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『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』森美術館で開幕 異文化のハイブリッドを追求する多様な活動の全容を紹介

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陶芸、彫刻、建築、音楽など多様な領域で国際的に活躍するシアスター・ゲイツの展覧会『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』が9月1日(日) まで森美術館で開催中だ。アフリカ系アメリカ人のルーツとともに、日本文化からの影響も色濃い。愛知県常滑市で陶芸を学ぶために2004年に来日し、「国際芸術祭 あいち2022」では常滑の旧住宅を音楽・ウェルネス・陶芸研究のためのプラットフォーム「ザ・リスニング・ハウス」として再生し、多くの人を楽しませた。「常滑は私を変え、より良いアーティストになるために刺激を受けた、世界で最も重要な場所のひとつ」だとゲイツは語る。

1973年、アメリカ・シカゴ生まれ、在住のゲイツは、イギリスの雑誌『ArtReview』が毎年発表するランキング「Power 100」の上位アーティスト。ニューミュージアム(ニューヨーク)など欧米の美術館や国際展での発表が続く中、待望の日本初個展が実現した。

「アフロ民藝」とは、文化的ハイブリディティ(混合性)を追求してきたゲイツが、アメリカでの「ブラック・イズ・ビューティフル」運動と、日本の民藝運動という2つの重要な運動を反映する、芸術的で知的な試みだ。宗教哲学者・柳宗悦が民衆の手による日常的な工芸品に「美」を見出した民藝運動を知的・社会的運動と捉えて共鳴している。そのうえで同展はブラックアートと民藝の関係にとどまらず、「ものづくりと友情を通じて、人が文化の持つ可能性に身をゆだねたときに、何が起こるかを示すもの」だと語る。それでは「神聖な空間」「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」「ブラックネス」「年表」「アフロ民藝」の5章からなる展覧会を見ていこう。

ゲイツにとって音楽や儀礼、詩、彫刻や作陶は神聖なものに触れるためのスピリチュアルな行為。第1章「神聖な空間」は「美の神殿」をイメージし、自作とともに、彼が尊敬するつくり手の作品をインスタレーションした。入口には、民藝という言葉の起点となった江戸時代の僧侶・木喰上人による木彫。ゲイツが屋根にタールを塗る職人だった父に習った技術を生かした「タール・ペインティング」シリーズの作品もある。

木喰上人《玉津嶋大明神》1807年
シアスター・ゲイツ《年老いた屋根職人による古い屋根》2021年

次の部屋の床に敷き詰められているのは、常滑の水野製陶園ラボで制作された1万4000個のレンガ。かつてアメリカでは煉瓦職人の多くが黒人や有色人種の労働者だった歴史も想起される。江戸〜明治期の歌人で陶芸家・尼僧の太田垣蓮月の掛軸。アフリカ系アメリカ人リチャード・ハントの彫刻。抽象表現主義的なゲイツのクロス状の作品は、白人のアーティストを中心に美術史が紡がれたことや、ベトナム戦争時、アメリカ人兵士に黒人が多かったことなどさまざまな解釈を誘う。1台のハモンドオルガンB-3と7個のレスリースピーカーを設置した《ヘブンリー・コード》では、毎週日曜にはオルガン演奏のパフォーマンスが行われる。意味が多重に想像される「もの」と、それぞれの違いを超えて人々が集える「空間」の組み合わせが特徴的だ。

京都の香老舗・松栄堂の調香師とともにつくった香の彫刻《黒人仏教徒の香りの実践》(2024年)と《人型I》(2023年)
シアスター・ゲイツ《アーモリークロス#2》2022年
シアスター・ゲイツ《ヘブンリー・コード》2022年。記者内覧会ではゲイツのバンド「ザ・ブラック・モンクス」のパフォーマンスが行われた

ゲイツにとって「蒐集」も表現方法のひとつ。第2章「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」ではものに宿る記憶を語り継ぐ。ゲイツが収集した黒人の歴史にまつわる約2万冊の本をシカゴから移送し、日本語の書籍と合わせてライブラリーを設置。また、公民権運動期に黒人のアイデンティティ確立に重要な役割を果たした出版社「ジョンソン・パブリッシング・カンパニー」の廃業後、雑誌や写真、家具などを買い取ってアーカイブ。観客も閲覧できる。さらに、ゲイツの建築プロジェクトから「リビルド・ファウンデーション」の活動を紹介。シカゴのサウス・サイド地区の廃墟40軒を買い取り、人々が集える文化施設やカフェにつくり変えるなど地域再生にも貢献している。

第2章「ブラック・ライブラリー」展示風景
第2章「ブラック・スペース」展示風景。ジョンソン・パブリック・カンパニーのアーカイブ展示

第3章「ブラックネス」では、「ブラックネス(黒人であること)の複雑な状況から生まれる葛藤とともに、黒人文化のあらゆる表現とそこにある真実を映し出す。サウス・サイド地区の今は取り壊された教会でゲイツのバンド「ザ・ブラック・モンクス」が行ったパフォーマンスを撮影した映像では、都市開発によって教会が壊される問題を問う。デトロイトの小学校の体育館の床を組み合わせた抽象的な絵画。タールに代わり屋根補修剤として使われるアスファルトとポリマーの「工業用トーチダウン」を用いたタール・ペインティング。アメリカの黒人陶芸からアフリカ・日本・朝鮮・中国の陶芸に着想を得た陶磁器シリーズ。いずれも力強く美しい。

映像作品《避け所と殉教者の日々は遥か昔のこと》2014年 展示風景
《基本的なルール》2015年
《7つの歌》2022年
《ドリス様式神殿のためのブラック・ベッセル(黒い器)》2022-2023年

第4章「年表」では、常滑の歴史、民藝の歴史、アメリカ黒人文化史とゲイツ個人史をひとつの時間軸で並べている。そして最終章「アフロ民藝」の展示スペースは圧巻だ。古常滑を研究しながら制作した陶芸家・小出芳弘(1941-2022年)から受け継いだ約2万点ものコレクションを展示。氷山の形をしたミラーボールが回るディスコのような空間に、明治〜昭和初期、酒屋で少量買いする客への貸し容器「貧乏徳利」1000本を並べたインスタレーション《みんなで酒を飲もう》などを設置した。常滑の澤田酒造とコラボし、ゲイツの名にかけたオリジナル日本酒「門」もつくった。

常滑の陶芸家・小出芳弘コレクション
第5章「アフロ民藝」展示風景
長野県「山翠舎」の協力で古民家の古材を什器に使用。雪の重みによる根曲りの木を天井の梁に利用した「鉄砲梁」を再利用した

ゲイツが提案する「ハイブリッド」は、膨大なアーカイブとコラボレーションに裏打ちされ、その背景にある一人ひとりの存在を示す。分断する世界を諦めず、違いを認め、共感から新しいものを創り出そうと語りかけている。

取材・文:白坂由里 撮影:編集部

<開催概要>
『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』

2024年4月24日(水)~9月1日(日)、森美術館にて開催
公式サイト:
https://www.mori.art.museum/jp

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