Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 『彼方からのうた』稽古場レポート 模索する舞台での表現

『彼方からのうた』稽古場レポート 模索する舞台での表現

ステージ

ニュース

チケットぴあ

『彼方からのうた』稽古場より

続きを読む

フォトギャラリー(8件)

すべて見る

吉祥寺シアターにて8月2日(金) から13日(火) まで行われる舞台『彼方からのうた』。
本作はサイモン・スティーヴンスが書き、マーク・アイツェルが音楽を担当しており、2015年にイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出で世界初演を迎えた。
今回、演出家・桐山知也により、日本での初めて上演される。

冬のニューヨークから始まる物語。オフィスで打ち合わせ中だった主人公・ウィレムの携帯電話が鳴る。弟のパウリが死んだという母からの知らせだった。そして母は言う。故郷のアムステルダムに帰ってくるように、と。離れていた家族、見失った愛、自身の人生について。帰郷したウィレムの心の変化とは。
キャストは宮崎秋人、溝口琢矢、伊達暁、大石継太の4人。もともとは独り芝居だという本作を4人でどのように物語は動かしていくのか。
その稽古場の模様をレポートする。

この日は初稽古からちょうど10日が経ったところ。前日に最初から最後まで通したところだという。
今回は稽古がスタートするタイミングに伺った。

まず全員が揃うと、演出の桐山が「じゃあ今日は植物!」と声をかけた。それぞれが「サボテン」、「モンステラ」、「アジサイ」など植物の名前を挙げていくと、全員でその植物について話をしていく。植物について語るわけではなく「サボテン」から水をまったく飲まない女性の話が飛び出してくるなど、他愛もない会話だが、稽古場の空気が徐々に動いてくるのがわかる。

一巡したところでいよいよ稽古がスタート。
冷蔵庫とベッド、椅子があるのみの舞台。まずは宮崎がひとりで立つ。
物語はウィレムが死んだ弟・パウリに向けて綴った手紙を読むかのように進んでいく。

1月25日から1月31日までの手紙で描く、ウィレムの身に起こる数日のできごと。
この日は、「1月25日」のシーンから始まった。ウィレムが母からパウリの死を知らされ、故郷であるアムステルダムに帰るまでだ。

手紙の中では、オフィス、空港、機内と場所が変わっていくが、その手紙を読んでいるウィレムはずっと部屋にいる。椅子に座りながら、部屋の中を歩き回りながら、コップに水を注ぎながら。

「1月25日」を一度通すと、桐山から演出が入る。「意識や場所、時間が変わるところで少し質感が変わるといいかな」と言って宮崎のそばに歩み寄り、じっくりとふたりで話し合いを始める。

「ウィレムがどういう人間なのか」を手紙の1日目にあたる部分で伝えたいという宮崎の言葉から、対外的にウィレムをどう見せるか、表現の模索が始まる。実際に演じるわけではないが、ウィレムがどのように考え、彼にどのようなバックボーンがあるのかをにじませていく。

「どうやって演じればいいのか」というシンプルな宮崎の問いに、溝口、伊達、大石も加わってディスカッションが始まる。その場にいる全員でウィレムのキャラクターを深めていく。

そして再び、「1月25日」のシーンを通す。ディスカッションを経て、宮崎の演技がガラリと変わったのがわかる。表情の作り方、声のトーンの変化でウィレムの感情が粒立っていく。

桐山が何気なく「空港のラウンジでウィレムは何を食べていたんだろうね」と問いかけると宮崎は「サンドウィッチじゃないですか。好きなんじゃないかな」と答える。そんなやりとりもウィレムの人間性を際立てていくに違いない。

間で他愛もない雑談を交わしながらも何度も繰り返される「1月25日」。効果音が入るタイミングも調節されつつ、ウィレムの葛藤、迷いが際立っていく。

「1月26日」のシーンに移ると、溝口が加わり、さらに「試してみたいことがあって」と桐山が言い、伊達がシーンに加わる。
宮崎が演じるウィレム。それを見つめる溝口と伊達。伊達が「1月26日」のシーンに加わるのはこのときが初めてだったようだ。桐山の演出に応え、ウィレムに視線を向ける伊達。彼の存在が意味するところとは……。

独り芝居を4人で演じる今回の『彼方からのうた』。溝口、伊達、大石の3人がどのように物語に作用していくのか。それ自体もまだ模索中で制作側としても「我々もまだどのように仕上がるのか想像がつかない」と言う。

そして、『彼方からのうた』という戯曲の中で、音楽がどのように世界を、感情を表現するのかも見どころのひとつ。
幕が上がるのは8月2日(金)。完成を楽しみに待ちたい。

取材・文:ふくだりょうこ

<公演情報>
彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-

公演期間:2024年8月2日(金)~13日(火)
会場:吉祥寺シアター

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kanatakaranouta/

フォトギャラリー(8件)

すべて見る