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『碁盤斬り』白石和彌監督インタビュー。目指したのは「荒々しさよりも美しさ」

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『孤狼の血』『死刑にいたる病』の白石和彌監督が草彅剛を主演に迎えた最新作『碁盤斬り』が17日(金)から公開になる。

本作は、主人公の武士が苦境の中でもがきながら復讐を果たそうとするさまを描く時代劇で、“重厚”や“本格時代劇”と紹介されることもあるが、実際に映画を観ると、冒頭からクライマックスまでひたすらに面白い超絶娯楽時代劇になっていた! 「重厚な本格時代劇を撮る気なんてなかったですよね?」との質問に白石監督は

「そんな気は1ミリもないです! 格式の高いものなんて僕にはできないですし、考えたこともないです」

と宣言。美しく、疾走感と熱量あふれる娯楽時代劇『碁盤斬り』がついにスクリーンに登場する!

キャリア初期から時代劇を手がけることを希望していた白石監督が本作を手がけることになったきっかけは、2019年の監督作『凪待ち』でタッグを組んだ脚本家・加藤正人からの提案だった。

「加藤さんは前から囲碁が好きで、柳田格之進のことを知ってプロットを書いていたらしいんですよ。『凪待ち』が公開された後に、こういう企画があるので読んでもらえないか? と言われたのが最初でした。

僕は前からずっと時代劇をやりたかったですし、加藤さんのプロットが本当に面白かったので本格的に動くことになり、脚本づくりをはじめました」

柳田格之進は古典落語で繰り返し語られる演目で、本作はこの物語をベースに加藤正人がオリジナルの脚本を手がけた。

主人公の浪人・柳田格之進(草彅剛)は冤罪事件に巻き込まれた結果、故郷の彦根藩を追われ、江戸の長屋で娘のお絹と貧しく暮らしている。ある日、彼は旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされ、復讐を決意。しかし、格之進は別のトラブルにも巻き込まれ、期限の迫る中、決死の復讐に旅立つ。

劇中には囲碁の場面が盛り込まれ、登場人物たちが盤を挟んで対話し、時に探り合い、時に緊迫した対立を繰り広げるが、そもそも囲碁の展開を映画で描くのは難しい。白石監督は「そこは苦しんだところですよね」と笑顔を見せる。

「僕も囲碁のルールについては、この企画が動き出してからアプリを入れて勉強し始めるレベルだったんです。囲碁は難しいんですよ。将棋とかチェスだと、相手のコマをとって、相手を追い詰めていく過程がもう少しビジュアルでわかるんですけど、囲碁は陣取りゲームで、映像と食い合わせが良いわけではない。そこをどう表現するのか?」

突破口は棋士の取材中にあった。

「高尾紳路先生という著名な棋士の方に教えていただいたのですが、教えてもらっている時の先生の手だけじゃなく、顔を見ている時に『この局面ではこういう感じなんだ』と響くものがあったんです。

だから撮影でも表現しきれない部分があるのであれば、俳優の演技と表情で勝負して、どちらが優勢なのかわかる部分は盤面も撮っていくようにしました」

結果、完成したシーンは、囲碁の盤の状況、石を置く俳優の指先、そして局面によって変化していく俳優の表情、座り方、姿勢が組み合わさり、囲碁のルールがわからなくても、ふたりの戦いがどのような状況なのか手に取るようにわかるシーンになった。本作で重要なのは、囲碁の結果ではなく、盤を挟んで対峙する人間のドラマ。どんな精神状況にあるのか? どんな想いで一手を投じるのか? この取材は結果として柳田格之進の描写にも影響を与えることになった。

「棋士は一見、静かに座って打っているようでも、実は『こいつは人を殺すぐらいの気持ちで打ってるんだろうな』と相手に対して思うことがあるそうなんですよ。『こんな局面で、こんな手を打つのか! こいつはヤバいやつだ』っていうような。

そういう“一線を越える”瞬間が、武士の格之進にもあると思うんですけど、それは囲碁の話を聞いて発想したことなんです。もちろん、僕にはそれがどんな手なのかわからないですし、達人にしか打てない手はあると思うんですけど、棋士の方の話からヒントをもらうことは多かったですね」

草彅剛は「いつの間にか“その時代の人”になっている」

白石監督が語る通り、本作の主人公・柳田格之進は、いわゆる浪人ものによく出てくる“穏やかだけど、実はスゴ腕”におさまり切らない人物だ。穏やかに見えるが、情熱や過去への想いは消えることはなく、ある局面では“一線を越える”こともある。単なる善人やヒーローではない、危険な魅力があるのだ。そんな振れ幅の広い役柄を草彅剛が見事に演じている。

「とても穏やかでマイルドな人で、格之進のように真面目で仕事に対して一途なんです。その点で草彅さんはこの役にピッタリなんですけど、内在している情熱のような、爆発する想いのようなものも、普段なかなか見えないですけど持っていると思うんですよ。だから、草彅さんの中にある熱だったり、危うさのようなものは撮りながら少し感じることがありましたね。

あと驚くのは、いつの間にか“その時代の人”になっていること。ちょっと時間が空くとギターを弾いてたりするんですけど(笑)、ふっと気がつくと役になりきっていて、いつの間にかその世界を支配している。その境目が本当にわからない。本当にすごい俳優です」

物語の中で格之進は次々に苦しい局面に立たされる。冤罪に巻き込まれ、事件に巻き込まれ、娘の想いを抱えたまま復讐の旅を続ける。そこで生まれる格之進の想いや漏れ出てくる危うさが本作の最大の魅力だ。

「小林正樹監督の『切腹』とか『上意討ち 拝領妻始末』が本当に面白くて、不条理の中に美しさがある。だからこの映画でも、不条理の中で“のたうちまわる”人間を撮りたい、という想いが根本にありました」

ポイントは“美しさ”だ。本作では苛烈な場面や、緊張感が増す場面でも圧倒的に美しい。それは“美しい自然”の種類ではなく、セットを建て、照明をあて、レンズを通して描き出される“映画的な美しさ”だ。

そこで撮影監督の福本淳、美術監督の今村力、照明の市川徳充ら『凪待ち』でもタッグを組んだスタッフが集められ、京都撮影所で撮影が行われた。

「京都で撮影するので、一緒に同じものを見て、一緒に悩んでくれる人が必要だと思ったので、同じく京都撮影所が初めての福本さんにお願いしました。この映画ではとにかく美しく撮りたかったんですけど、福本さんはそういう腕を持っている方です。あと、市川徳充さんのライティングが時代劇になったときにどうなるのかも、すごく興味がありました。“リアルで美しい時代劇が撮りたいです”というオーダーでライティングをしてもらいました。

映画的な美しさについては美術の今村さんの力が大きいです。僕はデビュー作からずっと今村さんと仕事をしてきて、今村さんが現役のうちに京都で仕事がしたい、というのが目標のひとつだったんです。今年で今村さんは80歳なんですけど、やっとこの映画で実現しました。

時代劇は制約も多いですけど、過去の時代劇が積み上げてきた知恵とアイデアがいっぱいあるわけですよね。今村さんにはそこをお願いしたかったんです。

今だったらCGでやってしまうような背景も、ホリゾント(背景用の幕や壁)に背景を描いてもらったりしましたし、劇中に出てくる吉原の門の前の橋も、実際はあんなにも大きくはないと思うんですけど、京都に『緋牡丹博徒 お竜参上』の時の橋の図面があったので、あえてそのまま持ってきたり……日本映画の良い時代の力を感じられるような作品にしたいと思いました」

本作は真面目な映画でも、格式の高い映画でも、本格的な映画でもない。とにかく楽しく、最後の最後まで飽きる瞬間がなく、スクリーンに広がる映像が美しく、登場する俳優たちが粋で危うい白石和彌流の“娯楽時代劇”の傑作に仕上がった。

「この映画に限らずですけど『俺は娯楽映画をつくっているんだ!』といつも思っています。その都度、反省しながらスタッフと検証したり、学んでいきたいと思っていますけど、この映画でもアート作品をつくろうとか、格式の高い映画をつくろうとかはまったく思わなかったですね。ただ、美しい映画にしたいとは思っていました。荒々しさよりも美しさ。あとはお客さんを飽きさせずに最後まで一気に観てもらえるものを、と思ってつくりました」

『碁盤斬り』
5月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会

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