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ぴあ 総合TOP > 東京パブリックアートめぐり 東京ガーデンテラス紀尾井町

今回ご紹介するのはグランドプリンスホテル赤坂の跡地に2016年にオープンした東京ガーデンテラス紀尾井町。オフィスやレジデンス、ホテル、商業店舗などを有する複合市街地の敷地内は、想像よりも緑豊かで、この地の歴史と今とをつなぐ多彩な作品が点在しています。
東京パブリックアートめぐり
歴史と緑とアートが調和する知られざる都心のオアシス

東京ガーデンテラス紀尾井町

特集
第2回
大巻伸嗣《Echoes Infinity~Immortal Flowers~》
今回ご紹介するのはグランドプリンスホテル赤坂の跡地に2016年にオープンした東京ガーデンテラス紀尾井町。オフィスやレジデンス、ホテル、商業店舗などを有する複合市街地の敷地内は、想像よりも緑豊かで、この地の歴史と今とをつなぐ多彩な作品が点在しています。

執筆者

浦島茂世
美術ライター
時間を見つけては美術館やギャラリーへ足を運び、国内外の旅行先でも美術館を訪ね歩く。著書に『改訂新版 東京のちいさな美術館めぐり』、『カラー版 パブリックアート入門』など。ラジオやテレビなどの出演のほか、美術講座講師なども精力的に展開中。
東京ガーデンテラス紀尾井町
東京都千代田区紀尾井町1−2 他
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1分でわかる

東京ガーデンテラス紀尾井町のアート作品

オフィスやレジデンス、ホテル、商業店舗などで構成されている複合市街地の広い敷地内に8点のパブリックアートが点在。
江戸時代は大名屋敷、明治以降は宮家邸宅があった土地の歴史、そして緑豊かな庭園とアート作品とのコラボレーションが楽しめる。
各ゾーンの機能に合わせ、今後活躍が期待される若手アーティストに制作を依頼。今ではその多くが国際的なアーティストに。

ディレクターに聞く

(左から)株式会社織絵 作山雄彦さん、株式会社西武リアルティソリューションズ 猪鼻茂樹さん、株式会社織絵 國枝美香さん
東京ガーデンテラス紀尾井町は2016年にオープンした、オフィスやレジデンス、ホテル、商業店舗などで構成されている複合市街地。この場所はかつて「赤プリ」の愛称で知られていたグランドプリンスホテル赤坂、その前は、李王家の東京邸や北白川宮家の邸宅、さらにその前は紀尾井町の語源にもなった紀伊徳川家の藩邸があった場所だ。
「この施設の開発にあたっては、計画段階から、アートを取り入れようという案がありました。紀尾井町は昼間人口が多いのですが夜や休日になると少しさみしくなる。だから、敷地のエントランス各所には人々が集まる場所として広場を作りたい。そして回遊性も生みだしたい。そのためには…、と、敷地の各ゾーンについてひとつひとつ考えていきました。この場所はこのような場所にしたい、という私たちの想いをアーティストに伝え、作品にしていただきました」と、当時開発担当だった株式会社西武リアルティソリューションズの猪鼻茂樹さんは語る。
そして、海外の著名アーティストによるパブリックアートを設置した六本木ヒルズの設計を担当し、2003年の森美術館開館から同館に在籍していた前田尚武氏(現在は京都市京セラ美術館企画推進ディレクター)をアートコンサルタントとして迎え、作家の選定にあたっては、これから期待される若手アーティストをピックアップ。コンペ方式でデザイン案をだしてもらったという。「どのアーティストの方も我々の意図を汲んで下さり、さらにそれを発展させたものを提案してくれました」と話すのは、アーティストのコーディネートにあたった株式会社織絵の作山雄彦さん。そして、さまざまな会議やシミュレーションを経て、現在設置されている作品が選ばれた。「計画の頃から10年以上が経ち、当時若手とされていたアーティストのみなさんは、現在は国際的な作家になっている方ばかりです」と、同社の國枝美香さん。
最近はパブリックアートを写真に撮ることを目的に、この地を訪れる人々も多いという。「アーティストは『脈々と受け継がれてきた紀尾井町の営みを未来に繋げたい』という我々が提示したコンセプトを、予想もしない形で、けれども具体的に示してくれました。それが非常に面白かったですね」と猪鼻さんは語る。パブリックアートをきっかけに人々が集まり、紀尾井町の新しい歴史が現在進行形で綴られている。
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「東京ガーデンテラス紀尾井町」のアート作品

遠くからでも見える、この施設のランドマーク

大巻伸嗣《Echoes Infinity~Immortal Flowers~》

花の広場
大巻伸嗣《Echoes Infinity~Immortal Flowers~》
東京ガーデンテラス紀尾井町のシンボルにもなっている、高さ8メートルにもおよぶ巨大作品。桜、桔梗、朝顔など江戸時代の花文様をモチーフにしたカラフルな花束は、内側が鏡面部分になっており、周囲の景色や青空が映り込み、その表情がくるくると変わっている。
作品のある「花の広場」から、敷地内をゆっくり散策してもらえるよう、誘導の意味も込めて、広場から分岐する散策路に小ぶりな作品も2体設置されている。小道に植えられた桜は赤坂プリンスホテル時代からのもので、春には見事な花を咲かせ、作品と絶妙な調和を見せるという。
「花の広場」から「空の広場」へと向かう「テラスの小道」にも2体の作品が設置されている

猪鼻さん 「弁慶橋からこの施設を見たときにすぐに目に飛び込んでくる大きさ、色、配置を意識しました。実は、最初に実寸代の模型を見たとき、とても大きく感じて『このまま設置して大丈夫かな?』と多少の心配はありました。しかしながら、実際はご覧の通り。建物や広場、空間と絶妙に調和していて、アーティストの空間感覚に驚かされました。小道にある作品も模型を使って、どの位置からどう見えるのか検討してベストな位置に設置しています」

アーティスト

大巻伸嗣
1971年生まれ。「存在」とは何かをテーマに、身体感覚を揺さぶるインスタレーションで国内外で活躍中のアーティスト。
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大地を踏みしめる鉄の力強さ

青木野枝《空玉/紀尾井町》

空の広場
青木野枝《空玉/紀尾井町》
赤坂御門の歴史的遺構を活かして作られた「空の広場」に設置されているのは、周りの緑や街並と調和するように、リズミカルに組み合わされるリングの作品。工業用の鋼鉄の素材が輪となりつながっていることで「水が地から上昇し、また戻ってくる世界」を表している。

猪鼻さん 「空の広場は、工事中に出てきた江戸時代の石垣も活用しています。この場所は歴史性も高く、周辺には学校もあることから、落ち着きを感じられる空間にしよう、ということで青木さんに制作を依頼しました。重厚な鉄の質感と周囲の緑のコントラストが美しい作品です」

アーティスト

青木野枝
1958年生まれ。鉄の質感を生かした存在感のある彫刻を制作。近年は鉄のみならず、ガラスや石膏、石鹸などの素材にも取り組んでいる。
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風を感じられる軽やかな大理石

坪田昌之《the wind of self》

紀尾井レジデンス
坪田昌之《the wind of self》
紀尾井レジデンス入口にある大地を吹き抜ける風をイメージした大理石の作品。アーティストはもともと木を扱う彫刻家。作品は左隅が宙に浮いていることで軽やかな印象を与えている。

作山さん 「やさしい風を感じるフォルムで、石を刻んだ跡が時間の積み重ねも感じさせます。この場所はレジデンスの入口で、住まう方を迎え入れる場所としてこの作品を置きました。シンプルな作品ですが、安全対策をしっかりと行っているため、作品の真下、地中は複雑な構造だったりもします」

アーティスト

坪田昌之
1976年生まれ。木や石、ガラスなどの素材の特性を柔軟に生かした、繊細で風格のある彫刻作品で知られている。
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都会に突然現れた、巨大な鹿

名和晃平《White Deer》

水の広場
名和晃平《White Deer》
紀尾井タワー、紀尾井レジデンス、赤坂プリンス クラシックハウスの中心に位置する「水の広場」に設置された高さ6mにも及ぶアルミ鋳造の作品。大空を仰ぐ白い大きな鹿は、鹿の剥製を3Dスキャンし、そのデータをもとに制作されている。赤坂プリンス クラシックハウス(旧グランドプリンスホテル赤坂 旧館)は、旧李王家東京邸で東京都指定有形文化財になっており、作品とのコントラストも見事。なお、同名の作品が、宮城県石巻市の野外にも設置されている。
ビルの谷間から青空を仰ぎ見ているかのよう

猪鼻さん 「計画段階では、水の広場の別の場所に置く予定でしたが、名和さんが広場を見て、そしてこの場所に置くことになりました。この場所に作品を配置すると、紀尾井レジデンスと紀尾井タワーの合間にある空を鹿が仰いでいるように見えるのです。また、作品の大きさも周囲の建物と空間に合わせて一回り大きくすることもその時に決まりました。アーティストの空間に対する感覚の鋭さを、このときにも実感することとなりました」

アーティスト

名和晃平
1975年大阪生まれ。独自の「PixCell」という概念を軸に、さまざまな素材やテクノロジーを駆使した彫刻で知られる。近年は建築や舞台のプロジェクトも精力的に行う。
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祝いの場をもり立てる真珠のモチーフ

隠崎麗奈《ヨヨ》

隠崎麗奈《ヨヨ》
赤坂プリンス クラシックハウスの庭園(KIOI ROSE GARDEN)内にある、バラに囲まれたしずく型の作品。親から子、孫へと引き継がれる「生きる宝石」真珠をモチーフにしている。作品名の《ヨヨ》とは、続いていくという意味の「代々」を音読みにしたもの。

猪鼻さん 「赤坂プリンス クラシックハウスは結婚式に使われることが多く、アーティストはそこから真珠や“受け継がれていくこと”をイメージに作品を制作しました。過去から未来へとこの土地の宝物を引き継いでいくという願いが真珠に込められています。この庭園では、毎年5月から6月は満開のバラが楽しめます」

アーティスト

隠崎麗奈
1977年岡山県生まれ。なめらかな曲線と優しい色彩を用いた、抽象的でありながらも柔らかい印象を与える彫刻で知られる。
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鮮やかな黄色が緑を際立たせる

竹田康宏《息吹く朝》

芽生えの庭
竹田康宏《息吹く朝》
約100種類の植物が育ち、季節ごとに表情を変える「芽生えの庭」にある作品。都心とは思えない豊かな緑のなかで鮮やかなレモンイエローが目を惹く。アーティストは本作品に平和な世界を望む心と祈りを託した。

猪鼻さん 「この作品が設置されたのは春先で、この作品だけが目立つ状態だったのですが、季節がかわり、緑に囲まれるとフォルムのかわいらしさが際立っています。『芽生えの庭』は近隣の保育園、幼稚園の子どもたちや親子連れ、小学生などが遊びに来てくれるのですが、子どもたちはこの作品に気づくと近づいてきてくれます」

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繊細な形態なのに力強さは抜群

ジュリアン・ワイルド《System No. 31》

光の森
ジュリアン・ワイルド《System No. 31》

清水谷公園へ伸びる「光の森」に佇む円形の彫刻。太陽の光の動きに伴って、その見え方は刻々と変化していく。

猪鼻さん 「繊細ですが、遠くからでもすぐに目に飛び込んでくる作品です。メッシュ状の作品なので背景の緑も見えて、軽やか。周囲の環境も作品に取り込む、野外彫刻らしい作品です。東京ガーデンテラス紀尾井町で唯一の海外アーティストによる作品です」

アーティスト

ジュリアン・ワイルド
1973年イギリス生まれ。ダミアン・ハーストのアシスタントを経て作家活動を開始。空間のなかに整然とした幾何学的な形状を作り出す「システム」シリーズの彫刻で知られる。
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軽やかにたゆたう巨大な作品

西野 康造《空の記憶 2016》

紀尾井タワー
西野 康造《空の記憶 2016》
西野康造はチタンを主な素材として使い、繊細で複雑な構造の彫刻を制作する作家。紀尾井タワーオフィスエントランス1Fの吹き抜け空間に吊るされた巨大なモビール作品はチタン製で黄・青・紫のグラデーションになっている。この色は、塗料ではなく電解着色という技術を用いておりチタンそのものの色だ。

猪鼻さん 「全長28.8メートルにも及ぶ巨大な作品ですが綿密な計算によってバランスが取られていて、軽やかに揺らいでいます。高層ビルに飾る作品ということで大空をイメージしています」

アーティスト

西野 康造
1951年兵庫県生まれ。チタンやステンレス、アルミニウムを素材に、繊細な構造からなる大型彫刻作品を国内外で発表している。
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「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」のアート作品にも注目

紀尾井タワーの30~36階に位置するホテル、「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」は、ホテル名にギャラリーを冠しているように、館内に多様な美術作品が設置されている。客室やエレベーターホールなどに加え、レセプション、エントランスなどのパブリック・エリアだけでも、五十嵐威暢や細井篤らの作品を見ることができる。
なお、同ホテルでは宿泊者限定の体験プログラム「GALLERY EXPERIENCE」の中で、コンシェルジュが館内のアート作品を紹介する無料アートツアーも行っている。
五十嵐威暢《フローラ》2016年 (36F レセプション)
細井篤《それはかたちのないしるし》2016年 (2F エントランス)
近藤髙広《ミスト》2016年 (36F エレベーター ロビー)
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浦島流 「東京ガーデンテラス紀尾井町」アートめぐりのポイント

2016年生まれのガーデンテラス紀尾井町周辺は、江戸時代は大名屋敷が軒を連ねていた地域。その名残で、周辺の建物はどこも敷地が広く、街全体が落ち着いた雰囲気です。それゆえに、大巻伸嗣《Echoes Infinity ~Immortal Flowers~》の華やかさがとてもまぶしい!
この作品をスタート地点とし、ぐるっと敷地内を一周すればすべての作品を見ることができます。大巻伸嗣の小さな作品も眺めつつ、青木野枝《空玉》を鑑賞、赤坂プリンス クラシックハウス前では名和晃平《White Deer》を鑑賞。大きな立体作品を鑑賞するときは、いろいろな距離、さまざまな角度で眺めてみて、自分が一番好きな見え方を探してみてください。この作品は、その日の太陽の角度や天候、後ろの建物などでも見え方が大きくかわります。
そして、自然を楽しみつつ「光の森」までゆっくりと散策。最後はオフィスエントランスの西野 康造《空の記憶 2016》を鑑賞。そして、余裕があったらホテル「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」も。Sky Gallery Lounge Levitaで、絶景とともにガラスアートの美しさに酔いしれましょう。
余力があったら石垣がきれいに残った弁慶濠も要チェック。江戸時代と現代が同居している雰囲気を楽しめる場所です!
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「東京ガーデンテラス紀尾井町」参加アーティスト

大巻伸嗣《Echoes Infinity~Immortal Flowers~》

青木野枝《空玉/紀尾井町》

坪田昌之《the wind of self》

名和晃平《White Deer》
隠崎麗奈《ヨヨ》
竹田康宏《息吹く朝》
ジュリアン・ワイルド《System No. 31》
西野 康造《空の記憶 2016》
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基本情報

施設名
東京ガーデンテラス紀尾井町
営業時間
施設により異なる
住所
〒102-0094
東京都千代田区紀尾井町1−2 他
撮影:源賀津己

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