白石和彌監督らを輩出!《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》が明日開幕
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現在の主流になっているデジタルシネマにいち早く焦点を当て、国内外の新たな才能を発掘してきた《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》が13日(土)に開幕を迎える。
回を重ねること21回目を迎えた同映画祭は、メイン・プログラムに国際コンペティションと、国内作品に焦点を当てた国内コンペティション(長編部門、短編部門)を組み、現在『碁盤斬り』が公開中の白石和彌監督や『浅田家!』の中野量太監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督など、現在の映画界の第一線で活躍する才能あふれるクリエイターを見出してきた。
今年も102の国と地域から、1201本の応募作品が集まり、世界各国の新鋭監督たちが顔を揃える国際コンペティションは10作品、国内コンペティションは長編部門6作品、短編部門8作品がノミネートされた。
国際コンペティション部門には日本での劇場公開が決まった作品も!
まず映画祭の顔といえる国際コンペティション部門は、今年も本映画祭らしく歴史ドラマにヒューマン・ドラマ、ドキュメンタリーなど多彩なジャンルの作品が並んだ。
その作品のクオリティは確かで、本映画祭の上映をきっかけに日本での劇場公開が決まってスマッシュヒットする映画も珍しくない。昨年の本映画祭の上映作品も、エラ・グレンディニング監督の『わたしの物語』(※映画祭時のタイトルは『あなたを探し求めて』)が現在公開中。8月からはレア・フェネール監督の『助産師たちの夜が明ける』(※映画祭時のタイトルは『助産師たち』)が公開を迎える。そして今年はレアケースでアンダース・ウォルター監督の入選作『ぼくの家族と祖国の戦争』(※映画祭時のタイトルは『Before It Ends(英題)』)は日本での劇場公開が決定している。
そのほかも映画ファンとしては見逃せない、稀代のクリエイター、ミシェル・ゴンドリーのキャリアに焦点を当てたフランソワ・ネメタ監督のドキュメンタリー『ミシェル・ゴンドリー DO IT YOURSELF!』や、テイラー・スウィフトや将棋の藤井聡太などが受けたことで日本でも注目が集まるモンテッソーリ教育の生みの親、マリア・モンテッソーリの人生を描くレア・トドロフ監督の『マリア・モンテッソーリ』、ウズベキスタンの新鋭、ショキール・コリコヴ監督が慎ましい生活を送る老夫婦を通し、現代社会の在り様を問う『日曜日』など、力作が顔を揃える。
海外のハイクオリティが揃う中、日本から唯一の国際コンペティション部門の選出を果たしたのは、谷口慈彦監督の『嬉々な生活』。谷口監督はこれまで本映画祭の常連である磯部鉄平監督の『ミは未来のミ』や『コーンフレーク』などのプロデューサーとして活躍。長編監督2作目となる『嬉々な生活』では、ヤングケアラーや子どもの貧困といった社会問題を背景に、どんな苦境にもめげない、前を向いて生き抜こうとする中学生のヒロイン・嬉々の姿を鮮やかに描き出している。
谷口監督は「磯部からSKIPシティの作品のレベルの高さを聞かされていました。『国内コンペティションもすごいが、国際コンペティションはさらにその上をいくハイレベルで至難の業だ』と。だから、自分が国際コンペティションに入選したことにびっくりしています。どのような感想をいただけるのかドキドキしているんですけど、映画祭を楽しみたいと思います」と語る。
なお、コロナ禍が完全に明け、今年も海外からのゲストが多数来場予定。ぜひ会場でこれから世界で活躍するかもしれない監督たちに会いにいってはいかがだろうか。
国内コンペティション長編部門からは監督のコメントが到着
一方、映画祭のもうひとつの顔である国内コンペティションの長編部門には6作品がノミネートされた。こちらもタイプの異なる個性豊かな作品が選出された。
ざっと触れると、『朝の火』は、地元・埼玉出身の広田智大監督の初長編作品。平成から令和へと時代が移りゆく中、ゴミ処理場で働く名無しの男と同僚家族を亡くした女性ら、どこか生きる場所を失った人間たちの彷徨える魂とやがて発狂していく様が描き出される。
『明日を夜に捨てて』は、中国の張蘇銘監督による女性の物語。森田芳光監督に憧れて来日し、日本で映画を学び作り始めたという新鋭が、風俗嬢として働くふたりの女性が交わす何気ないおしゃべりから、刹那的に生きるいまどきの若者の姿を映し出す。
『雨花蓮歌』は、前作の短編『ムイト・プラゼール』が本映画祭で観客賞を受賞している朴正一監督の初長編。自身のルーツと向き合い、在日コリアンであることを日常の中でたびたび意識する大学生の妹と日本人との結婚を考え始めた姉のそれぞれの幸せ探しが描かれる。
『折にふれて』は、現在『虎に翼』の土居志央梨をはじめ才能ある俳優や監督を次々と輩出している京都芸術大学映画学科出身の村田陽奈監督の初長編。同大学の卒業制作として発表した作品で、引きこもりの兄と父の暮らす実家を出る決断をした若い女性の揺れる心が繊細に描かれる。
『昨日の今日』は、これまで数多くの短編映画を発表してきた新谷寛行監督の初長編。数十年ぶりの流星群が見える日、ある家族が知人や友人を招きバーベキューパーティーを開くことに。和やかなホームパーティーが一転する、意表を突いた展開に驚かされる一作になる。
『冬支度』は俳優として活動し、脚本を独学で書いてきた伊藤優気が初監督を務め、よく知る俳優の石川啓介と仲野修太朗とともに作り上げた初長編。長く友情を育んできた男性ふたりがひとりは地元で生きることを決め、ひとりは東京で夢を追うことに。それぞれの道を行くことになった彼らの光と影を描き出す。
各監督は以下のようにそれぞれこうメッセージを寄せる。
「紆余曲折を経て作り上げた思い入れのある作品です。撮影から完成までに長い年月を要してしまいましたが、これまでの道のりが無駄ではなかったと思えるような映画祭になることを願っています。そして何より地元埼玉で撮影した映画をSKIPシティで上映できること、心待ちにしております」(『朝の火』広田智大監督)
「もう入選しただけで大感謝です。これ以上のことは望まないですけど、でも、観客賞を受賞できたら、これ以上うれしいことはないです。いまの自分が描けることを等身大で背伸びすることなく描きました。アヤとアスカの他愛もないおしゃべりに付き合ってください。楽しい映画なので肩ひじ張らずに気軽に見てください」(『明日を夜に捨てて』張蘇銘監督)
「在日コリアンをテーマにしていることは確かです。でも、在日コリアンだけに向けて作った作品ではありません。主人公の春美と麗子が直面することは、今を生きる人たちの社会での生きづらさや苦しみにつながっていると思います。いま思い悩んだり、苦しんだりしているすべての人に届いてくれたらと思っています」(『雨花蓮歌』朴正一監督)
「大学仲間9人と共に作り上げた作品です。卒業制作展での上映などを通して、映画が観てくださった人のものになって、その場がその人にとってかけがえのない思い出になることを実感したところがありました。憧れの場だったSKIPシティでの上映もみなさんにとってそのような思い出の場になってくれたらと思っています」(『折にふれて』村田陽奈監督)
「もともとは、出演している青山卓矢さんと橋本美和さんと始まった企画でした。おふたり以外にもキャストに恵まれて父親役のナイロン100℃の劇団員、眼鏡太郎さんや、警察官役の金井勇太さんらが出演してくださり、ほんとうにキャスト、そしてスタッフに支えられてできた作品です。ひとりでも多くの方に観ていただければと思っています」(『昨日の今日』新谷寛行監督)
「時間との勝負で一度は完成を先に延ばそうかと考えました。でも、頑張って応募してよかったです。たぶん未熟なところが多々あると思います。映画祭にゲストとして参加するのも初めてでどうなるかわからないんですけど、建と明の物語が、ひとりでもいいので誰かの心に届いて響いてくれたらうれしいです」(『冬支度』伊藤優気監督)
一方の短編部門は、若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』などで知られる俳優の地曵豪が初監督を務めた時代劇『Loudness』や、同じく俳優の田口智也が映画監督の沖田修一をキャストに迎えた初監督作品『だんご』、劇団「コンプソンズ」に所属する役者の細井じゅんが監督を務めた『立てば転ぶ』など8作品が入選している。
国内コンペティションの長編・短編の両部門は、『ウルトラミラクルラブストーリー』や『いとみち』などで知られる横浜聡子監督、バイプレイヤーとしてひっぱりだこの俳優、川瀬陽太、インドネシアの映画プロデューサー、メイスク・タウリシアが審査員を務める。どんな新たな才能が見出されるのか楽しみだ。
また、スペシャル企画として特集「商業映画監督への道」を実施。こちらは国際コンペティション審査委員長の白石和彌監督、国内コンペティション審査委員長の横浜聡子監督がゲストとして登場。それぞれの監督作品の上映後、ふたりがキャリアの始まりから商業映画監督として歩むまでの経験談を語り尽くす。これから映画監督を目指す若手にとってまたとない貴重な話が聴ける機会になりそうだ。
なお、今年も有観客でのスクリーン上映+オンライン配信のハイブリッド形式での開催。会場に足を運ぶもよし、オンラインで楽しむもよし。好きなスタイルで節目の20回を経ての新たな一歩となる開催に参加してほしい。
取材・文・写真:水上賢治
■開催概要
《 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024》
スクリーン上映:7月13 (土)~7月21日(日) SKIPシティほかにて開催
オンライン配信:7月20 (土)~7月24日(水) シネマディスカバリーズにて配信