鴻上尚史が魅力的なキャストたちと作る新たな『朝日』
ステージ
インタビュー
鴻上尚史 (撮影:吉田沙奈)
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すべて見る鴻上尚史の代表作のひとつである『朝日のような夕日をつれて』が、2024年8月11日(日・祝) より上演される。本作は、鴻上が結成した劇団「第三舞台」の旗揚げ公演として1981年に初演を行って以来、7回にわたり公演が行われてきた。10年ぶり・8度目となる今回は、初めて上演キャストを一新し、新たな『朝日』を作り上げる。
キャストは玉置玲央、一色洋平、稲葉友、安西慎太郎、小松準弥。稽古が始まって2週間ほどの7月上旬、作・演出の鴻上尚史に今回の公演に対する想いや現時点での手応えを伺った。
時代に合わせたアップデートで魅力的な作品に
――21世紀版の戯曲に「この台本に向き合うたび、22歳の自分と出会う」と書かれていました。今回改めて向き合ってみてどう感じられましたか?
「いい作品書いたな俺は」って思いましたね(笑)。
――初めて見る方と元々のファン双方に伝えるために、改訂や演出においてこだわった部分、逆に変えずに元の良さを活かしている部分などを教えてください。
『ゴドーを待ちながら』の世界とおもちゃ会社を行き来する構造は変わっていないわけです。でもおもちゃは当然この10年でアップデートされている。コンピューターの進化に伴う生成AIやメタバース、VR、AR、MRといったものが当然入ってくる。「アップデートしなきゃいけない」じゃなく、今の時代のおもちゃ会社を舞台にしたら当然の変化です。ずっと見てくれている方が多い作品は、オールドファンとニューファンの両方に満足してもらわなきゃいけないとは思いますね。有名作をリメイクする監督たち、それこそ『シン・仮面ライダー』の庵野さんも同じことを言っている。僕も同じ思いで、『朝日』を好きな方にも満足してもらいたいし、初めて見る方の度肝も抜きたい。それができる作品を作ろうと思っています。
――これまでは大高さん小須田さんをはじめとする第三舞台の皆さんが中心で、ある程度共通言語がある中での芝居作りだったと思います。
「新キャストが多くて大変でしょう」とよく言われますが、そもそも初演の時は全員新人でしたからね(笑)。その中で求めている世界観を伝えるために頑張ってきたわけです。「もっと早く喋ってほしい」「もっとエネルギーを出してほしい」「もっとお互いの関係性をぶつけ合ってほしい」と伝えて。当時、そんなに早く喋る芝居がなかったので、みんなびっくりした。でも「この速度がいいんだ」と言い続けたその時の苦労と同じことをしている感じなので、そんなにしんどくもないです。
――改めて、この作品は鴻上さんにとってどんな存在でしょうか。
群唱の詞を書き写す度、当時、自分の足で立つことを求めた自分を思い出します。あの当時不安や淋しさから、いつも飲みに行ったり一緒にいたりする人たちが多かった。その中で一人ひとりが個人として立つ存在でいよう・そうなりたいという自分の決意を思い出します。もう一つは、おもちゃ会社を舞台にしたことで、今の情報をアップデートできる。『ゴドーを待ちながら』のゴドーが出てくることで、いま人は何を待っているんだろうということをアップデートできる。『朝日』をやることでもう一度今の世界を捉え直す作業になると思います。
見たことがある方もない方も、見逃したらもったいない
――それぞれのキャストさんについて、印象や魅力を教えてください。
そもそも『朝日のような夕日をつれて』ってすごく難しいんです。この10年「やらないんですか」と聞かれていたけど、『朝日』をやるには、速度とエネルギーをキープしながら感情やイメージをちゃんと表現ができる俳優さんが必要。そんな人たちを集めたら上演できると思っていました。
玉置玲央さんは10年前にも出てもらって、その時に折り紙つき。体も動くしスピードもエネルギーもある。今回の座組では兄貴的な存在で、率先して作品に対する質問・疑問を口にしています。
一色洋平さんは本人も言っているけど、14年前に映像で見て以来「この作品に出る」と決め、10年前の紀伊國屋ホール50周年で上演した『朝日』を観に来て「60周年に出る」と決意したそうです。体が綺麗だしエネルギーもある俳優です。
安西慎太郎さんは実にうまい。ゴドー1ができる俳優がいることが一つの肝なんだけど、安西慎太郎さんのうまさにはちょっと驚きましたね。
小松準弥さんもうまい。穏やかな性格だけど達者な感じです。2.5次元舞台で鍛えられている感じがあって、台詞回しにおいても、速度をキープしながらちゃんとユーモアを伝えることができる俳優です。
稲葉友さんは5人の中では一番舞台経験が少ないけど、一番色気がある。立ち姿に目を引く色気があるし、もちろん基本的なエネルギーや速度は備えている。友もすごく面白い存在になっています。
ラッキーなことに素敵な5人が集まれたなって感じですね。
――稽古がスタートし、現在の手応えや稽古で見えてきた今回の公演の個性はいかがでしょう。
現在は実にいい感じ。5人にコメントできるくらい稽古が進んでいて、みんなの癖がわかってきたし、今のところはとてもいい作品になりそうです。フレッシュな『朝日』になると思います。
――初日まで1カ月ほどですが、キャストの皆さんに今後期待することはありますか?
今もやっていることだけど、役を自分のものにするだけ。動きやセリフがより自由になるように練習することですね。
――21世紀版の戯曲に収録されていた「あとがきまたははじまり」に、「何かにすがるという構図が変わらないことも再演の意味」と書かれていました。最近の推し活ブームなどもあり、「何かにすがりたい」人は増えているような印象を受けます。
不況になると縋りたい度合いは増えるよね。とりあえず経済が上向きだとすがらない宙ぶらりんな自分を受け入れられるけど、経済的に不安になると何かにすがらないとやっていけなくなる。だから、「すがりたい」と気づくこと、途中で踏ん張るかどうか、「すがってはいるけど薄目を開けている」の度合いが変化して、この10年、「すがる」割合は増えているでしょうね。
――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
『朝日のような夕日をつれて』を見たことがある方の期待を裏切らない作品にしようと思っているし、見たことがない方はとにかく観に来てもらえれば、度肝を抜く作品になると思います。作品のうたい文句で、よく「必見」というけど、これは本当に必見中の必見。これを見逃すともったいないです(笑)。
取材・文・撮影:吉田沙奈
<東京公演>
紀伊國屋ホール開場60周年記念公演 KOKAMI@network vol.20
『朝日のような夕日をつれて2024』
公演期間:2024年8月11日(日・祝)〜9月1日(日)
会場:紀伊國屋ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/asahi2024/
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