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全十篇完全舞台化の大プロジェクトがフェーズ2に!新国立劇場、デカローグ6「ある愛に関する物語」稽古場レポート

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『デカローグ1-10』【プログラム C】稽古より(撮影:田中亜紀)

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ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキによる映画『デカローグ』全十篇の完全舞台化に取り組む新国立劇場。約3カ月にわたる連続上演は、4月〜5月上旬のプログラムA・B交互上演『デカローグ1〜4』を経て、5月18日(土)開幕のプログラムC 『デカローグ5・6』をもって中盤に突入する。プログラムA・B公演中の5月初旬、劇場内のスタジオで進められていたデカローグ6「ある愛に関する物語」(演出=上村聡史)の稽古を取材した。

稽古場にそびえ立つのは、主人公たちが住む集合住宅の装置。『デカローグ』全十篇は旧約聖書の十戒をモチーフに、1980年代のワルシャワ郊外にある巨大アパートに住むさまざまな事情を抱えた人々のくらしを描き出す。プログラムCとして、デカローグ5「ある殺人に関する物語」(演出=小川絵梨子)とともに上演される本作。デカローグ5が殺人とその罪にまつわる重々しいテーマを扱ういっぽうで、デカローグ6は愛──といっても、かなり歪んだ、一筋縄でいかない愛についての物語だ。演出を担う上村聡史は、いま、どんな思いでこの物語に向き合っているのか、想像は膨らむ。

始まりは、郵便局。ヒロインのマグダは郵便為替の通知を手にやってきたが、窓口の青年トメクから該当する送金はないと告げられる。イラつきながら郵便局を後にするマグダ。実は郵便為替はニセモノで、トメクが偽の通知を使って彼女を郵便局まで誘い出したのだ。仙名彩世が演じるマグダは、芸術家らしい知的で華やかな雰囲気を漂わすとともに、繊細で神経質で、どこか仄暗い魅力を放つ大人の女性。19歳のトメクは、田中亨。普段は引っ込み思案だけれど、思い立ったらどこまでも突っ走っていく、純粋でひたむきな青年といった風情だけれど、夜になると向かいの部屋のマグダを望遠鏡で覗き見る。ドキドキ、ハラハラさせられるが、無言電話までかけて電話越しにマグダに「変態!」と罵られても、決してひるまない。それほどまでにマグダを見ていたい、近づきたいという思いがひしひしと伝わり、痛々しい。

彼女が部屋に迎える何人もの恋人のことも、トメクはしっかりと目に焼き付ける。スーツ姿のビジネスマンからチンピラ風の男ほか、個性の異なる三人の恋人たちを演じ分けるのは斉藤直樹。それぞれに魅力的だけれど、恋人が何人いても決して満たされているように見えないマグダ。そんな彼女にもっと近づきたいと、トメクは朝の牛乳配達の仕事も始める。そんなに働く必要はあるのか、誰かいい人はいないのかと彼を心配するのは、名越志保演じるマリア。軍に入り家を出ていったトメクの友人の母で、彼女のアパートに同居するトメクの行動を静かに見守る様子に、胸が熱くなる。彼女もまた、この巨大アパートの片隅で、孤独への恐怖感に向き合いながら暮らす住人のひとりだ。

再び新たな為替の通知書を手に郵便局に現れるマグダ。彼女の登場に心躍るトメクだが、今度の通知も彼が仕込んだ偽物。トメクでは話にならないと局長が呼び出されるが、郵便配達員ヴァツェク(内田健介)の証言を得て郵便局に非がないことがわかると、寺十吾演じる局長の態度はさらに高圧的に。お腹を突き出して偉そうにふるまうそのアクの強い演技に、スタジオのあちこちから笑いが沸き起こる。誰よりも朗らかな声をあげていたのは、演出を担う上村。ともすると重々しい雰囲気に呑み込まれていってしまいそうな物語だけれど、こんなふうに可笑しみを感じたりニヤリとさせられたりする瞬間は、生で見る舞台の楽しさを再認識させてくれる。

マグダとデートの約束をし、牛乳を積んだリヤカーをひいたまま全身で喜びを表現するトメクの姿は映画の中で強い印象を残したが、舞台でもきっとグっとくる一場面に。十篇すべてに出演し、さまざまな姿で各話の主人公たちの周辺に現れる“天使”のような存在、「男」の登場シーンのひとつでもある。「男」役の亀田佳明は、この日も先に上演している「デカローグ1~4」の夜公演への出演を控えた中での稽古というせわしなさ。登場人物たちのさまざまな人生に、もっとも近いところで寄り添う不思議な存在を、真摯に演じる。

カフェでのデートは、いつまでも記憶しておきたい素敵なひとときだけれど、その後物語は思わぬ方向に進む。今度はマグダがトメクの姿を探し求め、その不在に狼狽える。歪んではいても、純愛ともいえるひたむきな思いが胸に迫る。主人公たちのその行動は、「姦淫するなかれ」という十戒の戒めを破ることにあたるのだろうかと、あれこれ思いを巡らせた。

今回のデカローグ5、6はいずれも、1988年、テレビ放映用のシリーズとして編まれた十篇の連作集に先立って、少し尺の長い映画版がそれぞれ『殺人に関する短いフィルム』『愛に関する短いフィルム』というタイトルで公開された。全十篇の中でもより多くの人々に親しまれた物語といえるが、映画を懐かしむ人だけでなく、初めてこの物語に触れる若い観客にとっても、さまざまな場面、情景が心に響く舞台になるはず。開幕を楽しみに待ちたい。

公演は5月18日(土)から6月2日(日)まで、新国立劇場 小劇場にて。チケットは発売中。

取材・文:加藤智子 撮影:田中亜紀

<公演情報>
新国立劇場の演劇『デカローグ1-10』

原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ
翻訳:久山宏一
上演台本:須貝英

【プログラム C】
デカローグ5「ある殺人に関する物語」
演出:小川絵梨子
出演:福崎那由他、渋谷謙人、寺十吾、斉藤直樹、内田健介、名越志保、田中 亨、坂本慶介、亀田佳明

デカローグ6「ある愛に関する物語」
演出:上村聡史
出演:仙名彩世、田中亨、寺十吾、名越志保、斉藤直樹、内田健介、亀田佳明

2024年5月18日(土)~6月2日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2449609

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/

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