるんでしょうね。普通に考えたら、大変な作業ですよ。

渋谷 最初のうちは、おっ、何、この光は?って思ったけど、それがだんだん気にならなくなる。むしろ、空のディテールを感じるようになったし。

高橋 実際は地底だから、最初のうちは天井のあたりは黒身で。それをライティングでだんだんそっちに処理していったんだなという印象でしたね。

とんでもないクオリティだし、妥協がどこにもない(野島)

──野島さんは、先ほどもちょっと話に出た、水絡みで印象に残るシーンもあったんじゃないですか?

野島 そうですね。水のシーンはどこのVFXスタジオがやったんだろう? WETAデジタルなのか? スキャンラインVFXなのか?と思いました。本当に細かいディテールまで表現されていて。あの1カットを作るだけでも相当なコストがかかるはずだから、どうやってやるんだ?という感じでした。

──ご自身も「ゴジラ-1.0」でやられたじゃないですか?

野島 僕たちはいろいろ制約があって、あんなに重さを感じる表現はできなかったんです。それに、お金を掛ければできるというものでもないし、その仕組みの開発のところから未知の部分が多かった。たぶん、WETAなどの内部で開発されたテクノロジーやノウハウで作られたものなんでしょうね。

──ゴジラが飛び込んだり、泳いだり、橋を破壊したり、水絡みのシーンはいっぱいありました。

野島 めっちゃありましたね。最初のほうのシーンで、コングとミニコングのスーコが水辺で水を飲んでいるときに襲われたと思うんですけど、あそこでもちゃっかり水に入るし。シチュエーションとは何の関係もないから「あっ、ここで入るんだ?」となって。入るまでは、水は(視覚効果的には)水じゃないんですよ。ただの板と同じような表現で済むから。なのに、急に水に変わったから驚きました。

──なんで、ここでわざわざこんな面倒なことをするんだ?と。

野島 でも、そのあと水から怪獣が出てきたので、それならしょうがないって感じでした。あの水に入るシーンだけでもとんでもないクオリティだし、妥協がどこにもないんですよ。あれをどうやって成立させているんだろう?

高橋 僕たちはすぐにコストを考えちゃうからね。やりたいことがまず前提にあるんだろうね。

野島 僕たち日本人は、このカットをよくするためには、こっちのクオリティはちょっと落とさないといけないとか、バランスを考えながらやるけれど、この映画はすべての画がいい。いくらでもクオリティの高いカットを増やしてやるぜ!みたいなものを感じましたからね。

──それができるのがちょっとうらやましい、みたいなところもありますか?

高橋 うらやましいですよね。確かに水に入らなくても描けるシーンだけど、それをわざわざ水でやったんだということを見せつけられるわけですから。

エフェクトの厚みや奥行きがものすごい(渋谷)

──コングが引きちぎった怪獣の臓物で汚れた身体を洗う、滝のシーンはいかがでした?

野島 滝はギリギリ、僕たちでもいけますね。すべて霧みたいにして。水って体積があるから、それがヤバいんですよ。

渋谷 重みと表面上の輝きなどなど、ディテールの違う多くの要素の集合体という形であの水辺は作られているわけですからね。

──ゴジラが泳いでいるシーンはどうでしたか? ご自身もやられましたけど。

野島 全部すごいです。水の切り方とか、飛び上がったときの水のサイズも全然違うから、「ゴジラ-1.0」とは比べられない。「-1.0」のゴジラはそもそもあんなスピードで泳がないんです。今回のゴジラはすごいスピードで泳ぐじゃないですか? 水がすごく高いところまで上がったし。

高橋 でも、泳ぐところは、野島がやったものも全然悪くなかったよ。

渋谷 そう。そこは私も負けていないなと感じて。

高橋 「負けてない」と言うと語弊があるけど、がんばってるんじゃないかな。

野島 でも、がんばってやっとあのカット数ですから、あんな映像をバンバン見せられたら圧倒されますよ。

高橋 あの物量は、「ゴジラ-1.0」のVFXをやった35人では無理だね。

野島 エフェクトアーティストの技量も感じました。単純にお金の問題だけではなく、すごく細かいところまで気にしながら作っている。

渋谷 エフェクトの厚みや奥行きがものすごくあるしね。

野島 ハリウッドの映画は全部そうなんですけどね。遊び心もあるし、ゴジラが熱線を吐くところなども、ただ吐くだけではなく、周りにどんな影響をもたらしているのか?といったことまで、ちょっとした味つけでちゃんと表現している。どういう編成で制作しているのかわからないけど、そういうところにも、関わった人たちのこだわりを感じました。

渋谷 私は、地下空洞のシーンのフォグ(霧)とライティングがすごいなと。特に、フォグは奥行き感があったから、それで地下空洞がすごく広いところなんだなっていうのがわかって。このぐらいの奥行きでいいかなって適当に作るのではなく、ずっと奥まで必要だからという考えのもとでやっている。そこは、見習いたいです。

高橋 僕は、ミニコングのスーコが地上に出てきたときに「意外と大きいんだな」と感じた(笑)。

野島 そこなんですよね。スケール感が変わる。前半部分では、コングに最適化された木々や岩がある世界観で。あまり大きくないという認識をそこですり込ませておいて、人間の世界に来たら、でかいという。ああいう表現がやっぱりいいですよね。急にでかく見えるっていうのが!

高橋 あれにはビックリした。これはでかいわ!と思った。

野島 それとコングたちがいっぱいいるシーンがあるじゃないですか? あのあたりも、ちょっと動きの遅い人間たちみたいに見えるけど、あいつらの殴り合いを地上でやったらとんでもないことになるんだろうな。

渋谷 街とか、そういうレベルじゃないよね、あの世界観は。

野島 あれはヤバいですよ。街の表現ももちろんすごかったけど。

今回のゴジラはオートマティックの銃みたい(高橋)

──ゴジラとコングの表現に関してはどうでしたか?

高橋 すごかったです。それこそ、熱線を吐くシーンも「-1.0」のゴジラはリボルバーの拳銃のように、弾数が決まっていて、溜めて溜めてドン!って感じだけど、今回のゴジラはオートマティックの銃みたいに、チャージしてからガンガン放出し続ける。そのあたりの表現が、やっぱり僕たちとはちょっと違いますね。

野島 僕はまず、ゴジラのディテールがすごすぎるなと。肉の動きというか、マッスル感というか、ちゃんと中に骨と肉が入っている。僕らはそこをやってないような気がします。

渋谷 私は人間のキャスト並みに、カメラがゴジラやコングにバンバン寄るのに驚きました。私たちはバンバン寄れないと言うか、寄るのが大変で。ゴジラにしてもコングにしても、寄ったときのディテールを表現するための物量はとんでもない多さですからね。

高橋 どの怪獣もよく動くしね。

渋谷 だから、それぞれの骨格や上顎、喉の奥はどうなっているんだろう?とか、地味にそういうところばかり見ちゃって。特に瞳がすごくよくできていて、生物らしさがちゃんと感じられるものになっていましたよね。

──ゴジラの造形は、皆さんがお作りになったゴジラと比べてみてどうでした?

高橋 こっちのほうが、動きも含めてトカゲに近いですよね。「-1.0」のゴジラは監督の山崎(貴)さんの「ファースト(第1作のゴジラ)をやりたい。ファーストだけど、もっとかっこよくしたい」という考えであのデザインになったわけだから。

渋谷 山崎も、初期の頃の検討デザインではけっこう生物感のあるものを描いていたんですけどね。でも、そこはやっぱり、演出したい内容にどうしても影響されて、初代に近い神聖化されたものになっていった。今回はそれとは違って、俊敏なゴジラを考えて、あのデザインになっていったんじゃないでしょうか。

野島 股の下が大きく空いているから、動き回れる感じがしますよね。「-1.0」のゴジラはあんまり動けない。

高橋 山崎さんが「動かすな」って言うからね。「ゴジラは動いちゃダメなんだ」って。

渋谷 「-1.0」は“ゴジラは動くものじゃないんだ”という前提で作ったけれど、こっちは動き回るし、脚も長いよね。

スケール感をわからなくしているのもうまい(野島)

──ゴジラとコングのバトルシーンはいかがでした? ゴジラが背負い投げをしたり、コングがアッパーカットを繰り出す描写もありましたが。

渋谷 「-1.0」のゴジラとはスピード感が圧倒的に違いますよね。コングもゴジラも1つひとつの動きが俊敏で、アクションがリアル。コングのパンチもそりゃ重いだろうなと感じるものだったから、あれをあのスピードで繰り出されたらって考えただけで「うわー痛いだろうなー」と感じました。

──特に後半は鉄のプロテクターを右手に着けていますしね。

渋谷 そうそう、さらに強化されちゃった。

野島 スケール感を前半と後半で分けているというさっきの話とも関連しますが、エジプトのシーンでもそれが一貫されていて。ピラミッドが小さく見えると言うか、ゴジラやコングとどっちがでかいんだ?となりました。

渋谷 コングが登場する前は、ピラミッドも人との対比で見せていたからね。

野島 あれが普通の街だったら、ゴジラもコングも超でかく見えちゃうはずなんだけど、あそこではスケール感をわからなくしているのもうまい。コングが地下にもう一度戻るシーンなどを入れたりして。

渋谷 で、大きさを忘れたところでもう一度出てくるから……。

野島 めちゃめちゃ大きい!っていう。あの、サイズ感のタメがいいんですよ。

──ローマのコロッセオの中でゴジラが丸まって寝ているシーンもいいですよね。あの場面は、東京タワーに繭を作った東宝映画の「モスラ(1961年)」を彷彿させます。

渋谷 すごくチャーミングでした。ローマに行って、コロセッオの前を通ったら、ゴジラがいい感じに丸まって寝ている姿を想像しちゃうかもしれない。

──登場シーンは少なかったですが、今作のモスラはどうでした?

野島 光っているのがいいな、光り続けてほしいと思ってました。そもそも、どういう原理なんだ?みたいな感じもしましたけど。僕、怪獣は全然詳しくないけれど、羽がすごく横長なのが意外といいなと。

高橋 僕たちが知っているモスラとはちょっと違うよね。

野島 もうちょっと、蝶々っぽいと言うか、蛾っぽいですよね。なんか、すっと横に広い感じがよくて。

高橋 モスラはそうしたほうがカッコいいと考えたんじゃない?

野島 きれいでした。

渋谷 生物感をかなり優先したんでしょうね。

高橋 寄りもすごくよくできている。ある意味、ちゃんと見たのは初めてかもしれないけど、モスラの顔ってこうなってるんだ?と思ったから。

野島 ただ、寄りのカットって、全部同じアングルじゃなかったですか?

渋谷 ああいう“ザ・モスラ”みたいなアングルがあるんじゃないのかな? ただ、私は昆虫が苦手だから、今回のモスラを見たときに「うわー、けっこうリアルに虫だ!」とドキドキしちゃって。それくらいリアルだった。

都市の崩壊もあるし、砂も溶岩も氷も煙も出てくる(渋谷)

──エジプトの砂の表現についても聞きたいです。

高橋 砂のVFXは水と同じくらい難しいんですけど、ピラミッド絡みのシーンはかなりリアルでした。素材はすごくても設定やレイアウト次第で絵画っぽくなっちゃうことも多いし、その条件をきれいにそろえるのは簡単ではないんですよ。でも、そこがうまくいっていたような気がします。

渋谷 それにしても、エフェクトがてんこ盛りだったね。都市の崩壊もあるし、砂も溶岩も氷も煙も出てくる。

野島 僕はなんだかんだ言って、木や葉がいちばんヤバいと思いました。コングが歩くたびに揺れなきゃいけないから。

渋谷 ワサワサって揺れるもんね。

高橋 俺は野島と違って、映画を観るときはあまりクオリティを意識しなくて。仕事柄、もちろん見ることは見るんだけど、あまり気にしない。でも、ローマの最初の戦いのときだけは、ゴジラがぶつかって破壊される建物に目が行きましたね。あのとき、壊れるものにどれくらい影響しているのかな?と。うち(白組)がやるなら、どこまでやるんだ?とも考えたし、意外と遠くのほうまでは壊れていないのを確認したときは、これはうちが広い画で同じようなものを撮るときの参考になるなと感じましたね。

渋谷 それで言うなら、私は氷の杭みたいなものがガンガン地面から突き出してくるところですね。

野島 あれ、人には当たらんのか?って感じました。

渋谷 でも、刺さりそうになりながらものすごい勢いで逃げている人たちの作り方は、めっちゃ参考になる。そのときの恐怖感をどうやって出すのか、みたいなカット構成にはどうしても目が行きますね。

高橋 うまく避けているけど、実際は何もないグリーンバックの前で演技しているのがわかるから、もっと避けたほうがリアリティがあるのかな?と考えたりもする。役者さんにやってもらうわけだから難しいところだけどね。

渋谷 私は監督から届いたプロットを見て、それをどう撮影に落とし込んでいくのかをみんなと相談しながら固めるのが仕事なので、そういうところにどうしてもフォーカスしちゃうんですよ。

──ほかにも、実写とVFXがうまくマッチしていたシーンはありますか?

野島 全部ですね。ゴジラやコングが人や街と絡むところはすべてグリーンバックだろうけど、どこまでがセットでどこからがVFXなのかわからないです。

渋谷 人が触るところはセットだろうけれど、確かに遺跡のシーンとか、どこまで実際に作っているのかな?

高橋 僕たちはCGにしちゃおうという発想にすぐなるけれど、そこに実際にあるもののほうが絶対にリアルに見えるはずなんですよ。もちろん、セットのクオリティもあるだろうけれど。そうなったときに、ハリウッドの映画人たちはセットで撮るのか、CGにするのかという判断を、何を基準に決めているのかな?と気になって。僕はそこを知りたいですね。

白組に入ってから映像を作る楽しみがわかった(渋谷)

──ところで、皆さんがVFXのお仕事することになったきっかけは?

渋谷 私は「バック・トゥー・ザ・フューチャー」や「スター・ウォーズ」を映画館でリアルに観ていた世代で。テレビのメイキング番組や本を見るうちにVFXに興味を持つようになりました。

──映画監督ではなく、特撮のほうの仕事に憧れたわけですね。

渋谷 そうですね、小さな頃は周りの人たちから「絵がうまい」と評されていたんですけど、それを今言われると恥ずかしい。本当に絵が上手な人はレベルが全然違うんですよね。山崎の絵を初めて見たときもヤバい!って思ったし、白組にはそういう子がゴロゴロいるから、私は監督やデザインをする方向には気持ちが向かなくて。ただ、白組に入ってから映像を作る楽しみがすごくわかったし、入社したときから山崎とずっと一緒なので、自分たちの作りたい映像を作るにはどうしたらいいんだろう?と自然に考えるようになっていきました。それでずっとやってきた感じですね。

高橋 僕は逆に映画監督志望だったんだけど、当時はどうしたら映画監督になれるのかわからなかったし、そういう学校もなくて。そんなときにCMか何かを観て、VFXを手がけていた白組の存在を知ったんです。それで映像に携わりたかった僕は白組に飛び込んだんだけど、それからなんだかんだ、30年近くやってきましたね。

──野島さんはまだ25歳の若さですが、きっかけは?

渋谷 映像に興味を持ったのはいつだっけ?

野島 幼稚園くらいじゃないですか? 親にお古のスチルカメラをもらったのが最初で、そこから写真や動画をずっと撮っていたから、小学校の友達は、僕に対して“カメラを永遠に触っているやつ”という同じ印象を持っているんじゃないかな。それで、途中からパソコンをいじり出して、中1くらいから撮った映像に合成するようになりました。

渋谷 中学の頃に、趣味で合成をやってたんですよ。

──作品になっているんですか?

野島 いくつかは残っていますね。今観るとヤバいですけど……。

高橋 いや、よかったですよ。

渋谷 大学時代には作った映像をTwitterにアップしていて。それを見た私が釣り上げたという。

──それはどういう作品だったんですか?

野島 最初は「Minecraft」というゲームの爆発するキャラクターを、ただ単に実写に合成して。そいつから逃げている人の上にさらに大きなやつが降ってくるという映像を作りました。

高橋 実はそれがよくて合格したんですよ。野島はめちゃくちゃ恵まれていて。だって、最初の仕事が「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(2018年)だもんね。僕があの作品でVFXディレクターをやったときに、コンポジター(2Dや3Dの原画や実写映像をデータとして合成し、整理する技術者)が1人足りなくて。

渋谷 ちょうど新しい人を入れたくて、うちのスタッフにSNSでいい子がいないかリサーチかけてもらっていたのですが、ピックアップしてもらった子たちの中でノジがダントツでよかったんです。それで、Twitterで「(白組のある)調布に遊びに来ない?」とダイレクトメッセージを送って、見学に来てもらいました。

──完全にスカウトですね。

渋谷 そうですね。当時、ノジはデジタルハリウッド大学の1年生で映像を学んでいたんですが、春休みだったし、今話した高橋の仕事があったので「じゃあ、アルバイトしてみる?」と言って。それが最初でした。

──そのときは純粋に「うれしい」という気持ちだったんですか?

野島 いや、別に、暇な大学生だったからなんですけど、めちゃくちゃいい機会でした。

高橋 最初に会ったとき、野島はちょっとツンデレだったよね(笑)。俺が「やりたい?」って聞いたら、「頼んでくれたらやります」という感じで。若者にありがちですけど。

野島 緊張していただけなんじゃないですか? わからないですけど。

渋谷 アメリカのアカデミー賞の授賞式のときも感じたけど、ノジは緊張しているのか、そうじゃないのかわからないときがあるよね。顔にうまく出さないから、緊張していないように見えるけど、実は緊張していたりするし。

高橋 そこがいいんですよ。僕は好印象。「やりたい!」って子はたくさんいるんだけど、実際にやるとそんなに楽じゃないし難しいから、どこか奥ゆかしい、「別にいいんですけど」みたいな感じがちょうどいい。

──皆さんがアカデミー賞の視覚効果賞を獲られたから、「自分もやりたい」という人たちが今後はいっぱい出てくるんじゃないでしょうか?

渋谷 そうなってほしいですけどね。今はどうしてもゲームとアニメーションが強いんですよね。

高橋 そう、VFXは人気がないんです。

野島 やっぱりアニメはみんな観ているし、人気がある。一番身近な仕事をしたいだろうし、そういうものって輝かしく見えるはずなんですよ。それに比べて、映画の実写の合成は裏方中の裏方で、どういう人がやっているのか? そもそも人がやっているのか?みたいに、ちょっと想像ができないと思います。

渋谷 まだまだ周知されていないってことか!

野島 僕はそこが問題だなと感じていて、「ブランディングだ」とずっと言ってるんですけどね。

──でも、アカデミー賞で一気にスポットが当たりましたからね。

渋谷 VFXの業界に活気が出るといいですね。

野島 ちゃんと人が作っているんだよというのは伝わったかな(笑)。

フルIMAXの作品を作りたい!(野島)

──最後に、これは夢の話としてお聞きしますけど、「ゴジラ」の次の作品もやることになったら、皆さんはそれぞれ、どんなことに挑戦してみたいですか?

野島 もっと解像度の高い映像を作りたいですね。「-1.0」は大きな画面で観るとけっこうヤバいですから……。

──解像度が気になるのはやっぱり水ですか?

野島 すべてです。でも、開拓の余地はあると思っているんですよ。

渋谷 まあ、「アルキメデスの大戦」(2019年)で本格的にエフェクトを始めて、気合いを入れてやらなきゃいけないという形で臨んだ「ゴジラ-1.0」があって、みたいな流れですからね。今後もこのマシンのスペックでは足りないとか、エフェクトざんまいをやるためには強化しなきゃいけないところも増えてくるはずだけれど、ノジには存分にやらせてあげたい。

野島 ハリウッド映画がそうであるように、日本映画もどんどんエフェクトだらけになるでしょうからね。

高橋 野島が今言ったみたいにエフェクトが普通になってくるだろうけど、僕はキャラクターに情熱を注ぎたい。日本にはロボットにしても何にしても、感情移入できるコンテンツがたくさんあるじゃないですか。「ゴジラ-1.0」もそれでうまくいったところもあるし、自分たちの手で作らせてもらって、そこが日本の強みになるということを実感したから、クオリティはもちろんハリウッドを追いかけますが、日本のコンテンツをもっと世界に発信できる面白いものにしていきたい。僕たちはどうしても技術的なところに目が行きがちだけれど、映画館に行く意味がある、IMAXで観る意味があるエンタテインメントを作りたいんですよね。

野島 僕はフルIMAXの作品を作りたい!

渋谷 自分で自分の首を絞めそうだけど、私も今、それを言おうと考えていた。でも山崎さんにそんな話をしたら、「みんなで死にたいのか?」と言われるだろうな。

野島 僕は「IMAXでやりたい」とずっと言ってるけど、山崎さんからは「あれは大変なんだ」とダメ出しされていて。でも、アメリカでIMAXのプロモーション映像を見せてもらって帰ってきたときは「IMAX、やるぞ!」みたいに熱が入っていたんですよ。そのうち冷めちゃうかもしれないけれど、それくらいすごかったみたいですね。

渋谷 山崎は表現したいもののジャンルが幅広いし、そこが強みだと思うけれど、内容というより、技術的な観点からIMAX(で作る可能性)はあるかもしれないですね。「ゴジラ」以外のものを撮っても面白いだろうし、戦時中の銀座を知っている知り合いのおばあちゃんが「ゴジラ-1.0」を観たいと言ってくれたように、IMAXの映画にふさわしいいろいろな要素を盛り込めば、世代の違う多彩なお客さんが足を運んでくれるはずですから。でも、山崎の「ゴジラVS」ものも観てみたいかな。どんな映画を作るのか、やっぱり気になります。

渋谷紀世子 プロフィール

1970年生まれ、東京都出身。1989年に映像制作会社・白組にミニチュアメーカーとして入社し、伊丹十三の監督作「大病人」にデジタル合成として参加。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」「海賊とよばれた男」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」「ゴジラ-1.0」など、歴代の山崎貴の監督作すべてでVFXディレクターを担当している。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

高橋正紀 プロフィール

1968年生まれ、東京都出身。1990年に白組に入社し、映画、テレビドラマ、CM、ゲームムービーなど多くの映像制作に携わる。近年の主な参加作は映画「海賊とよばれた男」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」「アルキメデスの大戦」「キネマの神様」「ゴーストブック おばけずかん」「ゴジラ-1.0」など。2004年より、倉敷科学芸術大学の特別講師を務めている。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

野島達司 プロフィール

1998年生まれ、東京都出身。2019年にコンポジターとして白組に入社後、映画「アルキメデスの大戦」「STAND BY ME ドラえもん 2」などのVFX制作に参加した。西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」、映画「ゴーストブック おばけずかん」からエフェクト作業に携わり、2023年公開の映画「ゴジラ-1.0」では、ゴジラが海を泳ぐシーンの波の動きや飛沫のシミュレーションを手がけた。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」

2024年4月26日に公開される、「モンスター・ヴァース」シリーズ第5弾。アダム・ウィンガードが監督を務め、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ダン・スティーヴンスらキャストに名を連ねる。

※高橋正紀の高は、はしご高が正式表記

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