Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 力強く生まれ変わった鉄風東京が、仲間と共に作り上げた祭りのような一日 『FLYING SON FES 2024』オフィシャルライブレポート

力強く生まれ変わった鉄風東京が、仲間と共に作り上げた祭りのような一日 『FLYING SON FES 2024』オフィシャルライブレポート

音楽

ニュース

ぴあ

鉄風東京 (Photo:Takano Ryuki)

続きを読む

フォトギャラリー(23件)

すべて見る

「繰り返すのではなく、積み重ねるように最高を更新したい。変わらず、尚更強く仙台という街を背負って。」力強く生まれ変わった鉄風東京が魅せたアツいステージ。ホームで仲間と作り上げた最高の祭りの時間。今年で2回目となるFLYING SON FES 2024。今回は鉄風東京がホームとして多くの熱い夜もやるせない夜も過ごしてきたライブハウス「FLYING SON」を飛び出して、数百人規模のライブハウスでは仙台市内でも最大となる会場、仙台Rensaにて大々的に開催された。

このフラサンフェスは彼らが全国各地のツアー先で共演したバンドや憧れのかっこいいバンドなど、大黒(vo)自身が声をかけ実現した舞台。話題の邦ロックのバンドや実力派の面々が一堂に会するラインナップはなかなか東北の地では実現しないであろう実に興味深い組み合わせで、会場を埋め尽くした若い観客たちはイベントの開始をいまかと心待ちにしていた。

SEのThe1975のSincerity Is Scaryが会場内に鳴り響き定刻通りにライブが始まる。トップバッターは35.7。小柄なたかはし(vo/g)が発するパワフルで特徴的な高音ボーカルで「うそうそほんと」が歌い出されると会場では自然とハンドクラップが起こり温かいムードで歓迎された。メンバーそれぞれもその熱気に応えるようにステージ前方まで仕切りにアピールし雰囲気を楽しむように演奏していたように映った。

勢いを止めずに少しエッジの効いた楽曲「Hurtful」を続けて、真っ赤な照明を浴びながら咆哮し、かと思えばシリアスに言葉をひとつひとつ吐いて心のままに歌を届け、「スローファイヤー」でもどっしりとした重厚な演奏を聴かせ、楽曲の幅の広さを序盤から感じさせてくれた。

35.7

鉄風東京との共演はおよそ1年ぶりだという。「かっこいいバンドの中に混ぜてもらったんですけど、(自分たちは良い意味で)それに混ざらないように演奏して帰ります。よろしくお願いします!」と伝えると、〈最近どう?辛いことある?〉と君はなにも間違っていないと肯定するお守りみたいにやさしい歌「すももドロップ」を披露。

その後も各パート毎に細かく練り込まれたコーラスワークやギターのフレーズが心地良く、ソングライティングだけではなく表現力豊かなパフォーマンスに酔いしれた。

「(今日出ている)全バンドを見終わったらたぶん私は悔しいって感じると思うんです。だけど、うーん今日はかっこよくできたかも!っていう日を探して探して...そうやって自分で満足するところまでいきたいです。鬱陶しかったらこの話は無視していいけど、みんなもこれで悔いないって満足する日までがんばって過ごして、その先でまた会えたら嬉しいです。」

35.7

たかはしがそう伝えると観客からは大きな拍手が起き、〈またこんな日があるなら 泣き疲れたって明日を待ってみようか〉と「しあわせ」でセンチメンタルに締め括った。

今回のフラサンフェスはRensaのロビーにもFRONT ACOSTIC STAGEと題した小さな舞台が用意され、メインステージで交互に演奏が行われる。こちらはドリンクカウンターの前のスペースで弾き語りやアコースティック中心のパフォーマンスとなる。鉄風東京の大黒は「今日ここは緊張しなくていい空間なんでみんな普段通りにしててください」と、くだけた様子でみんなに声をかけ、リラックスした雰囲気で自身の曲を弾き語る。暖かな今日の気候にぴったりな「スプリング」や、まだリリースされていない曲も含めバンドの曲を惜しみなく顔を赤く染めるほど力強く熱唱。

最後には歌詞の歌い回しをド忘れして「あれ?ここなんだっけ?」と苦笑しながら歌唱していた場面もあったが、あせることなく目の前にいる観客たちとコミュニケーションをとりながら前言の通り良い意味で緊張感のない微笑ましい空気が流れはじめていた。

続いてはConton Candy。ハナレグミの「音タイム」が流れる中ひとりひとり深くお辞儀をして登場。ステージ中央で3人が円陣を組んで気合い十分。「東京から友達のお祭りを盛り上げに来ました!もっと盛り上がっていけるー?」とよく響く声で紬衣(vo/g)が意気揚々と口火を切る。

人気曲「ロングスカートは靡いて」や疾走感溢れるギターロックチューン「baby blue eyes」で会場の空気をすぐに自分たちのモノに。鉄風東京とは同い年であり、ここ最近はフェスやサーキットでの共演も多い2組。「頼もしい仲間がいてくれて嬉しい気持ちでいっぱい」と彼らへの印象を語る。

「今日の主人公は鉄風東京なんだろうけど、(私たちが)そうさせないくらい良いライブをして帰ります!」と意気込み、彼女らを広く世に知らしめた「ファジーネーブル」を甘酸っぱく聴かせる。

Conton Candy

意識せずとも巷で耳にすることも多いこの曲。その耳馴染みの良さ・キャッチーさは生で体感すると思わず納得してしまうほど。どうしてもTikTokで流行したこの曲の印象が先行するConton Candyだが、ガーリーな部分やかわいさとほろ苦さが同居した楽曲のイメージはライブを体験すると誰もがその印象を覆されるように感じた。この1年大きな舞台を数多く踏んできたことが伝わるステージングの迫力と低音の鳴りも気持ちよく、ライブバンドとしての魅力をフロアの観客たちもまじまじと感じていたようだった。

「鉄風(東京)を見ているとホームがあるってめっちゃいいなって思います。そういうものを引っ提げてイベントをやったり、仲間をホームに呼んで一緒に成長していく場があるのは素直にうらやましいと思ったり。でもホームが無くても、うるさい耳鳴りを持って帰る場所、言葉が無くてもどこよりも心があったかくなれる場所であるライブハウスで育ったわたしたちも(鉄風東京と)気持ちは変わらないです。」

Conton Candy

そんなアツい気持ちを吐露し、「そばにいてくれてありがとうって曲!」とギターをかき鳴らして紬衣が声高に叫ぶと、楓華(b/cho)が天を指差し、彩楓(ds/cho)と共に骨太なビートを刻み「102号室」、そして「好きなものは手のひらの中」を全力で演奏。最後にはステージにへたり込み、音が鳴り止むまでギターを晴れやかな顔で弾き倒していた。

3番手はyonige。シングルとしてもリリースされた「リボルバー」はシンプルなコード感とメロディーで淡々と進む曲調だが、夏の日の午後のだらっとした時間のようなものや言葉にうまく表せない心情を滲ませているようにも感じ、余計な脚色がないからこそこのバンドの楽曲の凄さをまじまじと感じさせた。その後も貫禄すら感じさせる演奏で、年明けにリリースされた最新アルバムに収録されている「Super Express」「スクールカースト」などを披露。

yonige

牛丸(vo/g)は「気づいてる人も多いと思うんですけど...」と声を飛ばしてしまっていて喉が本調子ではないことを告げ、それでも今日できることをきちんとやろうと思うと告白。そして鉄風東京のメンバーが会うなり開口一番に「今日"沙希"ってやりますか!?」と聞いてくれたが、なんとなくたまたまこの曲をやりたいなと久しぶりにセットリストに入れていたところだった、というエピソードも交えて、根強い支持を集めるミディアム・ナンバー「沙希」がゆっくりと鳴らされる。〈得意げにきみは言う 世界で一番安全な場所〉の歌詞に代表されるように、又吉直樹の小説『劇場』にインスパイアされたこの曲。ごっきん(b/cho)のベースプレイと立ち振る舞いは鮮やかで、サポートギターの空間系の短音が心地良く鳴る楽曲の上で丁寧に歌いあげる牛丸。観客ひとりひとりがしっとりと噛み締めるように観入ってたのが印象的だった。

「きっと(お客さんは)はじめましての方が多そうなのに私たちを迎えてくれる雰囲気がとても良くて嬉しい。鉄風のお客さんがきっとそういうあたたかい人たちなんだろうな」と笑みをこぼしながら、最後の「最愛の恋人たち」まで、進化を続ける本格派でオルタナティブな音楽を惜しみなく魅せた、目が離せないステージとなった。

yonige

夕刻になるとロビーでのアコースティックステージのライブも熱演が続き、お酒や音楽に酔いしれた出演者や観客たちで溢れた会場内の雰囲気も賑やかに。メインステージからはw.o.d.のアグレッシヴでどでかい轟音が漏れ聴こえてきた。「おい!w.o.d.始まるぞ!早く早く!」とロビーを駆け足で進み、友人たちを煽る青年が目の前を駆けていった。"ヤバいライブを見たい"という至極真っ当な本能に突き動かされている様子を見るとこちらも心が躍る。

w.o.d.のメンバーは髪型や服装も含め、ひとりひとりのキャラに華があり艶やかな出立ちで堂々たる演奏。ドラムとベースのリズムパターンが反芻し繰り返していくほどに脳が溶けていき、文字通り「楽園」へと誘われたかと思えば、初期曲である「lala」では神々しく白く光る照明に包まれながら目の前が開けたように壮大な開放感を得た。理解するよりも身体が感じるビートとリズム。興奮物質がビンビンに溢れ、曲ごとに彩り豊かに弾けるライブに様々なスパイスを感じて会場のあちこちでさらにお酒が進んだことだろう。

w.o.d.

「仙台...アツいっすね。みんなもやけど、物理的に暑い(笑)。」と笑いを誘いつつも、鉄風東京からのオファーにようやく応えられたことに喜びを感じていた様子。

「外では祭りやってますね。めっちゃ楽しそう。みんなこっち(フラサンフェス)でいいん(笑)?でもそれ最高やと思う。それだけ音楽が好きなんやなってわかるよ。まぁおれの方がめっちゃ(音楽)好きやけどね。」とサイトウ(vo/g)が笑い、夏を感じる最新シングル「陽炎」を伸びやかなボーカルで歌い上げる。

w.o.d.はバンド初期からグランジの文脈を感じる存在だが、リリースとライブを積み重ねて来た今回のライブから感じたのは初期衝動的なものは鳴りを潜め、代わりにダンスミュージックの気持ち良さとロックの持つダイナミックな要素が突き詰められていたもので、圧巻だった。

w.o.d.

"音楽はいつだって自由でいい"と「Mayday」を奏で、〈Shall We Dance? 下手なステップで御手の鳴る方へ〉と「踊る阿呆に見る阿呆」が誘う。

お世辞抜きに初見でも踊れるしロックの醍醐味と遊び心を同時に感じられるようなアクトは最後まで大きな舞台がよく似合っていた。

イベントも終盤に近づき、鉄風東京とは同じ02世代のバンドとしてツアーやツーマンライブなど共演の多いルサンチマンの出番がやってきた。

メンバーそれぞれの今時の若者感溢れるフレッシュさからは想像できないような生々しい感情を覗かせるオルタナティブなロックや、マスロックの影響も感じさせる緻密なフレーズが垣間見える彼らの音楽。若手ロックシーンの間でもここ数年急速に存在感を強めている。

「荻窪」でライブがスタートするとオーディエンスの拳がみるみるうちに挙がり、曲中にオフボーカルになってもフロアからは一緒になって歌っている声があちこちから聞こえてきた。やはり彼らを待っていてバッチリ支持している層がいるようで頼もしい。

ルサンチマン

「俗生活の行方」でヒリヒリしたサウンドと歌詞を浴び、彼らの特徴的な持ち味のひとつでもあるインスト中心の「not wrong」が加速していく頃にはじわじわと静かに会場内の熱気が高まっていった。一見クールなように見えるが、その芯の部分はどんどんと熱が高まって伝染していくルサンチマンのライブは、実は赤い炎よりも高音である青い炎と似ている。

バンド全体の演奏力の高さはもちろん、結った長髪を靡かせながらアグレッシヴに中野(g)が弾き倒すギターフレーズをしっかりと聴かせるような長めの尺の楽曲も多く、いくつも自分たちの軸があるようなバンドの強度がいかんなく発揮されていた。

フラサンフェスへの2年連続出演への感謝をMCで述べる北(vo/g)。元々あまり(意見を)話すタイプではないことを自ら伝えながらも、「今日の出演者もそれぞれいろんなスタンスのバンドがいるけど、"どのスタンスも全部いいな"。そうお互い思えたら一番いいなと思います。そう言葉を漏らすと、リリースを控えた音源「Our Tour, Your Home」の中から新曲「アワーツアー」を披露。泣けるメロディーの中にも独特のコード進行と展開を感じる彼らの得意な唯一無二なアレンジ。自分たちのスタイルや思いは、曲に込めて伝えるという意思を改めて強く感じた。

ルサンチマン

勢いそのまま「ikki」をかっ飛ばし、10代の不安定な気持ちを総まとめにしたルサンチマンなりの決意表明とも言える「十九」で衝動をさらに大爆発させ、ステージを後にした。

ここまでアコースティックステージでは"駅裏アーティストのみなさん"と大黒が呼ぶ、駅裏に位置するFLYING SONで共に活動し共に遊んできたイツメンのバンドマンたちが熱演を重ねていた。オクダ(ベス)、ケイタ爆発とケイウメザワ(勃発/izumi)のライブ中には大黒も野次を飛ばしたり口ギターで参加する場面もあり、注目を集める10代の後輩バンドhalogenの才能溢れるアクトには熱い眼差しが届けられていた。

このステージの最後を飾るのは鉄風にとって同志とも呼べるであろうEverBrighteller。

ホール内に注意を向けると、セッティング中の大黒が「みんな屈伸とか念入りにしておいてね?(長丁場だから)足疲れてるでしょ?あとさ、もしまだ元気あるぞーってヤツがいたら、おれらの代わりに(アコースティックステージでライブをしている)エバブラのこと茶化してきてよ。」と観客を和ませていたところだった。

今日だって会場は大きいけどいつもと変わらないよ、と演者とお客さんの垣根を取っ払ったようなフラサンの光景を最後まで大事にしていたようだった。

ロビーに戻るとEverBrightellerが最後に鉄風東京の「スプリング」を歌うという粋な演出が。歌い終わりに一言「次は鉄風東京」とメインステージを指差し、本日の主役へとバトンタッチ。

この日ライブ会場を一歩出たところではこの時期の仙台の風物詩である一大イベント「青葉まつり」が行われていた。その起源は伊達政宗公の時代の仙台藩の頃。"市民がつくる市民のまつり"として親しまれ、現代に復活してからも40回の開催を数える。

そんな賑やかな催しを横目に、快晴に恵まれた初夏のような温かさの杜の都にて、結成6年目のバンドが開いたいつもとは少し違うもうひとつの新しい祭りはいよいよフィナーレを迎える。新緑の新たな息吹を感じる鮮やかなグリーンに彩られた"FLYING SON FES 2024"のどでかいドロップを背に鉄風東京の4人が満を持して姿を現した。〈いつだって 僕らの心が光る場所〉〈ここがすべて 僕らのすべて〉と意思表明する、今日のイベントにも名を冠した「FLYING SON」。大黒がアルペジオをたっぷりと情感を持たせてつま弾きながら、力強く歌い始める。

一面真っ赤な照明で塗り潰され、視界にはスモークが薫る。フロアからは今日一番の歓声と拍手。野太い声も甲高い声援も入り混ざっていた。

鉄風東京

間奏で「よろしくお願いします!!」と歯切れ良く宣言すると、フロアも神々しいほどに照明に照らされて、前へ前へと進みながらも各々好きなように掲げた拳とフロントメンバーが楽器を掲げるシルエットが会場いっぱいに影絵のように映し出される。

「この最高な日、ぶっちゃけおれ、これ以外いらないっすわ!ハハハ。ワンツースリーフォー!」と大黒が楽しそうに始めたのは「いらない」。昨年リリースされたMini Album『From』収録のこの曲は、彼らなりのアンチテーゼのようなものを織り交ぜた1曲。"甘いだけの歌も嘘つきの言葉もいらない"と心の内を表明する異色でありつつも正直な歌。

「みなさんお越しいただきありがとうございます!鉄風東京です!よろしくお願いします!なんか見てて思ったんですけど、もしかしたら今日ヤバいことしでかしてるかもしれないっすね。自分たちが誘わせていただいたかっこいい友達や先輩や後輩がみんな出てくれて、みなさんが(他にもたくさん仙台でイベントが被っていたが)ここを選んでくれて。超嬉しいっす!本当ありがとうございます!」

序盤から感謝と喜びが溢れ、生き急ぐように早口で捲し立てる大黒。

「僕の求めてることってこれのことなんで!やりたいようにやります!」

「咆哮を定め」でさらに軽快にこの場の空気を引っ張っていく。やりたいことを口にしてひとつひとつ実行して歩んできた道のりを時に噛み締めるように、時にメンバー同士顔を見合わせてじゃれ合うようにこの時間を楽しんでいるようだった。

「どんな悲しい歌もどんな卑屈な歌も、おれらのライブ中歌っちゃダメな曲なんてないんで。好きなように歌ってください」と告げ、彼らの存在を世に知らしめた「外灯とアパート」のイントロが美しく描き出されると、観客からはすぐに大きなレスポンス。時折合唱が起こる光景は見事だった。

muku(b)は首を使って落ち着いてリズムを確認しながら静かに歌を口ずさみ、Sougo(g)はお客さんの表情や様子をじっと見つめながらも至極のフレーズをひとつひとつ決めていく。そんなふたりが振り返ると颯(ds)がアイコンタクトをとり、清々しい表情でギュッとまとめ、曲を躍動させる。

「会場の熱気がすごくて夏みたいだから、いったん春にします」と、偶然今日この場所で3回目、最も歌われた曲となった「スプリング」の小気味良いリズムとグッドメロディーが爽やかな風を吹かせ、ここまでの疲れも忘れさせてくれる。気づくと何度も口ずさんでしまう不思議な魅力のある曲。

鉄風東京

「ここにいる人たちが仙台に住んでいるのか、どこから来てどこに住んでいるのかわからないけど、みんな同じような気持ちを感じたことがあるだろうから」と環境や暮らしが変化しがちなこの季節に合わせて、ささやかで一方的な応援の気持ちを込めた「東京」を披露。序盤のギター2本の掛け合いから心を奪われ、そのままドラマチックに曲は進んでゆく。青く照らされた空間でスポットライトを浴びた大黒が激しくも切なく大事に歌い上げていたのが印象的だった。

「楽しくてしょうがないっすわ!なんか一日ずっとうろちょろしすぎて足も痛いし、イベントを作ったのは自分なのにおれが遊びに来たのか?って思うくらいに楽しい。」

「なんだろうな、(自分の具合いやテンション的に)たぶん今日はおもしろいことを言おうとすると、スベってしまう空気な気がするので(笑)、伝えたいことだけちゃんと伝えますね」と仕切り直すと、このフェスの開催を決めてバンドを誘った時はメンバーが抜けてmukuとふたりだけになってしまった時だったこと。その時は"もう終わった..."とバンドに絶望していたこと。それなのにどのバンドもその状態の彼らに対して出演を快諾してくれたこと。今日ここに立って後ろを振り返ればフライングサンと書いてあって、お客さんも出演者もたくさんの大好きな人たちがここにいてくれること。それを当たり前じゃなく本当に本当に嬉しく思っていること。赤裸々に大黒が語った。

「これをうまく言葉で伝えられないから、僕はMCが下手なんでしょうけど(笑)。まぁでもね、音楽で伝えられないと意味ないんで。だからこのどことなくスベりそうな予感を残したフロアを音楽で壊したいと思います。」

と照れ隠しのように口にすると、その意気込みを受け取った観客はあたたかい拍手で応えていた。

「あなたが好きなバンドが仙台に来る理由が鉄風東京だったら嬉しいし、あなたが仙台を好きな理由が鉄風東京だったら嬉しい。そういうバンドで居続けたい」と意思を表明して、ハイハットが4つ刻まれると息を合わせたようにジャーン!と勢いよく各パートが一斉に鳴り、「TEARS」が一層激しくかつセンチメンタルにフロアに届けられた。

音楽が物質的な距離や概念を超えて届くように、僕らの感情や願いも近くても遠くにいてもどうか伝わってあなたの心が震えますように。そんな風に歌っているようにも思えた。

白熱したエモーショナルな演奏は続き、「遥か鳥は大空を征く」では〈なぁ聴こえるかい 焼きついては消えない音楽よ〉と声を荒げ、フロアでも我慢できなくなった様子でクラウドサーフが起こり始める。ラストスパートの始まりの合図を告げられたようだった。鉄風東京の楽曲の中でもとびきりBPMが速く、目下最新リリースでもあるシングル「Sing Alone」が2ビートに焦燥感を乗せて疾走すると、ここまでおとなしかった観客たちも自由にはしゃいで騒いでいるのが微笑ましかった。

「フラサンフェス2024、1日目ラスト!明日へ続く曲をやります。駅裏からここまで長き道のりを歩んできました!また明日、みなさん駅裏集合で。また会いましょう!」と声高に宣言し、彼らが大事にしてきた「21km」が今日一番の歓声と共にハイライトとして光り輝く。

ライブ仕様のアレンジで力強いドラムがドタタドタタドン!と瞬発力高く叩かれると、それに合わせて跳躍する大黒。身体を大きく投げ出し、気持ち良さそうに天を仰いだり気持ちをぶつけようと前方へギターを身体ごと振りかぶったりしていた。でも誰も置いて行かないようなやさしい目線でフロアを見つめてもいて、そこにいたのは普段と変わらず精一杯音楽を鳴らすバンドマンでもあった。2月にメンバーの脱退と加入を経験したばかりの彼ら。一時期は目の前が真っ暗になり絶望を感じていたところから、力強く光り輝く道へとまた踏み出し始めたことへの喜びをこのステージでも爆発させているように思えた。

鉄風東京

曲も終盤を迎え、ベースがリズムキープするなか間奏へと入ると、おもむろに「鉄風東京のギター弾けるよー!って人いる?」と大黒が問いかける。いくつも手が上がったが、真っ先に勢い良く手を伸ばした青年をステージまで上げ、鮮やかなグリーンのジャズマスターを託すとそのままメンバーとアイコンタクトを取り、演奏は止まることなくサビへと続く。

〈優しい声が僕の耳を刺して 昔の話だと割り切れないな〉

彼ららしさ溢れる歌詞が観客も交えて歌われ会場いっぱいに広がると、大団円で本編は幕を閉じた。

観客をステージに呼び込むこの流れも、大黒が敬愛するKOTORIの横山がかつて実際にしてくれたことにより、彼のバンド人生の中で大事なハイライトのひとつとなっているできごとがあってのことだろう。

MCがあまり上手くないと自ら漏らしていたが、言葉の節々にはしっかりと信念を感じることができるし、こうやって態度や行動で常に示してきた説得力がある。鉄風東京が同世代のバンドマンはもちろん、彼らに憧れてバンドを始めた若者や近くで刺激をもらった先輩バンドなどに強く支持されるのは必然かと思わせる。

まだまだ満たされ切れていない欲張りなフロアからはすぐさまアンコールの声と拍手が飛び交い、間を空けずメンバーが再登場すると「仙台をもっとおもしろくしたいって事あるごとに自分たちで言い続けて来たけど、割と実現できてるんじゃないかと今日みたいな日は思えちゃいますね。ありがとうございます!」と大黒をはじめ、メンバーみんなの表情からは手応えと感謝の気持ちを感じていた様子が伺える。

「よし!時代作りますよ!僕らの時代!」とガッツポーズをしたり、ニヤッと笑って捲し立てながら〈時代は僕たちのもの〉と新しい光を探し、時には彼らの音楽が新しい光となって道を照らしてくれるような頼もしい気持ちにさせる「BORN」。そして本日2回目の「21km」を力いっぱい演奏し、"42km"という長い道のりを彼ららしく走り切った。

最初から最後まで終始熱気が連鎖して渦巻いていったアツい夜はまたいつものホームグラウンド、FLYING SONへと場所を移し翌日も行われる。やりたいように自分たちの好きなことをやりながら、あなたの心の中で強い誇りとして存在できるように。仙台はかっこいいバンドがいない、つまらない街だなんて誰にも言わせないように。仙台、そして全国のバンドシーンを盛り上げる頼もしい存在としてこれからも鉄風東京は歩みを止めず走り続ける。

Text:4x5chin Photo:Takano Ryuki

<公演情報>
鉄風東京 presents FLYING SON FES 2024

2024年5月18日(土) 仙台Rensa

鉄風東京セットリスト

1. FLYING SON
2. いらない
3. 咆哮を定め
4. 外灯とアパート
5. スプリング
6. 東京
7. TEARS
8. 遥か鳥は大空を征く
9. Sing Alone
10. 21km
EN1. Born
EN2. 21km

フォトギャラリー(23件)

すべて見る