ディーン・フジオカの背中を押すもの「生きていくためにやってきたことが、自分の命題のようになっている」
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ディーン・フジオカ (撮影:友野雄)
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何かを信じて、自分の軸を持って生きていくことは難しい。自分の行動が周りに影響を与えるとなおさら恐ろしくなる。
しかし、『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』の主人公である小比類巻祐一は、優しさと愛情を持ちながらも、その軸を曲げない。ときとして、それが自分を傷つけることになったとしても。
彼の心を支えるものは何なのか。そんな小比類巻を演じるディーン・フジオカにもまた、仕事に対する信念と軸があった。
Season3は「待ってました、ですね」
2022年4月に放送され、話題となった『バンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』。
主人公は科学の光を信じ、科学は人類を幸せにしてくれる、と信じる小比類巻。警視正である彼が設立したのは、最先端科学技術にまつわる事件を専門に扱う「警察庁 科学犯罪対策室」だった。共に事件に挑むのは天才科学者・最上、元・警視庁捜査一課の叩き上げで優秀な捜査官・長谷部。Season2では新人捜査官・奥田も加わり、パワーアップを果たす。
そして、約2年の時を経て最新章SPとSeason3で帰ってきた。そんな再始動について、ディーンは「もっと早いかと思っていた」と言う。
「Season2が終わったときに、『また来週』というぐらい、あっさりみんな帰っていったんですよ。そのまま、Season3の撮影が始まるんじゃないか、というぐらいのテンションでした。Season3をやらないことはないだろう、とみんな思っていたと思うし、こういう形で帰ってきたということが『待ってました』ですね」
Season3まで重ねてきて、自身が演じる小比類巻祐一としての時間も増えてきている。小比類巻について、「キャラクターの根本にあるのが、科学の進歩というものは光だと信じていること。だから科学が進めば進むほど、人生はより豊かなものになる、人類にとって希望が生まれると信じているのが小比類巻の魅力であり、強みであり、弱みであり、矛盾を生み出している部分」と分析するディーン。改めて、彼について、どのように考えているのだろうか。
聞いていると、最先端の科学技術に対する信頼と共に、小比類巻の中には大きな愛があるのが分かってくる。
「人を大切に思う関係性をどうやったら失わずにいられるのか、というところで、周りから見ると少し狂気にも思えるような『亡くなった妻を冷凍保存している』という矛盾を抱えています。強さと弱さが表裏一体になっているところが、小比類巻を演じる上で大切にしたいな、と思うところですね。同時に、自分だったらどうするのか、ということを常に問われている。それが小比類巻の魅力を一層際立たせているのかな、と。警察官として法律を守り、犯罪を捜査して、謎を解いて世を正していくという立場にいながら、善悪みたいなものを常に突き付けられています」
そして、問われているのはディーンだけではない。視聴者にもまた、「あなたならどうしますか」と問いかけ続けている。
「毎回、新しい技術や使い方が出てきますが、結局、それは人間がやっていること。それによって犠牲者が生まれることもあれば、救済されることもあります。そこに小比類巻というひとつの触媒になる存在があって、『こういう場合はどう考えて、どういう言葉で表現して、どういう行動で世界と折り合いをつけていくのか』という決断は学びがあるし、演じていて飽きないところですね。次にどんなことが起こって、どんな反応を示すんだろう、ということに、それぞれが違う価値観だったり、異なる善悪の基準を持った人たちが影響を受けて、小比類巻が成長を遂げていくというすごい物語だな、と思います」
ファミリー感がある現場にいる日々はすごく充実していた
そんな小比類巻を含め、最上(岸井ゆきの)、長谷部(ユースケ・サンタマリア)、奥田(吉本実憂)の“科学犯罪対策室チーム”のファンは多い。その関係性を、「初日から運命が定まっていたような……」と言ってディーンは微笑む。
「ずっと集まってわちゃわちゃやっている感じですね(笑)。会話が途切れないですし、誰かがリードしてもそこに対してかぶせてくるようなイメージです。 現場によっては、芝居をしていないときはあまり接触がない方が比較的多かったりするので、そういう意味ではファミリー感があるのかもしれません。もちろん、科学犯罪対策室チームもだし、作品全体としても、です。新キャストの方々も居心地は悪くなかったんじゃないかな、と勝手に思っています。っていうぐらい、やっぱり一緒にいて何かを生み出してる、作っているということに対して、情熱を持ってる方が集まっているなと思います」
今回、新たに登場するのは駿河太郎と田中みな実。駿河は警察庁・国際テロリズム対策課課長・橘るいを演じる。小比類巻とは警察大学校時代の同期という設定だ。 ディーンは駿河のことを「太郎ちゃん」と呼んでいるそうで「彼と出会えたことは今回すごく嬉しかったことですね」と言う。
「小比類巻は橘と向き合うシーンが多かったんですが、距離が近いゆえに関係性が変化していく幅が大きかったんです。そこは太郎ちゃんとずっと話していました。お芝居もですけど、2人でいる時間が多かったので、そこは作品を観ていただいて、物語としても楽しめる部分だと思います。太郎ちゃんと出会ったのはひとつの財産と言うか。楽しい時間を過ごさせてもらいました」
一方、田中は菌類学者・御門凛子を演じる。クールだが、研究に対する情熱も持ち合わせている……という役どころだ。
「みな実ちゃんとは、バラエティーでは何度か共演していたことがあるんですが、頭の回転が速い方で、話をしていて楽しい方でした。演技の仕事は初めてですが、今回の学者役というのが本当にぴったり。みな実ちゃん自身がコスメや美容のことらすごく詳しくて、もう何を聞いても答えが返ってくる。本当に研究されているんだな、と思いました。
それぞれ自分たちの世界観があって、突き詰めている人たちが集まっているから、とにかく話がおもしろいんですよね。太郎ちゃん、みな実ちゃんもそうだし。演技をしているときはもちろん、それ以外のときにいろんな交流があって、経験や情報のやりとりがありました。現場にいる日々はすごく充実していましたね」
手加減なしにみんなで世界感を作り上げている
一方、物語については最先端科学にまつわる不可解な事件、というだけあって、毎回、ハラハラするような展開が待ち受けている本作。スピード感あるストーリーに一気に引きこまれたことは記憶に新しい。それだけにSeason3での展開も気になるところだ。
「Season2で、配信だからこそできる描写というものに味をしめたというか(笑)。羽住(英一郎)監督を筆頭に、フルスイングでやっているな、と思います。最先端の科学技術を使った事件を解決していく上での描写だったり、説得力が必要な部分において、本当に手加減なしにみんなで世界感を作り上げていって……。もっととんでもないスレスレのことがこの先にあるんじゃないか、ほかには何ができるんだろう、と考えるのが楽しみなぐらいの制作能力の高さです」
こと、羽住監督を始めとした制作のことに話が及ぶと、ディーンはより饒舌になる。
「羽住組ってオペレーションの精度の高さというものがすごいんですよ。そういう特番があったら、いくらでも話ができるぐらいです。今回もSeason1、2に比べてさらに制作体制もアップデートされていて。以前まではチーフの撮影技師さんが自分でカメラ構えて撮ってるような形だったんですけど、今回からはインターナショナルナスタンダードでモニターを見ながら、シューターは別の方々がいて……という形だったり、とにかくすごい。作品の中身もそうなんですが、常にどうやったら制作体制のアップデートができるか、というところを突き詰めている姿がこの作品の魅力にも繋がってるんじゃないかなと思いますね。そういう面でこの作品をフィーチャーする、魅力を紹介する角度もあるんじゃないかな、というぐらいの機材だとか、プリプロと撮影と、ポスプロのシームレスな組み方だとか、すごく興味深いですね」
挑戦を続けるディーン・フジオカの軸になっているもの
『バンドラの果実』はSeason3へ。ディーンとしては最も長い作品となってくる。
しかし、だからと言ってディーンのイメージが固定されることはない。むしろ、既存のイメージにとらわれない役柄にも挑戦し、ミュージシャン、また映画プロデューサーとしても活躍は幅広い。むしろひとつイメージを挙げるとしたら「挑戦を続ける人」だ。
「今まで『新人』と言われたことは4回ほど……いや、考え方によってはもっとかもしれないですね。国を変えてきたり、言語圏を変えたり。同じ言語圏にいたとしても、俳優もあれば、映画監督やプロデューサー、音楽なら歌うこと、曲を作ること、プロデュースすること、と、世界との向き合い方が変わります。そうやって、新しい自分の在り方や、世界との関わり方を続けてこざるを得なかったんです」
それは、サバイバルだ、と続ける。「今、改めて振り返ると、生きていくためにやってきたことが、自分の命題のようになっているのかな、と」。
「生きていくために必要なことをやらざるを得なかったから、その結果、いろんな経験、視点というのかな……自分の中でも、ときに相反するような価値観が同時に存在するようになりました。それが、今、自分が新しいことを挑戦しようとなったときに背中を押してくれています。
今回のように、ひとつの役として自分の居場所を作ってくださる関係者の方だったりとか、その辺はある意味、需要と供給のバランスがあると思うんですよ。どちらか片方だと、やっぱり不具合が出てくるし、成立しません。だからこそ、自分が新しいことへの挑戦に対して常にオープンでいられるし、新しいことに挑戦する機会もいただけていると思います」
しかし、一方で経験が増え、成功体験も増えると、失敗を恐れ、挑戦ができなくなってしまう人も多い。その点についてはどのように向き合っているのかと問うと、「いやあ、それは僕も知りたいです」と柔和な笑みを浮かべた。
「なんでもかんでも挑戦できるとも思わないし、やっぱり結果を出さないとそのツケが絶対に自分に返ってきます。だから、決して能天気でいられないですよね」
そう言ったあと、「……難しいですね」と少し思案するような表情を見せる。
「どれだけ楽しめるかだと思うんですよね。あとは続けていければ、自分の能力も上がっていくと思うし、経験値も増えて、向き合い方にも柔軟性が出てくると思います。
例えば、いきなり目立った功績につながるかどうかは分からないけど、自分が興味を持って、本当にそれに対して向き合えるか。人によってはそれが情熱を持ってなのか、愛を持ってなのか、いろいろと変わると思うんですけど、どんなにつらくても、続けられるから気づいたら、質より量から量から質に変わっていくような……それは自ずと結果につながってきますよね。だからそこなのかな。好奇心とか興味とか、情熱とか、熱量とかは、愛情とかいろんな言い方あると思うんですけど、そういったものがあるからこそ難しい局面も乗り越えられる。やめないで済むんだから、いずれ、それなりの適切な結果に繋がるっていうことを信じられるかどうかかもしれないですよね」
続けるのは簡単なようでいて、何よりも困難だ。だからこそ、続けた先に得られるもの、見えてくるものがある。
そんな今のディーンにとって、本作はどんな存在なのか、最後に聞いてみた。
「Season3までひとつの物語、ひとつのキャラクターを続けるのは自分も初めてなので、そういうプロジェクト、役に出会えたことはすごく光栄だな、と思います。 これだけいろんなコンテンツが溢れている時代に、存在意義というものが問われると思うんですよ。それは作品としてもそうですし、自分の俳優という社会における役割、立場もそうですし。どうやったらそこに価値をプラスしているか、ということが次に繋げていけるかどうかの決定的な分かれ道だと思うんですよね。
それは、自分が情熱を持ち続けられるか、苦しくても楽しみ続けられるか、愛情を持ち続けられるかどうか、ということと同じぐらいに大事なのが、求めてもらえるか、ということ。ここはもう神のみぞ知る、というか、自分がどうこうできるような範疇じゃないところですよね。そこにおいては、ありがたみを感じるしかありません。本当に奇跡的なバランスで成立するからこそ、継続ができる。『パンドラの果実』もそういうものですね」
取材・文:ふくだりょうこ 撮影:友野雄
ヘア&メイク:森 智聖(VRAI Inc) スタイリング:渡辺慎也(Koa Hole inc.)
<番組情報>
Huluオリジナル「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」最新章SP
6月16日(日) 午後10時30分~日本テレビ系にて放送(放送終了後Huluにて見逃し配信開始)
Huluオリジナル「パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~」Season3(全5話)
6月16日(日) 「最新章SP」の放送終了後、Huluにて独占配信開始
※毎週日曜日に新エピソード追加
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