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多彩でユニークな才能が集う、橋本ロマンスによる『饗宴/SYMPOSION』、創作の現場より

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『饗宴/SYMPOSION』稽古場より (撮影:大洞博靖 Hiroyasu Daido)

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気鋭の演出家、振付家として注目される橋本ロマンスによる新作パフォーマンスが、世田谷パブリックシアターにて上演される。古代ギリシャ、プラトンの著作「饗宴」からスタートしたという『饗宴/SYMPOSION』のクリエーション。開幕を約半月後に控えた創作の現場を取材した。

プラトンの「饗宴」では、宴会に集まった知識階級の人々が愛(エロス)について語り合い、賛美する。橋本を創作へと向かわせたのは、この対話篇を改めて紐解いたときに覚えた違和感。古代アテネの特権階級の男性たちが語り合う「愛」に対する批判的な視点や疑問から、橋本がどんな「対話」を提示し、どんな舞台を立ち上がらせるのか。近年、意欲的に作品を発表し、優れた若手振付家に与えられる数々の賞を受賞、将来を嘱望されるアーティストの創作の現場とは──? 興味を掻き立てられながら稽古場へ。

そこには、よく通る声で皆に指示を与える橋本の姿。集っていたのは、現役の大学生も含む年齢も多様な演者たちだ。創作にのぞむプロとしての意識、緊張感はあれど、どこか温かく、カジュアルでリラックスした空気が新鮮。休憩時間になればどこからともなく鼻歌が聞こえてきたり、無邪気な笑い声が響いたり。誰もがこの作品への参加を心から楽しみ、ワクワクしながら、力むことなく真摯に取り組んでいる印象だ。

橋本ロマンス

11のシーンから成るという本作は、言ってみれば現代の東京での「饗宴」。いま一度、新たに「愛」についての対話を重ねようという思いが、様々な形で立ち上がる。

たとえば「家父長制の崩壊」。舞台には「家」の象徴として、ダイニングテーブルやアップライトのピアノが置かれている。ごくありふれた普通の「家」の風景だけれど、それらはやがて失われていく。では、そんな「家」が解体された後の世界とは──?観客の想像力を大いに刺激し、様々に考えるきっかけを与えてくれる。地上階と地下1階がエレベーターで繋がれ、人々が行き来するという舞台も独創的。劇場でどのような景色が目に飛び込んでくるのか、楽しみでならない。

また、とある場では、「今日はひとつ、違うパターンを試してみたいんです」と申し出た橋本。様々なアイデアが書き込まれているであろう自身のノートをめくりながら、よりよい表現を目指す。個々の表現を活かしながら、繰り返し試し、その都度改善点を検討し──、という作業は実に地道。が、目の前に新しい動き、新しい形がどんどん見えてくるのを、橋本自らも大いに楽しんでいるよう。

橋本の指示に、「OK!」「了解!」と応える演者たち。「わからない」と言う声には、じっくり時間をかけて耳を傾ける。演出家、振付家と演者たちが、フラットでありながら、お互いをリスペクトし合う関係性も見えてきた。長年ずっとともに仕事を続けてきたかのような親密さと信頼感だが、実はその大半が、橋本とは「初めまして」。しかも、それぞれが活躍するフィールドは様々でユニークだ。yahyelのボーカルとして音楽活動を重ねる池貝峻、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科在学中の今村春陽、マルチメディア・アーティストの唐沢絵美里、ダンサー・ムーブメントディレクターのChikako Takemoto、NYと日本を拠点とするノンバイナリーのダンサー田中真夏、俳優の野坂弘、ネザーランド・ダンス・シアターで踊った後、様々な舞台で活躍するダンサー、振付家の湯浅永麻。音楽は、池貝とともにバンド・yahyelとして活動する篠田ミルが手がける。ダンスの世界でキャリアを重ねた人だけでなく、個々に表現のプラットフォームを持ち、様々な分野で輝く才能が、ゆるやかに混ざり合っていく。

マイノリティ・ポリティクスに強い意識を抱き、対等に協働できるよう、アーティストとのコミュニケーションを大切にする橋本ならではのチーム。そんな彼らが「愛」について語るなら、きっと新しい気づきや希望が詰まった、いまの私たちの「饗宴」が、誕生する。

取材・文:加藤智子
撮影:大洞博靖 Hiroyasu Daido

<公演情報>
『饗宴/SYMPOSION』

公演期間:2024年7月3日(水)~ 7日(日)
会場:世田谷パブリックシアター

『饗宴/SYMPOSION』Teaser by Neo Sora

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2451150