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気鋭のヒップホップクルー CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽を作ること

音楽

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リアルサウンド

 Spotifyが注目する、ニューカマー発掘プレイリスト『Early Noise Japan 2018』と、リアルサウンドのコラボによる連載企画「Signal to Real Noise」。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、手練の音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材するという同企画の第三回は、渡辺志保氏による、CIRRRCLEへのインタビューをお届けする。(編集部)

第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”

「リスナーにはただ、いい気分(feel good)になってほしい」

プレイリスト「Signal to Real Noise」

ーーCIRRRCLEは、もともとどういった経緯で結成されたんですか?

Mari(ディレクター):全ての始まりは、私がA.G.Oと音楽友達繋がりで知り合ってからですね。A.G.Oは、元々都内でDJ活動をしていたんですが、音楽のセンスがとても良かったので、トラックメイカーになることをお勧めしたら、勝手になっていました(笑)。

 Amiideとは、2016年のAnderson Paak.の初来日ライブに行った帰りに、Anderson Paak.とバンドメンバーで飲んでいた時に出会いました。何度か遊ぶうちに、「今までやっていたユニットを休止する」と相談されて、私の暴走がここから始まるんですけど(笑)。

 早速、A.G.Oに「Amiideって子に会ったけど、2人でやったら良いやん。絶対売れるで」って勧めまくっていたんですけど「誰かと一緒にやるのは面倒臭い」と断固拒否。我慢できず、強制的にAmiideをA.G.Oの家に連れて行って、A.G.Oが初めて制作した楽曲「Morning Calling」に、Amiideが歌詞をつけて歌わせたんです。想像以上に格好良かったし、ふと、A.G.Oの顔を見たらA.G.Oはアゴが外れたような顔をしていて(笑)。その場で、「ラップを入れたら格好良いんじゃない?」ってAmiideにお願いして、Jyodanに声を掛けたのがCIRRRCLEの始まりです。つまり、超軽いノリで今の形に至ったってことですね!(笑)。

A.G.O(プロデューサー):「僕の曲がこうなるんだ!?」って思いましたよ。家で曲を作る傍ら、音楽シーンにおいて「こういうことがやりたいな」というビジョンがちょっと見えてきた時でもあったんです。〈Soulection(ロサンゼルスの新鋭レーベル)〉の動きとかを見ていて、これは今、自分達で作る時代が来たなと。

Amiide(シンガー):2008年から2014年までずっとアメリカのLAに住んでいて映像の勉強をしてたんですけど、やっぱり音楽の勉強がやりたいと思って日本に帰国しました。元相方のDJと出会って、1年くらい2人組のユニットとして一緒に活動してたんですけど、全てにおいて右肩下がりだった時に、CIRRRCLEのメンバーと出会ってしまったって感じで。

ーーAmiideさんは歌手活動を始めて長いんですか?

Amiide:母親がオペラ歌手で、歌はもともと好きだったんです。宇多田ヒカルさんとかがすごく好きで、そこから洋楽も聴くようになっていった。R&B調の歌を遊び程度にやっていたくらい。

ーーてっきり、LAに住んでいた時から精力的に歌手活動をしていたのかと思っていました。

Amiide:日本に帰る間際に、すごく親切な友人が「僕がMVとかレコーディング費をスポンサーしてあげるからやりなさい」って言ってくれたんですよ。これをきっかけに、1曲カバー曲を作らせてもらいました。歌うようになったのは、これがきっかけですね。Jyodanと知り合ったのも東京だし。

Jyodan(ラッパー):僕は親が米軍で、幼少期は半分をアメリカ、半分を日本で過ごしたんです。ミリタリーの敷地内にあるスクールに通って、日本にあるアメリカン・カレッジに通いました。卒業後は、自分の家にスタジオを作って、人を招いて音楽制作に励んでいました。初めてラップしたのは10歳の頃で、当時はテキサスに住んでいました。友達とバスケやスケートボードをやっていて、ラップをするのもごく普通の自然な流れでした。その時はただの遊びって感じでしたけどね。

ーー現在はレーベルやエージェントにも所属せず、完全にインディペンデントな活動をしているんですよね?

一同:そうです。

A.G.O:もちろん、MVの撮影とかを手伝ってくれている人はいるけど、みんなで役割分担しながら活動していますね。Jyodanがロケハンをして、Amiideが映像を撮って、Mariと僕がプレスリリースを書いて、みたいな。単純に、誰もやってくれないから自分たちでやるっていうだけなんですけど。

ーーでは、近々どこかの事務所などに所属する考えもない。

Mari:考えたことないですね。特に、日本のマネジメントやレーベルは全く考えてないです。海外からも声がかかってるので、今は様子見ですね。

A.G.O:色々頑張ってやってきた上で、僕たちに足りないところをいい形で助けてくれるところとやりたいな、というマインドはあります。特にビジネスサイドで、メンバー内で出来ないところは、アイデア出しも含めてMariがカバーしてくれています。あと、CDを出すという気持ちもないんですよね。限定グッズみたいに出すのはありかもしれませんけど。

ーー現在、自分たちでインディペンデントに活動していくにあたってロールモデルのような存在はいますか?

Amiide:みんなが共通して好きなのはチャンス(Chance the Rapper)じゃん?

A.G.O:あと、 Brockhamptonとかも。彼らも、クルーでワイワイやってる感じがするので、同じような人たちがいるなって思いますね。

ーーCIRRRCLEの楽曲は、とにかくポジティブなバイブスというか、ハッピーなオーラがMVや楽曲からも伝わってきますよね。

Amiide:そうそう。最初、「お前ら3人でやっていけ」っていうのと、「ハッピーなコンセプトでやれ」っていうのはMariのアイデアだったんです。私も、その前は、結構ダークな感じの音楽をやっていたし、Jyodanも外国人ばっかりのグループで、まさにヒップホップみたいな音楽をやっていて。

Jyodan:前は、よくあるステレオタイプ的でクラブミュージック的な、メインストリームのヒップホップっぽいことをやってましたね。もちろんクラブカルチャーは身近だけど、本当にやりたいことはそれじゃないな、と思って。いい気分(feel good)な音楽を書くと、そのまま、自分もそんな気持ちになる。なので、僕もちょうど、ハッピーな音楽を作りたいと思ってたんです。それに、もっとカルチャーに根ざした活動がしたかった。

Mari: みんなが型にハマりすぎてるのを見て「普通に楽しめばいいやん」って思ってました(笑)。

A.G.O:そもそも、ヒップホップをやってるつもりもないけどね。

Amiide:(曲の中に)ラップがあるっていうだけだしね。

A.G.O:メンバーそれぞれが経てきた音楽も、ロックやR&B、ファンク、クラシック……と多岐にわたるし。

Jyodan:うん。僕らの音楽を聴いたリスナーには、ただ、いい気分(feel good)になってほしい。別に俺たちみたいになれ、とかそういうことではなく、スタイルは関係なく「これが俺たちなんだ」っていう部分を大事にしていきたいね。

「日本は自分らしくあることが結構難しい国」

ーーSpotifyでも2018年の夏頃から「Fire Emoji」や「New Music Friday」といったグローバルなプレイリストにCIRRRCLEの楽曲がフィーチャーされ始めましたが、それ以降、周りに変化はありましたか?

Amiide:友達がちゃんと聴いてくれるようになりましたね。で、その友達からさらに広がっていって、芋づる式にCIRRRCLEの楽曲がバーッと広がっていった感じはすごくありました。

ーーちなみに、インカム的な変化は?

Amiide:プラマイゼロくらいですかね。

A.G.O:結構、投資してるんですよ。曲を作るのはそんなにお金が掛かってないんですけど、機材を揃えたりビデオを作ったりするのにお金が掛かってますね。今は、全部僕らのポケットから出してる資金なんで。

Jyodan:まさにランチマネー(昼食代)を貯めて、自分たちに出資してるよね。ご飯を食べるのを我慢して、翌週のMV撮影費に充てる、みたいな。

ーー主にストリーミングサービスを通して、世界的に楽曲が聴かれているというイメージですが、地域ごとのマーケットは意識していますか?

A.G.O:難しいところなんですけど、曲によって聴かれている国が全然違うんですよ。「Talk Too Much」は、ブラジルでめっちゃ聞かれてるんです。「Fast Car」はアメリカ、しかもLAあたり。あとは、アジアでもインドネシアや台湾を中心に聴かれていて。全然知らないインドネシアのインスタグラマーから連絡が来たりして。

Amiide:今は、アメリカとアジアがメインですね。次はヨーロッパを狙いたい。

ーー今は、A.G.OさんとAmiideさんが東京にいて、Jyodanさんの拠点はLAということですが、普段はどうやって楽曲を制作しているんですか? 物理的な距離に制作を阻まれることはない?

A.G.O:楽曲を作る面では、あまり心配はないですね。「Fast Car」は2人が向こう(LA)にいて、骨組みをもう作ってたんですよ。それが送られてきて、「あー、なるほどね。じゃあ、お前らこういう感じが好きだろ?」ってアレンジを加えて送り返して。

Amiide:私は今、ビートを作る勉強もしてるんですけど、「こういうのを作りたいなー」って楽曲のべースを自分で作って、「はい、コーラス考えて〜」ってJyodanに送って、その後にA.G.Oに「お願い!」って送るんです。

A.G.O:で、僕が「ここは違うな」っていう箇所を直して、ちゃんとプロダクトにして戻すっていう。

Amiide:クリエイティブの面では、そんなに言い合うこともないよね。「そこは、こうしたらいいなじゃん?」くらいで。あと、Spotify上で毎週更新しているCIRRRCLEのプレイリストがあるから、それを通して自分たちが何を好きか、常にチェックしている感じです。

プレイリスト「OMAKASE SATURDAY by CIRRRCLE」

ーー私は「Foreign Things」のAmiideさんの歌詞が妙にリアリティがあって好きなんですが、リリックは実話ですか?

Amiide:大体、曲のコーラス部分が先に決まるんですけど、コーラスは大体Jyodanが作っていて。歌詞は大体実話です(笑)。

Jyodan:歌詞の内容は自分のドキュメンタリーって感じです。僕の元カノは散財するのが好きで、それが「Foreign Things」のアイデアになりました(笑)。

Amiide:彼のアイデアに自分の妄想を足して、さらに実際に経験したことをミックスして書いてるって感じです。

ーーCIRRRCLEとしての直近の明確な目標は?

A.G.O:『FAST CAR』のEPができた時に「やっと俺らがやりたい音楽ができた!」って感じだったんです。今はEPしかないので、フルでしっかり「CIRRRCLEはこうです!」とバチッと出せるものが作りたいな、と。短期的なゴールはそれですね。

Amiide:あとは、ワールドツアーをしてみたいです。

Jyodan:今、結成2年目で、これまではラッキーなことにイージーな気持ちでお互いを思いやりながら活動してこれた。でも、これからどんどん状況が複雑になっていくと思うんです。だからこそ、僕はいい曲を書いてラップする、Amiideはシンガー、A.G.Oはプロデューサー、という役割にもっと集中したい。あと、これから音楽業界で成功するためには、自分たちの身は自分で守らないといけない。でも、俺たちはその方法をまだ知らないんだよな。

Mari:そう、そこを学んでいかなきゃ。CIRRRCLEは今、頑張らなきゃいけないグループなんです。なので、スケジュール管理とか経理の面や方向性のベースの骨組み私が引き受けて、メンバーたちには音楽活動に集中して欲しいですね。

ーーこうしてそれぞれの話を聞いているだけでも、3人ともキャラが違うというか、全くことなる役割なんだなと感じます。3人のドキュメンタリームービーとかがあれば面白そう。

Amiide:各々のバックグラウンドが違いすぎて、それぞれのカルチャーがぶつかり合いまくるんですよ。2週に1回くらい、「イヤ!」みたいな意見のぶつかり合いがありますね。本当に文化の違いを感じる。

A.G.O:音楽性の違いでは喧嘩しないんですけど、考え方の違いが喧嘩のきっかけになるんですよね。僕は、新潟生まれ新潟育ちの超日本人。18歳の時、大学進学をきっかけに東京にきました、っていうめっちゃ普通の人なんですよ。Jyodanはアメリカで生まれて色んな場所で育ってきたし、Amiideも拠点が2個あるような感じで。それで、ぶつかっちゃう。

Amiide:そもそも、日本は、自分らしくあるっていうことが結構難しい国じゃないですか。アイドルだったら恋愛が出来ないとか、セクハラも蔓延っているし。でも、そんな中で、こういうチームが自分たちの好きなことをしている、自分がなりたい自分になれるってことを伝えていきたいです。CIRRRCLEのカルチャーも、黒人、レズビアン、ティピカルジャパニーズってバラバラだから。

ーー3人とも、アイデンティティやエスニシティ、セクシュアリティの面にもいてもユニークですよね。そう言った部分は、作品にも反映されている?

Amiide:自分は反映されていると思います。歌詞の中でも絶対「she」とか「her」って単語を使うようにしているし。でも、私1人だけじゃダメなんですよ。世界っていろんな人がいて成り立ってるし、それをキュッとしたのが、CIRRRCLEの3人。日本も、ちょっとずつでも変わってきてると思うし、だからこそ、自分たちももっとメッセージを伝えていきたいですね。

(取材・文=渡辺志保/撮影 =はぎひさこ)

■リリース情報
「Petty(Remix)feat. MRSHLL」
1月23日(水)¥150(税込)

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