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『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』世田谷美術館で開幕 約150件でたどる民藝の今とこれから

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第1章「1941生活展」展示風景 1941年に日本民藝館で開催された同展の再現を試みる展示 (撮影:中山ゆかり)

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無名の職人が手仕事でつくった日用の品々がもつ美を評価した思想家・柳宗悦(1889-1961)は、今からほぼ100年前の1925年、「民衆的工藝」を意味する「民藝」の新語を生み出した。その民藝運動がこれまで見出してきた約150件の品々を紹介するとともに、民藝の今、そしてこれからをも展望する巡回展が、東京の世田谷美術館で開幕した。

これまでも民藝を紹介する展覧会は度々開かれてきたが、今回の民藝展の特徴のひとつは、創始者・柳の歩みや民藝運動の歴史を時系列にたどる構成はとらず、日々の暮らしのなかで使われてきた品々を「衣・食・住」の3つの視点から展観することだ。最初の展示室に登場するのも、「暮らしのなかの美」という考え方を象徴する大規模な展示である。

第1章「1941生活展」展示風景

食器類と燭台がセットされたテーブルを中心に、味わいのある家具や品々が飾られた居室は、柳が東京・目黒の日本民藝館で1941年に開催した「生活展」の再現を試みたもの。暮らしのなかで民藝を活かすライフスタイルを提案した生活展は、当時としては画期的なテーブル・コーディネートも取り入れていた。

傍らに設置された当時の展示風景写真を見ると、見事な再現だと感じられるが、実は細かい部分で再現できなかった点もあるという。ひとつの理由は、当時の展示物には、柳が家族と自宅で使っていた普段使いの食器も含まれていたから。まさに「暮らしのなかの美」を体現するエピソードである。

第2章「暮らしのなかの民藝」「衣」を装う 展示風景

第1章で民藝のライフスタイルにふれた後は、いよいよ「衣・食・住」を掘り下げた第2章へ。作品がゆったりと配された展示室は、ときに作品同士の色や形が響き合うように感じられる美しい空間だ。柳の眼が選んだ品々は、北は北海道から南は沖縄まで、また朝鮮半島をはじめとするアジアや欧米のものまで多岐にわたり、制作年代も縄文から同時代の昭和まで長きに及ぶ。

室内の順路は特になく、「衣」であれば、染め物や織物、編み物、刺子や刺繡など、様々な手仕事でつくられた着物や履物、装身具を自由に見ることができる。例えば几帳面な刺子の足袋のように、丈夫にするという機能性と文様の美しさを備えた品や、可憐な草花を刺繡した古い衣を染め直し、外出着として頭からかぶる被衣(かつぎ)に仕立て直した再生衣料など、どの品にも各々の見どころがある。制作手法や生産地の風土、発見時のエピソードなどを記した簡潔な解説も多く、個々の作品を味わう手がかりとなっている。

展示風景より 左から、《網袋》ルカイ族(台湾)20世紀 日本民藝館/《刺子足袋》 羽前庄内(山形)1940年頃 日本民藝館
展示風景より 《剣酢漿草大紋山道文様被衣》 江戸時代 18-19世紀 日本民藝館

「食」を彩る品々は、柳が説いた民藝美を最もよく表したものと言えるそうだ。貯蔵や煮炊きに使われた縄文土器に注目した柳は、縄や紐で華美な装飾が施されていても、「恐らく一切が生活から遊離したものではなかった」と考えていたというが、職人たちが地域の特性から生まれた素材を用い、形や文様に工夫をこらして生み出した品々もまた、生活から遊離することなく、同時に美しさも備えた典型的な民藝の品ということだろう。

第2章「暮らしのなかの民藝」「食」を彩る 展示風景
展示風景より 《深鉢》南安曇郡小倉村出土(長野) 縄文時代中期 日本民藝館
展示風景より 《緑黒釉掛分皿》因幡牛ノ戸(鳥取) 1931年頃 日本民藝館

同展では、作品を組み合わせることで民藝の雰囲気を伝えてくれる展示も印象深い。たとえば、「住」の展示では、味わい深い江戸時代の行灯と昭和の照明が並び、一方、沖縄を扱ったコーナーでは、琉球王国時代の仏壇を中心とした展示が静清な佇まいを見せている。

第2章「暮らしのなかの民藝」「住」を飾る 展示風景
第2章「暮らしのなかの民藝」「気候風土が育んだ暮らし―沖縄」展示風景

同展のもうひとつの特徴は、柳の没後の展開にも焦点をあて、第3章「ひろがる民藝」を設けていることだ。地域的な広がりで紹介されるのは、柳の同志の濱田庄司、芹沢銈介、外村吉之介が1972年に刊行した書籍『世界の民藝』に関わる品々。各地の気候風土や生活に育まれたプリミティブなデザインが、民藝の新たな扉を開いたと評価されているそうだ。素朴な造形とともに、例えばメキシコの鍋に添えられた芹沢の「あたかも玉ねぎの断面を見るようなおもしろさがある」といった感想など、民藝の目利きのわかりやすいコメントに思わずほっこりするコーナーでもある。

展示風景より 《入れ子土鍋》グアダラハラ市近郊(メキシコ)20世紀後半 静岡市立芹沢銈介美術館

時間的な広がりは、現代の職人たちに注目した「民藝の産地」の展示に見られる。今回選ばれたのは、大分の小鹿田焼、兵庫の丹波布、岩手の鳥越竹細工、富山の八尾和紙、岡山の倉敷ガラスの5つ。これまでの品々と、今まさに生み出されている品々、そして現地で取材した制作風景とインタビュー映像が紹介されており、とりわけ作り手たちの真摯な言葉には耳を傾けずにはいられない。

第3章「ひろがる民藝」展示風景 「民藝の産地」の丹波布(兵庫)の展示風景
展示風景より、八尾和紙を用いた作品 芹沢銈介《型染カレンダー 1958年海外版》 東京 1957年 静岡市立芹沢銈介美術館

展示の最後は、現在の民藝ブームの先駆者ともいわれるテリー・エリスと北村恵子によるインスタレーションだ。世界各地のフォークアートや日本の民藝、あるいは気に入った民藝の品をイメージして現代作家につくってもらった作品など、民藝を「いま」の暮らしに融合した色彩も豊かな展示は、「これからの民藝スタイル」を提示するものだという。

第3章「Mixed MINGEI Style by MOGI」展示風景 テリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Art ディレクター)による「これからの民藝スタイル」のインスタレーション

今回の展覧会は、「民藝とは何だろう?」という初心者にも親しみやすい展示が心がけられたというが、インスタレーションも含めた美しい展示とわかりやすい解説が、民藝の美を堪能させてくれると同時に、そのコンセプトをヴィヴィッドに伝えてくれたように思う。そして会場出口に待っているのは、国内外の職人による民藝の多彩な品々や、染色家でアーティストの宮入圭太が同展のためにデザインしたグッズを取り揃えた特設ショップ。気に入った品をもち帰って暮らしに取り入れるのは、「美はくらしのなかにある」という展覧会コンセプトにも合致することだろう。

展覧会特設ショップの一角

取材・文・撮影:中山ゆかり

<開催概要>
『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』

2024年4月24日(水)〜6月30日(日)、世田谷美術館にて開催

公式サイト:
https://mingei-kurashi.exhibit.jp/

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