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NAPPOS PRODUCE 舞台『湯を沸かすほどの熱い愛』ゲネプロレポート

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舞台『湯を沸かすほどの熱い愛』ゲネプロ公演より (C)引地信彦

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銭湯って、どうしてあんなに気持ちいいんだろう。広々とした浴槽と洗い場でのびのびとお湯をつかい、脱衣所で扇風機にあたったりして、最後にはやっぱり牛乳かコーヒー牛乳をごくっと飲み干すところまでが1セットだろうか。そういった客の側の気持ちよさは、当たり前のことだが銭湯で働く人々によって支えられている。この『湯を沸かすほどの熱い愛』は、そんな銭湯を営む家族の物語だ。2016年に公開された映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(監督・中野量太、同発売された小説版も自身で執筆)を、成井豊の脚本・演出によって舞台化。懸命に生きる幸野家の人々の、愛すべき姿が劇場に立ち現れることとなった。

栃木県足利市で「幸の湯」を営んでいる幸野一家。その大黒柱と言える母・双葉(岡内美喜子)は、1年前に夫の一浩(中村誠治郎/鍛治本大樹のダブルキャスト、ゲネプロには中村が出演)が失踪したため「湯気のごとく、店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません」と張り紙をして銭湯は休業、パン屋でアルバイトをしながら高校生の娘・安澄(瀧野由美子)と暮らしていた。しかし安澄は同級生にいじめられ、一方双葉はバイト先で倒れて末期がんで余命幾ばくもないことが判明。そんななか双葉は私立探偵の滝本伸一(筒井俊作)に依頼して一浩の居所を探し出したが、そこには一浩だけでなく彼の娘だという小学生の鮎子(石森美咲)がいた。鮎子を迎えて幸野家は4人となり、銭湯の営業も再開。そして病に苦しみながら、双葉は体当たりで家族のために行動し……。

映画や小説とは異なり、舞台は5年後の安澄と鮎子が幸の湯の掃除をしている場面から始まる。ふたりの思い出の中の「おかあちゃん」が現れると、皆がそろって登場しオープニングのダンスへ。お掃除グッズを活かした、川崎悦子の振付が楽しい。

安易に映画と比べるのは避けたいところだが、淡々とした映像表現もしばしば見受けられる映画と、ライブパフォーマンスとして表現する舞台、媒体に応じた演出の違いは興味深い。特に双葉と安澄、双葉と一浩など、幸野家の人々のやりとりは、舞台では想像以上にコミカルでにぎやか。双葉も大きな動きや矢継ぎ早に繰り出すセリフなどで“下町のお母ちゃん”感がかなり濃厚になっている。これは舞台として魅せるための表現と、娘たちの回想の中の双葉像であること、両方の意味合いがありそうだ。岡内美喜子はそれ故に少々極端なパワフル具合を見せる双葉を、母として女性として、後半では娘としても、リアルな心情を伝えながら演じている。ひたむきで愛情深い双葉だからこそ、タイトルに繋がる最期の選択にも説得力があって、とても魅力的なヒロインだ。

安澄も、冒頭の20歳を超えた姿から5年前に遡り、まだ子どもっぽさが残っているところからいじめや自らの生い立ち、そして双葉の死と、さまざまなことを乗り越えていく。そしてふたたび冒頭の時点に至った頃には、双葉によく似た力強さのある女性になっている。その成長・変化が、瀧野由美子の演技によっていきいきと伝わってきて、しかも愛くるしい。こちらも、とてもかわいいもうひとりのヒロインだ。

中村誠治郎の一浩は、パチンコに行ったまま姿を消し、しかもほかの女性との間に子ども(鮎子)まで、といういろいろな意味でゆるいと言うべきか、かなり困った男であることは確か。でも妙に魅力的で、惹き寄せられてしまう女性は多いのだろうな……という人物。中村自身の持ち味と相まってか、のほほんと陽気でやんちゃ、時に弱さも垣間見せつつ、そこはかとない色気が加わってとてつもない魅力を放っていた。

鮎子は、映画では9歳だったが舞台では11歳と、設定年齢が若干上がっている。おそらく演者の関係からかと思うが、鮎子の役回りからするとあまり支障はなかったようだ。生みの母に置いていかれた悲しさ、寂しさ、それでも断ち切れぬ想いと、自分を受け入れてくれた双葉や安澄との間に生まれる絆。少女の揺れる心が、瑞々しく表現されている。特に4人でしゃぶしゃぶを囲みながら涙をたたえて自分の想いを口にする場面は、胸に迫るものがある。

幸野家の4人以外では、コミカル担当となる場面も多く双葉のよきサポートキャラになっていた探偵の滝本、双葉・安澄・鮎子が旅行先で出会ったヒッチハイカーの向井拓海(小坂涼太郎)も印象的な登場人物。にこやかな拓海がふと見せる表情や安澄をいじめる同級生の姿など、人の暗い感情も描き出され、胸が痛む場面もある。しかし双葉の言動に起因して、安澄が、拓海自身が、それを乗り越えていくことに繋がるさまは、人間への愛情と信頼が根底にあるように思う。小坂や同級生を演じる夏目愛海、関口秀美、和田みなみは2~3役を兼ね、舞台をしっかりと支えている。

原作の魅力を舞台としての表現・展開に落とし込んだ成井豊の脚本・演出、また銭湯の脱衣所と浴室をベースにした稲田美智子の美術などのクリエイティブワークも、作品の魅力を確固たるものにしている。何より、この作品を観終わったら銭湯でお風呂につかりたくなるに違いない。そして劇中で双葉が言っていたように、夕飯はカレーにエビフライをトッピング。いや、ここはやっぱり家族でしゃぶしゃぶだろうか。そんなささやかな幸せがとても愛おしく感じられ、元気をもらえる作品なのだ。

幸野家の人々と共に笑って泣ける公演は、5月26日(日) までサンシャイン劇場にて。大阪公演は6月1日(土)・2日(日)、サンケイホールブリーゼにて。

取材・文:金井まゆみ

【成井豊 コメント】
ついに初日の幕が上がりました! 新作の初日はいくつになっても緊張しますが、切り込み隊長の筒井俊作が客席をドッと沸かせ、中盤から客席は鼻をすする音でいっぱいに。そして、終演後はいつにも増して熱い拍手。芝居の出来は期待以上。初舞台の瀧野由美子さんも「楽しかった!」と言ってました。うん、この芝居はおもしろい! この勢いで千秋楽まで突っ走ります!
成井豊

<公演情報>
舞台「湯を沸かすほどの熱い愛」

東京公演:5月18日(土)~5月26日(日) サンシャイン劇場
大阪公演:6月1日(土)~6月2日(日) サンケイホールブリーゼ

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/yuwowakasuhodonoatsuiai/

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