【NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント特別企画】「1%の可能性があるなら、必死に取りにいく」田村優(横浜キヤノンイーグルス)
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田村優(横浜キヤノンイーグルス) 撮影:スエイシナオヨシ
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田村優は「一瞬の芸術家」である。
今年3月に行われた『NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24』第10節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦で、スペースへの巧みなキックでトライを生み出した。自身がそこへボールを落とし、味方が走り込めばトライになる──数秒先の未来が、彼には見えていたのだった。
横浜キヤノンイーグルスの絶対的なSOは、「魔弾の射手」でもある。
S東京ベイ戦の翌11節、東京サンゴアリスとの一戦は34対35で81分を超える。横浜Eがペナルティを得ると、梶村祐介キャプテンはショットを選択する。キッカーはもちろん田村だ。
東京SGとは勝点で競っていた。『NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント』へ進出するためには、落とすことのできない一戦で、勝敗が決まるショットを託される。緊張感が高まってもおかしくないはずだが、田村は笑みを浮かべたのだ。もちろん、37対35の勝利となる逆転サヨナラペナルティゴールは確実に決めた。
「笑ってましたね。まあ、いいとこ取りっていう感じでしたし。ああいう状況が、ラグビー以外でもいままでの人生で巡ってきてるので。ご先祖様に感謝です」
右タッチラインから10メートルほどのポイントにボールをセットした。簡単なアングルではないはずだが、「まあでも、ああいうのは入るでしょう」とさらりと言う。滑らかに紡がれる言葉の裏側には、人知れず重ねているルーティーンがある。
「試合では緊張もしますけれど、それは準備と練習で消します。プレッシャーも絶対にあるものですけど、プレッシャーがかからない格下の相手とかとやるのは、あまり得意じゃない。強い相手に挑んでいくのが好きなんです」
SOはチームの司令塔と呼ばれるポジションだ。それだけに、「10番同士の対決」が試合の見どころとなる。
昨シーズンのプレーオフ準決勝では、埼玉WKのSO松田力也がドロップゴールを決めると、その3分後に田村も鮮やかに沈めた。メディアやファンにとって「10番対決」の分かりやすいケースだった。
「僕自身は、相手の10番だけを意識することはないですね。それよりも、相手のディフェンスとか特徴とかのほうが気になる。あのドロップゴールも、たまたまそういう順番になっただけで。あの前にも狙おうとしたけど、相手のチェイスがあったので蹴らなかった。あの場面はなかったので蹴った、という。相手がやったから自分もやろう、というのは僕の判断材料にはないですね」
チームは2シーズン連続でプレーオフトーナメント進出を果たした。タフな試合をしぶとくつかみ、10勝6敗の4位でトップ4入りを果たした。
「昨シーズンは初めてのプレーオフ出場でしたが、そこでできたこと、できなかったこと、感じたことがある。それを踏まえての2回目になるので、プラスしかないですね。前回の準決勝の経験を組織として生かせるか、ということかなと思います」
レギュラーシーズンとプレーオフの違いを問われると、独特の言い回しを使った。日本代表として2015年と2019年の『ラグビーワールドカップ(RWC)』に挑んだ歴戦の勇士は、しなやかな感性の持ち主である。
「ウォーミングアップ終了、といった感じですかね。レギュラーシーズンを16試合やってきて、エラーも繰り返しながら色々やっていって、いま一番いいものをプレーオフで出していくっていうことかなと」
レギュラーシーズンの道のりでは、『RWC2019・2023』で南アフリカの連覇を担ったSHファフ・デクラークとCTBジェシー・クリエルが離脱した。デクラークは4試合、クリエルは8試合の出場にとどまったが、チームは日本一に挑戦する権利を譲らなかった。
「ファフとジェシーがケガをしちゃったのはホントに痛手で、彼らもかわいそうだったんですけど、すごくいいきっかけで良かったな、と思いました。みんなでできることやりきった結果として、プレーオフに出られるところにチームがいるので。それは素晴らしいことで、いまのリーグワンは色々な国から色々な選手が来て、どの会社もたくさんのお金をかけてますけど、人でラグビーしないっていうことを僕たちは証明できたと思う。ラグビーは究極的にはチームスポーツなので、ひとりが目立つよりは、全員が同じ方向を向いている組織のほうが強いなって思う。たとえ方向が間違っていたとしても」
チームの底上げがなされたのでは、との問いかけには「どうですかねえ」と切り出す。シビアなコンペティションをくぐり抜けてきた意味を再確認してから、田村は言葉をつなぐ。
「トップ4に入ったチーム、入れなかったチームがいるなかで、 僕たちがここに残っていることについては、カンファレンスの組み合わせが良かったとかいうこともあるかもしれない。けれど、どこで崩れていってもおかしくない状況ではあった。そこで崩れなかったのは、今シーズン一番自信持っていいと思います」
一発勝負のプレーオフトーナメント準決勝では、レギュラーシーズン1位の埼玉ワイルドナイツと激突する。2シーズンぶりの優勝を目指す相手は、レギュラーシーズン無敗にして最多得点と最少失点を誇る。
「天下のパナソニックは間違いなく一番強いので、 もしかしたらパナソニックが99パーセントは勝つかもしれないですね。でも、1パーセントの可能性があるなら、その1パーセントを僕は必死に取りにいく。勝負事だし人間同士がやるので、何かを起こせる可能性はゼロじゃないので。最初から諦めることはないし、何回かに1回は勝てる相手だと思うので、その1回をここで取りにいきたい」
胸に秘めた使命がある。「チームを良くしたい」とか「このチームのために」という言葉を、田村は何度も口にしてきた。2017年から在籍するチームに、大きなものを刻みたいとの思いは強い。
「もちろんその思いはありますけど、相手はずっとプレーオフに出てきたチーム、毎回チャンピオンになってもおかしくないチームで、僕らは去年からトップ4に入っているチームです。やっぱり経験の差はあるでしょう。もちろん優勝を狙って戦いますけど、それができなかったとしても僕たちのやってきたものが崩れるとか、否定されるわけではない。そこへ向かっていくプロセスがすごく大事で、ここまでは満足しているし、さらにもっと良くしていきたいですね」
埼玉WKとの間に横たわる「経験の差」を埋めるのが、他でもない田村に課せられたタスクになるのだろう。その瞳に決意の色が宿った。
「そうですね、色々な手を使って、何か人と違うものを見せられれば、人と違う存在になれればな、とはもちろん思います。でも、チームあっての僕なので。準決勝では自分たちが勝てる状況をずっと保つことが大事で、最後の何分かで何かを起こせればと思っています」
何かを起こすためのプレーは、創造性に溢れるものかもしれないし、意外性のあるものかもしれない。あるいは、観る者を唸らせるものかもしれない。いずれにしても、田村にとっては想定内なのである。
「この状況だったらここがこうなりやすい、というものを頭に入れておく。それは経験によるものですね。で、今回はこれをする、これはしないほうがいい、これをあえてやったほうがいい、というのが僕の判断基準になっている。その時々で適切な判断をして、その時々の状況に応じて、必要なスキルを高いレベルで出していくことを、自分では大切にしています」
プレーオフ準決勝までの残り数日間で、チームがドラスティックに変わることはない。だからこそ、田村は「ラグビーの本質」に目を向ける。
「本質の部分をしっかり出せれば、選手として大崩れすることはないですし、チームにキチッとしたものを提供できて、芯が通る。そうすれば、チームもなかなか崩れないかなと。本質はポジションによって違うので、僕なら早く起きて、早くセットして、見て、話して、実行する。その動作を周りとの兼ね合いのなかで、いかにシンプルに丁寧にできるか。連続してやっていけるか、ですね」
自分たちがやるべきことを丹念に積み上げ、相手のかすかな変化を見逃さずに勝機を拡げる。静をもって譁を待つ横浜Eの中心に、35歳の頼もしい経験者がいる。
取材・文:戸塚啓
撮影:スエイシナオヨシ
<NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメント>
<準決勝(1)>
◆5/18(土)14:05 埼玉ワイルドナイツ(D1:1位) vs 横浜キヤノンイーグルス(D1:4位)
秩父宮ラグビー場
<準決勝(2)>
◆5/19(日)14:05 東芝ブレイブルーパス東京(D1:2位) vs 東京サンゴリアス(D1:3位)
秩父宮ラグビー場
<3位決定戦>
◆5/25(土)12:05
秩父宮ラグビー場
<決勝>
◆5/26(日)15:05
国立競技場
NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメントのチケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450622
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