『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマ・コンサート~特別公演~より 撮影:星野麻美/(C)松竹株式会社
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すべて見る渥美清さん演じる主人公・車寅次郎、通称“寅さん”が、家族や恋したマドンナを巻き込み、笑いと涙の騒動を巻き起こす国民的人情映画シリーズ『男はつらいよ』。その記念すべき第1作の公開55周年を記念した、『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマ・コンサートが6月29日、東京国際フォーラム ホールAで開催された。
シネマ・コンサートとは、映画のセリフや効果音はそのままに、音楽パートをオーケストラが映画本編(全編)上映に合わせて生演奏するもの。『男はつらいよ』のシネマ・コンサートは今回が初めてとなり、2019年にシリーズ50作目として製作・公開された『男はつらいよ お帰り 寅さん』が“大スクリーン×東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏”の迫力で、駆けつけた観客を魅了した。
コンサートに先立ち、第1部ではトークショーが開催され、山田洋次監督をはじめ、出演する倍賞千恵子、前田吟、吉岡秀隆が出席。“寅さんファミリー”が顔を揃えるのは、『男はつらいよ お帰り 寅さん』の公開前夜祭以来、およそ5年ぶり。渥美さんとの思い出や、『男はつらいよ』シリーズへの思いを語り合った。
『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、新撮された登場人物たちの“今”を描く映像と、4Kデジタル修復でよみがえる寅さんの映像が紡ぎ合う感動作。寅さんの甥である満男(吉岡)の視点から語られ、寅さんの言葉や存在が、登場人物と観客の背中を押し、“未来”への懸け橋となる作品に仕上がった。
山田監督は「全部の『男はつらいよ』をつなぎ合わせると、観るのに3日近くかかってしまうが、そこから懐かしいショットだけを組み合わせれば、もう1本別の映画ができるのではないかと考えた」と本作の着想を説明した。
寅さんと満男の絆が、物語の主軸になっており、「不良でちょっとふざけた、価値観の違う変な伯父さんがいたことが、どんなに大切だったのか。中年になった満男が思い起こすわけで、この映画の主役は、満男を演じた吉岡君」と語った。
すると、当の吉岡は「主役は渥美さんです」と恐縮しきり。本作の撮影については、「つらかったですよ」と渥美さんの不在を実感した当時の心境を明かした。吉岡はシリーズ27作目『浪花の恋の寅次郎』(1981) から、最終作『寅次郎ハイビスカスの花〈特別篇〉』(1997) まで出演。撮影中の宿泊先では、酒を飲まない渥美さんから「まあ、一杯いこう」とビールを注がれたといい、「じゃあ、失礼しますね」と肩に手をかけ、宴会場から去っていく渥美さんの姿を、懐かしそうに振り返っていた。
寅さんの妹である、さくらを演じる倍賞は「これまで177本の映画に出ていますが、そのうち3分の1は、寅さんなんです」としみじみ。「シリーズの最初の頃は、照明さん、大道具さん、キャメラマンさん、皆さん大きな声で、現場は騒然としていましたけど、それも年々静かになっていって」と時の流れに思いをはせると、「だんだん、僕たちが年を取ったからだなあ」(山田監督)、「僕は80歳になりました」(前田)。長年の関係性が垣間見える、息の合ったトークに、客席からは大きな笑いが起こった。
また、この日、83歳の誕生日を迎えた倍賞に、山田監督から花束のプレゼントが。会場が大きな拍手に包まれるなか、倍賞は「渥美さんとは思い出がたくさん、ありすぎるんです」と、兄・寅さんへの思いを語った。
トークショーには、おなじみのテーマ曲を手掛けた作曲家、故・山本直純さんの長男で、自身も作曲家である山本純ノ介氏が同席。なお、トークショーの進行は、ともに『男はつらいよ』シリーズに出演した俳優の北山雅康と松野太紀さんが担当する予定だったが、松野さんが6月26日に亡くなったため、北山のみが務めることになった。
松野さんは、『男はつらいよ お帰り 寅さん』にも出演。山田監督は冒頭「最初に一言。とても不幸なことが起きまして。きっと残念に思っているでしょう」と故人をしのび、トークショーが終わると、北山が「終わったよー」と安どの表情で、天国の松野さんに報告していた。
取材・文=内田涼
撮影=星野麻美/(C)松竹株式会社
<イベント情報>
『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマ・コンサート~特別公演~
開催日:2024年6月29日(土)
会場:東京国際フォーラム ホールA
<第1部>トークショー
登壇ゲスト:山田洋次、倍賞千恵子、前田吟、吉岡秀隆、山本純ノ介
<第2部>『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマコンサート
指揮:岩村力
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
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