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平野良×多和田任益、舞台『白蟻』AI巡る濃厚な人間ドラマ

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舞台『白蟻』より

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舞台『白蟻』が、6月6日にKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて開幕した。本作は劇団あやめ十八番の主宰・堀越涼による新作公演。W主演の平野良、多和田任益が物語のキーマンとなるふたりの人物を交互に演じ、前作「沈丁花」に続いての出演となる松島庄汰がふたりの旧友・新渡戸役を演じる。

振付には木皮成を迎え、芝居とコンテンポラリーダンスを組み合わせたダイナミックなステージを実現。また、久保田悠人の独創的な舞台美術が生きた世界観を立ち上げる。3名の楽隊による生演奏も取り入れ、「AIと葬儀(弔い)」をテーマにした濃厚なエンターテインメントが繰り広げられる。

物語の舞台は2024年から2025年。我々が生きる日本と似ているようで異なり、どこか未来を彷彿とさせる世界だ。そこでは、「Termite」という企業が巻き起こした人工知能による産業革命、通称「第二次AI革命」の影響が色濃く反映されている。ちなみに、Termiteの意味は「白蟻」である。

この世界では、最新AI(人型アンドロイド)が万能な執事の役割を果たし、自動車産業では自動運転の技術が、医療分野では人工臓器の開発・移植が急激な発展を遂げている。その火付け役となったTermite 社を率いるのは、物語のキーマンのひとりである櫛本悟(交互配役:平野良・多和田任益)。AIの発展に大きく寄与したとして、世界中から注目されている人物だ。

そんな櫛本の後輩・勢堂直哉(交互配役:平野良・多和田任益)は、櫛本の2歳年下で同じ高校出身。生徒会長だった櫛本を当時支えた生徒会メンバーのひとりである。

当時、櫛本家は町一番の害虫害獣駆除業者であり、一方の勢堂家は葬儀社を営んでいた。家を出て渡米しAI革命の旗手となった櫛本に対し、勢堂は紆余曲折ののち家業を継ぎ、現在は次期社長として葬儀社を切り盛りしている。勢堂のそばには常に"大黒"という名のAI(演・島田惇平)が付き従い、私生活から仕事まであらゆるサポートを提供していた。

そんな勢堂の葬儀社に、ある日小さな事件が起きる。ある男が、交通事故で大破した女性型のAIを「弔ってほしい」と運び入れてきたのだ。

AIの葬儀は、この世界においても前代未聞である。だが男は"彼女"を家族同然に愛しており、どうしても葬儀をしたいと訴える。壊れたAIを抱きしめて号泣する男を見た勢堂は、迷った末にその願いを叶えることを決意する。

勢堂葬儀社によって行われたAI葬儀はマスコミにも取り上げられ、世間で注目の的となった。AI葬儀の相談が増えて多忙になり始めた勢堂のもとに、また驚くべき依頼が舞い込む。それはTermite社を代表する櫛本からの、「2024年大晦日から2025年元旦にかけて、大規模なAI慰霊祭を執り行いたい」という依頼だった……。

脚本・演出の堀越涼が数年かけて練り上げたという今作のプロットでは、「2025年」という何気ないキーワードが、全体を紐解く重要なカギとなっている。またAI分野の勃興というテーマは我々が生きる現実ともリンクし、観客を作品世界の奥深くまで誘い込む。

個性豊かだがリアリティのある人物たちが、ステージの端から端まで余さず使い、いきいきと物語を綴っていく。躍動感あふれるコンテンポラリーダンスが、美しく妖しくそれを彩る。登場人物の心情も関係性も複雑だが、ゾーニングされた舞台装置と人物の立ち位置、ライティングの妙で観客の目線を誘導し、無理なく伝える。堀越の手腕が光る演出だ。

観客を飽きさせないスリリングな展開で、身近な人間ドラマを描きながら、数々の問いを静かに投げかけてくる今作。生命の定義とは何か。人間性は、心は、命は、肉体のどこに宿るのか。こうした問いは、私たちが未来を覗き見るための小さな窓の役割を果たしてくれるだろう。

舞台『白蟻』は、6月6日から6月9日まで、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演された。

取材・文:豊島オリカ

<公演情報>
舞台『白蟻』

公演期間:2024年6月6日(木)〜9日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

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