『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』レポート 縄文の土製品に見出すかつての「生」の痕跡
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「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」第1会場 撮影:畠山直哉
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すべて見る150年の歴史を持つ東京国立博物館(以下、東博)で、美術家・内藤礼の個展『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』が9月23日(月・休)まで開かれている。報道内覧会で聞いた作家の言葉も交えてレポートしたい。
1961年広島県生まれ、東京を拠点に国内外で活動する内藤礼。「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」という問いをずっと持ち、金沢21世紀美術館などさまざまな場所で「根源的な生の光景」を出現させてきた。ビーズや糸などささやかな素材、光や重力、風などの自然も作品の要素となり、以前に生まれた作品がまた別の場所で形を変えたり、新たな意味を伴って現れたりもする。
同展は、平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジの3会場で新作を含む約100点を展示。さらに連携企画として、銀座メゾンエルメス フォーラムの個展(9月7日~2025年1月13日)につながり、再び東博に戻る構成となる。約12万件もの東博の収蔵品から内藤が選んだのは、主に縄文時代の土製品だ。力の固辞でもなく、美としての技巧を極めるのでもない、素朴な魂がやむに止まれずつくり出したものに共感したそうだ。
第1会場の平成館企画展示室では、展示ケース内がこの「生の外」、展示ケースの外が「生の内」とされる。ケース内には、内藤が最初に出会った土版がある。母を思わせる女性の胴体を表した、祭や祈りに使われたと思われる土製品だ。「生まれておいで、生きておいで」という声が聞こえ、その声は「生の外」から「生の内」に向けられた力や慈悲であると感じられたという。
ケース内はおおむねシンメトリーに展示されており、展覧会全体は、この内藤が母体とした土版から始まり、内藤の作品《死者のための枕》で終わる「生の往きと還り」として構想されている。
ケースの外では、天井から風船や毛糸玉が吊るされている。ふたつの風船がゆっくりとくっついたり離れたりする姿から、目には見えない空気の動きにも気づく。
第2会場の本館特別5室は、これまで数々の企画展の会場になった場所。ここ数十年で初めて大開口の鎧戸を開け、カーペットや仮設壁を取り外し、建築当初の裸の空間に戻して作品が展示された。
自然光が差し込む空間には、土製品と、内藤が描いた小さな絵画や木、紙、糸などでつくられた作品が置かれている。土製品の中には、親が悼んで取ったと思われる、生後2、3年で亡くなった子どもの足形がある。筆者は、今も止まない世界の戦禍や災禍も連想した。ほかに、猪や猿の形をした土製品もある。貝塚から発掘された獣骨はこれまで展示の機会がなく、初公開となった。「それらもまたかつてあった生であり、生の内にいる者たちに呼びかけているように思えてならなかった」と内藤は話していた。
また、天井から吊り下がる小さなガラスビーズの作品は、展示室に制作に入ってから新たな気づきがあり、制作したもの。現場に入ってからこの規模の新作を作りはじめるのは初めてだったという。さらに、壁面の絵画の連作《color beginning/breath》は制作順に展示。銀座メゾンエルメス フォーラムの個展にて展示される作品群とつながるという。
第3会場となるラウンジには、空の瓶の上に、水を満たした瓶を載せた《母型》が置かれている。空の瓶は、水=生を次の生者へ送った「生の外」を表し、ふたつの瓶で「生の内」と「生の外」の往還を象徴している。
内藤は、これまで持ち続けてきた問いに対し、「私はひとりでここにいるわけではなく、過去に生きた人たちが積み重ねてきたものの上にいる。私たちと同じ地上に生まれ、生きたかつての生がある。誰かの生を感じ、私の向こうに私ではない他の生があるということに安堵、幸福を感じる」と語った。
なお、3つの会場を歩く間に常設展示の一部のなかも通る。内藤礼の展示を見た後に東博を巡ると、所蔵品すなわち “死者の残した”品々と、今を生きる作家のつくるものとが地続きであり、私たち一人ひとりが大きな歴史の途上にいるのだと感じられる。そのことは、内藤が以前から語っている「生と死は分けることができない」という言葉に重なるようにも思われた。「今後も、現在の創造の源泉となる博物館でありたい」という東博で、立ち止まってしばし考える時間を持ちたい。
取材・文:白坂由里
<開催概要>
『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』
2024年6月25日(火)~9月23日(月・休)、東京国立博物館にて開催
公式サイト:
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2637
※8月1日(木)より事前予約制になる予定、詳細は公式サイトにて確認を
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