松本幸四郎、市川染五郎との親子役に「大きな責任感じる」松本白鸚は“人間を超越した存在”に
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左から市川染五郎、松本幸四郎。
7月に東京・歌舞伎座で上演される「七月大歌舞伎」夜の部「千成瓢薫風聚光 裏表太閤記」に出演する松本幸四郎と市川染五郎親子の取材会が、昨日6月10日に東京・歌舞伎座ギャラリー 木挽町ホールで行われた。
「裏表太閤記」は、豊臣秀吉の出世物語「太閤記」をもとに、1981年に二世市川猿翁が初演した作品。作中では、秀吉の活躍を描く“表”と、秀吉のライバル・ 明智光秀らの悲劇を描く“裏”を織り交ぜた物語が展開する。初演では、奈河彰輔が脚本、二世藤間勘祖が演出・振付を担い、1日かけて上演された。約43年ぶりの上演となる今回は、奈河の脚本をもとに、二世勘祖の孫である当代の藤間勘十郎が演出・振付を担当。幸四郎が秀吉、鈴木喜多頭重成、そして孫悟空の3役、市川染五郎が喜多頭の息子・鈴木孫市と、宇喜多秀家の2役を勤める。
幸四郎と染五郎は「(二世)猿翁のおじさまがお作りになった、初演のスケール感やエネルギーを受け継ぎたい」と口をそろえる。幸四郎は、初演からの変更点について、「“今”のお客様に届くよう、ドラマを一部変更し、義太夫の詞章も、よりわかりやすい言葉にしています」と触れつつ、「三幕構成で、序幕では光秀の物語、二幕目では鈴木家の物語と秀吉と光秀による大滝での立廻り、大詰めは華やかな所作事と、くっきりと色分かれした内容になっています。古典歌舞伎の演出を使って作り上げますので、歌舞伎俳優と名乗っている自分にとっても大きなプレッシャーではありますが、お客様に興奮していただける芝居を作れれば」と意気込みを述べる。染五郎は「新作ではありますが、父も申した通り、演出は古典です。義太夫狂言のセリフのテンポに、どのように感情を乗せていくか、研究して作っていきたい」と話した。
二幕では、忠義深い1組の親子・喜多頭と孫市の親子愛が描かれる。秀吉による攻城が続く備中高松城の軍師・喜多頭の塞へ、窮地に陥る父を案じた孫市が帰って来るが、喜多頭は孫市の前で主への裏切りを口走り……。幸四郎はこの場面を「大きな芝居場」と表現し、「『実は……』という、互いの本心が表れるまで緊張感があり、忠義と親子の情というものが、ドラマティックに描かれています。この場面を、染五郎と2人で任せていただけることに、大きな責任を感じています」と言葉に力を込める。染五郎は「(孫市は)主君に対して真っすぐ。主君に背いて秀吉側に寝返ろうとする喜多頭に対し、父であっても『それは違う』と止める、そういった芯の強さを出していけたら」と役への思いを語る。
また幸四郎の父で、染五郎の祖父である松本白鸚は、本作に大綿津見神役で登場する。大綿津見神について幸四郎は「初演にはなかったお役で、二幕ラストの大滝での立廻りにいざなってくれる、神様のお役です。人間を超越した存在を、父はその大きさでもって演じてくれると思いますし、父本人も前のめりに楽しみにしていました」と話す。大滝での立廻りの詳細を、報道陣から問われると、「舞台は琵琶湖。私演じる秀吉と染五郎演じる孫市が、(尾上)松也くん演じる光秀をよってたかってやっつけます(笑)」と表現した。
なお取材日の同日、「裏表太閤記」の撮り下ろしが解禁され、幸四郎が秀吉と孫悟空、染五郎が孫市に扮した写真がお披露目された。幸四郎は、自身が主演する映画「劇場版 鬼平犯科帳 血闘」の撮影現場である京都で「裏表太閤記」のスチール撮影が行われたことを明かし、「(スチール撮影に居合わせた『鬼平犯科帳』のスタッフ・キャストは)びっくりしていました。びっくりしている人たちを、孫悟空の姿で追いかけたりして、楽しかったです(笑)」とにんまりと微笑み、報道陣の笑いを誘う。続けて幸四郎は、取材会の会場に置かれた、秀吉に扮した写真を見ながら、「これは、大詰で三番叟を踊るときの扮装。歌舞伎における秀吉の拵えとして、この姿は非常に珍しいですよね。ほかにも扮装がある中で、あえてこの三番叟の姿を皆さんにお見せすることで、新作の世界観を感じていただけるのでは」と、その意図を述べた。
染五郎は、自身の写真を見つめながら、今月歌舞伎座で上演中の「六月大歌舞伎」より、自身が勤める「『義経千本桜』所作事 時鳥花有里」の鷲尾三郎と扮装が少し似ていることに言及し、「こういう、すっきりとしているけど強い、という役が続くので、鷲尾三郎の雰囲気も(孫市の役作りに)生かせたら。また、8月には(歌舞伎座『八月納涼歌舞伎』第二部『艶紅曙接拙』で)女方を勤めますので、そのギャップもお客様にはっきり見せたいです」と語った。なお、幸四郎と同様に「劇場版 鬼平犯科帳 血闘」に出演している染五郎に、記者から「孫悟空姿で、人を追いかける父・幸四郎についてどう思ったか」という質問が飛ぶと、染五郎は「自分はその場にいなかったので……」と明かしつつ、「良いと思います(笑)」と、隣の幸四郎に視線を送る。幸四郎は「(染五郎が現場に)いなかったから、追いかけたんです(笑)」と、やや照れくさそうな表情を浮かべた。
最後に、来場者に向けたメッセージを求められると、幸四郎は「私自身、7月の歌舞伎座公演に出演するのが久しぶりで、最後に出演したのが、2013年の『東海道四谷怪談』の通しでした。『裏表太閤記』も、前回と同様に大作となります。“これぞ歌舞伎”というものを堪能していただける作品になりますので、多くの方にご来場いただければ」、染五郎は「立廻りや宙乗りといった仕掛けの部分で、視覚的にも楽しんでいただける演出がたくさんあります。話もわかりやすいと思いますので、ぜひ若い方や、幅広い世代の方に観ていただきたいですね。自分自身も、暑さを吹き飛ばすようなひと月にできればと思っているので、ぜひそれを体感しに来てください」と、それぞれ来場を呼びかけた。
「七月大歌舞伎」は、7月1日から24日まで。チケット販売は6月14日10:00に開始予定。
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